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特集“異形の隣人”中国

中華の毒知らせる現代のカナリア/チベット、ウイグル、内モンゴル

 中国四川省のチベット族自治州では、2009年以来、僧侶の焼身自殺が後を絶たない。焼身自殺した僧侶には、尼僧や若い僧侶も含まれている。

 新疆ウイグル自治区では4月と6月、公式発表でそれぞれ21人と35人の死者を出す衝突が起きた。

 内モンゴル自治区の状況も心配だ。15年の刑期を満了して2010年に出獄した人権活動家のハダ氏とその家族が、出獄の直後から行方不明になっている。

 中国の少数民族の置かれている境遇が危惧される。

 チベット僧侶を焼身自殺抗議に追いやっているのは、抑圧的な中国政府だ。具体的には①宗教、思想、言葉の自由が奪われている②チベット仏教の僧侶や尼僧が強制結婚させられたり、僧院にいることにもさまざまな規制があるなど信教の自由が著しく侵されている③チベット人にとって、無上の指導者であるダライ・ラマ法王を非難し、神聖なる姿を傷つけることを強要している―などだ。

 少なくとも共産党政権は抑圧的な宗教政策や強制移住政策、当局者による人権侵害の横行などを改める必要がある。

 チベット僧侶の焼身自殺抗議は、チベットの地下でふつふつと煮えたぎるマグマの火力の強さを表している。いつそれが、火山帯になるのか北京政府の出方に懸かっているが、マルクス主義は神棚に祭って棚上げしながらも、レーニン主義は放棄していない北京政府の将来展望からすると、チベットの未来は暗雲が懸かったままだ。

 イスラム教を信奉するウイグル族が多数を占めていた新疆の状況も、宗教の否定と文化伝統の破壊といったチベットと似た側面がある。

 この6月、訪日した世界ウイグル会議のカーディル議長は「私を強くしたのは中国共産党だった」という。米国に亡命直後には、3度バックしてぶつかってくるという不自然な交通事故で大けがをし、4年前の初訪日の折には、送り込まれた刺客から危うく毒殺されかけたこともある。

 多くの人は、職を失ったり家族の小さな幸せが崩壊するのを恐れ、中国共産党の圧政に対し見て見ぬふりを決め込み、口をつぐんでいる。だが資産を奪われ、実の子供2人が中国の牢獄(ろうごく)につながれたままという逆境をものともせず、民族解放の大義のために自己犠牲をいとわない義人もいる。カーディル議長は間違いなく、その一人だ。

 元来、「宗教はアヘン」としてきた中国は、外交的手段として宗教を利用することはあっても、本質的に宗教に対し敬意を払うことはない。それどころか人民の敵として、寺院をモスクを目の敵にしてきた経緯がある。チベットの人々が心から寺院を大切にし、ウイグル族が心のよりどころとしてきたモスクを理解できなかったどころか敵意さえ抱いてそれを排除しようと動いてきた。

 しかし、ウイグル族にとってイスラム教がなくなり、チベット人にとって仏教がなくなるということは、ウイグルやチベットそのものがなくなることを意味する。わけてもチベットではかつて、男子の4分の1は僧侶だった。国民党すらこのことは理解していて、宗教問題には手を付けなかったが、教条主義から弾圧に乗り出した共産党政権のボタンの掛け違いが今の状況につながっている。

 クリントン前国務長官は昨年、宗教の自由をテーマに演説し、「宗教への規制が取り除かれると国が不安定化するという主張がある。しかし『宗教の自由』の欠如が宗教抗争や過激主義に関連している」と強調したことがある。

 今の闘いは、ウイグル対中国でもチベット対中国でもなく、正義と悪の闘いでもある。

 こうした闘いは、昨日今日、始まったわけではなく、過去60年間、ずっと起きている事柄だ。ただ中国は、今までのように隠蔽できなくなってきている。今、中国がやっているのは一部の人だけが権力にしがみついて、他民族を二級市民化し、東南アジアで領土や領海にちょっかいを出している。これはアジアの問題であり、日本の問題でもある。

 炭鉱の中に置かれるカナリアは、酸欠や有毒ガスの発生を知らせる。その意味では、新疆ウイグルやチベットの惨状は、中国の実体を知らせるカナリアだ。それは「一民族の危機」だけでなく「アジアの平和」が脅かされようとしている警告のサインでもある。

