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今月の永田町

 2011年度第二次補正予算が7月25日に成立し、菅首相が退陣の3条件としたうちの一つがクリアされた。残る政府公債特例法案と再生可能エネルギー法案の成立という2条件については、民主党側が歩み寄りの姿勢を見せているため、順調にいけば8月31日を会期末とする延長国会内での3条件のクリアも決して不可能ではなさそうだ。こうした状況を踏まえて、執行部を中心に党代表選の準備が着々と進められている。「岡田克也幹事長は自民党の石原伸晃幹事長に代表選を8月7日にすると語ったことがあるが、その日取りがいつになるかは別としても、菅降ろしに向けた流れは変えようがない」(民主党中堅)との見方が一般的だ。


総理・党代表分離論を画策か

 「菅降ろし」で過激な発言が目立つのは、官邸内の実力者で首相と距離を置く仙谷由人官房副長官(民主党代表代行)である。

 視察先の長野県川上村で仙谷氏は7月25日、「そろそろけじめを付け、それを行動に表す段階に来ている」と述べ、首相に対して残る2法案成立前の即時退陣を求めた。「事ここに至れば、エネルギー関連法案、子ども手当、特例公債のめどが付く。福島原発も(事故収束に向けた工程表の)第一ステップが終了し、この先大変なことにはならない」とし、とどまる大義はもはやないというわけだ。

 実に、首相の進退をめぐっては外堀も内堀も埋められ、本丸まで炎上している状況である。ところが、菅首相はというと、逆に極めて元気なのだから驚きだ。

 7月23日、東京都内で開かれた山口県立宇部高校の同窓会に出席し、サッカー女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会での日本代表チームの優勝に触れ、「なでしこジャパンに負けず、いくら得点されてもそれを逆転するため頑張り抜く」というのだ。

 3次補正の編成にも「与野党共同で仕上げたい」と意欲を示したり、秋の訪米時の演説草稿の作成を指示したりと政権運営に対する意欲はますます盛んで、「逆転」を目指して辞める気配など全くない。

そんな首相が本当に引き下がるのか。

 「あながちカラ元気ではなく、根拠のあることかもしれない」というのは自民党幹部だ。その根拠の一つとされるのが「脱原発解散」だが、それ以外に語られ始めているのが、菅首相が首相を辞めないで済む、総理と民主党代表を分離する案である。かつて自民党が、総理、総裁を別の議員が務める総・総分離論を真剣に検討したことが何度かあった。

 「大平正芳政権が1979年の総選挙で敗北した。その責任をめぐる40日抗争が勃発した際、大平首相が首相の地位にとどまり福田赳夫前首相を総裁にする案が検討されたことがある。それと同じ分離論を首相が画策しているのでは」(同)という見方が浮上しているというのだ。

 つまり、代表選は党の執行部にやらせておき、新代表が決まっても自分は総理を辞める必要はないと開き直るだけだというのである。その上で「内閣を大幅に改造して新体制をつくり再出発する」という延命のシナリオが練られていると先の自民党幹部は読む。

 ただ、これが実行されても、現在の菅─岡田体制とたいして変わらない。現在、事実上、党を仕切っている岡田幹事長が、代表という肩書きを持つ別人に交代するだけの構図だ。もちろん、首相は新代表を尊重する姿勢を取るだろうが、延命戦略としては成功したことになる。

 しかし、これでは民主党再生の起爆剤とはなり得ないし、党内不信は極に達しよう。果たしてどれだけの党所属議員がついていくのかも不明だ。

 一方、内閣不信任決議案の採決の際、首相によって〝ペテン〟にかけられて政権存続を許してしまった小沢一郎元代表グループも、菅首相が居座りを続けるなら党分裂による新党結成に踏み切る可能性が出てきている。昔から総・総分離論を「議院内閣制にふさわしくない」との理由で毛嫌いするのが小沢氏だ。

 「小沢さんが検察審査会によって強制起訴された問題は、秘書だった石川知裕被告に関わる核心部分の証拠不採用により、小沢さん側の勝利になる可能性が出てきた。その見通しから、党員資格停止処分を受けて音無しだった小沢さんの行動が再び活発化し、接触範囲が広がることになるだろう」と全国紙政治部記者は指摘する。

 行動が活発化し接触範囲が広がることの先には、小沢氏が70人から80人のグループを引き連れての離党と、自民、公明などとの連携もあり得ることが考えられる。鳩山由紀夫前首相のグループからの同調者も出てこよう。

 そうなると、衆院で303議席を誇る民主党は、単独どころか連立しても過半数に届くことができない可能性が出てくる。政権が参院対策だけでなく、衆参両院を動かすのは実際には困難で、政権は完全に行き詰まろう。

 一方の野党・自民党は、揺れる民主党への攻勢を強めている。特例公債法案の成立に協力するためには、子ども手当に加えて農家への戸別所得補償や高校授業料無償化などの「4K」の撤回や、今年度予算の金額を3次補正で一部減らす減額補正が必要だとしてハードルを上げ、民主党のマニフェスト(政権公約)の主柱の変更を次々と迫っている。

 「そう遠くない先に政権は崩壊するのは間違いない。それ故、衆院の解散・総選挙に追い込みながらマニフェストを骨抜きにする戦術に徹している」(自民党重鎮)のである。だが、そうした戦術を展開しても同党の支持率アップにつながっていない。

 今のままでは、民主も自民も沈没し、漁夫の利を得るみんなの党が急上昇しない保証はない。

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