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安全革命 トリウム原発実現は可能か?

中国、今春から国家プロジェクト化

「エネルギー政策フォーラム」(9月21日、東京・私学会館)

 東電福島第1原発事故の被害は大きく、改めて安全で平和な原発開発が求められている。そのために生涯をかけてトリウム溶融塩炉に取り組んできた人物がいる。日本原子力研究所主任研究員を務めた古川和男氏がその人。米オークリッジ国立研究所で基礎技術が開発されたトリウム溶融塩炉こそ、安全な原発だというのが古川氏の持論だ。中国でも今春、かつて日本が取り組んだ新幹線同様の国家プロジェクトして、トリウム溶融塩炉開発が動きだしている。本当にトリウム溶融塩炉は安全なのか? 実現性はあるのか? 9月下旬、東京の私学会館で開催された「エネルギー政策フォーラム」の論議を紹介する。


「原発安全革命 トリウム、液体燃料、小型化」

(株)トリウム テック ソリューション社長 古川和男 氏

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【プロフィール】ふるかわ かずお
1927 年 、大分県生まれ。京都大学理学部化学科卒。東北大学金属材料研究所 で無機液体構造化学研究 。東北大学助教授、日本原子力研究所出向、高温融体の核エネルギー利用研究。材料工学研究室長、ナトリウム研究室長、動力炉開発推進本部(総理府)専門委員、 東海大学開発技術研究所教授など歴任。

 日本は小さくて弱い国。日本を救うとしても、世界を救わないと、日本は弱いので最初に駄目になる。世界に役立つものを目指すべきだが、過去の原発は、不十分だったことは自明だ。最近の30?40年は狂った原発の開発史だった。固体燃料ではだめで、液体燃料であるべき。

 トリウム熔融塩炉は、軍用に向かなかったから潰された。日本こそ開発すべきだ。

 ハンガリーから米に亡命してきたユージン・ウィグナー博士が人類最初の実用原子炉(プルトニウム生産炉)を作ったが、原子炉というのは、核が化学変化する装置であり化学工学装置だ。物質が変わるので液体燃料であるべきで、恐らく熔融塩が最適であろうと、ウィグナー博士が戦中に予言していた。

 太陽というは核融合エネルギー源であり、大いに活かすべきであるが、核融合を基幹エネルギーにするには数十年の期間が必要になる。それまでは核分裂エネルギーを活かさねばならない。

 1985年頃、我々は新しいトリウム熔融塩炉体系を完成し提案したが、核冷戦が妨害した。原発は、市場原理的なものではなく、政策優先の発展をしたことで歪(ひず)みが生じ、福島へとつながっていった。

 原発の原料は液体燃料を使うべきだ。リチウムと、ベリリュウムの弗化物、塩に核物質の弗化物塩を溶かして透明、単一液体の核燃料を作る。これは、核反応のみでなく熱輸送や化学処理作業を三位一体で処理できる。原子炉自体がシンプルになるメリットがあるなど、いいことずくめだ。

 熔融塩とは、イオンが高温で熱運動をしている液体で、ガラスが解けたような状態と思って貰ってよい。溶媒にもなる。水と同じ最高の比熱をもった熱媒体で、しかも高温で常圧ですむ。閉じた原子核をもっているから化学的には不活性、かつ放射線照射による損傷が全くない。

 古典論的な反応体系では、理論的に性質挙動が予言できる。これは、わずかな資金と人員で、問題が起きても理論的に解決できるということを意味する。

 トリウムは原子番号90番、次に重い91番は天然にはない。ウランの3倍あり、入手が容易だ。場所的に限られるウランは独占されている地政学的デメリットがある。

 核分裂増殖発電炉を理想と思うのは幻想だ。複雑で巨大、それでも増殖力が弱く不経済だ。

 熔融塩炉は小型でも燃料自給自足型で、炉の性能がドリフトしない。単純で原発として理想的な炉だ。

 常圧系で安全だが、それでも壊れるようなことがあったとしても、燃料塩がなくなると炉は止まる。融点500℃で、安定なガラス状に固化する。核廃棄物を、ガラス固化体にするのと同じで、放射能を吐き出さないコンテナになる。

 まず、1万キロワットの発電能力をもったより小型のミニフジを作る。

 軽水炉は400度になると使えない。生み出す電気の倍ぐらい熱を捨てて効率が悪い。

 一方、熔融塩炉は700℃以上で動き、電気と廃熱が半々、廃熱が半分になる。また有望な水素製造装置にもなる。超臨界水蒸気発電で45%ぐらいの熱効率となる。


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西澤潤一氏

地球系を科学生産物と見る

世話人代表 西澤潤一氏(元東北大学総長)

