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3・11 今上陛下のお覚悟

対談 衆院議員城内実氏VS元参院議員村上正邦

祭祀の長(おさ)としての天皇

 安倍新政権がスタートした。正念場は今年夏の参院選挙だ。昨年末の衆院選挙での大勝も、参院でのねじれを解消しない限り、まともな政治を行うことは無理だ。果たして政界再編は起きるのか。総選挙の総括を手始めに、衆院議員の城内実氏と元参院議員の村上正邦氏に語り合ってもらった。アルジェリア人質事件で最初に現地入りした外国人政府高官・城内氏の証言が生々しい。


総選挙と政界再編

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──総選挙の総括は?

城内 自民党が勝ったのではありません。民主党が自滅して、第3勢力が分裂した結果、自民が漁夫の利を得たというのが、わたしの印象です。

村上 自民党の政策が国民に支持されたという部分はあるけれども、それだけが勝因ではない。振り子の原理がはたらいて、左から右へ大きく揺れ返しがきた。

城内 今夏の参議院選挙で、真価を問われることになります。歴史認識や靖國問題など、安倍カラーを打ち出すのは、参院選挙に勝ってからのことになるでしょう。景気回復と震災復興という2つの柱をしっかりやって、国民の支持をとりつけるということが先決です。

村上 今回の衆院選で、維新の会が54議席を取ったね。

城内 私は取り過ぎじゃないかと思います。平沼赳夫先生の新党「太陽の党」と合流して、それなりに実績のある方がいるのは、評価できますが、玉石混交の感を否めません。

村上 未来の党については?

城内 満を持しての後出しジャンケンという作戦は理解できるが、国会議員でもない嘉田由紀子知事を代表に据えたことはいかがなものか。国民はポピュリズムには飽き飽きしています。

村上 反原発という空疎なスローガンでは票がとれないという反省も必要ですね。橋下徹氏も賞味期限が切れかかっている。

城内 日本人は飽きっぽいから、タレントの人気も、長くは続きません。

村上 政界編成を断行して、新しい自民党、民主党をつくるべきだね。

picture 【プロフィール】きうち みのる
1965年4月19日生まれ。1971年西ドイツゴーテン小学校入学。開成高等学校、東京大学教養学部国際関係論分科を卒業。外務省入省。自由民主党所属衆議院議員、外務大臣政務官(第2次安倍内閣)、星槎大学客員教授。警察庁長官(第15代)を務めた城内康光は父。

城内 民主党が分裂すれば、一方は、組合の支援に頼るかつての社民党のような党になります。

村上 民主党は核がない。バラバラになるのは必然だ。核のない民主党をまとめたのが小沢だった。その小沢が民主党から脱落した。民主党の崩壊は、時間の問題だった。  一方、自民党には、歴史があり、地方に根をもっている。その違いがでて、民主党と大差がついた。

城内 それに、小選挙区制のメカニズムがはたらいた。

村上 小選挙区制は怖い。池の金魚が、みんな、先頭の金魚についてゆくように、あっという間に、同じ流れができてしまう。  残侠子守唄に、北の風吹きゃ北を向き、西の風吹きゃ西を向き、という歌詞がありますが、小泉チルドレン、小沢ガールズにつづいて、こんどは橋本ベイビーズですか(笑)。

城内 それが、小選挙区制のなせる技ですね。私が経験したこれまでの4回の選挙のうち、3回は無所属で立候補し2勝1敗。いちどは自民党から刺客まで送られた。実は、今回がはじめての自民党公認での選挙だった。  今の小選挙区制では、無所属だときわめて当選が難しい。自分だけ手足を縛られておもりを乗せられた上で「ヨーイ、ドン」と短距離競走をやるようなものだ。最初から2万票くらいのハンディがあるような感じがする。

村上 無所属では当選できないような仕組みになっている。

城内 昔の中選挙区制だと、多少党と考え方がずれていても当選できました。しかし、今は党の公約そのままを言わないと、党幹部から懲罰を受けるのではないかと戦々恐々とする者もいます。

村上 幹事長の顔色をうかがいながら、選挙をするのじゃ大変だ。

城内 1人しか選出されない小選挙区制では、相手より1票でも上回らなければ負け。すると、比例復活があるとはいえ、ありとあらゆる階層に対して受けを狙うようになりがちです。

村上 政策について、突っこんだ議論はできないね。

城内 個人的には、小選挙区制の方がドブ板型の自分の流儀にもかなっているし、お金もかからなくてありがたい。中選挙区だとビラも3倍、事務所も2、3ケ所必要になる。後援会活動も大変だ。

