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中国、ソ連崩壊で 「韜光養晦」路線変更

 中国は鄧小平の低姿勢外交に徹する韜光養晦(とうこうようかい)(目立たずに力を蓄える)路線を1991年のソ連の崩壊で変えた。

 中国がそもそも1970年代に日米との国交正常化に動いたのは、ソ連という敵がいたからだった。同じ共産主義でもインターナショナルは歌だけの世界で、ナショナリズムを超えることはできなかった。

 中国のソ連に対する不信感は、朝鮮戦争で決定的になる。スターリンは朝鮮戦争に積極的だった金日成にゴーサインは出すものの、米国の参戦で戦局不利と見るや、毛沢東に兵を出すよう要請するだけで自らの手を汚そうとはしなかったからだ。

 このため毛沢東は、ソ連から港湾の租借を要請されたものの、断じてこれを受けることはしなかった経緯がある。

 そうはいっても中国には膨大な数の陸軍兵士はいるものの、近代戦を戦えるような陣容ではなく米国と対峙するソ連との戦力差は明らかだった。

 ソ連と敵対するようになっても、武力において中国はソ連の敵ではなかったのだ。そこで日米と仲良くすることで、パワーバランスをとったのが毛沢東のやり方だった。敵の敵は味方という孫子の兵法によったものだった。

 そのためには日本をどうしても中国に引き付ける必要があった。そのため日米安保条約も当初、容認するような発言があったし、戦後賠償も譲歩した。ただ「一つの中国」だけを担保しただけだ。

 ところがベルリンの壁が崩壊し、さらに1991年12月にはソ連が崩壊した。

 これで中国をとりまく戦略環境は、がらりと音を立てて崩れ、激変した。富国強兵路線はそのまま堅持し、特別経済区を受け皿に日米からの資本導入や技術移転で経済力強化の道を推進しながら富国の道を邁進し、軍事予算も毎年前年比2ケタ増と急増させ強兵路線を突き進んだ。

 外的には何もなかったかのように振る舞いながら、心でにやりと笑ったのはポーカーフェイスの中国だった。

 中国は1992年、領海法を制定し尖閣を初めて中国領土として組み入れた。トウ小平は日中国交正常化の時、「尖閣の領有権問題は、将来の知恵ある者たちに委ねよう」と言って「棚上げ論」を提示した。

 その「棚上げ論」を一方的に破ったのは中国の方だった。

 中国はソ連崩壊で、もう怖いものはないと確信したのだ。

 中国は昨年9月に、当時の野田首相が尖閣国有化したことを暴挙だと批判するけれど、そもそも「棚上げ」そのものを破ったのは、中国だったのだ。それも20年も前の事柄だ。

 なお、中国が領有権を主張している尖閣問題で米国議会上院は昨年末、本会議を開き米国の防衛義務を定めた日米安全保障条約の適用範囲内であることを明記した法案を可決した。

 法案には、中国が領有権を主張する尖閣を巡る条項が盛り込まれ、「米国は領有権に関して特定の立場をとらないが、尖閣諸島は日本の施政下にあり第三国の一方的な行為によってこの認識が変わることはない」と明記。そのうえで、「日本の施政権が及ぶ地域に対して米国は日米安全保障条約の第5条に基づき防衛義務がある」と判断し、尖閣は日米安全保障条約の適用範囲内であることと確約している。

 中国はこれまでこれらの地域で、力の空白部が生じると武力侵略して領土拡張に動いてきた経緯がある。

 1973年に米軍のベトナムからの撤退が決まると、中国はそれまでベトナムが領有していた西沙諸島を艦船と空軍機で侵攻し、実効支配したし、92年に比スービックやクラーク基地から米軍が撤退すると、それまで比領有だった南沙諸島に侵攻し実効支配するようにもなった。中国はこのように「力の空白」に乗じて実効支配を広げてきた。

 米国とすれば、こうした戦力の空白が生じると直ちに出てくる中国人民解放軍の膨張主義にけん制球を送ったのだ。

 いま中国は、ベトナムやフィリピンはじめ様々な国に対し武威をちらつかせながら膨張路線をひた走っている感が強い。

 毛沢東の「権力は銃口から生まれる」との言葉からしても明らかなように、中国という国は力しか信じていない。共産主義の本質は「嘘と暴力」でもある。

 だから、中国に対しては嘘に言いくるまれず、力を保持しておくことが必要不可欠となる。中国というのは、相手が一歩譲歩すると二歩出てくる。日本人どうしのように相互に譲歩することで痛み分けの解決を図るようなことは一切しない。

 譲歩するのは、相手に自己反省すべき間違いや弱みがあると解釈して、さらに強気に出てくる。

 だから初めから対話による解決を目指しても、打ち負かされるだけだ。最終的に対話による解決でもいいのだが、少なくともそのための力を保持した上で臨まない限り、対話すら担保ができなくなるという覚悟が必要だ。

 その中国をけん制する力の根源は、日米同盟の強化であることは論を待たない。

 負ける戦争はしないプラグマチストの中国は、強力な武力を有する米国と戦争するつもりは、さらさらない。だから、日米がしっかり連携し、中国が万一にも日本に武力行使すると米国が出てくるとなれば、中国は威嚇だけで終わるのだ。

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