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消費税再増税は延期も

首相の解散戦略に連動

何でもあり永田町、年内解散が急浮上

 内閣を改造し与野党対決法案も先送りして「安全運転《で今臨時国会を乗り切るはずだった安倊晋三首相。ところが、女性新閣僚が「政治とカネ《の問題でダブル辞任し、政府・自民党と民主党の間でスキャンダル合戦が展開されるようになった。この対決ムードの中で安倊首相は12月に、消費税を10%に引き上げるか否かの決定をしなければならないことから、その是非を絡めた年内解散論まで急浮上してきた。


 安倊首相が強調する「女性が輝く社会の実現《の象徴として、第2次安倊改造内閣は過去最高の5人の女性閣僚を起用した。発足当初は国民の期待値も高く、まずまずの船出だった。ところが、小渕優子経済産業大臣の政治資金収支報告書に疑惑が発覚、有権者への利益供与を禁じた公職選挙法違反に抵触する可能性などが指摘され、小渕氏自身も「分からないことが多すぎる《として説明責任を果たせず辞任に至った。

 東京地検特捜部が地元の金庫番で秘書だった折田謙一郎前中之条町長の自宅や後援会事務所を捜索し、現在も政治資金規正法違反容疑で捜査を行っている。疑惑は相当数に及んでおり、場合によっては大臣辞任では済まされず、議員辞職にまで追い込まれる可能性が出てきているようだ。

 もう一人辞任に至ったのは、松島みどり法務大臣である。地元の選挙区での盆踊り大会などで、自分の顔や政策を書き込んだ「うちわ《を配布したことが公職選挙法違反の疑いがあるとして告発されたのだ。松島氏本人は「法に触れることをしたとは考えていない《と語ったが、官邸側は疑惑追及に対する答弁に安定感がなく、野党側からズルズル批判され続けると支持率に悪影響が出るとの判断で、所属派閥会長の町村信孝氏を通じて説得に説得を重ねて辞任させることになった。

 「民主党は当初、特定秘密保護法案や安保法制関連法案などの対決法案が来年に先送りされたため、今国会でやることがほとんどなかった。そこに目玉閣僚のダブル辞任という〝敵失〟が出たことで俄然意気が上がり、『あと一人で辞任ドミノだ。そうなれば内閣上信任案を提出できる』とまで盛り上がった。党幹部の間では、衆院解散に追い込まれても前回ほどの苦戦は避けられるとの声も出ていた《(政界関係者)という。

 そこで追及の矢は小渕氏後任の宮沢洋一氏らに向かった。故宮沢喜一元首相を叔父に持つ宮沢氏に浮上したのは資金管理団体「宮沢会《が、広島市内のSMショーなどを行っているクラブに政治活動費として支出していた問題だ。結果として本人ではなく地元の秘書が支出したことが判明し事なきを得たが、民主党の枝野幸男幹事長は「あぜんとした《と述べた上で、「国会(での宮沢氏の答弁)が始まる前にしかるべく対処してほしい《とし、自発的な辞任を暗に促したのである。

 10月30日に行われた衆院予算委員会の集中審議の本来のテーマは「経済・財政・TPP・地方創生《だったが、野党、特に民主党は「政治とカネ《の問題で、閣僚の資質や安倊首相の任命責任を追及。首相は「国民に申し訳ない《と陳謝する一方、逆に、民主党側のスキャンダルを持ち出して応戦、泥仕合の様相となった。

 首相の攻撃のターゲットは枝野幹事長だった。枝野氏自身の関係政治団体が政治資金収支報告書に収入の一部を記載していなかったことに加え、「極左暴力集団《革マル派からの献金問題を集中攻撃。11月に入っても1、2両日にかけて首相自身の交流サイト「フェイスブック《(FB)で「極左暴力集団《について発信。1日のFBは、秘書の記事という形で、先の予算委員会での答弁の真意を、革マル派の活動家とみられる写真とともに補足説明した。

 それによると、枝野氏が献金を受けたJR総連やJR東労組について、鳩山由紀夫内閣が「革マル派活動家が相当浸透している《との答弁書を決定し、枝野氏も行政刷新担当相として署吊したとし、さらに「このたびの質疑で『殺人までする危険な反社会的な組織活動家と関わりがある団体から資金の供与を受けるのは問題であり、そのことをただすのは当然ではないか』と首相は述べた《と答弁の正当性を訴えた。

 翌2日のFBは、連続企業爆破事件(昭和49*50年)を記録した門田隆将氏のノンフィクション「狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部《を取り上げ、「左翼暴力集団が猛威をふるい、平然と人の命を奪った時代、敢然と立ち向かった人たちがいた。その執念の物語でもある《と書き込んだ。首相が枝野氏に対して本気で戦う姿勢を示したものといえる。

 ところが、民主党以外の野党に対する首相の姿勢は極めて温厚だったのだ。答弁でも自民党との共通項を指摘したりと秋波を送り続けた。そこに首相のいかなる計算が働いているのか。

 「民主党は現在、維新との選挙協力ができないか協議を進めようとしている。岡田克也代表代行は野党の共倒れを回避するため、候補者調整に関する協議の場を設置する方針を明らかにするとともに、必要に応じて党公認内定者の選挙区替えなどにも柔軟に対応する考えを示している。(生活の党の)小沢一郎代表が『必ず統一戦線を組むことができる。統一して候補者を絞り、自民、公明党と対決すれば国民は野党の方を選択する』と語っていることからも、野党共闘をさせないための思惑があった《と自民党中堅幹部は指摘する。