村上 日本の政治のことを考えると、青雲の志をもった若手が、無所属で出るという政治の門を閉じてはならない。

城内 前々回の総選挙で民主党が勝ったのは、一度は自民党にお灸をすえて民主党にやらせてみよう、という風潮がわーっと広がったことが大きい。選挙上手な小沢氏が、「国民の生活が第一」とか「政権交代」という、まさに小泉首相のようなワンフレーズを駆使して、「政権交代、マルかバツか?」と打ち出して大勝したのだ。

村上 自民党は、ずっと長くやっている居酒屋のようなもので、高級品は出ないけれども、居心地はいい。

城内 ところが、隣にピカピカした民主党という居酒屋が開店して、やたらと無料サービスを連発する。

村上 ただほど高いものはない。

城内 そこで、ぼったくられた客が、自民党という元の居酒屋にもどってきた。

村上 料理も酒も不味かった。

城内 居酒屋も自民党も、客にちゃんと真心こめたサービスを提供しなければならない。殿様商売をしてしまうとだめ。これを肝に銘じないといけない。

村上 自民党は、勝つべくして勝ったというより、消極的勝利だ。安倍首相はそのことをよく分かっているから、周囲を見ながらそろそろと運転している。

拉致問題

村上 せっかく大勝したのに、有言不実行では、安倍さんに対する不満がひろがる。私もその一人だ。円安、株高は、結構だが、安全保障、外交問題については、不満がある。尖閣、竹島しかり。北方領土しかりだ。  安倍さんは「拉致」で男をあげたが、その拉致は、どうなっているのか。

城内 安倍首相は、昨年9月の総裁選では拉致問題についてもかなり言及していた。着実にやるべきことはやっていると思う。

村上 北朝鮮については、3階から目薬落としているような、腰が引けた姿勢ではダメだ。拉致問題は、本腰を入れて取り組まなければ、本格的な交渉にならない。

城内 民主党政権のように舐められたらだめだ。北朝鮮や中国の官製メディアからボロクソに言われるぐらいがよいかもしれない。日本の主張すべきところはしっかりと主張すべきです。

村上 西郷隆盛の征韓論は、丸腰で韓国へ交渉に赴き、自分が殺されたら、強硬手段に出ろというもので、体を張った壮絶な覚悟があった。  外交をやるときは、命を捨ててかかる気迫がなければだめだ。

城内 おっしゃるように、交渉決裂も辞さないくらいの気迫をもって初めから臨まないと、まともな交渉ができない時もある。

──中国問題はどうか。

村上 公明党代表の山口さんは、田中角栄の時代にさかのぼって、尖閣の領有権を「棚上げ」にしようということでしょう。しかし、民主党政権にだって、棚上げという発想はなかった。安倍さんは、尖閣は断固、守る、一歩も引かないというメッセージを出さなければならなかった。  安倍首相は、なぜ、棚上げ論の山口氏に親書を託したのか、理解に苦しみます。

城内 実際のところ、山口代表は中国の高官に対して棚上げ論は言っていないようです。誤解を受けただけではないか。

村上 海上保安庁を管轄する国土交通大臣に、尖閣棚上げを党是とする公明党の太田前代表を任命したのもどうか。安倍首相は、口先では強硬なことを言いながら、公明党を介して、中国に妥協しているじゃないかという話になる。  2月5日も14時間、領海侵犯されている。  その間、マイクで「日本の領海だから出て行け」と言っているだけで、そんな手ぬるいことで、尖閣を断固、守る姿勢といえるのか。  いまの為政者は、だれも、戦争を知らない。だから、国を守る、ということのイメージができてこない。口先でいろいろ言うだけで、行動計画がともなわないのは、結局、平和ボケだからですね。  尖閣諸島を世界遺産に登録申請するなどの方法もある。具体的な防衛プランを立てなければだめだ。

女性宮家には反対

──皇室問題は?

城内 これまでの125代、ご皇室は連綿と男系を維持してきました。あくまで男系たるべしというのが私の持論です。よって、結果的に「女系天皇」をもたらしかねない「女系宮家」創設には、断固反対です。

村上 万世一系という歴史の真実は、男系男子です。

城内 それはローマ教皇がなぜ女性ではだめなのかというのと同じ問題です。男女共同参画とか男女平等といった欧米的な価値観や現代的な観点の入る余地などないのです。

村上 人知を超えるものだ。

城内 いま現在、生きているわれわれが決める話ではなく、神々の法則に対する敬虔な態度、日本人の素朴な信仰心を忖度(そんたく)するぐらいでなければ、将来の日本にとって大変なことになるのではないかと思います。

