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ブータン特集

ブータン国王に同行したペマ・ギャルポ氏(桐蔭横浜大学大学院教授)に聞く

祈りの帝王学が育む精神大国 国王が関心持つ明治維新

 国賓として来日したブータンのワンチュク国王(31)とジェツン・ペマ王妃(21)は、わが国国民の心に大きな感動を残して帰国した。福島の被災地では子供達に魂からの励ましがあり、京都の三十三間堂では五体投地(ごたいとうち)されて仏への帰依を示した。ヒマラヤ山麓(さんろく)の小さな国であっても、精神の大国ブータンの使者でもあった国王の滞在日程に付き添った桐蔭横浜大学大学院教授のペマ・ギャルポ氏に率直な感想を聞いた。

picture 【プロフィール】
桐蔭横浜大学法学部教授。ブータン首相顧問も務める。チベット出身の政治学者、拓殖大学海外事情研究所客員教授。専門は国際関係論、国際政治学。著作に「日本人が知らなかったチベットの真実」、「迷走日本外交に物申す! 暴走する中国を止められるのか」など多数。58歳。還暦を迎えるまでに60冊の書籍を出版すると意気込んでいる。

──同行された感想は。

 今回、国王は明治神宮とか金閣寺、それに三十三間堂などを訪問された。

 とりわけ、明治神宮での国王のお祈りが印象的だった。最初に祈ったのは、自分のことではなかった。最初は国民の幸福を、お祈りした。それから皇室のこと、終わりになって付け加えるように「私と妻が再び、訪ずれることができますように」とお祈りされた。

 さらには「願わくば、万物(生きとし生けるものすべて)が苦しみから解放されて幸せになりますように」というのが国王の祈りだった。

 非常にすばらしいと思った。

 三十三間堂では、いつまでもお祈りをして、仏教の寺では、どこに行っても五体投地されてお祈りされた。仏教において最も丁寧な礼拝方法とされる五体投地というのは、両手・両膝・額の五体を地面に投げ伏して、仏を礼拝することだ。

──あなたの前に、すべてを投げうって、ひれ伏すといったものなのか。

 そうだ。自分のエゴとかすべて捨てて生きていることを確認し、仏への絶対的な帰依を表したものだ。明治神宮では深く礼をされたが、仏教寺院では五体投地をされて礼拝された。

 王妃も同様だった。一緒に五体投地される場合もあるし、王様が先にすることもあった。

 なお、ダライ・ラマ法王はいつも、自分の玉座に対して五体投地をされて、その上で民衆に語っている。自分自身は悩むこともあるし、不足の身をわびて、役割として玉座に着くだけというものだ。

──そういう謙虚な姿に接すると、ますます人々の信奉は高まる。

 そうだ。

 2番目は、どこに行っても、国民のことを考えておられる。その姿勢に感銘を受けた。新技術を見学する機会があっても、その技術をブータンに持ち帰ってどう国民生活に役立たせることができるのか。これを前提にご覧になっている。すべてのことにおいて、国民と国王の強い絆を感じた。

 おそらく天皇陛下も、そういうお方であると思う。

──今回の反響はどうだったのか。

 ワンチュク国王ファンクラブがネットで立ちあがったり、いろいろと反響があったのは報道されている通りだ。とりわけ、国王がいらっしゃるブータンに行ってみたいという問い合わせがたくたん来ている。こうした反響は、国会演説の後にどっと出てきている経緯がある。来年夏には、こうした人々と一緒にブータンツアーを組んで、ティンプーなどを訪問したいと思っている。

──国王の国会演説では、東日本大震災に対するメッセージなど、その深い内的感性に驚いた。

 ブータンの帝王学においては、宗教教育は大きな位置を占める。

──福島訪問はどうだったのか。

 国王と王妃は(11月)18日に、東日本大震災の被災地・福島県相馬市を訪れ、市立桜丘(さくらがおか)小学校で児童と交流した。歓迎行事は5、6年生約160人が参加し、児童たちが「よさこい踊り」や合唱を披露すると、夫妻は盛んに拍手を送り、王妃は「再び来日する時は、この学校を訪問したい」と笑顔で話した。

 この時、王妃は最初、国王に小声で「もう一回、ここに来たい」と伝えると、国王は「自分でみんなの前で話しなさい」と言われ、こうした言葉になった経緯がある。さらに国王は、自分でも同じ言葉を小学生達に投げかけ、夫婦の意思として桜丘小学校再訪を約束された。

 王妃は、子供達の歓迎ぶりに心を打たれた模様だった。

──何に感銘したのか。

 家族を亡くした被災した子供達の話を聞いたり、それでも子供達が明るく頑張っている姿に心打たれた思う。

──福島では、龍の話が出た。かねて目的の一つだった被災地訪問で、どういう話をしようか、熟慮した上での話だったような気がする。

 そうだ。国王は、被災した子供達に龍のような情熱と勇気を持ったものになりなさい、と励ましを込めたメッセージを述べた。これは同時に、自分のために他を犠牲にするようなことはしてはならないという人生訓も込められていると思う。

 自分の中にある龍を、大切にして育てないといけないが、同時に龍の口から吹く火を、コントロールしないといけないというメッセージだった。

 国王は続いて大津波に見舞われた沿岸部を訪れ、市長から被害状況の説明を受けた後、ここでも手を合わせて鎮魂の祈りをささげている。

──国王の学生時代の専門は?

 国際政治学に経営学だ。

 国王は歴史が好きで、特に日本の歴史が好きだ。

──日本史のどのあたりの時代か。

 とりわけ、明治維新に関心を寄せている。

──誰に関心があるのか。

 明治天皇そのものだ。

──庶民的視点からすれば、明治維新というと坂本竜馬とかになるのだが、そこらあたりが違う。

 憲法草案を作った最高裁長官も、明治憲法を研究しただけでなく、聖徳太子の17条の憲法も取り入れている。その意味では、ブータン新憲法に日本の基層文化が息づいているともいえる。

──ブータン新憲法の、例えばどういうところか?

 国王と国民の関係についてなどだ。戦後日本の憲法は、変えなくてはいけないところがいっぱいあると思うが、ブータンの場合、2年間、前国王と皇太子が各村を回って意見を聞いて、最終的に議会を通して民主的な新憲法を作った。

 国民は憲法改正に反対だった。今まで通りでいいと思っていた。新憲法が制定されたのは2008年だった。これでブータンは、1907年以降の国王を中心とする絶対君主制から、正式に民主主義立憲君主国となった。

──今回、国王は民間からお妃を選んだわけだが、そもそもの馴れ初めはどういったものだったのか。

 ペマ王妃が7歳の時、17歳の皇太子に初めて会っている。その時、幼い少女だった王妃が「私はあなたのことが好きよ」と語りかけた。皇太子はそれに対して半分、冗談で「私たちが大きくなって、私が結婚していなかったら、あなたと結婚しましょうね」と答えた経緯がある。

 それが10年後に、また会った。その時に、10年前の話になって、それからお付き合いが始まった。だから大変、運命的な出会いをしている。国王がいろいろ考えて、彼女がもっともふさわしいとなった。

──自分で選んだのか。

 そうだ。王妃も7歳の時、再会すると確信していたという。その意味で運命的な出会いだった。

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