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民主党代表選出

苦労人の演説に党内融和託す

本命らしく振舞わず成功した野田財務相

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 8月27日公示、29日投票という超短期決戦の民主党代表選挙レースを制したのは、見かけはドン亀のように見える野田佳彦財務相だった。背丈もありスマートで小沢元代表の支持を受け本命視された海江田万里経済産業相や、世論調査人気はダントツで、やはりスタイル、ルックスとも勝っていた前原誠司前外相という、いわば「ウサギ」を出し抜いて、首尾よく代表の座を射止めた。 もっとも、代表選挙での演説によれば、「自分は金魚でなくドジョウ」というのが本人の認識のようだ。

 実際、野田氏は8月10日発売の月刊誌で政権構想を明らかにしたものの、立候補の意思をなかなか明確にしなかった。その去就を見ても、ドン亀のようなイメージは付きまとっていた。同じく菅直人内閣の閣僚だった海江田氏も立候補表明は遅かったが、こちらは立候補から程なく、小沢元代表がバックに付き、票読みで他の候補を圧倒。代表選挙前日には5候補の中で、唯一、赤松広隆元農水相、原口一博前総務相ら海江田支持に回った 有力議員らに囲まれ、テレビ出演の合間を見つけ有楽町で街頭演説するなど、新代表になったかのように振舞っていた。

 一方、前原氏は、野田氏支持の動きが党内で広がらないという情報に敏感に反応、不出馬の意向を一転させ出馬宣言。小沢氏の海江田氏支持がまだ決まっていなかったので、こちらもあたかも新代表の椅子に一番近い人物であるかのように振舞った。

 だが、結果を見れば、「小沢・反小沢」という怨念の政治を終わらす必要があるとの信念を強く保ち、地道に自分のスタイルを貫きつつ、28日の党主催公開討論会や代表選挙当日の演説で、人情の機微をつく演説を行い、財政問題などでブレない姿勢を示した安定感により、勝利を手中に収めた格好だ。

 野田氏が勝利を引き寄せることができたのは、政治への情熱に裏打ちされた苦労話と、それから付随的にかもし出される懐の深さ、包容力が心を捉える演説だといえる。

 代表選第一回投票の演説では、「自分の越し方をお話したい」と切り出し、まず、貧しい家庭に育ちながらも千葉県議に挑戦した時の苦労話から始まった。

 県議の2期目の投票日は大雨となったが、それでも人々は投票所に足を運び、前回より多くの票を入れてくれたことに感動した、という。この時に、「1票1票を大切にしようと誓った」が、国政選挙2期目で日本一の僅差である105票差で落選する結果となった。

 実際は「一人一人を大切にする政治をしていなかった」と気づき「痛切に反省」。「一人一人を大切にするのが私の政治の原点」とアピールした。

 そのうえで「ここに集った民主党の一人一人の同士を大切にしたい」と力を込めた。

 前日の公開討論会でも、他の4人の候補との思い出を語った。これで、会場のとげとげしい雰囲気が和らぐシーンもあったが、こうした野田氏の演説は、この人物が代表なら党内にある溝を埋め、党内融和を進められそうだとの印象を与えたのは確かだ。

 一回目投票演説で、苦労話はその後も次々と出てきた。ある勉強会で「『朝顔が早朝に可憐な花を咲かすために敢えて必要なものは、夜の闇と冷たさである』と聞き、人生が変わった」と説明。

 また、50人の中小企業の経営者から、一人1万円ずつ支援を受けて落選期を乗り切ったとしみじみ語った。

 その上で、日本の底力だった中産階級の厚みが今、薄くなり、こぼれた人がなかなか上がれない、との現状認識を示しながら、そこに光を当てるのが「国民の生活が第一」という民主党の理念だと表明。

 最後に、好きな言葉は「ドジョウが金魚の真似をしても仕方がない」というものだとし、ドジョウらしく泥臭く横たわる重たい困難にトコトン挑戦したいと訴えた。

 総理候補の演説としては必ずしも次元は高くないが、党内の不協和音と政策の行き詰まりで疲弊していた民主党に、民主党の理念を分かりやすく説明する野田演説は、そこから脱出できそうな一縷の希望の光をもたらしたと言える。

 代表選挙向けの演説では、内政が問題山積のため、野田氏も財政再建論、中小企業対策といった経済政策の部分を前面に出した。しかし、民主党代表は首相をも務める立場になることから外交・安全保障についての認識も重要である。だが、日米同盟が基軸である、という他の候補と同じ発言以上のことは、ほとんど語っていない。

 これについては、民主党公開討論会の席上で配布された資料にある「政権構想」の中の「希望と誇りある日本をつくる」の中で次のように総括した。①日米同盟の進化を基軸とした外交の展開、②多極化する世界に積極的に対応する外交の展開、③新たな時代におけるアジア諸国との新次元レベルでの連携。

 サンフランシスコ条約を踏まえ、野田氏は「戦犯はもはや存在しない」と発言。これを韓国は批判しているが、鳩山、菅両氏と違って、正確な歴史を踏まえた国益を守る外交が期待できるかも知れない。

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