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オバマ米大統領のアジア歴訪

対中戦略で布石 南シナ海にらみ米比新軍事協定

 オバマ米大統領の4月23日からの日本、韓国、マレーシア、フィリピン歴訪は、アジア太平洋を米国と2分したいとする中国の野望を認めなかった。米国は、日本、韓国および東南アジア諸国との連携を強化するリバランス(再均衡)戦略を展開することで中国の不当な海洋進出に歯止めをかける方針を示すと同時に、中国に対しては「新たな関係」の構築を求めた。一方、中国はこれに強く反発した。アジア太平洋地域は不安定さを増しており、わが国の防衛政策の再検討と強化が求められる。


 4月24日行われた日米首脳会談で、わが国にとって最大の成果は、オバマ大統領が沖縄県石垣市の尖閣諸島を日米安保条約第5条の適用対象となると明言したことだ。これまで米政府高官は何度か「安保適用」を言明したことがあったが、大統領による発言は初めてで、安倍晋三首相が主導する積極的平和主義外交の大きな得点と言える。

 日本としては米国トップによる「防衛義務」という信用保証の裏書が得られたとして同盟関係の一層の強化を図りたい意向で、米国が「歓迎し、支持」する集団的自衛権行使の容認に向けてさらに歩を進めなければなるまい。

 一方、尖閣諸島を自国の領土であると不当に主張し、わが国の領海・領空侵犯を繰り返す中国がオバマ大統領の発言に不満を示し、「誰が何と言おうと自分たちの領土だ」と反発した。中国の習近平国家主席としては、古い大国である米国と新しい大国である中国の2国が、双方の「核心的利益」を尊重しつつ、軍事、経済両面でアジア太平洋地域を治めるとの「新型大国関係」(G2)の構築に期待していた。この考えは、習国家主席が昨年6月、訪米しオバマ大統領と会談した際に持ちかけた。大統領は即答せず、その後の米安全保障会議などで対アジア戦略を策定する上で検討されてきた。

 ところが、スーザン・ライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が昨年11月、講演でこの「G2」に言及し、米中両国の「新型大国関係」構築への意欲を明らかにした。オバマ大統領来日前の4月にもライス氏は、「アメリカも中国との新型大国関係を機能させることを目指す」と述べた。バイデン副大統領も昨年12月、日本に次いで中国を訪問した際、中国が一方的に設定した防空識別圏の撤回を求めなかっただけでなく、この「新型大国関係」についてライス氏と同様の発言をした。

 このため、オバマ大統領は今回のアジア歴訪で「G2」に触れるのではないかとの観測すら流れた。だが、24日の日米首脳会談では日米同盟の重要性を謳い、「G2」論ではなく新しい別の関係の構築を求めたのである。

 安倍首相がまず、「価値観と戦略的利益を共有する日米の同盟関係は、アジア太平洋地域の平和と繁栄の礎としてかけがえのないものだ」と発言。これに対して大統領は「日米の強い絆をさらに進展できると確信している」と返答。共同記者会見では、中国について首相が「法の支配に基づいて、自由で開かれたアジア太平洋地域を発展させ、そこに中国を関与させていくため連携していくことで合意した。力による現状変更の動きに対しては明確に反対していくことで一致した」と述べたのを受けて大統領が、「尖閣諸島」と2回名指しをし、「日本の施政下にある領土は、日米安保条約第5条の適用対象となる」と明言したのである。

 これは、中国が力ずくで尖閣諸島を奪取しようとしても米軍がそれを許さないとの姿勢を明確化したもので、最強の対中けん制発言となった。その上で、オバマ氏は「事態がエスカレートし続けるのは正しくない。中国は世界にとっての重要な国だ。国際的な秩序と法を守る責任がある」と語ったのだ。

 すなわち、オバマ大統領の対中戦略は、習国家主席の描いた「新型大国関係」ではなかった。中国は「重要な国」ではあるが、現状を力で変更するような法の無視はせず、人権問題も重視する責任ある国であるべきだとし、そうした中国と「新たなタイプの関係」を築くというものだった。「新型大国関係」ではなく「新たなタイプの関係」という明確な線引きを行ったのである。