 なおヒトラーの野望を野放しにしたのは、英首相チェンバレンの融和主義だった。英仏の沈黙こそが、ヒトラーの軍拡冒険主義にゴーサインを送ったのだ。その教訓からすると、中国に対する国際社会の断固とした姿勢こそが、世界平和への最善の道を約束する。

 日本ウイグル協会のイリハム・マハムティ代表は「ウイグルがチベットのようになるのに10年もかからなかった」と語るが、昨今の尖閣や南沙、西沙問題を見ても分かる通り、日本やアセアン諸国が十分な備えをしない限り、チベットやウイグルの運命が待ち受けていると心すべきだ。


金産出大国ガーナで不法採掘、中国人4600人を強制退去

 昨年1年間に入国管理法などで日本から強制送還された外国人は、1万5178人だった。

 トップは4545人で全体の約30%を占める中国人だった。10年連続の1位だ。その年間強制送還人数とほぼ同じ4592人の中国人が7月中旬、ガーナから一気に国外強制退去させられた。

 理由は非合法の金採掘活動だった。

 西アフリカのガーナ共和国は、金の埋蔵量が豊富で南アフリカに次ぐアフリカ第2の金産出国だ。とりわけ最近の金価格は高騰に次ぐ高騰で、中国人ワーカーのゴールドラッシュを発生させた。

 一攫千金を狙った1万人以上の金に目がない中国人ワーカーが押し寄せ、金採掘を行ってきた。ガーナの法律では、25エーカー以下の小型金鉱の採掘と運営への外国人の参与を禁じている。わけても中国人の集団違法採掘と森林伐採や水質汚染など全く気にかけない環境無配慮の採掘に対し、現地の住民の反発が高まっていた。

 ガーナ政府は昨年10月、自国民以外による金採掘に制限を加える政策を導入。専門の取締りチームを発足させた今年5月以降、多数の金採掘者を逮捕済みだ。

 なおガーナで生産される金のうち、約半数は中国人による採掘だとされる。その一部が非合法の採掘だった。

 ガーナ政府移民管理局報道官は、「(今回の中国人ワーカーの国外追放処分は)第一歩に過ぎず」と述べ、今後も続ける方針を示している。


国栄えて山河なし、水汚染でガン多発

 中国はがん患者発生率が高い、いわゆる「ガン村」が多数、存在する。これまで環境汚染、とりわけ水汚染との関連が疑われてきたが、その相関関係を実証するものはなかった。だが今夏、中国疾病予防対策センターの関係者らが制作した国家主導の研究プロジェクト「淮河流域の水質汚染とがん患者の相関性評価・研究」電子版(上図)が発行され、初めて両者の関係が証明された。

 人口2000人規模の河南省沈丘県杜営村では、1990年代末頃から、原因不明の症状を訴える村民が増え、大都市の病院で検査をしてもらったところ、ガンだったという。

 杜衛民(ドゥ・ウェイミン)書記によると、2003年から10年の間は毎年十数人がガンで死亡し、06年にはある通りに住む8家族全員がガンにかかっていたこともあるという。

 同センタースタッフらは淮河の支流、沙潁河の汚染された水が流れる河南省周口市沈丘県の8つの郷鎮、25の行政村を対象として調査を実施した。

 その結果、3年分のデータを比較したところ、消化器系ガン(食道ガン、胃ガン)の罹患率が、汚染された川が流れている地域では流れていない地域の5倍以上も高いことが明らかとなった。

 淮河の汚染問題に関わり続けて20年になり「淮河の守護者」と呼ばれる淮河環境保護の第一人者─霍岱珊(フオ・ダイシャン)氏(60)は、水質はある程度改善したが、人命を脅かすような目に見えない汚染物質がまだ現存すると述べ、重金属や鉛、カドミウム、砒素、PCBといった有毒物質の被害を訴えた。

 東京の築地市場は、移転先予定地の豊洲新市場地区が、かつて都市ガスの製造・供給が行われていたことで、ガスの製造工程で生成された7つの物質(ベンゼン、シアン化合物、ヒ素、鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)による土壌および地下水の汚染が確認され移転できないまま立ち往生している。

