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インタビュー 民主党顧問 藤井裕久氏に聞く 

アベノミクスの熱狂崩壊を危惧

 アベノミクスは低迷を続けてきた日本経済の転機をもたらすのか。一強多弱の永田町情勢の中、民主党の再生はあるのか。そもそも政権与党から転落した民主党の致命的問題点は何だったのか。民主党の鳩山政権で財務相を務め、政界引退した今も民主党顧問としてお目付け役を担う藤井裕久氏に聞いた。


――敬愛する政治家は?

 愛知揆一氏に大平正芳氏。生涯、最後までステーツマンだった。

――愛知、大平氏がすばらしいところは?

 1971年のニクソンショックで、一ドル360円の体制が壊れた時、その意味が分かっていた国会議員はほとんどいなかった。

 僕は竹下さんの秘書官だったが、竹下さんだって何のことか分からなかった。

 ただ愛知さんと大平さん、それに水田さんや福田さんは分かっていた。みんな大蔵省出身の政治家だった。それが実態だ。情けないものだ。今だってそういう人は一杯いる。ものを見る基礎的な見識が欠落しているし、目先のことしか考えない。政治家になって何が楽しいかというと、料亭にいくのが楽しみという馬鹿もいるほどだ。

――アベノミクスは評価しているのか。

 全然、話にならない。僕はそもそもアベノミクスという言葉自体を使ったことがない。安倍経済政策は基本的に間違っている。

 ただ超金融緩和政策で、目先を変えたことは事実だ。しかし、結果として危険な落とし穴がある。

 実際は安倍首相の意を受けた話だと思うが、黒田日銀総裁がやったのは異次元の金融政策だ。昔、高橋是清がこれをやったことがある。しかし、高橋是清は最後に殺されている。結局、異次元と称する超金融緩和政策の末路はそういう風になる。

――具体的にはどういう落とし穴?

 金融というのは経済の血流を作る話だ。ところが梗塞があるのを放置したまま、超金融緩和政策で血液をどんどん流せば、いずれパンクする。結局、金融緩和で実体経済には影響を与えていない問題がある。どこに金融が流れ込んでいるかというと、資産にいっている。

 つまり招いたのは資産インフレで、物価インフレにならない可能性があるということだ。

 金をジャブジャブ出すと、物価インフレになるか資産インフレになるかどちらかだ。そして今は資産インフレ的になっている。石油などは下がっており、物価インフレにはなっていない。

 資産インフレになると、まず株に資産が集まってくる。株で儲けた人は100万世帯だという。4000万世帯のうちの100万世帯というと、全世帯の2・5%だ。その程度のものだ。もう一つファンドにも資産が集まってくる。

 リーマンショックというのはファンドで発生した。だからファンドに金が行くというのは、リーマンショックの二の舞いになる可能性があるということでもあり、十分、覚悟しておく必要がある。

 2番目は、低賃金になり、円安になる。円安というのはどういう意味を持つかというと、自国通貨の価値が下がることだ。

 例えば、トヨタが円安で儲かっているというのは幻だ。トヨタは、大体、生産拠点を海外に移しているから、あまり円安は関係ないけど、ドルで売れば同じ量を売っても円換算だと2割アップする。しかし、同じ量を輸入しても2割高くなってしまう。

 だから中小企業は、原材料費も上がる。社員も生活が苦しくなったと言う。結局、円安というのは幻だ。

 さらにいえば、円安というのは自分の国の通貨を弱くするということだ。それが何で嬉しい政策なのか。たとえば日本の土地は安くなっている。預金が100万円あった人は、80万円になっている。それから月給が30万円の人が24万円になっている。

 安倍系の人は、それは米ドルの話だと反論する。しかし、米ドルが世界をリードしているのが現実だ。

 ハワイに遊びに行く人は、ものすごく負担が増える。これが円安だ。自分の国を弱くして、輸出を増やすという考え方は、基本的に間違っている。

 だから円安は、よくやったと褒め称えられる話ではない。

 たとえばアベノミクスという言葉は私は使っていないけど、これはレーガノミクスのまねだ。

 ただレーガン大統領は、米ドルを強くした。まるっきり反対だ。そもそもそうしたネーミングをつけるというのは少々、おこがましい話だ。

 さらに安倍経済政策で、格差社会が出てきている。株で儲けた人は2・5%、小泉さんと討論したことがあるが、彼はそのリスクをよく分かっていた。

 私が生まれた1カ月前に犬飼毅総理は殺された。その数カ月前に、血盟団事件というのがあって、それまで大蔵大臣をやっていた井上準之助や三井財閥の大番頭の団琢磨も殺された。

