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クレディ・スイス証券元部長脱税事件

八田隆氏の無罪確定

国家賠償訴訟で「倍返し」へ

 八田隆氏にとって、今年の春は格別だった。

 東京高裁が1月31日、ストックオプション(株式購入権)行使などの報酬を申告せず、所得税約1億3千万円を脱税したとして、所得税法違反罪に問われたスイス金融大手の日本法人「クレディ・スイス証券」元部長、八田隆被告(50)の控訴審判決で、「被告に過少申告の認識があったと認めるには疑問が残る」として無罪とした一審・東京地裁判決を支持し、検察側の控訴を棄却したからだ。

 また、東京高検は2月14日、「明確な上告理由が見当たらない」として上告を断念、無罪が確定した。八田氏にとって長かった冬は去り、解放の春を迎えた。クレディー・スイス証券では給与の一部として会社の株が提供されていた。そして、株式報酬を受けた300人中、約100人が申告漏れという集団申告漏れが発生していた。

 ただ会社から税務指導はなく、八田氏は会社が天引きしてくれると思っていた。要はそれだけの話だ。

 だが、八田氏一人が告発され起訴された。最も額の多かった八田氏が狙い打ちされたのだ。国税局と検察が組んだ「百罰一戒」だ。犠牲者を血祭りにあげて、人々を震え上がらせるその効果を狙ったものだ。

 国税局が告発し、検察が起訴した当初、八田氏は裁判で勝つつもりはなかった。ただ、黙っていたのでは何も変わらないとだけ思った。ブログの名前である「蟷螂の斧になろうとも」がその心境をよく表している。

 これまで検察に起訴され、無罪をか勝ち取った例は数える程しかない。確率からいうと1%以下だ。

 だが裁判の結果、奇跡の無罪判決だった。

 八田氏は「惑星直列のような、稀有の判決だった」と振り返る。

 うまい具合に偶然が重なったというのだ。

 その偶然とは「まともな裁判官に当たったこと」だと八田氏は言う。

 裁判は6分で結審、控訴審は棄却された。

 最後に担当した佐藤裁判官は「私の独り言として聞いてください」と説諭を始めた。

 「法曹の道を選んだとき、誰しもが正義を求める積もりで、選んだはずだ。私もその初心を忘れずに歩んでいきたい」

 八田氏は「普通の人にとって冤罪は昔にあったこと。また、たまたま起きる不幸な出来事といった感覚だろう。だが司法に冤罪を生む構造的問題があることに気がついた」と述懐する。

 八田氏は隠れ名義の口座に入れるとか全くなく、恣意的脱税の意図が無かったことは明らかだった。誰が見ても無理筋の事案だ。

 元衆議院議員の早川忠孝弁護士は「司法制度の設計ミスだ。検察には切れる刀が与えられているが、切り方のルールこそが必要だ」と説く。取調べの可視化や証拠全面開示などが必要だというのだ。

 八田氏は「このままでは終わった気がしない」として5億円の国家賠償訴訟を起こす意向だ。

 「反則の笛を吹いても、ペナルティーがないということではいけない。勝てば刑事訴訟対策の基金にしたい」(八田氏)と言う。

 やがて八田氏の「倍返し」の戦いが始まる。

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