 中国は国土の多くが工場排水の垂れ流しなどによる豊洲新市場地区状態で極度に汚染され、「国栄えて山河なし」となっている。これまで先祖が作り上げた田畑を、一代で売却して蕩尽するのと同様、目先の利益を追うことで国土そのものを汚染し使い物にならなくさせている実態がある。


「中国の脅迫外交を許すな」アーミテージ元国務副長官ら会見

 米国のリチャード・アーミテージ元国務副長官、ジョセフ・ナイ元国防次官補、マイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア太平洋上級部長など知日派の重鎮らがこのほど、都内で開催された笹川平和財団(羽生次郎会長)の「日米安全保障研究会」第1回会合に参加後、記者会見し─韜光養晦(とうこうようかい)(機が熟するまで隠忍自重する)路線を放棄した中国の台頭をけん制する日米安保同盟が東アジアの共有財産になっている事実を強調した。

 まず会見で、米戦略国際問題研究所(CSIS)所長のジョン・ハムレ氏が「アジアの中で中国台頭が顕著だが、脅迫外交は許してはならない」と述べ、「米の予算削減で、アジアの安全保障が損なわれてはならない。そのためにも日米同盟の優先順位が高くなる」と語った。

 これに対し、グリーン氏は「米は中国の失敗を望んでいるわけではない。むしろ建設的な協力を望んでいる」と述べ、ナイ氏は「日中米で協力できる分野として、気候とエネルギーがある」と指摘した。

 一方、アーミテージ氏は米国内で右傾化への警戒も出ている安倍晋三首相の政権運営について「正しい方向に進んでいる」と評価した。

 会合の座長を務める加藤良三・元駐米大使は「60年間、日米同盟はアジア太平洋地域の安定と繁栄の礎石だった。さらに日米同盟を強化して信頼性を高め、活力とダイナミズムを担保することが重要だ」とこの研究会の基本認識を説明。会合では、米外交の重心をアジアに移す「リバランス」を有効にするための日米の役割が主要議題となり、インテリジェンスやサイバーセキュリティー、北朝鮮の核への対応などテーマは多岐にわたったと紹介するとともに、日本が集団的自衛権を行使することで、軍事基地の効果的合同運用が可能になるとの意見も出た。

 また(財)安全保障研究所の西原正理事長は、「尖閣をめぐる脅威が存在している。日米安保が対応できるようにするのが一つの役割だ」と会合の意義を強調した。

 笹川平和財団はCSISと協力して、日米同盟の戦略的ビジョンを進展させるため、今回の第一回会合を皮切りに、今後3年間に渡り、年二回合同会合を開催した後、最終リポートを提出する。


ミャンマー・中国 パイプライン稼動でマラッカリスク回避

 ミャンマーでこのほど、中国雲南省昆明に伸びる天然ガス・石油パイプラインが完成、政府は対中輸出を始めた。パイプラインと道路建設で、中国は雲南省からベンガル湾に抜ける南下回廊を手に入れることになる。意味するものはエネルギーの確保と安全保障の一石二鳥のメリットだ。

 これまで中国が輸入する原油は7割以上がマラッカ海峡を経由していた。同海峡の有事は、中国にとっては悪夢以外の何ものでもない。海賊によって航行を妨害されるリスクも存在する。その意味でも、同海峡に依存しないミャンマーを通じたパイプライン敷設は、エネルギー補給路のバイパスを意味し、CNPCよりむしろ中国軍が渇望してきたものでもあった。

 さらに軍事利用が可能な、パイプラインに沿った高速鉄道の建設計画と合わせ、アジア・太平洋地域の安全保障に中国として布石を打った格好だ。

 パイプラインの工事を担当したのは中国最大のエネルギー会社・中国石油天然気集団(CNPC)だ。CNPCがパイプラインの設計から建設、運営、拡張まで責任を持つ。

 ただCNPCによるパイプライン建設と港湾建設に従事する中国人ワーカーの働きぶりに対する現地の評判は悪い。

 「中国のアフリカ進出と同様、現地調達するのは食料品と売春婦だけ」(チャウピュー商店主)というほど、ワーカーと資材を中国から運び込み、現地に金を落とさない中国型進出ぶりに地元民の反発と失望の色は濃い。

