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インタビュー 第4の矢は司法改革でリーガル戦闘力を磨け

参議院議員・弁護士 丸山和也氏に聞く

 昨年6月、自民党司法制度調査会会長として丸山和也氏は将来のあるべき司法について提言をまとめた。この中で丸山氏は、司法試験合格者数は当面1500人とし、いったん体質を強化する必要があるとの結論を出した。法曹社会に長く在籍し、その歴史も問題点も熟知している参議院議員で弁護士の丸山和也氏にインタビューした。


――木で鼻をくくったような六法全書のイメージが強い司法だが、実は政治は無論のこと、経済とも密接な関係を持っている。まず司法改革の方向性は?

 わが国は国内的には政経ともども行き詰まって、曲がり角にきている。司法は国際的には体質として基本的に弱く、質量ともに微弱だ。

 小泉政権時代の10年前、司法制度改革を鳴り物入りでやった。裁判員制度を導入し、一方で弁護士を増やすということでロースクールも74校創設した。しかし、ロースクールは10年経って7、8割方、定員を充足できなかったり、募集停止にまでなる状況だ。

 国際的に日本の司法というのは存在感がない。明治維新以来、法務省(司法省)というのは格こそ高いが、予算は少なく、人員も少ない。3権分立制度の中で立法、行政に次ぐ第3の権力・司法というだけで、実権もない。

 最初にどんどんやる立法、行政と違って、後から裁定するという性格上、高圧的な立場にみられるが、それにしても弱い。日本の司法というのは欧米と比べると、はるかに弱い。

 知財にしても、華々しく小泉内閣時代に打ち出して日本は知財立国になると言われたが、あれ以来、逆に衰退していっている。

 特許件数にしても、かつて日本は1位だった。それが今では3位だ。中国、米国、日本の順位だ。その3位といっても、1位の中国に比べれば特許件数は年間約半分だ。はるかに離されてしまっている。

 弁護士数で比較すると中国では毎年、4万人ぐらいの弁護士が誕生する。

 現在、何千人もの弁護士を擁する世界一の弁護士事務所は米国にあるが、いずれそれも数年後には中国人経営の4万人とか5万人規模といった弁護士事務所が出てくる趨勢にある。

 日本で司法試験に受かるのは年間2000人弱程度だ。これも中国の20分の1だ。

――表層に問題がある場合、大体、深部に原因がある。

 日本の司法問題は、教育とも関係してきて根が深い。

 ともかく、日本人は主張して争うということをやらない教育文化がある民族だ。欧米と比べると、日本の場合は協調性を重んじる。調和とか他人に対する思いやり、自己犠牲ということに価値を置き、教育面でもこれを重視している。

 それに対し欧米では、自己を確立し自分を主張すること、それからフェアプレーで戦うことを強調する。早く自己を確立して独立し、他人と競争しフェアプレーで戦うという、小さい時から徹底してこうした教育を受けている。

 それに比べると日本は逆だ。他人に対する思いやり、協調性、自己主張どころか自己を主張しないように調和を重視し自己犠牲を求める。個人主義と集団主義の社会学からすると、日本は集団主義だ。

 日本では集団がどうあるべきかというのが大事だが、欧米では個人がどうあるべきかというのが大事だ。だから日本人は集団としての闘いには強いが、一人の人間となり個人となったらまるっきり弱く戦えない。これが日本が世界に出て行った時のリスク要因となっている。

 日本では集団として、みんながそろって行けば怖くない。それがうまくいっている時は非常な強さを発揮するが、ばらばらになって一対一になると極端に弱くなる。まず100%勝てない。その意欲もないしノウハウもない。

 グローバル競争の中でやっていこうとしたら、日本はこれからますます難しくなる。

 現在、日本では知財の訴訟自身が、年間100件を超えるぐらいだ。米国や中国だと何万件だ。しかも、日本では訴訟で賠償が認められるケースも少ない。その賠償額も少ない。すると、知財の争いをやっても、意味がそもそもないと企業人は考える。