村上 天皇は、歴史をつらぬく、日本人が共有する真実です。

城内 ご皇室に関しては、日本国憲法に国事行為に関する規定があります。たとえば、外交使節として大使が新しく赴任すると、天皇陛下が迎え、信任することになっています。しかし、それはあくまで「国事行為」にすぎません。天皇陛下は、祭祀の長(おさ)であり、李明博前韓国大統領が無礼にも言った「日王」のような「王様」ではありません。天皇陛下の本来のお仕事とは、日本の平和、世界の平和、宇宙の平和をお祈りすることです。

村上 国事行為は、皇太子やほかの皇族が行なってもよい。

城内 天皇陛下は、日々われわれがあずかり知らないところで古式に則ってお祈りをしておられる。また、天皇陛下が主宰される大嘗祭により、血統的にも霊統的にも神々の世界とつながるという見方もあります。この天皇陛下のお役割は、御隠れあそばされるまで続き、次の天皇陛下が引き継がれるのです。

村上 天皇陛下は祭祀の長であって、元首という権力者であってはなりません。それに、元首になると、戦争責任などの別の問題がでてきます。

城内 おっしゃるとおりです。明治憲法に天皇陛下は元首であると書いてあるが、保守系の人の多くは憲法を改正して天皇陛下を元首にすべきだと言う。私は必ずしも「元首」を否定しませんが、祭祀の長である天皇陛下は、元首をさらに超えた存在なのではないでしょうか。さらに「元首」となれば戦争責任に問われかねないという意見もあるようです。

村上 歴史的存在であって、今日現在の政治責任者ではありません。

城内 私は帰国子女で、ドイツに計10年住んでいました。初等教育のほとんどは外国で受けました。その意味では欧米的な価値観にいちどどっぷりつかった人間です。恥ずかしながら、私は、30歳になってはじめて靖國神社に行ったように、だんだんと「日本人」になっていったのですが、気づいたらいつの間にか、一般的日本国民より、はるかに右にシフトしていました。ただ私は、あくまで自分こそ「真ん中」だと思っています。

村上 戦後、そのシフト自体が否定されました。

城内 私の選挙区は広大な面積を持つが、その大部分は浜松市と合併した旧郡部であり、多くの鎮守の森が残っています。山に行くと数軒しかない集落もあり、そこには代々続く神社があるのです。

村上 その頂点に立つのが、祭祀の長としての天皇です。

城内 そうした集落で、人々はお互い助け合って暮らしてきました。昔は、母乳がたくさんでないと、味噌・醤油だけでなくて、母乳まで借りていたという。こんな素晴らしい国はない。奪い合いではなくて、助け合いながら、頑張った人は1割増し、頑張らなかった人は1割減かもしれないけれども、勝ち組、負け組や親の総取りのような行き過ぎた弱肉強食社会ではない、共存共栄の和の社会なのです。

村上 昭和天皇がマッカーサーと会談した際、「わたしはどうなってもよいが、今日、食べるものがない国民に、食料をあたえて欲しい」とおっしゃった。  権力者が自分を捨てて、こういうことが言えるでしょうか。

伝統の中の自然な振る舞い

城内 今回はじめてお話しするのですが、東日本大震災発災直後、帝都に危険が及ぶことを危惧した私は、私の外務省の先輩であり、人事課長当時に私を採用してくれた川島裕侍従長に、陛下は京都御所に避難あそばされたらと話をしたことがあります。しかし、川嶋侍従長によれば「天皇皇后両陛下は国民を見捨てて避難はされない。覚悟はされている」とのことでした。戦後中国共産党におもねって命乞いをし、裁判では日本を非難した満州皇帝溥儀とはあまりに対照的ではないでしょうか。

村上 国民とともにあるのが、天皇です。東北に行かれているお姿を見ても、あのおことばや振る舞いの一挙手一投足、真似をしょうと思っても、誰もできません。

城内 歴史、伝統からでてくる振る舞いですね。

村上 木下侍従から直接聞いた話ですが、シーメンス事件の折、木下侍従が、陛下に、「今日は大物政治家が逮捕される」と申し上げ、「多少、夜遅くなるかもしれないので、執務室にいらしてください」とお願いをしたそうです。当時は、陛下の認可がなければ逮捕できなかったのです。  そして、夜遅く、到着した書類をもって、木下侍従が、陛下の執務室へお届けしたところ、陛下は、テラスに出られて、「木下、政治家が邪なことをするのは、余の不徳のいたすところか」と尋ねられ、「御名御意」の印を捺すことをためらわれた様子と言います。  そのお姿を見て、木下侍従は、身震いしたそうです。  私は、独房で、その話を思いうかべ、幾夜も、眠られぬ夜をすごしました。  政治家は、陛下の御心にそって、はたらくことを本懐とすべきですが、そのことを忘れている政治家が、あまりに、多すぎます。

