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“戒厳令”を敷いた中国共産党

権力集中図る習近平氏、大臣級高官20人を訴追

 中国で習近平総書記への権力集中が進んでいる。これまで国家主席が軍事委員会主席を兼ねるのは慣例だったが、他に新設された国家安全委員会(NSA)主席、改革小組組長も兼ねている。さらに、これまで20年近く首相が兼任してきた財政経済指導グループ組長も習氏が兼ねていることが判明している。

 従来、鄧小平以後の中国では、カリスマ性を持ちすぎた毛沢東時代の反省から集団指導体制を取ってきたのに、今では打って変わって権力の一極集中が起きている。

 最大の原因は、共産党政権が大きな困難に突き当たっていることだ。

 このため習政権は、政策の大転換を図ろうとしている。

 昨年11月、共産党の重要会議である3中全会が開催され、中長期の施政方針を決めた。この中で中国は経済改革だけでなく、統治体制の改革、民生改革、軍改革まで全方位でこれまでにない大胆な改革を打ち出している。

 第2は汚職に対する厳しい追及だ。これまでも大臣級の大物が汚職で捕まった例はあるが、二年足らずの間に捕まった大臣級の高官の数は20人を超える。従来、ありえなかった共産党トップの常務委員OBまで拘束された。

 第3は政府機関などの言論の厳しい取締りだ。従来は黙認されていた主張や運動も厳しくとがめられ、人権派弁護士の逮捕など民間のオピニオンリーダーも当局に拘束されている。

 これらの変化の背景には、共産党政権がかつてない窮地に立たされているという強い危機感がある。まず、深刻なのが経済だ。中国はリーマンショック後の過去5年、借金をして投資を増やす経済運営をしてきた。投資が伸びている間は景気は絶好調だったが、このやり方が不動産バブルなど、様々なひずみを生み行き詰まってしまった。

 改革開放以後、共産党は共産主義を棚に祭り上げ、経済成長を表看板にしてきた。食べられるようになる。いい家に住み、車も買える。目に見える形で国民に経済成長のありがたみを実感させてきた。何とかして、このやり方を転換しないといけない。

 信じられない規模の汚職が党の幹部クラスを含め、いたるところで発生した。「絶対権力は絶対腐敗する」との箴言通り、共産党独裁政権は頭から腐っていった。みな共産党同僚で権力者だが、責任を追及しなければ国民に申し開きできない。

 膨大な汚職数は例外というには数が大きすぎる。体制に問題があることは明白だ。

 経済も大きくなり、社会も複雑化する中で、共産党がすべて上から下へ単線的に支配する従来のやり方はここでも行き詰りを見せている。

 習主席は経済にしろ国際環境にしろ、状況は一層厳しくなると読んでいる。そこで高まる社会の不満や動揺を抑えるため、直ちに非常事態を宣言すると国民が浮足立ってしまう。表立っては言わないが、厳しい言論統制は現実的には戒厳令を敷いたに等しい。

 3中全会で習主席は、市場メカニズムを活かした新しい成長モデルをめざすための経済改革、司法や立法が権力をチェックする政治改革などを多数盛り込んだ。だが、今の共産党政権にできっこない言葉遊びに過ぎない。

 前首相だった温家宝氏も、しばしばこうした言動をしたが、あくまで西側世界に向けた外交辞令でしかなかった。評論家の石平氏が温家宝氏を「言うだけ番長」と切って捨てたのと同じだ。

 ただ経済だけでなく、諜報機関も司法、公安、防衛、外交など権力を一手に集中させた強いリーダーは、難局を切り抜けるには強いリーダーが必要不可欠という危機感が生んだことは間違いがない。しかし、一方で権力の集中は国内に多くの敵をも生み、統治リスクは高まる懸念がある。

 とりわけ強権を握った習主席に問われるのは実績だ。その実績とは「台湾併合」であり、「太平洋を米中で分割統治し、ユーラシア大陸をロシアと分割統治する」ことだ。

 最大のリスクは国内情勢が厳しい時、国民の目をわざと海外にそらさせるため、軍事緊張を高めようとすることだ。その政治的権力は習主席の手にある。

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