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どうなる集団的自衛権 見えてきた容認へのシナリオ

公明、会期末目途に賛成へ

 集団的自衛権の行使を憲法解釈変更で容認するか否か、その論議が国会で盛り上がっている。安倍晋三首相は積極的に議論を行い、それに賛同する野党も出てきた。しかし、連立を組む肝心の公明党の立場がはっきりしない。だが、同党幹部の発言は微妙に変化しており、容認やむなしに傾いている。同党としては今通常国会を延長して引き延ばし戦術を図りながらも、最終的には会期内で容認することになろう。また、安倍首相はその先に憲法改正論議の盛り上げを念頭に置き、内閣改造・党役員人事に踏み切り党基盤を固め直す意向である。


 集団的自衛権行使問題に関する国会での論戦の縮図は、憲法審査会での議論と言える。2月26日に開催された参院での憲法審査会では、自民、みんなの党、日本維新の会が行使容認のための憲法解釈の変更に理解を示した。これに対して、民主、共産、結い、社民の野党4党は反対を表明した。

 ところが、連立与党である公明党の西田実仁氏は集団的自衛権の是非については言及を避け、憲法に新たな条項を加える形で改正を目指す「加憲」の必要性などを唱えた。安全保障を確固としたものにするために憲法改正は不可欠だが、旧来の「加憲」を現時点で唱えることは、憲法解釈の見直しで当面は対処しようとする集団的自衛権の行使容認には消極的と見られても仕方があるまい。

 支持団体の創価学会の中でも婦人部に強い、一国中心の絶対平和至上主義が影響していることは間違いなく、それを克服しない限り公明党が賛成を明確にすることは難しいだろう。ただ、それと同じくらい公明党および創価学会にとって重要なのが“絶対与党主義”なのである。「組織を守り、発展させる」という現世利益を享受するためには、きれいごとばかり言っていられない。どちらをとるかと言われれば、やはり「与党でいたい」という思いが優先する。

 「かつての有事法制のときも海外への自衛隊派遣のときも、結局は、自民党の政策についてきた」(自民党関係者)という〝実績〟からしても、今回もまた変心する可能性は否定できない。客観情勢を見ると、野党のみんなの党や維新の会が集団的自衛権容認のために憲法解釈を変更することを認めており、両党は他の政策でも自民と共通点が多いため、安倍首相は公明抜きで国会運営ができる環境ができつつあるのだ。「外堀が埋められつつある。いつまでも理想主義を叫んでだけいては、政権から外されることになりかねない」(同)のである。

 そのためだろう。公明党幹部の発言が徐々に軟化している。

 第一に、安倍政権内に入っている太田昭宏国土交通大臣だ。

 昨年11月5日の参院国土交通委員会で太田氏は「集団的自衛権の行使は憲法上許されないというのが長年の間踏み固められた憲法解釈だ。憲法明文の変更なくして集団的自衛権の行使は認められないという答弁が確定している状況である」と答弁していた。それが、今年の2月12日の衆院予算委員会では、集団的自衛権行使について「政府見解として認められないことは事実」としながらも、「すべて首相が答えていることに同意している」「首相の発言に違和感がない」と答弁したのである。ダメだと言っていたのが、「同意している」「違和感がない」と発言したことは、首相が目指す閣議決定をする際には賛成するとの意思表示をしたのと同様の姿勢に転換したことを意味するのである。それは公明党の連立維持への強い意欲の表れでもある。

 次に、井上義久公明党幹事長だ。

 井上幹事長は「隙間を広げてその間に入り込もうとする人たちが居て難しい」と語り、自民・公明の連立の隙間に入って、連立政権に入り込もうとうかがうみんなの党の渡辺喜美代表や日本維新の会の石原慎太郎共同代表をけん制。さらに、集団的自衛権容認への憲法解釈の変更について「私どもは真っ正面からこれを否定しているわけではない」と語ったのである。井上幹事長は続けて「公明党が結党された当時は自衛隊は憲法違反であり、日米安保は破棄すべきだという政策だった。しかし、その後の社会状況の変化に対応して3年ぐらいかけて『自衛隊を容認する』、『日米安保を容認する』と安全保障政策を変えてきた。安倍首相が言うように安全保障環境が大きく変わっていることは我々も認識している。今、本当に何が必要かということを真っ正面から向き合って、しっかりと集団的自衛権について議論をしていきたい」と述べたのである。

 すなわち、かつての自衛隊や日米安保を認めたときと同様、安全保障環境が大きく変化しているのであれば、集団的自衛権行使は憲法解釈で容認することもあり得る可能性を強く示唆したのである。

 これに対して、創価学会との板ばさみで悩み苦しみ、“最後の砦”とも言える山口那津男代表は「太田さんは(集団的自衛権の問題を議論し4月に報告書を出す予定の)安保法制懇の考えを見守りたいという考え」であり、決して認めたわけではないと代弁。井上発言についても「容認するとは言っていない」と狼狽振りを露にした。しかし、「断固反対。解釈改憲をやるなら政権離脱だ」と言っていた山口代表も徐々に押され気味で、「政策的意見の相違だけで連立離脱は到底考えられない」と変化し、「安保法制懇の報告が出れば、最終的に政府・与党で合意をつくる努力をする」と述べるなど、あくまでも政権内で合意形成に向けた努力をする姿勢を示すようになった。