 チャオピュー沖に出ると、中国が国家を挙げて取り組んでいる港湾建設と石油貯蔵庫が目に入る。

 このパイプラインで年間2200万㌧の原油と120億立方㍍の天然ガスを運ぶ。中国の年間原油輸入量の約1割、天然ガスにおいては4分の1に相当する量だ。パイプラインは、沿岸部から経済を牽引(けんいん)してきた中国の発展形態を大きく変える可能性をも秘めている。

 パイプラインは地下に埋められている。ミャンマー北部の落差の大きい昼夜の温度差でパイプラインの劣化を防ぐのと、何より反政府武装少数民族のターゲットにならないようにするためだ。

 このためパイプラインそのものを見るには、工事現場に赴くしかない。

 その最前線は、ミャンマー第2の都市マンダレー南30㌔にあった。マンダレー新空港に近い場所だ。

 マンダレー市内の工業団地の一角には、高強度・耐腐蝕性の鋼管が山積みされている。直径約80㌢、長さ約20㍍ほどのものが、所狭しと並んでいる。

 パイプライン敷設工事に責任を持つ中国石油天然気集団(CNPC)は、マンダレーやシャン州ラッショウなどミャンマーの主要都市に拠点を置き、工事を進めるための資材置き場や集中管理センターを設置している。

 パイプラインの破壊は、ミャンマー一国の経済を左右することになりかねないだけでなく、中国の命運をも決定付ける要因となる。いまだ武装した反政府少数民族が存在するミャンマーでパイプラインは、内戦やテロの標的となりやすい。

 このため当初、中国側は「パイプラインの300㍍以内を人民解放軍が管理する」との提案をしていた時期があった。だが、屈辱の英国植民地時代を経験した誇り高いミャンマー人が、こうした「租界地」を認めるわけがなかった。中国人民解放軍がミャンマーに駐留する話は、「トロイの木馬」になりかねない危惧から立ち消えていった。

 一方、何千億円もの持参金でミャンマープロジェクトを推進している中国の影響力強化に懸念を持っているのがインドだ。

 戦後、中国と戦火を交え、その怖さを身をもって体験しているインドとすれば、戦略的にも隣国ミャンマーを引き寄せておく必要があった。そのインドが打った手は、チャオピューの隣町のシットウェーへの進出だ。

 当初、インドはバングラデシュを経由しインド東部のコルカタに至るパイプライン建設案をまとめ8年前、関係3カ国の基本合意までこぎつけた経緯がある。

 だがその後、バングラデシュの態度が一変し、インドのパイプライン領内通過を拒否する行動に出た。背後で寝業師の中国がバングラデシュに圧力をかけたためとされる。インドはやむなくパイプライン敷設計画を撤回、代わりにインパールなどがあるインド東部とミャンマー西部シットウェーを結ぶ道路と航路、港湾を整備することでミャンマー政府と合意した。

 バングラデシュとブータン、ミャンマーに囲まれ袋小路に近かったインド東部が、ベンガル湾への出口を確保することで、物流回廊を担保できる。これまで開発の波から取り残されていたインド東部開発の切り札にするとともに、ミャンマーへの影響力を依然、保持している中国を牽制(けんせい)したい意向だ。

 インドはシットウェー港の再整備を、昨年度から本格的に着手している。シットウェーに事務所を設けて学校建設のNGO活動を続けている森昌子BAJミャンマー代表は「シットウェーから北上する道路は劇的によくなったし、港湾建設も着実に進展している」と言う。


ブータン総選挙で野党勝利 印、ブータンの中国傾斜懸念

 「国民総幸福」(GNH)を国是に掲げるブータンで7月中旬に実施された国民議会(下院)選挙は、野党の国民民主党が前政権与党のブータン調和党を抑え勝利した。2008年の立憲君主制移行後、総選挙は2度目。国王主導による「上からの民主化」の道を歩むブータンは、野党の勝利によって法治によるスムーズな政権交代を証明してみせた。

 政権交代といっても、政策がガラリと変化するわけではない。両党ともマニフェスト(政権公約)に「GNHの追求」と「対印関係重視」を掲げ、主張に大きな違いはない。

 今回の総選挙で大きな影響力を発揮したのは、実はインドだった。

 インド政府は総選挙の直前となる6月に、ブータン優遇措置の打ち切り、ブータン向けに輸出する家庭用ガスと灯油の補助金廃止を決定した。これによりブータン国内のエネルギー料金が倍以上に跳ね上がり、国民の生活を直撃。現政権批判の風を巻き起こすことになった。

