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なぜ中国で検索トップになれたのか?

百度中国公司駐日首席代表 バイドゥ株式会社代表取締役 陳海騰氏に聞く

強みは自然文検索

 中国でグーグルを抜いてネット検索トップ企業となった百度(バイドゥ)の利用者は4億人。なぜ百度は中国でネット検索事業でトップになれたのか、これから何をしようとしているのか百度中国公司駐日首席代表の陳海騰氏に聞いた。


──百度の社名はどういう意味があるのか。

 李彦宏(ロビン・リー)会長が率いる百度の社名は、中国宋時代の古い漢詩に由来する。

 「人ごみの中を幾度となく探し回った。ふと振り返ると、あの人はいた。消え入りそうな灯火のそばに」といった意味の詩からきている。何かを探すときに使っていただき、それが見つかった時に人が感じる「喜び」や「嬉しさ」、「楽しさ」を検索エンジンとして提供していくという思いを反映したものだ。

──中国で百度というとネット検索大手として中国市場でグーグルを追い抜いているが、シェアーは。

 中国では80パーセントのシェアーを占めている。百度の利用者は4億人だ。日本の企業も、もっと百度を活用してほしい。共産党員は9000万人だが、その4倍の4億人が利用しており影響力が大きい。

──中国語特有の言葉の障壁があって、トップになれたということではないのか。

 そういう事情があるかもしれないが、百度が中国で強いのは自然文検索ができることにある。無論、キーワード方式でもできるが、例えば「北京駅にいきます。北京ダックのおいしい店を教えてください」といった文章を入れると、すぐ答えが出てくる。

 85文字まで対応できる。他社の検索は、グーグルやヤフーと同じ英語文化圏の単語検索だ。だが、単語検索だと有効な検索ができなくなるケースが少なくない。

──ただ検索の文は自然文でも、検索エンジンは単語を拾ってやっているのでは。

 そうだ。同じだが両方できるというのが強みだ。とりわけ言葉から出てくる微妙なニュアンスを受け止めることに特色がある。

──これが飛躍のばねになったのか。

 もうひとつ、英語だとIだが、中国語には38のパターンがある。おいら、俺、わしだとかの意味でそれぞれ違う言い方がされる。

 だから米国がこれをやると難しい。IはIしかないが、中国では38のパターンがあるから理解不可能だ。逆にこれを理解できないと、中国での検索ビジネスは無理だ。

 ひとつひとつ、ニュアンスが違う。それに対応したということだ。これは百度しかできない。外資系はこのあたりでアウトとなっている。これは技術問題というより文化の理解のありようだ。

──開発エンジニアは何人。

 社員全従業員1万4000人のうち4000人が担当している。

──日本留学経験があるが、日本語自体を選択した理由は何か。

 NHKドラマの「おしん」だ。当時の中国は遅れていたが、「おしん」を見たら日本も戦後、苦労した経緯がわかる。また80年代の日本の高度成長への憧れもあった。それで日本語を選択した。

──日本留学はどうだったのか。

 子供の時、教育の影響もあったが、戦争映画などで登場する日本は怖い国といったイメージが大分変わった。その他、山口百恵の「赤いシリーズ」ものや高倉健さんの「網走番外地」、歌謡曲では千昌夫の「北国の春」とか、谷村新司の「昴(すばる)」などが人気を博したが、それでイメージが一変し、日本が大好きになり、日本への基本認識が一変した経緯もある。鄧小平は1978年10月23日の日中平和友好条約の批准書交換のため中国首脳として初めて訪日した。東海道新幹線に乗って京都、奈良を訪れた。この訪日が後の中国南部を視察した時に行った「南巡講話」となり、改革開放路線「社会主義近代化建設への移行」へとつながっていった。

 日本留学の経緯は、中国で旅行会社をやっていて、日本語を直訳するとよく分からないことがあった。日本のビジネスマンは「持ち帰り検討します」とよく言う。これを直訳すると1週間後、 2週間後、検討して答えが返ってくると思うのだが、本当は断りの文句に過ぎない。それで日本に一回、行かないと理解できないと思って留学を決意した。