 エネルギーの行き詰まりは将来の重大問題だ。チェルノブイリ原発事故では、早く手を打つべきだった。子々孫々に到る問題で、ちゃんと人間が一生をまっとうできるように知恵を絞る必要がある。

 親父が東北大学で化学工学教授だった。地球系というものを科学生産物とみる視点が必要になる。これをとりあげたのはヒットラーだった。ガソリンがなくてかまわない、合成すればいいという発想だ。これからの人類がいかにあるべきか。この辺りを考えないと行けないと言う意味で刺激を受けた。今回の会合は、子供のようにわくわくしている。


パネルディスカッション トリウム原発、実現の条件

司会
嶋矢 志郎 (財)地球環境財団理事長

パネラー
元東北大学総長 西澤潤一氏
(株)トリウム テック ソリューション社長  古川和男氏
(財)電力中央研究所 原子力技術研究所特別顧問 木下 幹康氏
コンサルタント( 元三井物産資源、原子燃料担当) 小野 昌章氏

古川 まずミニフジをデモンストレイトしたい。300億円から500億円の予算(標準小型炉フジの先行投資も含め)。

 ニッケル合金で作られ、ステンレス同様使いやすい機器製造には、同じ高温融体の液体ナトリウム技術がより易しく流用できる。高速炉開発投資が回収出来る。

 メリットとしてシステムの安全性、極めて小さい「低レベル廃棄物」の生成、化学処理とメンテナンスが激減するなど挙げられる。実質的な超ウラン元素の生成がなく、燃料塩はかなり大量の核分裂性物質を溶かし得ることも大きな利点だ。

 原料のトリウムは日本にはないが世界中にある。トルコが30年前、その後ベネズエラ、米国に世界一という鉱脈が次々、発見されている。

西澤 本当は、半信半疑だった。泊まりこんででも、議論しあう必要がある。新しい概念が出てくるときに、フランクになってとことん話すことが重要だ。それで早く理解が進む。

◆太陽光、風力は希薄なエネルギー

小野 古川先生にエールを送りたい。エネルギー資源には3つの基本がある。第1に日本では認識が薄いが、化石燃料の生産ピーク問題がある。とりわけ石油は2005年から横ばい、ピーク状態が来ている。石油とガスを合わせても、2010年すぎに生産ピークを覚悟しないといけない。埋蔵量が問題ではなく、生産ピークが問題だ。

 第2に石油が乏しくなると、エネルギー収支比が問題になってくる。得られる回収エネルギーと投入エネルギーの比率である。

 その意味でも、溶融塩炉はエネルギーの本命になり得る。効率が高いし、燃料製造にエネルギーがかからない。再処理も化学プロセスだけで所要エネルギーが小さくて済む。

 3番目に認識していただきたいのは自然エネルギーの限度問題だ。エネルギー資源の3条件というのは、濃集している、大量にある、経済的に回収できる、この3つだ。

 ところが太陽光、風力というのは濃集していない。希薄なエネルギーだ。つまり間欠性、とぎれとぎれになるということは、避けられない。それは技術が発達しても昼と夜はあるし、風が吹かない時もある。

 アイルランドの風力発電でも顕著なのだが、風力が毎日、変動する。2月のはじめには7日ぐらい、なぎの状態になっている。こういうのが風力発電だ。これをどう補うかというと火力発電しかない。石油火力とか天然ガス火力とか、急速に立ち上がって、急速に止めるといった発電のバックアップがあって初めて成り立つ。

 スペインでは2000万キロワットの風力発電ができている。だがそれを建てるにあたって、2500万キロワットの天然ガス火力( 発電所) を先行して作っている。それがあるから成り立っている。

木下 自分は32 年間、固体燃料の研究をやってきて熔融塩炉研究に足を踏み入れて1年半にすぎない。祖父が長崎県諫早の出身で、家族が被爆しているので核爆弾の問題を意識している。さらに福島での原子力事故もあり、実現への条件は、まず原子力そのものが受け入れられることが前提だ。それには、一つは安全性。もう一つは放射能。とくに放射能を始末するシナリオが描けるかどうかだ。

古川 吟味することが大切、熔融塩炉はR&D項目が少ない。固体燃料だとR&D事項が多く、複雑な燃料をマネージする経費が底知れない。だから、より単純なものが良い。ミニフジから現実化をすべきで、確認しながら世界に役立たせてほしい。

木下 技術者はえてして、安全性を後回しにして夢を追いかける。原子炉の種類にはガス炉、水を使った炉、液体金属を使った炉、溶融塩炉がある。水をつかった炉では水が蒸発して無くなるという問題があるが、水を使わない炉ではそれはない。なかでも溶融塩炉は水と化学反応しないので、イザという時は水で冷却できる。