 オバマ大統領は訪日後、当初は素通りするはずだった韓国を訪れた。韓国側の強い働きかけで訪問することになったのだが、このこともオバマ氏の日韓を重視する姿勢を印象づけた。日韓関係がギクシャクする中、オバマ氏は自らの仲介で実現した3月のオランダ・ハーグでの日米韓首脳会談を契機に、米国と同盟国である日、韓が関係を修復し北朝鮮に共同で対処してもらいたいとの強い期待感を持っている。北朝鮮はオバマ氏のアジア歴訪に合わせて4回目の核実験の構えをみせ、先行きは予断を許さない情勢だ。

 ただ、韓国では、4月16日に起きた多数の修学旅行生らを乗せた客船「セウォル号」沈没事故への対応で大わらわ。米韓首脳会談も冒頭、沈没の犠牲者や家族に哀悼の祈りを捧げることからスタートした。両首脳は、最大のテーマである北朝鮮の「新たな形態の核実験」の可能性に共同で対処することを確認。会談後の記者会見でオバマ氏は、北朝鮮が核実験や長距離弾道ミサイル発射など追加の武力挑発をした場合の制裁が、より大きな代価を払わせ、影響力のあるものになるとしつつ「重要なのは、日米韓の団結と結束だ」と語った。

 日本に関しては、慰安婦問題を取り上げ「ひどい人権侵害だ」と朴槿恵大統領の立場に立ちながらも、「日韓両国は米国の重要な同盟国だ。過去を振り返りながら未来に向かうべきだ」とも語り、両国の接着剤としての役割を果たしたのである。

 続いて、1966年のジョンソン大統領以来、48年ぶりに東南アジアの一国マレーシアを訪問したのも画期的だ。米国に批判的なマハティール政権が22年続き、90年代後半に生じたアジア通貨危機や2001年の米同時テロへの対応をめぐり良好な関係を築けなかった。ところが、この後のフィリピン訪問とも合わせ、中国の南シナ海への不当かつ不法な海洋進出をにらみ、アジア太平洋地域におけるリバランス政策の柱の一つとしての東南アジア重視を明確にしたのだ。

 マレーシアのナジブ首相との会談では、海洋安全保障を含む包括的な協力関係を強化することで合意。具体的には、東南アジア諸国(ASEAN)と中国が策定を進める、紛争回避のための「行動規範」の完全履行が不可欠との考えで一致した。ナジブ首相は「アジアへのリバランス政策は地域の平和と安定と繁栄に貢献する」と歓迎した。

 南シナ海で中国との領有権争いを激しく展開し、中国の圧力を最も受けているフィリピンへの訪問は、米国とフィリピンの同盟関係が「新たな段階」に入ったことを明確に示した。これは東シナ海で中国との緊張が続いている日本にとっても決して他人事ではない。

 オバマ大統領とアキノ大統領が4月28日、マニラのマカラニアン宮殿(大統領府)で会談する直前、マニラ首都圏の国軍本部で、フィリピンのガズミン国防相とゴールドバーグ米大使が新軍事協定に調印したのである。これは20年ぶりに安全保障面での協力関係が復活したことを意味する。

 米ソ冷戦時代に、ソ連のアジア太平洋進出に対抗し、米軍はアジア最大の基地であったフィリピンのスービック海軍基地とクラーク空軍基地を使用。沖縄の米軍基地とともにアジア太平洋地域の軍事拠点として活用してきた。冷戦後の1992年、米軍が全面撤退したことで南シナ海に「力の空白」が生じ、そこに中国がつけ込んで実効支配を拡大していった。