 そもそもインドとブータンは特殊な関係にある。

 ブータンは国家財政の大部分をインドからの援助で賄い、国防面でもインド軍の支援を受ける。外交面でも、小国ブータンが世界中の国々に大使館を設置するのは現実的ではなく、主要国を除きインドの各大使館がブータンの大使館業務もこなしている。野党幹部の誰もが「対印関係は国家存続に不可欠だ」と述べるほど、依存度が高いのが現実だ。

 そのインドが現政権に離縁状をほのめかすような優遇措置打ち切り措置は、野党に塩を送る結果となり、政権交代をもたらすことになった。インドとすれば、中国への傾斜を強めた前政権に対する「懲罰政策」とばかり、「なめちゃいかんよ」とその政治的影響力を行使した格好だ。

 発端は、昨年6月の中国とブータンの首脳会談だった。8月には中国外務次官がブータンを訪問。ブータン最大の友好国インドが両国の接近に危機感を募らせた経緯がある。

 中印戦争で痛い目に遭遇しているインドの中国不信感は、強いものがある。今でも日常的に、カシミールやシッキムの領土を中国人民解放軍に脅かされている。何より中国は、インドを包囲する格好で、パキスタンのグアダル、スリランカのハンバントタ、バングラデシュのチッタゴン、ミャンマーのチャオピューなどの港湾を抑えている。いわゆる「真珠の首飾り」と言われるインド包囲網の構築だ。

 こうした中でブータンが中国傾斜に動き、「真珠の首飾り」の一つに加わるようだと、いつ「首飾り」が「首締めの責め具」になりかねず座視できないとのインド側の判断があった模様だ。


中国海洋強国路線で問われる機動的防衛力

 中国は4月に2年ぶりの国防白書を発表し、「海洋強国」を旗印に東シナ海や南シナ海などの権益を守るため軍の積極的関与を打ち出した。

 その海洋強国路線を実証するかのように、中国は露骨な武威外交を展開している。

 1月には尖閣の北方海域で、中国海軍艦艇による海上自衛隊艦艇へのレーダー照射事件が起きた。さらに今春、南西諸島界隈での中国海軍の動きが顕著になっている。

 5月には中国原子力潜水艦が沖縄県久米島南方の接続水域内を潜航したまま南東方向へ航行。また、中国の潜水艦が、奄美大島西方海域で接続水域を潜航。さらに南大東島周辺の接続水域を中国原潜が潜航したことも報じられた。

 接続水域とは、領海の限界線(基線から外側へ22・2㌔㍍)から外側へ22・2㌔㍍にわたる海域を指す。国連海洋法条約では、潜水艦の領海内の潜航を禁止し、浮上して国旗掲揚を義務付けている。しかし、その外側の接続水域の潜航は違法ではない。

 だからこそ警戒を要する接続水域の潜航に注意を怠ることはできない。

 何よりこれら接続水域は、米中双方にとって戦略上要衝の海域だ。強力な空母機動部隊の進出は、その海域の制空、制海権を獲得できる。しかし、空母にとって、潜水艦の持つ魚雷、巡航ミサイルは最大の脅威となる。一方、原潜といえども発見されれば、攻撃を受け威力を喪失する。

 とりわけ侵略を企図する側にとって原潜は、先制奇襲成功を導くパイロット役となる。

 現在、中国は原潜8隻を保有。東シナ海に潜水し、所在不明の原潜から発射された巡航ミサイルは、低空を高速で海上飛行するため、警戒レーダーに発見されずに目標に接近できる。沖縄にある飛行場、嘉手納、普天間、那覇、下地島は海岸に近く、来襲するミサイルの発見は目視のみによるため、早期発見は至難の技だ。

 中国の潜水艦発射巡航ミサイル「紅鳥3( H N 3)」の性能は、射程距離2200㌔㍍(地上発射型。艦艇から発射の場合300㌔㍍)、全長6・4㍍、弾頭400㌔㌘、命中精度は平均誤差半径(CEP)5㍍、飛行速度は亜音速とジェーン年鑑に記されている。