──今、中国に求められているのは労働集約型産業からの脱却だが、IT(情報技術)産業やサービス産業などが新産業を牽引していくことになるのか。

 中国には十分、その力があると思う。上海、北京、広東など賃金は上がっている。ただ中国の国土は日本の26倍と大きい。沿岸地域で日系企業としては労働コストが高いところであれば、もっと労働コストが安い内陸にいけばいい。四川省だとか、成都だとか20年ぐらい、まだいけそうだ。それからまた高くなったら、チベットもあるし新疆、モンゴルもいける。そうするとあと40年ぐらいは大丈夫だ。

 また中国に求められてきたのは、30年前までは安い労働力だった。中国で作って日本に持って帰っていた。それがいま違っている。中国で作って、中国で売る。賃金が高くなったが消費量も高くなった。上海や北京で作ったものを上海や北京で売ればいい。

 六本木ヒルズの散髪代金は7500円だが、6年前に北京で行っていた日本人が経営する美容室は1万5000円していた。中国で物価は上がっているが、消費も上がっている。

 データを客観的にみないといけない。毛沢東時代は、みんな貧乏で金がなかった。国営企業ではみんな同じ給料だった。だが現在、中国の金持ちは日本よりもずいぶん若い。だからもっと使う。日本の富裕層と違うのはそこだ。日本の富裕層は70歳、80歳だから、保守的だ。将来も不安だから金を使わない。

 中国の金持ちは海南島に行く。だから何が買いたいかというとクルーザーだ。一部はプライベートジェットを買いたいと思っている。

──中国では改革開放路線を選択してから30年、高度成長が続いた。これはいつか頓挫するのではないか。2008年は米国でリーマンショックが起きた。2011年には欧州金融危機が発生した。中国の危機が起きるリスクはないのか。

 違う。そうは思わない。中国の実態を理解していないからそういうことをいう。一部の経済学者は、香港返還後に経済は崩壊すると予測した。次は北京オリンピック後に中国経済は崩壊する、さらに上海万博後が危ないという話も出たが、そうはならなかった。中国はシンガポールの経験や、日米をじっくり研究している。

 中国がやっているのは、社会主義でもなく資本主義でもない真ん中の国家資本主義だ。キーワードは2つある。土地は国有。だから地価バブルは抑えることが可能だ。日本ではできないことだ。もう1つは為替レート。人民元切り上げは徐々に切り上げる。一気に切り上げない。

──日中の架け橋になりたいということだが、具体的には。

 沖縄経由の日中交流に力点を置きたいと思っている。留学した大学が沖縄だったこともあり、沖縄に対する思いは人一倍強い。沖縄の観光大使も務めた。 今、年間100万人の中国人が日本を訪問している。とりあえず、これを600万人にしたい。昨年の中国の海外旅行は6600万人だ。この1割だけ日本を訪問すればいいだけの話で簡単な話だ。

 沖縄がノービザということで日本を観光したい中国人は沖縄経由が目立つようになったが、一泊だけというケースがほとんだ。通訳も足りないし、どこを見たらいいか分からない。

 だから、一回だけでサヨナラとなる。これでは、宝の持ち腐れでもったいない。

 だが沖縄は楽しいことはいっぱいある。船をチャーターしてダイビングも楽しめるし、観光ツアーだと夜が暇になるが、沖縄の夜はお酒飲んで三さんしん線(沖縄の三味線)やって楽しい。

──一方の中国は?

 中国は日進月歩で変化が激しい。今でも毎月、一週間程度は必ず北京に帰って会議や情報収集をやっている。2006年12月、海外初の現地法人として日本に百度株式会社を東京・渋谷のマークシティーに設立した。大手通信会社も広告代理店も、日本でのキャリアは全て百度のビジネスで役立っている。

──日本の政治家に対して言いたいことは?

 日本の政治家は、中国のことをよく理解していないし、危機感が足りないように思う。

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