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タイ軍政、相続税導入で

タクシン氏の票田取込み

 王室と軍、政治家の3者が相互に牽制し合うパリティの関係で堅固な安定社会を構築してきたタイでは今年5月22日に、軍事クーデターが決行されインラック政権が崩壊した。軍政が制定した暫定憲法では、評議会議長の権限が立法、司法、行政の三権に及ぶと明記されている。

 クーデターでタクシン元首相派政権を打倒したプラユット陸軍司令官が発足させたタイの新政権は、プラユット氏本人が暫定首相に就任し閣僚33人のうち約3分の1を軍・警察関係者が占め、軍政色が鮮明となった。軍部が政治の舞台に出てきたのは、2008年のクーデターでタクシン派を封印できなかった〝失敗の轍〟を踏まないためだ。

 プラユット暫定首相は、立法議会で所信表明演説を行い、汚職対策など改革を推進させる意向を表明した。さらに「王制はタイの立憲君主制における最も重要な構成要素《と述べ、「王制護持《のため、王制に「悪意《を抱く者たちには法的措置も辞さないと強調した。軍部が暫定政権の表に立ち、「王制護持《の旗を振るのは歴史の教訓によるところが大きい。

 8年前のクーデターでは、タクシン首相を政界から追い落とすことには成功したものの、権限を早々と委譲したことでタクシン派の政治的影響力と勢いを止めることはできなかった。その〝失敗の轍〟を踏むようだと、王制下の民主主義というタイ政治の伝統が崩れかねないとの危機感がある。

 そのため今度こそ、タクシン派の復権を許さないような、選挙システムを含めた政治制度やタクシン派の政治基盤であるタイ北部や東北部の農村の囲い込みなど、あらゆる手立てを駆使してタイの政治風土を変えてしまうのが狙いだ。

 タクシン氏が取り組んだのは100バーツ(約310円)で医療を受けられる低額医療制度や借入金の返済繰り延べ、村落基金の創設といったものだ。また一村一品運動も導入し、地方経済に活力を吹き込んだ。ともあれ、東北部や北部の貧しい農家向けの政策支援というガソリンを入れ、その人気で選挙に圧勝し続けという政治マシンを完成させたのだ。

 軍政は、タクシン氏の政治マシンそのものの破壊に照準を合わせている。その一つがプラユット首相が公約した相続税と固定資産税の策定だ。

 我が国では、「土地は3代で消滅する《とよく言われる。資産家であっても3代相続すると、2回相続税を払わなくてはいけないため、土地を手放さなくてはいけなくなる、という意味で使われるものだ。

 その点、タイには相続税がないため、資産相続するために手持ちの土地を売却する必要性がない。さらに固定資産税もないため、土地をいくら放っておいても税金を紊める必要がない。これでは上動産も動産も好循環をもらたす契機にはならない。

 こうした資産家優遇の税システムが今日まで続いてきたのは、国会議員や高官の多くが庶民とかけ離れた富裕層だったからだ。

 プラユット首相は暫定国会の議員の過半数に、身内の軍人や警官を充てており、軍政パワーで押し切る構えだ。

 プラユット首相が遠望しているのは、タクシン派をバックアップしている農村住民の取り込みだ。それに成功すれば、タクシン氏の票田を崩せると読み込んでのことだ。

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