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沖縄金融特区に物申す 債務者保護法制化運動に期待

日本経営者同友会会長 下地常雄

 政府は2月4日の閣議で、沖縄県名護市の金融特区での税制優遇策拡充を柱とする沖縄振興特別措置法改正案を決定した。沖縄振興策の一環として企業や人材を呼び込むのが狙いだ。  改正案では、名護市の金融特区で法人税などの税制優遇対象を金融以外の事業者にも拡大する。また、沖縄県内の離島を結ぶ飛行機の燃料にかかる航空機燃料税の軽減措置を講じるなど細かな手も打っている。  ただ山本一太沖縄北方担当相は「税制を効果的に活用し、沖縄を成長モデルにしていきたい」と強調するものの、本来のアジア全体を視野に納めた金融特区としての意義からすると物足りなさを感じるのは私だけではないだろう。


企業進出阻んでいる沖銀など地銀3行

 沖縄に進出したいと意欲を持っている本土の中小企業は少なからず存在する。だが、東京に本店を構える大手銀行が沖縄にはないため不便を強いられ、二の足を踏むことにもなっている。

 琉球銀行や沖縄銀行など沖縄の3銀行は、復帰特例措置法により、保護されている。具体的には本土の銀行が沖縄に営業拠点を構えることを禁止し、地場銀行を保護しているのだ。

 だが、過保護の子供がただわがままで、どうしようもない子供にスポイルされていくように、沖縄の地場銀行が保護政策の上に、ただ胡坐をかいて沖縄の産業育成には役立っていない実態がある。こうした悪弊を打破するためにも、沖縄の地場銀行保護政策を撤廃し、本土の銀行が自由に営業できるように風通しをよくしたらいい。それがあって初めて金融特区の意義があろうというものだ。

 わけても中小企業金融円滑化法(モラトリアム)が昨年3月に期限切れになった途端、沖縄では待ってましたとばかり、手のひらを返したような貸し剥がしが横行している現実がある。

 本来、モラトリアムは赤字を垂れ流し続け市場社会から退場すべき企業の延命に手を貸すようなものではなく、このままでは空洞化しかねない日本の製造業をジリ貧に追い込まない国家戦略でもあった。

 言わずと知れた中小企業は製造業復活の核心的担い手だ。一台2万点以上もの部品を要する自動車産業にしても、大手のトヨタやホンダ、日産などの縁の下の力持ちのような存在が中小の部品製造企業だ。この裾野なくして大企業そのものの存続も危ぶまれる所以だ。

 「金は天下の回りもの」ではないが、金は回ってこそ意味がある。その広大な裾野を形成する活力と将来性のある中小企業体に資金を回すのが金融機関の初期的役割だ。

望まれる本物のバンカー

 その金融機関が近年、新自由主義で横行し始めた金を生み出すための装置としてのみ機能し始めていることは警戒を要する。儲けるなといっているわけではない。分を超えた大義なき利益至上主義は、資本主義社会のガンになるリスクが存在する。

 とりわけ強調し過ぎても決してし過ぎることがないのが、下町の町工場に象徴される日本の中小企業群を一度、潰してしまえば二度と復活の日を見ることはない現実問題だ。

 1985年のプラザ合意後、円高が進行したことで、わが国の製造業は海外に拠点を移す潮流が出来上がり、製造業の空洞化が進行してきた。現在、国内の製造業が極限状況に追い込まれるかどうかの瀬戸際に立つ中、生き残りをかけた決定的な役割を担うのが金融機関だ。

 その意味では、現在の日本に必要な金融機関というのは、明治の復興をになった渋沢栄一氏の第一銀行や戦後の復興に大きく寄与した日本興業銀行のような銀行だろう。

 いわば、銀行の金庫が札束で埋まることに喜びを見出すような近視眼的な銀行屋でなく、国家そのものの富を増やしていくため産業を興し育成する本物のバンカーが存在する銀行こそが必要だ。

 こうした銀行に期待されるのは、ただ単に資金の手当てというだけでなく、様々な製造業や資源、人を横に結びつける作業だ。特に中高年の技術力と経験、全体を見渡す視力の確かさといった成熟した人間力と若者の行動力を結びつける媒介者としての機能だ。

 こういった視点から「中小企業など金融債務者保護推進議員連盟」(原口一博会長)が銀行から資金を借りた債務者保護のための法律を作ろうとしている運動に期待したい。

 同議員連盟は、①中小企業、個人の過剰債務の抜本的解消、②東日本大震災被災者の二重ローンの解消、③整理回収機構の解散、④連帯保証人に対する取り立ての規制、⑤金融紛争解決機構の創設、⑥金融サービサー法の改正、⑦民訴法228条4項(印鑑などによる文書成立真正の推定)の廃止─など7項目を掲げ金融債務者保護に取り組んでいる。

 わけても同議員連盟顧問の亀井静香衆議院議員は金融担当大臣に就任時、「金融債務者の視点に立った金融行政」へと金融庁の監督行政を劇的に転換させたことで名を馳せた現在の大塩平八郎だ。

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