 現在、この海域では米中間の見えざる暗闘が展開されている最前線でもある。

 なお平成16年11月には、中国原潜が石垣島周辺の領海内に潜航したことがある。

 ただちに海自の対潜哨戒機が出動し、潜水艦を探知はしたが、実力行使は禁じ手となっているため、撤退を強制できず、長期間、監視継続するのみであった経緯がある。

 かようにわが国には領土、領海を守る権限が自衛隊に付与されていない基本問題が存在する。領域を警備する法制も整っていない現状では、日本の主権を侵害する外国の不法な行為を、領土や領海から排除することはできない。

 南西諸島の機動的な防衛強化に加え、中国に対する最大の抑止力となっている日米安保体制を強化する集団的自衛権の行使容認や領域警備法の制定などが急がれるゆえんだ。


16万人規模ロシア極東大演習 主眼は中国けん制

「タタールのくびき」で条件反射

 2年前から大規模な軍の近代化を始めたロシア軍が7月中旬から下旬にかけ、ソ連崩壊後最大の16万人規模の緊急軍事演習を極東で実施した。米国のアジア太平洋地域回帰を図るリバランス戦略をにらんだ武威外交の側面もあるが、主眼は長い国境線を接して海洋進出を活発化させている中国をけん制したものだ。

 ロシア側の発表によると、今回の緊急軍事演習に参加した軍人は16万人。戦車や装甲車など軍用車両が1000両、艦艇70隻、戦闘機や爆撃機を含む航空機・ヘリコプター130機が参加した「ソ連崩壊後で最大規模の緊急点検」(国営ロシア通信)とされる。

 その直前まで中ロ共同軍事演習をしていたものの、中国艦艇の初の宗谷海峡通過のタイミングでオホーツク海演習を実施しミサイルも発射するなど、中国けん制の意図は明らかだ。増強を続ける中国海軍に対し、オホーツク海は「ロシアの内海」だと刻印したのだ。

 中ロ国境地帯の中国側東北部の3省(遼寧、吉林、黒竜江省)が総人口1億人以上なのに対し、ロシア極東の住民はわずか約600万人に過ぎない。こうした人口圧力だけでなく、中国製品を担いで越境しロシアで販売する中国人も多数見られるなど、ロシア側で中国の経済的な影響力が年々増大する中、天安門事件以後、防衛費の二ケタ増が続くなど軍備増強を続ける中国への安全保障面の「脅威」も高まっている。

 抜き打ち的に始まった極東大軍事演習はそもそも最高司令官であるプーチン大統領の指令によるものだが、大統領はサハリン(樺太)や東シベリア・ザバイカル地方の各演習場を訪れて視察。この地方は中国東北部と鉄道でつながる国境の要衝であるだけでなく、現在中央軍管区(司令部エカテリンブルク)の部隊も増派されている。演習では、サハリン(樺太)への上陸作戦、オホーツク海での対潜水艦作戦などの訓練を実施した。

 プーチン大統領と中国の習近平国家主席は3月の首脳会談で、中露の「蜜月関係」を強くアピールし、米国のミサイル防衛(MD)などへの共同対処を確認した経緯がある。

 中ロは米国への対立軸を形成する上で相互に政治利用している側面があるのは事実だが、利害の一致を見ているわけでは決してない。

 元産経新聞北京特派員だった野口東秀氏も「ロシアは多目標同時交戦能力を持つ超長距離地対空ミサイルS400を極東に配備し、さらにミストラル級強襲揚陸艦も配備する計画だが、これらは北朝鮮とか北方領土とかの問題と関係がない。あれは完全な対中警戒から出てきたものだ」ときっぱり断定する。

 ロシアとすれば中国とも大人の関係を保ちつつも、最新兵器を中国に売るようなことは決してしない。

 1989年の中ソ和解以後、中国はソ連との軍事交流を復活させ、翌90年に旧ソ連製戦闘機スホイ27の導入を決定している。だが近年、ロシアは中国の殲11がスホイ27の知的所有権を完全盗用しているとして不満を表している。さらに潜水艦やミサイル、戦車などに至るまでロシアの技術の盗用疑惑は後を絶たない。

 ロシアには「タタールのくびき」という格言にも似た言葉がある。元に屈した時代の教訓であり、東に国土を広めた理由でもある。天安門事件以来、軍事費の二ケタ増を続ける中国の軍事強国化には「パブロフの犬」ならぬ本能的に反応しているのだ。

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