 なぜそういうことになったのか。血盟団事件に動いた人物の手記が残っている。どう言っているかというと、貧しさから東京の呉服屋に丁稚奉公した。そうしたらそこでは、金持ちの奥さんたちが、金に糸目をつけずジャンジャン着物を買っていた。

 すぐ隣に銀座があった。そこにはモモとかいう若者がいて、街を闊歩していた。それで彼は井上準之助を殺害する。

 だけど井上準之助を殺したからといって世の中が一変し良くなるはずもないのだが、格差社会には必ず怒りが出てくる。それもある日突然、出てくる。

 贅沢な人はひどい。あまり言いたくはないが、東京のホテルには一晩100万円の部屋がある。それが今、満員だ。次々に予約が入っている。100万円というと、所得の低い人にとってみれば半年から1年間分の生活費だ。こうしたことがすでに起こっている。

 4番目は出口がなくなるということだ。

 ジャブジャブ出し続けられるものではない。いつ止めるか。その時のひずみが大きい。

 安倍経済政策は、あたかも前例のない政策のようにいわれているが、リフレーション政策は、これまで幾度となく行われた。その結果、もたらされたものは熱狂とバブル経済とその崩壊だ。さらに、この政策が貧富の格差を広げ、それが戦争へとつながった歴史もある。

 いつの時代も、金融緩和で市中に氾濫した資金を、どうやって収めるかという出口戦略が重要だが、これが非常に難しい。

 昭和7年に、高橋是清はジャブジャブ財政を組んだ。そして昭和10年に、もういいだろうといって止めた。

 そのジャブジャブ金融を止めるということは何を意味するかといえば、国債を買ってジャブジャブ出していたわけだから、国債を買わなくなるということだ。すると財政はきつくなる。そうすると政府予算の5割、6割を占める軍事費を抑える以外にない。それで高橋は財政を締め、軍事費を切り詰めた。高橋是清はなぜ、2・26事件で殺されたのか、学生の頃は意味が分からなかったが、彼はそれで殺された。

 今の財政出動もお仕舞いの時には、悲劇的なことになるリスクがある。僕は大変なことになるだろうから、早く止めるべきだと思っている。

――第3の矢の規制緩和は?

 私は「第3の矢」という言葉も絶対、使わないが、日本はすでに成熟社会に入っている。レナルドIMF専務理事というのがいる。僕が付き合った時はフランスの財務大臣だった。サマーズ元財務大臣もそうだが、2人とも同じことを言っている。つまり「先進国はみんな衰退社会だ」と言う。

 僕は「衰退社会」という言葉は使わないが、「成熟社会」であることは間違いがない。

 池田内閣の時、高度成長で日本を浮上させた。そしてゆっくりとその成果を全国民に普遍化しようとした。今、日本経済は下山しようとしているのに、安倍総理はまた山登りをしようとしている。

――下山の時には、どういった政策が重要になるのか?

 雇用の安定と社会保障の安定、それに規制緩和だと思う。

 たとえば農業だが、このままではいけない。唯一、安倍政権の真っ当なことは、規制緩和とそれに基づくTPPだ。

 どういうことかというと、日本の国内経済は弱い。だって少子高齢化社会なのだから、強くなるわけがない。

 だから結局、世界に伸びていくしか手はない。軍事的なものはだめだが、経済で世界に伸びていくのはいい。それにはFTA(自由貿易協定)、ETA(経済連携協定)でもいい。そしてTPP(環太平洋経済連携協定)でもいい。

――TPPはなぜいいのか。

 貿易が伸びるからだ。たとえば自動車部品の関税を撤廃すれば、我が国の車産業の裾野を形成する部品製造企業は多大な恩恵を受ける。

 国内市場が弱い日本は、世界に伸びていくしか道はない。それを少しでもよくしようというのが、雇用政策であり規制緩和だ。

 しかし、安倍政権が主導する外に出ていく政策には、軍事力を背景にしてというニュアンスがある。これだけは許してはいけない。

――新自由主義に対しては?