 一方、フィリピンの軍事力は潜水艦も戦闘機も保有していないほど脆弱で、中国の不当な進出に対抗できないのが現状19 新政界往来新政界往来18ある日、韓が関係を修復し北朝鮮に共同で対処してもらいたいとの強い期待感を持っている。北朝鮮はオバマ氏のアジア歴訪に合わせて4回目の核実験の構えをみせ、先行きは予断を許さない情勢だ。ただ、韓国では、4月16日に起きた多数の修学旅行生らを乗せた客船「セウォル号」沈没事故への対応で大わらわ。米韓首脳会談も冒頭、沈没の犠牲者や家族に哀悼の祈りを捧げることからスタートした。両首脳は、最大のテーマである北朝鮮の「新たな形態の核実験」の可能性に共同で対処することを確認。会談後の記者会見でオバマ氏は、北朝鮮が核実験や長距離弾道ミサイル発射など追加の武力挑発をした場合の制裁が、より大きな代価を払わせ、影響力のあるものになるとしつつ「重要なのは、日米韓の団結と結束だ」と語った。日本に関しては、慰安婦問題を取り上げ「ひどい人権侵害だ」と朴槿恵大統領の立場に立ちながらも、「日韓両国は米国の重要な同盟国だ。過去を振り返りながら未来に向かうべきだ」とも語り、両国の接着剤としての役割を果たしたのでだ。そのため、米国とフィリピン両国は2000年から米軍の一時滞在を認める「訪問米軍の地位協定」に基づいて合同軍事演習を行うとともに、02年からは対テロ戦支援という名目で南部ミンダナオ島に米部隊が巡回駐留してきた。ただ中国の進出が本格化し、昨年12月には、中国の空母を監視していた米艦に中国艦が衝突寸前まで接近する事態が起きた。

 今回の新軍事協定は、フィリピン国内基地の共同使用など米軍の事実上の駐留を認める内容だ。フィリピン憲法が外国軍の駐留を禁止しているため米軍は常駐ではなくローテーション形式で駐留するものだが、「基地内で米軍が一時的な施設を建設することも可能」「両国軍の合同演習を強化」「スービック地区も検討」などを含んでいる。スービック基地の使用の再開が可能となれば、中国とフィリピンがにらみ合うスカボロー礁(中沙諸島)までは約200㌔㍍となる。2013年9月、中国が約30個のコンクリートブロックを設置していることが明らかになり緊急対策が求められている中での米軍の配置となれば、その効力は極めて大きい。

 協定調印後、ガズミン国防相は「協定により、われわれが直面する防衛に関する問題への対応が強化される」と強調したが、それだけフィリピンとしては米国への期待が強いのだ。米国としては、日本にイージス艦を2隻追加配備し、オーストラリア北部のダーウィンに最大2500人の海兵隊を、シンガポールに最新鋭の沿海域戦闘艦をローテーション形式で配備するが、新たにフィリピンに部隊展開拠点を確保したことでより幅広い対中戦略が策定可能となるのだ。

 これについて安全保障問題に詳しい自民党中堅幹部は「1997年以来となる日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直し作業をし年内に新指針をまとめる予定だが、現行の朝鮮半島有事を念頭に置いたものから海洋進出に積極的な中国の動向に照準を当てたものに変える見通しで、わが国の役割の拡大が求められている」と指摘した。

 そうであるなら、米国が「歓迎し、支持」している集団的自衛権の行使容認に向けて作業を加速しなければならない。安倍首相は5月の大型連休後にも有識者による「安保法制懇」の報告書を受けて憲法解釈変更による限定的な容認論で与党内の合意形成を急ぎ、今夏には閣議決定にこぎつけ、秋の臨時国会で関連法案を成立させるべきだ。また、沖縄の米軍普天間基地の辺野古移転をし、海兵隊のグアム移転を進めることで米軍の安定的かつ持続可能な駐留を実現しなければならない。さらに、日米同盟でカバーできない「グレーゾーン事態」への対応も不可欠だ。武力攻撃と判断できない偽装漁民が尖閣諸島を占拠するなどした場合、米軍も自衛隊も防衛出動できない。

 こうした不備を法により一刻も早く整備しなければならない。

 オバマ来日で大筋合意できなかった環太平洋経済連携協定(TPP)の進展も、強固な日米同盟関係づくりに直結する。アジア太平洋地域12カ国が日米主導で新たな貿易・投資ルールをつくることは、経済発展中の中国へのけん制となることも確かだ。安倍政権はそのことも踏まえた上で「国益最重視」の決着に向けて尽力しなければならない。

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