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今月の永田町

首相vs小沢抗争激化へ 消費増税で倒閣の危機も

 消費税増税をめぐり野田佳彦首相と小沢一郎民主党元代表の対立が激化し、倒閣運動が露骨に展開される可能性もあり得る状況になってきた。一方、消費税増税に賛成しながら早期の解散・総選挙に追い込みたい自民、公明などの野党も、消費税増税を柱とする「社会保障と税の一体改革」を閣議決定した野田政権に対して「与野党協議よりも法案化を優先しろ」と譲らず、対決姿勢を強めている。党内外からの攻勢に野田首相の政権基盤は揺らぎ始めている。


 野田首相の「社会保障と税の一体改革」実現への決意は極めて強い。1月16日、都内のホテルで開催された民主党大会で、消費税増税をめぐる与野党協議に自民、公明両党が応じない場合の対応について、「参院は少数だから通らないではなく、参院に送って法案を潰したらどうなるか(を問う)手法を採用していこうではないか」と語った。これは、衆院での強行採決も辞さない姿勢で臨む考えを示したものだ。

 また、2月17日には「社会保障と税の一体改革」大綱を閣議決定。3月末までに消費税増税法案を国会に提出する意向を示した。同22日の衆院予算委でも「私は党代表選で明確に消費増税を掲げ、素案の決定も時間をかけて着々と議論し、握手と拍手で終わった。強引な意思決定はやっていない」と強調している。「首相は、一体改革と心中するぐらいの猪突猛進の覚悟を持っているようだ」と永田町関係者が指摘するほどだ。

 これに対して、消費税増税撤回を求める小沢元代表の言動が徐々に鮮明になってきている。小沢氏は自身が会長を務める勉強会で、「『増税で選挙だ』とか、(首相が)強引になった時には、自分たちが動くことがある」と述べた。首相が消費増税を争点に衆院を解散する可能性が大きくなった場合、首相退陣を求めて行動することを示唆した発言だ。さらに、その先を読めば、野党が内閣不信任案を衆院に提出した場合、それに同調する可能性があるということでもある。

 「同調するといっても、解散には持ち込ませない。小沢さんは『解散しても過半数を取れる政権ができるとは思えない』と言っているように、不信任成立後は野田政権を総辞職に追い込み、新たな党代表選を通じて小沢さんに近い候補者を擁立して勝利し、次期首相ポストを奪取することを考えているのだろう」と政界関係者は語る。

 その一方、小沢氏はマスコミとのインタビューで、消費税解散に踏み切った場合には「民主党自身の終わり」と述べており、そうならないためにも解散前に政界再編をして安定した過半数を持つ政権をつくる必要があるという政界再編論にも言及した。こうした小沢氏の強気の発言の背景には、政治資金規正法違反罪に問われた自身の公判で、東京地裁が小沢氏に不利な供述調書の証拠採用を却下したことで無罪になる見通しが出てきたことがあるようだ。

 小沢氏としては今後、消費税増税法案の「閣議決定は簡単ではない」と明らかにしているように、小沢氏と親交のある国民新党の亀井静香代表を通じて閣内の自見庄三郎金融相(国民新党)や小沢グループの田中直紀防衛相に、閣議決定に反対表明させて辞表を提出させ、政権を揺さぶる戦術を念頭に置いて反対活動を活発化させよう。

 野党の自民、公明両党なども早期の衆院解散に向けて手を緩めない。「社会保障と税の一体化」の与野党協議は「大綱を閣議決定した後」と主張し、閣議決定したら今度は「法案を提出しなければ協議に応じない」と次々にハードルを高くしている。今後も拒否し続け、タイミングを見計らって内閣不信任案や首相問責決議案の提出に踏み切り、与党内の混乱につけ込んで成立させ、解散に追い込みたいとのシナリオを描いている。

 こうした攻勢を受け、野田首相は相次いで「大綱」実現への取り組みを修正させられている。

 第一は、大綱に盛り込んだ衆院議員定数80削減について首相は「立法府の在り方に深く踏み込んだ表現があることで、国会の議論に迷惑を掛けた」とし、「今後の閣議決定においてはより慎重な態度で臨む」と陳謝した。

 現在、衆院選挙制度改革に関しては与野党が衆院選挙区画定審議会の2月25日の勧告期限の延長で合意できず、定数削減の法案化は全く見通しの立たない状況だ。

 第二は、社会保障改革の目玉のはずの厚生年金と共済年金を統合する被用者年金の一元化や厚生年金の適用拡大などに与党内の反対が強いため、「被用者年金一元化は作業上の理由で3月の閣議決定からはずす」(前原誠司民主党政調会長)方向となった。このため、一部の社会保障改革法案を切り離し、消費税増税法案を先行して国会に提出する方針に変わったことだ。「一体改革」が早くも名ばかりのものになりつつあると言える。

 時事通信社の2月の世論調査では、野田内閣の支持率は24・9%で、5カ月連続の下落だ。不支持率も初めて半数を超えて52・7%。消費税増税に順風は吹いていないのは明らか。これに加えて、特定の支持政党を持たない「無党派層」がほぼ7割と、1960年に調査を開始して以来、過去最高となった。このことは、既成政党に期待せず橋下徹大阪市長や石原慎太郎都知事らによる新党構想など第三極に望みを託す有権者が増えているものとみられる。

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