城内 衆議院議場の議長席の上には天皇皇后両陛下のための「御座所」があるのですが、昭和11年から一度も天皇陛下は衆議院に来られていません。しかし、私は議場に入るとき、御座所に天皇陛下がお座りになっていらっしゃると見立てて、まず御座所に向かって礼をして席に着くようにしています。陛下がいらっしゃって、我々を見守っているという意識を常にもって、前々回当選してから一礼することを励行しています。

村上 それが日本人の中道で、決して、右ではありません。

アルジェリア人質事件

村上 ところで、外務大臣政務官として、アルジェリアへ赴きましたね。

城内 人質事件が発生した1月16日、私はクロアチアに公務で出張していました。同日午後、要人と会っている時、「急遽アルジェリアに行ってくれ」とのメモが入ったのがきっかけです。  実は、翌17日にマケドニア大統領と首相と外務大臣に会う予定だったのですが、全部キャンセルとなりました。本来、私は欧州・アジア大洋州担当でアフリカ担当ではありません。たまたま出張で近くにいただけだったのです。  ともあれ、できるだけ早くアルジェリアに飛べとの指示でした。たまたまクロアチアのザグレブにアルジェリア大使館があったので、一時間ぐらいでビザはとれました。だが、どんなに急いでもその日のうちには行けません。一番早いフランクフルト経由で乗り継ぎ、翌17日の昼過ぎにアルジェリアに着きました。  ところが、その時すでに軍事オペレーションが始まっていたのです。すぐ大使館へ行って、午後3時にはアルジェリアの外務大臣に会い、「人命の安全確保が第一であり、即刻軍事オペレーションを止めてほしい」と申し入れました。  ただ、アルジェリアでは90年代からテロとの戦いを経験し、10万人、20万人が死んでいるのです。

村上 アルジェリア政府の方針は、テロに屈しない、テロリストとは交渉しないというものですね。

城内 テロとは、戦う以外の選択肢をもたないのが、アルジェリア政府の方針です。

村上 テロリストの要求は?

城内 外国人人質を連れてマリまで行き、フランス軍の軍事行動を止めさせるというテロリストの要求に対して、交渉の余地は全く無かったのではないでしょうか。

村上 アルジェリア政府が、交渉に応じる可能性は、なかった?

城内 アルジェリアでも、もちろん人命は決して軽視はしません。しかし、テロリストとは交渉せず、徹底して戦う姿勢がどうしても優先されるのです。

村上 平和ボケの日本人には、思いおよばない厳しさだ。

城内 外務省の対応について批判する向きもあるが、本当によく頑張っていました。特に、在アルジェリア日本国大使は立派な方で、外務省で領事局長を務めたこともあります。外国にいる日本人をどうやって助けるか、邦人保護に関して非常に長けていました。巷間言われるように情報収集力が弱かったわけでも決してないのです。

村上 情報が錯綜していた。

城内 情報が錯綜していたのは、アルジャジーラやモーリタニア通信など近隣の放送局や通信社が夜に何人死んだとかいうニュースを流していましたが、その情報の確認ができない上、断片的だったことに起因するものです。

村上 人命第一という観点からは、最悪の事態になった。

城内 テロリストは、ガス生産施設を爆破する計画だったようだ。もし爆破されていたら、5キロ四方が大惨事に見舞われたと言われています。なにしろ天然ガスの生産プラントなのだから、巨大な爆弾に火をつけるようなものです。幸い、施設を動かすオペレーターが、全部ガスのバルブを閉じたことにより難を逃れたのです。

村上 現地へ入ったのは?

城内 軍事オペレーションが終わった日の翌20日朝9時、国営天然ガス公社のゼルゲイ総裁に、とにかく現地に行かせてくれと要望した。何でも言ってみるもので、その日の11時発のチャーター便に同乗することができ、午後にはイナメナスというアルジェから1000キロ離れた場所に着きました。病院に日本人のご遺体があるということだったから、そこに行かせてくれと頼んだら、その前に現場に連れて行くと言う。こうして外国の政府高官として初めて、軍事オペレーションが行われた翌日に入ることが可能になったのだった。  結果として日本人10名の方を含む多くの方が亡くなられたのはきわめて残念です。このような悲しい事態が二度と繰り返されないよう、また仮に起こっても被害を最小限に食い止められるよう、政府に設置される検証委員会において今後、徹底的な検証と議論がなされなければならないと思います。

村上 危機に対する意識を高めなければ、日本は、危機管理の後進国になってしまう。身を捨てて、国家を守るエリートを育てる中野学校のようなものをつくらなければ、日本は、平和ボケのまま、沈没することになる。 (文中の城内実氏による内容はあくまで城内氏個人の見解であり、政府を代表するものではありません)

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