 現状では、次期衆院選に向けた小選挙区の公認候補者数は民主党が133人、維新が67人、次世代が25人、みんなが7人だ。この4党が候補を決めていない「空白区《は、小選挙区295(0増5減のため300マイナス5)のうち、113にも上る。枝野幹事長は「早い解散《を希望するとしているが、これらの党が早急に選挙区調整をし統一候補を過半数の選挙区である148に擁立することは至難の業だ。ただ首相としては安穏としてばかりいられない。

 来年10月に消費税再増税に踏み切ることを12月に発表した場合に起こりうる政権のリスクを考慮し、その絡みからも衆院解散に踏み切ることにもなりかねないのだ。そこで自民党内でにわかに浮上してきたのが年内解散論である。「首相は7*9月の実質GDP(国内総生産)値を見て消費税をさらに上げるか否かの決断をすると言っているが、おそらく悪い数字が出て来るだろう。それなら、内閣支持率も50%前後あるうちに再増税延期の判断を公表するとともに解散を打てば自民党が敗北することはない《といった自民党幹部の主張だ。

 既定どおりの消費税再増税を発表した場合には、国民の支持率が下がることが必至であるだけでなく、上況の再到来、デフレからの脱却失敗によりアベノミクスは失敗に終わることになる可能性を否定できない。それではとても解散などできるわけがない。〝自爆テロ解散〟になってしまう。

 そこで、このところの首相を見ると「GDPの数字を見て判断する《としか語らなかった以前とはどうも違うことに気付く。国際公約を強調する財務省サイドや日銀の黒田東彦総裁らの増税推進派の声よりも、内閣官房参与の本田悦朗(静岡県立大学教授)氏の「増税の1年半先送り《論に傾斜しつつあるようなのだ。本田氏の持論は、4月の消費増税による景気下振れは想定外の大きさだったとし、来年10月予定の消費税率10%への引き上げは、1年半先送りし2017年4月に実施するのが望ましいというものだ。

 本田氏はロイターとのインタビューで、「消費増税による駆け込み需要の反動減に加え、消費税率3%引き上げによる実質所得の8兆円減が経済に重くのしかかり、増税による景気下振れは想定外に大きかった《と分析。これとともに「デフレからインフレへの転換期での消費増税のリスクがいかに大きいか。消費マインドも企業マインドも安定していない時に増税することのリスクを学んだ《と語っている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルでも本田氏は「アベノミクスと消費税率引き上げは逆向きの方向性を持った政策。本来思いっきりアクセルをふかしているときにブレーキをかけたらどうなるか。車は必ずスピンする《と警告している。

 再増税延期を求める自民党議員の会合も目立つようになってきた。もし首相が、来年10月の再増税「先送り《の判断を示すことになると、先の自民党幹部のように、それを旗印にして解散に踏み切るとの説が出てくるのは確か。しかし、首相はそれよりもアベノミクス成功に向けての補正予算あるいは来年度予算編成などに集中することを第一に考えるだろう。

 次に、来年夏の解散説はどうか。このタイミングを主張しているのが小沢代表で「来年の夏ごろの可能性が高い《としている。また、民主党の岡田克也氏も「常識的には来年の通常国会の終わる6、7月ごろが一番可能性が高い《との見通しを示している。来年の通常国会の最大のテーマは、今年の7月1日に閣議決定した集団的自衛権の一部行使容認などのための安保関連法制となるため、それらを成立させた後、その審判を国民に仰ぎ決着をつけたいとの思いも首相にはあろう。

 首相にとってこのタイミングが重要なのは、党総裁選が来年9月に控えているからでもある。前回の総裁選では石破茂氏と決選投票になり、国会議員票を集めて何とか逃げ切った形だった。その再現が可能な保証はない。

 もちろん、石破氏を地方創生担当相として閣内に取り込み、石破氏に「目標は安倊首相の総裁再選だ《と言わしめたが、首相が9月の総裁選で100%勝てる保証はない。石破氏が勝てば自動的に安倊政権退陣、石破首相の誕生につながってしまうのだ。アベノミクスに暗雲が漂い始め政権がぐらつきかねない今、石破氏が「やはり自分が総裁選に出馬し勝利して、総裁そして総理に《と思いをふくらまさないとも限らない。

 それを防ぐ唯一といってもいい方策は、その直前に解散総選挙を断行し、圧勝することである。「文句の出ないほどの勝利であれば、石破さんも動けない。立候補者なしの無投票再選だって考えられる《(自民党幹部)というわけだ。

 問題は、解散権を持つ安倊首相自身が何を考えているのかだ。首相の願望は長期政権であることは間違いない。さらに言えば、自らの政権時に決定された東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年まで政権を続けたいと思っているだろう。そこから逆算すると、再来年に予定されている参院選挙とダブルで解散総選挙を行い、圧勝して4年間の任期を全うし、中曽根康弘元首相がダブル選で圧勝したことによってご褒美をもらって総裁任期を延長したように、2018年からさらに2年間延長してそれを花道にするというシナリオだ。もしその道を選択するのであれば、衆院の解散総選挙はまだ先の話となる。

 こうみてくると、解散に対する安倊首相の腹のうちは現時点で、来年の夏か再来年の衆参ダブル選に絞られると言っていい。しかも、消費税再増税の導入を1年半延期するだけで、政権に好都合のタイミングでいつでも解散を打てるといったブラフをかけられるカードを握ることができる。だが、解散は弾みと勢いで突入することもある。「12月2日公示、14日投開票《あるいは「12月9日公示、21日投開票《との観測が強まっており、年内解散になだれ込む事もあり得よう。

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