 だから、権利があってそれを侵害されても、それを訴えない。それを裁く司法がそういう姿勢だから、やっても仕方がないとあきらめムードも支配しがちだからだ。

 いくらやっても認めてくれないし、仮に認めても賠償額が少ないのだから、そういうムードに支配されても仕方がない。

 だから賠償金は、違反があって損害を受けたその何倍かであってもよい。そうでないと、訴訟なんてばからしくてやれないのだ。

 だから、弁護士の収入も低いし、弁護士が育たない。バカらしくてやってられないというのが弁護士の生業(なりわい)だ。

 これが日本のリーガルな世界の現実だ。

 しかし、日本が世界で生き延びていくには、リーガルな戦いで勝つ以外にない。ところが日本の司法というのは圧倒的に弱い。話にならないぐらいだ。

 現在、知財に関し日本では気の利いた会社というのは外国で裁判する。もちろん、非常に少ないケースだが、よく分かっている企業は日本でやっても裁判する意味がないことを熟知している。だから外国に持ち込んで裁判するというのだ。

 しかし、これは圧倒的少数派の話だ。マジョリティーは「まーまー」で話をつけてしまう。だから戦う戦闘力というのが、意欲の面とノウハウの蓄積の両面で日本の場合、問題があるし、リーガルな人材を育てきれていない。

――文科省は、スーパーグローバル人材を育てると言っている。

 そうは言っているが、本当に自己の確立と主張、その中で育てていくというのは日本は極めて弱い。

 要するに、日本人というのは権利をほとんど主張しない国民だ。それで集団を重んじて愛国心や道徳心を入れるとかに関心がいく。そこらあたりが、かなり特異な国だ。そういうことを自覚しないと世界の中で戦えない。

 現在、GDPにしたって個人あたりで、シンガポールに日本は抜かれている。だから、日本は決して先進国で豊かな国ではない。アジアの中でどんどん沈下しつつある。

 たとえば、少子高齢化が進み、国家予算の3分の1は社会福祉で飛んでしまう。国の借金だけは世界一で、先進国の中でダントツで増え、成長率もなかなか伸びない。

 これは世界の中で戦う力がなく、戦い方を知らないからそうなっている。その弊害を除去するには、司法を強くすることが究極の選択になる。リーガルの世界というのは、経済にも大きな影響を与える。

 いくら物を作ったって、最終的な富の価値は交渉で決まる。さらに、商品が壊れたり被害を与えた時、どれだけ賠償するかとかというのも司法の土俵が使われるケースが多い。

 結局、最終的な価値は契約とかリーガルな世界になっていく。同じものを作っても高く売れない。これがあらゆる場面で出ているのが日本経済の現実だ。

 日本はその意味で損をしている。自分の価値を主張できない国民性みたいなものがあるからだ。

 例えば、民間だけでなく、慰安婦問題がある。慰安婦を強制連行したという吉田証言がでたらめだと言う。しかし、世界的には日本が言い訳をしているとしか思われていない。

 韓国なんか、どんどん慰安婦問題で世界にアピールしているし、中国はそれに加担している。欧州や米国、カナダにしろ、銅像を作ったり、議決とかで運動は広まっている。

 日本は時々、反論して火消しをしているが、あれ一つ見たって、国際的な戦闘力がないことが明明白白だ。情報発信力がないし、そもそも戦い方を知らない。

 何よりディベートにおいて、残念ながら韓国人や中国人の方がはるかに優れている。

 なぜそうなのかというと、日本は小さい時から、そういうことに慣れていないし、訓練を受けていない。むしろ、協調性とか「和をもって貴しとなす」じゃないけど、争いは起こさない美学みたいなものもある。

 だから、いざ、そういう問題が起こって彼らが100倍主張しても、日本はちょろちょろと老人のションベンのような発言でしかない。

 何でもそうだけど、日本人は内向きだ。喧嘩も内向き。家族や学校、グループ内の軋轢が多い。殺人事件を見ても、日本は6割が身内の殺人だ。これはダントツで世界一だ。米国だと身内殺人件数は全体の2割はない。

 欧米では他人と対決し、他人を攻撃する。身内は守るべき対象なのだ。一方、日本は身内を攻撃する。内向きというのは、外に向かって堂々と主張することができない。また能力がない。だから、内輪の中で小突きあう。これだと世界の中で戦えない。