 公明党が容認に転じるのは、もはや時間の問題だ。6月22日の会期末までに結論を出すか、支持団体への説得のために会期の延長をして努力を示した後に賛成することになるだろう。漆原良夫同党国対委員長が、「一般の法案ではなく憲法解釈を変えるということだから、閣議決定の前に国民の意見を聞くのが筋だ」と批判したが、結局は国民という名の支持団体の会員たちへの説得時間が必要という趣旨であり、この容認問題は決着する見通しだと言えよう。

 政府側も体調不良を訴え、約1ヵ月入院していた小松一郎内閣法制局長官が2月26日夜の衆院予算委員会分科会で答弁をし、解釈変更について「内々に検討も議論も局内でやっている」と述べ、既に内閣法制局で検討を進めていることを明らかにした。長官不在の間、代理で答弁していた憲法解釈変更反対論者の横畠祐介次長による〝クーデター〟もなかった。今後も反対論者の多い法制局内は順調に推移していくものとみられる。

 首相にとって他の大きな課題は、党基盤を固め直すための内閣改造、党役員人事とそれを踏まえての改憲機運の盛り上げである。通常国会終了前後には断行する見通しだ。

 2006年9月から1年間務めた第1次安倍内閣では一度、内閣改造を行ったが、第2次安倍内閣では問題発言などはなく2年目に入っても同じ顔触れで継続している。しかし、党の部会では言いたいことを声高に主張する議員が目立ち始めている。衆院当選5回以上の未入閣者は43人となり彼らのガス抜きが求められているのだ。そこでどの程度の改造が予想されるのかだが、自民党幹部は「中規模程度ではないか」と話す。「小規模だとガス抜きの意味があまりない。大規模だと逆に政権の足腰を弱めることになりかねないからだ」(同)と言うのである。

 まず、首相は内閣では女性を行政改革担当相(稲田朋美)と少子化対策担当相(森まさ子)に、党では政調会長(高市早苗)と総務会長(野田聖子)に起用した。女性重視からの選択で、この方針は変わらないだろうが、全員交代の見通しだ。稲田氏は衆院当選3回でそつなくこなしたが大きな業績はなかった。福島選出の参院議員の森氏も、特定秘密保護法の成立には貢献したが、就任当時は1回生に過ぎなかった。高市、野田両氏とも、平河クラブでの記者会見をあまり開催できなかったほど発言力・発信力がなかった。今後、それに変化があるとは見られないため、二人は閣内に移ることになろう。

 続いて、総務(新藤義孝)、農林水産(林芳正)、環境(石原伸晃)、沖縄北方対策担当(山本一太)も代える可能性が大きい。何か落ち度があったわけではないが、交代要員ということだ。麻生太郎副総理やTPP担当の甘利明氏、東京オリンピック・パラリンピック担当の下村博文氏は継続性重視の立場から留任となろう。

 最大の注目点は、菅義偉官房長官と石破茂幹事長をどうするかだ。現時点で言えることは、どちらも留任する見通しである。首相の女房役としての菅官房長官の手腕は抜け目が無く評価が高い。党を取り仕切る石破幹事長も政権交代を実現した一昨年の衆院選、昨年の都議選、参院選と3連勝だ。川崎、福島、名護の各市長選で取りこぼしはあったものの2月の都知事選でも勝利し、その功績は大きい。首相としては一昨年9月に開催された総裁選の地方票でトップとなりナンバー2の要職である幹事長に起用した石破氏が、ポスト安倍として力を付け過ぎるのは要警戒だが、政権2年目に入っても「自民党の中で総理の足を引っ張るようなことはやめてくれということ。それを心してやりたい」と忠誠心を全面に出している。それをわざわざ移動させることはないと考えているだろう。

 さらに、首相が幹事長に期待しているのが、来春の統一地方選での勝利だ。

 石破幹事長は1月19日の第81回自民党大会で、来春の統一地方選挙が「政権奪還の完成」と位置付け、党組織の総力を挙げ全員当選を目指す決意を強調。また、「大量当選・大量落選の連鎖が続いた。この連鎖を何としても断ち切っていかなければならない。そのためには、ポピュリズムやスローガン中心に堕することなく、地道な党運営、党活動を実現していかねばならない」と訴えた。

 石破氏はすでに、党組織の基盤強化に本腰を入れている。「120万党員獲得運動推進要綱」を定め、現職の国会議員と各選挙区の支部長に15年末までに党員1000人を確保することを求め、未達成者から不足数1人につき2000円の罰金を徴収するとしている。そして、政権獲得前の12年9月時点で約79万だった党員数を09年の野党転落前の100万人台に早く回復したいとしており、具体的な獲得計画を3月末までに提出せよ、という“指令”を出した。

 こうしたことから首相は、石破氏を重要閣僚として閣内に取り込むよりも党を任せておく方を選択しよう。

 安倍首相はこのほかにも、TPP(環太平洋連携協定)、消費増税、エネルギー計画など重要な諸懸案に直面している。これらを主導力を発揮しつつ党を超えて一つひとつこなしていかなければならない。第1次安倍政権では数の力に任せて強行採決を連発したが、安定政権の肝(きも)は丁寧な説得作業である。

 ところが、委員会答弁で民主党などに対して倍返しの前のめり発言が目立つようになってきた。首相は自民党大会で「午(うま)年の今年、私は年男だ。大きな障害を力強く乗り越える駿馬(しゅんめ)のように、難しい課題にひるまずに挑戦する」と意気込みを語ったが、志の実現は独りよがりではなく、あくまでも相手あってのことであることを忘れてはならない。

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