 今度の福島の事故で明らかになったのは、原子炉の炉心が溶けてしまってからの対応が重要ということだ。溶融塩炉では、最初から炉心が溶けた状態で運転しているので、対応策が万全になっている。

 先週、中国から帰国した。トリウム溶融塩炉開発は2月に政府が承認し、春に大きな予算が付けられてスタートしている。訪問したときは、その最初の節目が終わり、打ち上げをしている最中だった。いまの中国には、60年代の日本と同じような勢いと集中力がある。国家プロジェクトとして、上海応用物理学研究所が総力をあげている。

 この規模は日本での新幹線技術開発当時に、鉄道総研が総力をあげてやったのと同じような人数と予算ではないかと感じている。さらに、彼らの研究所の面子がかかっている。

 上海でやっていることには大きな意味があると思う。上海というのは中国の一番外側にある。外側では軍事研究はやらない。上海そのものが、それに向かない場所だ。基本的スタンスとして平和研究、学術研究をベースにした自主研究だ。これが中国が溶融塩炉にもっているスタンスである。

◆まずミニフジの実用化から

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小野 昌章氏

小野 民主党のエネルギー政策は3本柱で省エネ、再生可能エネルギー、化石燃料のクリーン化の3つ。化石燃料クリーン化はCO2回収貯留のことで、未だに商業化の見込みはない。

 省エネというのはエネルギー効率を上げることで、節電とは違う。この省エネは、従来のエネルギー源を電力に変えることで可能となる。

 再生可能電源は基幹電源にはなり得ない。バックアップが必要で、このバックアップの発容量以上にはなり得ない宿命がある。

 だから、これをエネルギー政策の柱にするのはおかしい。

 民主党政権がいうのが電力自由化と発送電分離、また地方分散型エネルギーとして自然エネルギーを使うことである。

 スペインは一国単位で独占的な送電業者がいて、法律によって強制命令権がある。風力をまず入れる。その風力が足りないときには、ガス火力に対してお前のところ、発電しろ。風力が余るときは、お前のところは止めろという指令を出している。それで初めてできることだ。

 分散型にしたら、パイが小さくなるだけでほとんど不可能になる。

 スマートグリッドとかいろいろ言われているが、別に電力を生むわけではなく正直、私はピンとこない。

 その意味で熔融塩炉は、負荷に応じて変えられる分散型電源として意味が出てくると思う。再生可能エネルギーでこれをやろうとしたら無理だ。

 ドイツは、エネルギー的には破綻して行かざるを得ない。

古川 過去の原子力戦略には、軍用目的が裏にあった。平和利用というのは、隠れ蓑だった。

 その意味で、国家が関わり過ぎている。エネルギー産業というのは社会に深く食い込んだ基礎構造だ。民間ががっちり組んで本当の産業にしなければ、本命の産業にはならない。純粋な産業として民間主体でいけば、今の原発が本命になるはずがなかった。〝安価につく〟究極兵器としての核兵器戦略があった。これは日本では禁句だが、世界の常識だ。

古川 具体策は1万キロワット発電のミニフジの実用化だ。きっちりしたプロジェクト体制をつくることが重要。菅さんはお粗末だった。プロジェクトリーダーの設定がすべてだ。責任の所在、責任者がはっきりしていないとだめ。さらに資金の質がよくないとだめ。熔溶塩炉は60年の時間を無駄にしたが、民活でできる。一国のためのものでは意味をもたない。人類のため地球のための技術であり、世界の世論が支持してくれるような発信をしないといけない。

 その意味では市民運動であるべきだと思う。

       
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木下 幹康氏

質問「核変換技術を使えば、非放射性物質に変えられるか」

古川 処理は簡単ではない。ただ資金を投入すれば、できないものはあまりない。しかし、経済合理性を何か考えないとナンセンスになる。別途、ゆっくり論議すべきである。

 あらゆる原発は消滅期に入る。その時、有効にこの体系が利用でき、新しい技術の時代に移る。

質問「崩壊熱の管理は容易か」

古川 初期は小型でより単純だ。溶融塩というのは固体燃料が熔けたものと誤解されている向きもあるが、10倍低濃度である上に、それ自体が熱媒体で熱の処理に最適なものだ。熱除去はできる。

質問「地震に対する安全性は」

木下 貞観地震の歴史をみると、12年後くらいに先の関東大震災より大きな地震がくる。地震に対しては、いろいろなシナリオを考える必要がある。炉心の容器、配管などがすべてが破断したり漏れたりする状況のことを想定しなければならない。溶融塩炉でも水蒸気爆発の可能性はある。炉心を冷やす必要が生じたときは、水をどの時点で入れるか。建物や格納容器が破壊されたなかでの、津波、土砂降りの雨も想定しないといけない。軽水発電炉と溶融塩炉をストレステストで比較することには意味がある。

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