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東日本大震災から一年

問われた政治的指導力

自衛隊評価82%、政府は6%

 「ヒゲの隊長」として知られる佐藤正久参議院議員(自民党)のトークショーが感動の渦を広げている。

 東日本大震災で、3歳になる男の子供が見つからなかったお母さんの話だ。

 4月下旬、自衛隊はその子と思われる遺体を収容した。既に一月半が経過しているので、遺体はひどく損傷している。自衛隊では、お母さんに直接、遺体を見せるのをためらった。

 それでまずお母さんに、服を見せた。

 人目にはユニクロか百貨店のものか分からないが、お母さんならすぐ分かるはずだった。

 「うちの子に間違いありません」

 そしてお母さんは、遺体の子供に向き合って、こう呼びかけた。

 「よかったねー。自衛隊さんが助けてくれたんだよ。今度生まれ変わったら自衛隊になって、みんなのお役にたとうねえ」

 それを聞いた隊員達は号泣し、涙が止まらなかった。

 昨年夏の世論調査によると、3・11以後、10万人が被災地の救助活動に励んだ自衛隊を評価するとしたのが82%と高率だった。黙々と瓦礫処理や遺体捜索に従事し、自分たちの風呂より被災者の風呂を優先した自衛隊員の自己犠牲と献身ぶりには誰もが敬意を払った。

 それに比べて、政府を評価すると答えた人はわずか6%に過ぎなかった。

 被災した東北の人々の忍耐力と高い倫理観も世界を驚愕させ、救出活動にあたった自衛隊の評価は高いものとなった。だが、国家を牽引していくべき政治家への評価が低空飛行のままだ。

 昨秋、都内平河町のJAホールで開催された国際シンポジウム「3・11後の報道と危機管理」でも、政治家のリーダーシップの欠如が指摘された。

 米テンプル大学アジア研究学科教授のジェフリー・キングストン氏は「菅前首相は悪者扱いにされた。メディアが主導したリンチだった」と述べると、慶應義塾大学特別招聘教授の谷口智彦氏はこれに反論し「菅前首相は、とてもではないが評価できない」とばっさり切った。

 谷口氏が述べた菅前総理の〝罪状〟は次の通りだ。かつて東海村では中性子を浴びて2人が亡くなった。これを受け、原子力災害特別措置法が制定され、原子力災害本部を立ち上げれば、非常時の大権を手にし、民間企業の介入もできる。菅前首相は「本部長として」と何度もいっているが、これだけの危機の中で、コマンダー・イン・チーフ(最高指揮官)だったことを知らなかった。

 世界でもどこでも同じだが、大きな危機が起きた場合、全国民、世界中がその国の指導者に瞳を凝らして視線を集中する。それで、その厳しいテストに耐えるだけの腹が指導者にあるかどうか分かる。

 残念ながら菅前首相は、そのテストに耐えられなかった。次に政府として、それを支えるものがあるかということだが、これは日本ではお粗末な限りだ。

 だが、菅前首相は頼れたかもしれない官僚機構を端(はな)から信用しなかった。これがもうひとつの間違いだ。インスティチュート・メモリーというのは、細々とであれ、官僚組織の中に受け継がれているから、原子力災害対策手法なども知っているし、その使い方も分かっている人が回りにいる。しかし、菅前首相は彼の信念からと思われるが、官僚というものをまったく寄せ付けなかった。ここにボタンの賭け違いが始まっていた。

 さらに谷口氏は、何が起きるか分からないリスク・ストーリーをいろいろ考えておく必要性に言及した。主要論点は以下の通りだ。

 リスクの予測は難しい。政策決定空間の中に遊び場を作って、何でも言える場が必要となり、考え難きを考える必要がある。その点、英米などは相対的にうまい。ウオー・ゲームのように、次々とリスクストーリーを描き出す。

 こうしたことを児戯に類する子供遊びと過小評価してはならない。危機意識を持ってシナリオライティングをこなし、書くプロセスが大事となる。

 これに見出しをつけて、物語にする。そして、読んだ人の力を喚起するものでなければならない。

 こうしたことは官僚にはできない。官僚は、ネガティブリストを与えられていて、あれをするな、これをするなと足かせが多過ぎて動きがとれないからだ。

 リスクを何一つ考えていない日本の現状を考えれば、ほんの少しでも前進すべきだと思う。3月11日のあと、10万人規模の自衛隊の動員がかかった。その時、例えば尖閣諸島に中国が漁民を装って侵攻してくるというリスク、これを考えていたか。

 自衛隊の一部には、これを考えようとするマインドが当然あるだろうが、政府にはこういうものを考えようとする習慣がない。

 なぜないのかというと、怖いからだ。そういうことをやっていると新聞に書かれ、テレビで報じられれば、外国から文句を言われる。それで、政権が飛ぶかもしれない。

 だから怖くない仕組みを作れというのが、谷口氏の持論だ。

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