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今月の永田町

「低姿勢」戦術で乗り切り図る

 野田佳彦新首相の最大にして最善の政権運営戦術は「低姿勢」だ。衆院と参院の多数派が異なるという「ねじれ国会」を乗り切るためには野党との協調が不可欠である。そのためにはひたすら頭を下げて回らなければならない。

 首班指名を受けた野田首相は9月1日、組閣前にもかかわらず野党側の自民党の谷垣禎一総裁、公明党の山口那津男代表をそれぞれ訪れるという異例の形で協力を求めたが、両党首ともそれを好感をもって迎えた。


 「菅(直人)さんは、震災復興などで野党が協力するのは当然。自分の顔を見たくないならさっさと法案を成立させろとケンカ戦法で挑発し、それが政治空白を生んだ。野田さんの金魚でなくドジョウだと力を抜いた低姿勢は、野党対策上、非常に有効だろう」と政界関係者は見る。

 実際、谷垣総裁は野田首相との会談で、民主党のマニフェスト(政権公約)見直しに関する民主、自民、公明の3党合意を持ち出し、「3党幹事長でまたサインしてからスタートだ」と慎重な姿勢を示す一方で、震災復旧・原発対策などに充てる今年度第3次補正予算案に対しては協力する考えを示した。

 山口代表も「新首相が誠実に対応しようという姿勢は十分に感じた」と評価。野田首相が提案した復興に関する実務者協議も受け入れることになった。野田首相が組閣後の2日の記者会見で「震災からの復旧・復興が最優先課題だ」と述べたように、冒頭から突き付けられた最大のテーマがこの第三次補正予算の成立であることから、まずまずのスタートになったと言えよう。

 だが、不安要因は多い。「野田さんは復興以外の『社会保障と税の一体改革』と『総合経済対策』に関する検討チームの設置も提案したが、そこまでは呑めない」との声が自民党内に強いからだ。谷垣総裁が「三次補正後は解散・総選挙に追い込む」と断言しているように、大連立には至らずとも包括的な政策協定を結ぶ閣外協力にまで関係が強まれば早期の解散を求めるボルテージが弱まってしまう。そのため、「安易な協調ムードは厳禁」というわけだ。

 野田首相にとって、期待感が広がっているのが公明党の動向だろう。「野田さんと公明党とはかなり前から近い関係にある。公明党は早期の解散を望んでいないので、野田さんの誠実な姿勢を見ながら対応していく」(政界関係者)というのだ。「確かに、参院での首班指名で公明党は谷垣総裁と書いた。これまで通り自公がベースにあるのはもちろんだが、公明党は衆参ダブル選挙を念頭に置きながら民公で進めていく形でもいいと考えている」と先の関係者は続ける。

 自民党としては、民主党との政党支持率の差がわずかであっても上回っている以上、次期総選挙では勝てると読んでいる。それ故、第三次補正予算成立以降は、審議ストップも含めて強硬姿勢を取る考えだ。

 しかし、復興に関する協議機関以外の設置についても、民公がまとまって対応していく形となれば、自民党がそれについて行かざるを得なくなる可能性が大きい。

 その結果、解散を求める声が弱まっていくだろうが、それは野田首相にとって好都合である。

 だが、問題はもう一つ、党内にある。本当に党内融和を構築できるのかだ。小沢一郎元代表に近い輿石東参院議員会長を幹事長に起用したことで、党内対立が再燃する可能性も指摘されている。

 確かに、代表選で3党合意を見直すとした海江田万里氏を支持した輿石幹事長は、これまでの経緯を尊重し、3党合意をベースに対応して行くことを表明した。しかし、具体策に入り込むと難問が噴出する。

 自民党幹部は「5人の代表選候補者の中で、増税を明言したのは野田さんだけ。小沢さんの傀儡とも言われる海江田さんは『増税なき復興財源の捻出』を言い、政調会長の前原(誠司)さんも『安易な増税に頼らない』と主張した。復興予算ありきだけど、財源問題となると党は真っ二つに割れるのでは」と語る。

 野田首相は「挙党態勢、全員野球」を理由に小沢グループのベテラン・山岡賢次国家公安委員長や一川保夫防衛相、それに近い鉢呂吉雄経済産業相を閣内に配置したが、彼らが増税問題や環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題などで「反対」を表明した場合、「閣内不一致」として即座に自民党など野党から内閣不信任を突き付けられよう。

 代表選で敗北した小沢一郎氏の動向も不気味だ。衆参で3つに分かれているグループの「北辰会」「一新会」「参院小沢系」(計約110人)を統合して自ら会長に就任し、「私がグループをまとめて今までにできなかったことをやる」と宣言したのだ。この動きについて「小沢さんは代表選の敗北による求心力低下を防ぐため、新党結成には動かず、来年9月末に行われる次の代表選に照準を合わせて結束を強化し、活動を再開するようだ」と全国紙政治部デスクは指摘する。

 小沢氏は今回の人事を表面上は好評価している。だが、各所に埋め込まれた〝地雷〟がいつ爆発するのか。野田首相は「ノーサイドにしよう」と呼び掛けたが、その平穏はいつまで続くのかはっきりとは分からない。野田首相が融和を阻む党内外の要因をどうはね除けて指導力を発揮できるのか、注目される。

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