――江戸時代までに蓄積された日本文化の問題にまでいきつく問題だ。

 単一民族で島国文化、そういう根深い文明の問題だ。

――どうすればいいのか。

 まず、そういうことを自覚する必要がある。政府あげてのグローバル教育とかに取り組むというのだったら、そこまで認識しないといけない。国際教育といっても、ほとんど中身が変わらないのだから換骨奪胎もいいところだ。日本を取り戻すみたいなものではなく、日本の価値を高めようという方向にいかないといけない。

 国際教育、グローバル教育というのは大賛成だし、いいのだけれど、どこに本当の問題があるのか深掘りされていない。これこそが日本の政治の弱さだ。

 例えば、イスラム国で殺害された後藤さん、湯川さんの問題にしても、「テロには屈しない」と言うのはいい。でも、日本人が殺されていることに対して、政府は何で助けられないのかという抗議がほとんどない。むしろ安倍首相の支持は上がっている。

 他の国では、政府は何をしているのかと、家族も政府を攻撃して大きな騒ぎになる。それがマジョリティーになるかどうかは別にして、デモがあったり、そういうふうになる。

 ところが、日本では、危険な所にあえて踏み込んでいったあの人たちが悪いんだとか変な人だとか言って、家族や本人を悪者扱いして潰していく。人質になった犠牲者をほったらかしにしたまま、自己責任だとも言う。

 こうして日本は内輪を攻撃する。外に向かって政府は何だとはならない。

 だから、政府は楽だ。内輪で喧嘩して潰してくれるし、暴動も起こらない。

 基本的には、日本の一番大きな問題は司法的側面から見ると、自己を主張していくことの意味を分かっていないことだ。それでは結局、自己が育たない。集団がうまくいけば、その恩恵にあずかるという発想でしかなく、それでは親亀こけたら子亀もこける宿命を避けられない。

 欧米の場合は、強い自己があって、その集合体として強い国があるというものだ。日本は強い国家を作って、その中でおとなしくして、協調しろという発想だ。

 これだと国が傾いた時には、日本は圧倒的に弱い。

――世界がグローバル社会に突入しようとしている中、中国はのしてくる、米国はリーガルの力は圧倒的だ。このままでは日本は沈没する懸念から司法改革が叫ばれて久しいが、丸山議員は必ずしも単純にリーガルメンバーの増強には賛成ではない。

 司法試験の合格者は、年間1500人規模に絞れと言っている。

 ただ基本的には増やそうと思っている。しかし今、日本の法曹養成の仕組みは半分機能してない。多くのロースクールは開店休業、水膨れになってぶよぶよになっている。それを体質改善して、いったん締めて、それから鋭意拡大にと思っている。

 だから、切り捨てる奴はばっさり切り捨て法曹養成の仕組みを筋肉質に直して、それから国際レースに出られるようにしていきたいと思っている。

 だが、日本の社会は、完全雇用が出来ないとかすぐ騒ぐ。中国なんか司法試験受かっても、8割が就職できないと思う。向こうはそれでも、資格をどんどん出す。

 荒っぽく言うとたくましい。そもそも発想が違うからだ。日本はそれだけ安定志向が強い。いったん締めて、ロースクールもある程度減らして。体制をつくって、それを徐々に増やしていくというのが司法改革の王道だ。

――これから国際的なトラブルは各方面で多発しそうだ。

 しかし、ほとんど日本の弁護士は国内的なトラブルの処理しかしないで生計を立てているのが現実だ。

 それでも、国内の訴訟件数は減少気味で、増えているのは、家事調停に労働調停ぐらいだ。温室社会で調和を重んじ、正しいことでもそれを主張することに慎重な社会だからそんなものだ。

 新しいことをやるには殻を破らないといけないが、そうすると異端にされる。

――でも「出る釘は打たれても出過ぎた釘は打たれない」とも。

 出過ぎる奴は、そもそも日本にはあまりいない。出過ぎる前にやられるからだ。「出過ぎた釘は打たれない」というキャッチコピーがはやったのも、そういうことがない稀な社会の裏返しだ。

