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第一弾 経営者から見た政治

大震災で露呈した人災!! エコカー減税

道川研一

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道川研一社長

 私は自動車業界で30年に及ぶ長い年月を過ごしてきた。自動車業界と言っても大手メーカーやメーカー系ディーラーではなく、地域の自動車整備工場や鈑金工場、中古車販売業者といった中小企業の親父たちが私の取引相手だ。

 中小企業が市場を戦うためには、大手企業に負けないくらいの情報武装をするしかない。そのために、常に最新のテクノロジーを駆使した中小企業のためのシステムを開発し続けてきた。これまでに4万社に及ぶ中小企業がシステムを導入し、発展を続ける自動車業界で共に戦ってきた。その中小企業の親父達は私のお客様であり、仲間であり、戦友でもある。

 東日本大震災から一年が経とうとする今も東北の戦友たちは厳しい戦いを続けている。

 震災発生直後は、多くの取引先とも支社の社員たちともまったく連絡が取れなくなり、現地がどうなっているかもわからない状態だった。果たして行き着けるのかわからないまま、東北自動車道が一般共用を再開するとすぐに、積めるだけの支援物資を積み込み東北出身の社員と共に、とにかく行けるところまで行こうと車を走らせた。東北から関東までガソリンの供給が止まっていたにもかかわらず、何とか仙台へ到着し、旧知の整備工場、鈑金工場、中古車販売業者を訪ね支援物資を届けて回った。

 多くの人達と再会を果たすことができたが、避難場所がわからず会えなかった人や今もって消息がわからない人もいる。しかし、そのとき目にした中小企業の親父たちの姿は、逆に私を励まし、震災そのものよりも深く強く私の心に残ることになった。

 ある社長は、私が以前にレッカー事業を勧めた人だった。親族と取引先の3分の1が津波に流されてしまった中で、奇跡的に自宅と工場の建物が残っていた。そして「あのときレッカーを勧めてくれてよかった」と言い、所有するレッカーの半分は公共の仕事に使い、残りの半分は「こんなとき金なんて取れない」と水没した周辺の自動車を引き上げるためボランティアに使っていた。

 別の整備工場では工場が全部流されコンピューターも水没してしまっていた。中小企業にとって財産といえる顧客データも失われていたが、唯一持ち出した携帯電話の情報を元に地域のお客様のために働き始めていた。

 その社長は津波で流された奥さんと私が訪問する直前にやっと再会を果たしたばかりだった。また、別の整備工場では建物が流されすべてが塩水に浸かってしまっていたが、少しでも早く仕事を再開できるようにと工具をひとつひとつ真水で洗っていた。

 すべての中小企業は、お客様のために地域のためにもう動いていた。私が行く前から、おそらく震災のその日から動いていたのだ。その姿の力強さ、逞しさは言葉では言い表せない。日本の経済発展の中心であった自動車産業を支えて来たのはこういう人達なのだ。世界に名立たる有名メーカーだけでは決して成し得なかったことなのだ。

 その中小企業の親父たちがなおも戦い続ける中、一年という歳月が過ぎても政局は混乱を続け、復興が遅れているのはゆゆしき事態だ。政治家たちにも、少しは中小企業の親父たちを見習ってもらいたい。いまだに何ひとつ有効な施策がないだけでなく、愚策を強いてさえいる。

 その最たるものが、今も形を変えて続けられているエコカー減税とエコカー補助金だ。

 震災直後、東北で戦う親父たちは口を揃えて私に言った。「どんな車でもいい。動きさえすればいい。何でもいいから、あるだけ持ってきてくれ」と。

 しかし、日本からは古い車が消えていた。なぜか? エコカー減税の基準なるものに、13年より古い車は廃車にすることが条件となっていたからだ。まだ乗れる車を、税金を使ってまでして廃車にさせる必要があるのか。ハイブリッド車の場合、一台当たり20─46万円も得(全て税金による補てん)になり、電気自動車ならば、さらに多くの金額が補てんされる。そもそもエコカーなるものは本当にそれほどエコなのか。政治家たちは本当に理解しているのだろうか。

 このような試算がある。ガソリン1Lから排出される二酸化炭素の量は2・36㎏、1台のハイブリッド車を新たに生産するのに排出される二酸化炭素の量は約6000㎏(自動車メーカーはもっと控えめな数字を出している)。

 今乗っているガソリン車の実質燃費を12㎞/L、新車のハイブリッド車の実質燃費を24㎞/Lとすると、ハイブリッド車の方が12㎞/Lも燃料節約=二酸化炭素削減となるように思える。しかしながらハイブリッド車は、生産されることで6000㎏の二酸化炭素をすでに排出している。これはガソリン量に換算すると6000㎏÷2・36㎏=2542Lとなる。つまり燃費12㎞/Lのガソリン車は、2542L×12㎞=30504㎞走った後で漸くハイブリッド車と燃費比較されるのが正しい考え方となる。

 数字から見てもわかるとおり、今ある車を充分に整備して大切に乗り、買い替えるべきときが来たら燃費の良い車に替えればよいはずである。それでは何故莫大な税金を使ってエコカー減税や補助金までが出されることになったのか。それは流行りの「エコ」の名を借り、目先の景気回復に走った安易な考えによるものとしか言いようがない。自動車産業全体において、自動車メーカーはいわば動脈、無くてはならないものだ。国が動脈に栄養剤を打つのは決して間違いではない。しかし問題は、ハイブリッド車や電気自動車だけを多額の税金で助成し、それらを扱うことができない整備業者などの中小企業から仕事を取り上げた結果になっているということだ。中小企業の親父たちも、フェアな戦いなら納得もいくだろうが、自分達の払っている税金によって大手メーカー系のディーラーは何年分もの利益を上げるのに対し、自分達の仕事が急激に減少していく様を見せつけられているのだから納得できるはずもない。政治家たちが、この施策によってどのようなことが起こるのか、そのメリットとデメリットを考えて実行したとは到底思えない。

 日本の自動車産業は、毛細血管として重要な役割を果たした多くの中小企業によって支えられて来た。彼らが機能を失えば地域産業は衰退し、そのしっぺ返しは日本経済全体が食わされることになる。

 震災後、東北の部品メーカーからの輸出が止まり、世界中の自動車メーカーが減産を余儀なくされたことは誰もが知るところである。あの甚大な被害から自分たちの力で復興を続ける中小企業を、このような愚策によってさらに苦しめ続けていることを、支援どころか足枷を増やし続けていることを、ひとりの政治家でも気付いているのだろうか。

 私は声を大にして言いたい。

 この愚策によって、どれほどの中小企業が廃業に追い込まれたかを知れと。日本を支え続けている中小企業の親父たちに謝れと。弱い者にこそ力を貸し、補うのがあるべき税金の使い方であるはずだ。大手メーカーが利益を上げれば、表面的には自動車業界が盛り返したように見えるが、業界を支える中小企業を守らなければ、これからの自動車業界は衰退して行くしかないことに、まず政治家が気付かなければならない。

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