トップページ >

南アジア問題インタビュー

アーミテージ・インターナショナル共同創設者 カラ・ビュー氏に聞く

アルカイーダは過去のもの 「アラブの春」で民衆から見放される

 リチャード・アーミテージ元国務副長官が代表を務めるアーミテージ・インターナショナルの共同創設者の一人カラ・ビュー氏は、「ビン・ラディン殺害後の南アジア」をテーマにインタビューに応じ「アルカイーダは過去のもの」との認識を示した。反米テロ組織のアルカイーダは今もなおイエメンやパキスタンの一部で勢力を維持しているが、アラブ全体からみると力を失ったという。


――9・11テロの首謀者とされるビン・ラディン殺害で何が変わったのか。

 ビン・ラディン殺害で、「ビン・ラディンの10年」が終焉した。オバマ大統領は、安全保障に弱いといわれたが、ビン・ラディン死亡でこうした懸念は払拭された。ただビン・ラディンを捕えたいと思ってきたが、多くの米国人は、戦争そのものに意識がいった。そうした政治的影響が大きかった。

 ただ日々の戦争には関係がなかった。タリバンとアフガニスタンとの戦いは変わらなかったからだ。

 米国は新しい戦略を発動し、タリバンと話し合う用意がある。

 7月からアフガニスタンからの米兵力が削減されていく。米国は戦争に疲れている、アンケートでは57%が価値がないとし、75%が大幅の兵力削減を支持している。

 米国とすればビン・ラディンの死で、戦争を終わらせたい意向だ。

 予算は逼迫する一方だ。米国は、アフガニスタン駐留米軍を運用するのに年間500億ドル使ってきた。今年は1130億ドルだ。アフガニスタンでは一人の兵士に年間100万ドルかかっている。アフガニスタン南西部のヘルマンド州だけで18億ドルだ。この額は、エジプト軍事援助と同額のレベルだ。

 さらにアフガニスタンでは毎月30人から50人の駐留米軍兵士が死亡している。これが政治的圧力となって、撤退を加速させていく。

 民主、共和党どちらも戦争をやめたいと思っているのが現状だ。

――アルカイーダは首領だったビン・ラディンを失って、ザヒワリ容疑者をトップに据えたが、アルカイーダの力をどう見るか。

 アルカイーダは今もなおイエメンやパキスタンの一部で勢力を維持しているものの、アラブ全体からみると力を失った。

 チュニジアやエジプトでは、アルカイーダが「腐敗した親欧米政権」と嫌悪した体制が非暴力民主化運動で打倒された。中東・北アフリカでアルカイーダは、若者たちを聖戦という名のテロに駆り立てようとしてきたが、環境が一変した。

 「アラブの春」での民衆蜂起について、アルカイーダは「腐敗専制体制に対する革命を支持する」との声明を出し、民衆に接近しようと試みたが、テロに若者を引き込むことは既に困難になりつつある。

 結局、「アラブの春」で、アルカーダの名前が出ることはなかった。

――ビン・ラディン殺害後、「中国はこの国の未来を共有する友好国である」と国会で述べたパキスタンのギラニ首相が直ちに北京に飛んだ。

 パキスタンは米国だけに頼るのではないというシグナルを発するためだ。バランサーとして動くことで、米国からも中国からも得ていくものを得ていく両天秤外交だ。

――ギラニ首相は北京で、同国のグアダル港の軍港化を提案した。中国はスリランカのハンバントタン港やバングラデシュのチッタゴン、ミャンマーのチャオピューなどで港湾開発を進め、「真珠の首飾り」と呼ばれるインド洋を囲む形で海洋戦略を発動している。

 中国はインドをけん制しつつ、エネルギーや資源などを遠洋海軍と組み合わせて担保するシーレーン(海上交通路)防衛の思惑がある。

 その意味からも、インドの大国化を歓迎する。インドがグローバルな大国になることは、米国の利益にもなる。米国もインドも中国を封じ込めたいとは思っていない。

 インドが民主的な大国になることで、中国が平和的に台頭する保障となり、世界にとっても利益だ。

 米国にとってインドとの戦略的パートナーシップは不変だ。2000年にクリントン元大統領がインドを訪問した後、2006年にはブッシュ大統領が訪問、2010年にはオバマ大統領が訪問した。インドとの良好な関係構築は、民主、共和両党が支持しているし、議会もサポートしてくれている。米軍とパキスタン軍の協力関係も進行中だし、貿易も拡大しグローバルな政治、経済協力関係が構築されている。

――ヒンズー教徒が圧倒的に多いインドは、一方で1億5000万人がイスラム教徒というインドネシアに次ぐイスラム大国でもある。「アラブの春」はインドにも影響を与える懸念はあるのか。

 「アラブの春」は独裁政権に対する民主化運動として民衆の支持を得た。その点、インドは民主国家だ。「アラブの春」の影響は限定的ではないか。

――ビン・ラディンの殺害で、米国のパキスタンの位置づけは変わるのか。

 ビン・ラディンが殺害されたが、パキスタンの重要性は一向に変わらない。クリントン国務長官が、パキスタン国会を訪問したが、バネッタ新国防長官と同様、援助打ち切りの極論に流れることはなかった。

 アフガニスタンへの供給ルートとしてもパキスタンの協力は必要不可欠だ。パキスタンは1億8000万人の人口を擁し、活力に富んだ若い国だ。核兵器を所有し、不安定な国家でもある。これらの地域がバルカン化しないよう、国際社会が支えていかないといけない。その意味では海外からの直接投資を高めて企業家精神育成も重要になってくる。

 パキスタンの安定と発展にとって大事なのは印パキ関係だ。両国の関係をよくするようにして、安全保障を確保し、経済成長路線にレールを敷いていかないといけない。パキスタンは勤勉で知的能力が高い若者が多く、経済成長の潜在力は高い。支援物資を与えるという形ではなく、彼らが持っている能力や国や地域がもっている潜在力を引き出す作業が大事だ。

――日本に何を期待するか。

 南アジアにおける日本の役割について、過去の歴史からいろいろ思惑を疑われる米国に比べ、過去のしがらみがないぶんだけ、日本は自由に動けるメリットがある。ODA(政治開発援助)にしろ投資にしろ、日本政府や企業の積極的な関与に期待する。