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東日本大震災 ローソン・新浪剛史社長の決断

コンビニの明かりを消すな

ビジネスは大きなソロバン弾け

 コンビニエンスストア「ローソン」の新浪剛史社長は東日本大震災が発生した3月11日、社内に緊急対策本部を立ち上げた。その時、時計の針はまだ午後3時を回っていなかった。揺れがあって約5分後のことだ。時間との勝負でもある流通事業ならではのスピード感覚だった。リーダーには決断と実行力が問われる。政治家も学ぶべきローソンの英断を振り返って見た。


picture 民主党主催のBBLで語るローソンの新浪剛史社長=衆議院議員会館で

 新浪社長は、まずバイク20台を現地に走らせ、社員や店舗関係者の安否確認をした。コンビニのオーナーや店長、アルバイトの安否情報を確認した。

 そして被災地最優先を宣言、東北地方を中心とした被災地への支援を最優先した。自衛隊機でおにぎりやパンを宮城県災害対策本部へ運搬するなどして、被災地救済に大車輪で動いた実績がある。

 東京の店舗に流すべき商品をごっそり東北に運んだ。流通はゼロサムゲームだ。当然、東京の客に被害が及んだ。とりわけビールが激減した。当然、2週間目には東京からクレームの大合唱だ。客は非常に減った。新浪社長は、それでもいいと腹をくくっていた。

 「クレームはきます。でもやりたいんです」と新浪社長は、宣言した被災地優先を説いていった。

 ローソンの株主は米国など外国勢も多い。だが、米国の投資家が四半期ごとの短期評価だけで見るというのは間違いで、信用を獲得したり長期的利益のため短期的損失をいとわないことを理解する人はいるものだ。実際、今回のローソンの動きを見て、海外から株を買う投資家も出てきている。

 だがローソンは、社長の一方的宣言だけで回転する上意下達の専制体制にはなっていない。加盟店は大体がパパママストアの共同経営が基本だ。本部の意向がそのまま加盟店に反映される上下関係ではなく、あくまで独立したもの同士の並立関係だ。新浪社長は、日ごろから経営理念の共有が大事だと心がけてきた。現場主義らしい日焼けした顔にかけられた、ピンクの眼鏡の奥の眼光は鋭い。

 ローソンは8年前から道州制を採用、日本を北海道、東北、関東などと7つに分けて運営している。お花見弁当ひとつとっても、日本全土で一律標準化してうまくいくわけがない。沖縄から北海道まで、花見のシーズンも好みの花見弁当も違う。地域にあった商品でないと在庫の山を築くだけだ。どこそこの店長は頑固でも、誰々に話したら通ることがある。そうした細かいノウハウも、地域密着度を高めることで蓄積されてくる。

 ローソンの経営理念は「みんなと暮らす町を幸せに」というものだ。町がなくなるとコンビニは存在意義がなくなる。商売そのもののベースが霧消するのだ。だから町の存続のためには、身を削ってでもやらないといけない。

picture 震災後、1ヵ月後に再開された岩手県宮古市のローソン

 ビジネスは大きなソロバンをはじかないといけない。そもそもどんな企業も、コミュニティーがなければ発展しない。企業は社会に生かされている。その社会に尽くして、そこから利益をいただいているのが企業だ。

 ローソンは、かつてダイエー子会社時代に阪神・淡路大震災を経験し、震災マニュアルを策定済みだった。そのベースの上で、右往左往することなく、やるべきことを黙々とこなした。

 震災後に何が必要か、新浪社長の頭にはすべて入力済みだった。

 「10日以内に緊急支援物資を送る。経験則で、1週間を超えるとだんだん物資は集まる。次の10日には被災者は暖かいものが欲しくなる。次の10日には今度は甘いものが欲しくなる」(新浪社長)と明快だ。

 現場主義の新浪社長は、「2週間で、店が復旧していないと、町の不安がつのる。だから、地域の安心感を取り戻すためにも、なんとしても店を開けろ。店の灯りをともせ」と被災地の店舗を回っていった。修繕が必要な店にはエンジニアを派遣して直させた。

 とりわけ新浪社長が強調したのが、コンビニ店舗の明かりだ。コンビニの明かりがついていれば、そこに行けば、少なくとも食べたいものはあるぞ、いざとなっても大丈夫だぞ、という安心感がある。だからライフラインとしての役割を何としても守る必要があった。

 また新浪社長は、政府や電力会社は企業の節電を呼びかけているが、明るい店舗の維持を主張した。町が暗くなれば、交通事故は増えるし犯罪率も高くなる。何より人々の心が暗くなる。

 今回の反省点は、燃料が足りなかったという。重油や軽油の確保ができなかった。タンクローリーを九州や京都からもってきたり、日本郵政にも協力を仰いだ。取引先に圧力をかけて、重油を手当てしたこともある。

 こうした緊急時にはコストは論外だ。大体、会社が潰れるほどのコストがかかるわけでもない。コストが関係なくなると、いろんな発想が出てくるものだ。イレギュラーの時、イレギュラーの発想が出てくる。燃料がなかったから、タンカーをもってきた。

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