 その意味では安倍政権の「女性が輝く社会」というのも問題がある。

 「『日本はイスラム国か』と国際社会から笑われるぞ」と私は言ったことがある。

 でも政府は、そういうことが気づかない。しかし、わざわざこういうことを世界に向かって言っていることは恥ずかしいことだ。女性に選挙権はないのかと思われる。

 その感性が日本の政治家というのは極めてローカル的だ。日本の政治家で国際的に通用するセンスを持っている人は少ない。

 地方創生にしても、地方をよくするというものではなく、本質問題は全体としてどうかというものだ。地方、地方と言っているが、ここもあそこも何とかしなくてはならないとテコ入れしていたら日本そのものが沈んでいくことになる。

 もっと集中と選択をやって、廃止する地方を作らないといけない。全部を山にしてしまうと、この県はなしということで構わない。市町村を何としても維持しようという、そういう発想自身が不自然だ。

 その時代に合っていたから発達したわけで、シャッター街になるというのは賞味期限が切れ、その寿命が終わっていることを意味するものだ  それを復活させて活性化しようと言っても、それは多少はできるだろうけど、歴史的に長い目で見て正しいことなのか検証する必要がある。

――自然の摂理に反している?

 無理ですよ。やらんほうが、いい。地域の一つや二つ、なくなっていいというぐらいの腹を固めないと、国家の再建にはつながっていかない。

 なぜ、中国がいろいろ問題があっても驀進するかというのは、人の声を聴かないからだ。山東省の中心部は、15、6年前ひどい田舎だった。それが、日本の新宿かと思うぐらい、高層ビルが林立する大都会に豹変している。

 人々は強制退去させられて、ビルや道路作ってきた。ガイドの住民に、なぜ抗議しないかと聞くと、中国で政府に抗議するということは本当に命を取られることだと言う。抽象的な意味ではなくて、抵抗したら本当にこの世から消されてしまうだというのだ。これでは都市建設は早い。

 その分、庶民とすれば政治に関わらず商売で儲けるほうでやるしかない。

――共産党独裁政権が開発独裁として機能した側面があるからだが、いずれ機能不全を免れない。判事が公然と賄賂を取る中国の司法問題もしかりだ。

 たしかに問題は抱えているが、案外、中国の共産党政権は続くと思っている。

 中国崩壊論がかまびすしいが、そう単純には割り切れないのが中国だ。

――13億人もの人間を、一党だけで仕切るというのは、そもそも不可能なことではないのか。

 僕は逆に、それだからこそ管理していると思う。例えば、政党活動を自由にしたら、混乱しかないだろう。

 教育と司法というのは密接にリンクしていると思う。自己を主張できる教育にする。それなくして、本当の教育はないし、まともな司法は実現しないと思う。

 それが国際社会の中で、日本のプレゼンスを高めて日本の経済成長にもつながると思う。

 国の存在感というのは文化だろう。経済だけあっても文化がないとだめだ。中曽根総理も「政治の目的は文化立国の確立だ」と言っていたが、そうでないと尊敬されない。

 銀座を歩くとフランスやイギリス、イタリアとかのブランドショップがいっぱいある。あれは一見すると商品を売っているようで、実は文化を売っているのだ。ネクタイ一つにしても、西陣にしてもいいものを作っているが、グッチだと何万円という値段でも売れる。それが西陣とか京都、群馬あたりで作ったものは1000円とか1000円でも売れないものもある。

 ワインもそうだ。シャンパンという言葉もあるように、文化の力のドミネイトだ。ボルドーやブルゴーニュのワインが自己主張しているのだ。グッチしかりだ。自己主張する力を持っている。

 一方、日本はモノは作っても、モノでもって自己主張できていない。いいものを作れば、それで価値が生まれると思っている。2万円するグッチのネクタイというのは、目に見えない文化の経済価値を表している。発信する力が、日本は弱い。集団主義で調和ばかりを重んじてきた歴史的弊害がここにある。

 これでは強い国は作れない。明治維新以来、途中で止まってしまった本当の開化が必要だ。

 安倍さんあてに書簡を渡したばかりだ。その書簡の内容はこれまでに述べた内容に基づき「第4の矢は司法強化にある」というものだ。日本が生き延びるには、司法の戦闘力の強化が必要不可欠となる。

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