 新自由主義は大嫌いだ。

 新自由主義とマネタリズムは切っても切れない関係だ。そもそも小泉さんが、新自由主義政策を打ち出した。要は、金をばら撒いてやるから、能力があるやつはそれでうまくやれ、という話だったと思う。

 それはそれでいいかもしれないが、僕は格差を全くなくすことはできないと確信している。そもそもどんな社会でも、格差社会をなくすことはできない。能力があるのもいれば、劣るのもいるのが普通だからだ。それを政府がサポートするというのは基本的に間違いだ。

 安倍政権は持てる者を、より持てるようにし、経済をうまく持っていこうとしているが、基本的間違いを犯している問題がある、  それは新自由主義的発想にある。そうでなくても持てない人に眼を向けるのが、政府の経済対策であるべきだ。無論、儲けたい者は儲けていい。それはいいけど、政府が持てる者をさらに持てるようにするためサポートするのはおかしい。

 たとえば法人税を減税するというけど、法人税を払っている企業はわずか3割でしかない。それをやって、どこから穴埋めするかというと、法人税を払っていないところからだという。

 法人税を払ってない企業は潰れたって仕方がないという、その姿勢が許せない。

 経済という言葉は、経世済民からきている。いわゆる世を治め民を救済するのが経済だ。政府の仕事は、チャンスの波に乗れなかった人の面倒を見ることじゃないの、ということだ。

――弱者に対する暖かい視線がある。

 政府の視線がそうあるべきだということだ。だから持てる人は当然、持っていい。能力ある人を潰す必要はない。

――レーガノミクスが新自由主義の発端だ。アメリカの新自由主義はうまくいっているのか。

 うまく機能しているとは、とても思えない。世界でトップクラスの格差社会で、何百億稼ぐ人がいる一方、ホームレスを輩出するような国柄だ。クリスマスセールなんかでも、金持ちだけのセールだ。一般大衆の懐が豊かであるわけではない。

――「ピケティの21世紀の資本」には格差社会を書いているが、資本主義がゆがんできているのでは?

 先進国はもはや、相当、成長していて「成熟社会」を迎えている。当初は産業資本主義で成長したものの、経済政策で金をばら撒くという金融資本主義的になってきた。これが一番問題だ。

 金融資本主義というのは金を回すだけで儲けるということだ。多くの人にいい製品を売って稼ぐのが産業資本主義だけれど、今はある程度、成熟してしまっているから、発展途上国でこそ産業資本主義がまだ意味を持っても、先進国は衰退社会だといわれている側面があって、これが資本主義の弱点にもなっている。

――経済がマネタリズムに席巻されて金融資本主義が大手を振って歩いている。

 産業資本主義というのは、経済のパイを広げ世の中を豊かにした実績がある。だが金融資本主義は世の中の豊かさとは関係がない。

――昔、バンカーというのは、尊敬の対象だった。産業を興す担い手だったからだ。それが現在、金で金を生むだけの銀行屋になりさがっている。

 その通りだ。資本主義の堕落の典型だ。

 金融資本家が許せないと思うのは、個人で株を買う人は減ったという。現在では、日本人の個人投資家は全体の18%を占めているに過ぎない。そして30数%が外国人投資家だ。残り5割が企業ではなくて、金融関連の人だ。それはどういうことかというと、金が外国に行ってしまうことを意味する。

 金融やファンドといったものが、これは資本主義の本来のあり方と違ってきている。ただ社会主義になれといっているわけではない。

――これを修正する時代を迎えている。

 だから金融の牙城であるバーゼルが「金融を締めろ」といっている。これはいいことだと思う。

――本来、社会を体にたとえるなら全身に栄養と酸素を供給する心臓であるべき金融が肥大化して、金が金を生むマネーゲームの一大集積地になってしまっている。世界を一つの生命体とすれば、世界は今、心臓肥大の病理に冒されている?

 金融は偉くなり過ぎている。これは資本主義のプラス面ではない。資本主義は自由主義だから、そこが増えるのはしょうがないといえばそれまでだが、やはり抑えるところは抑えないといけない。

 バーゼル協定だけでないと思う。オバマには期待したけど、尻すぼみになった感触がある。

――日本で尊敬する人物は渋沢栄一だが、平成の渋沢栄一は出てくるのか?

 僕も渋沢さんを尊敬する。だが当時は資本主義の初期だから、産業資本はダイナミズムを持った。今は産業資本として伸ばす余地は非常に減っているのが現実だ。

――産業資本のパイが臨界点に達しているというより、金融そのものの在り方が安易な方に行っている気がするが?

 渋沢さんのような人物が出ろとはよく分かる話だが、時代が違ってきている。つまり、産業資本の需要が減っている。人々はすでに食うものには困らない。電気も車もある。

 こうなってくると、金融資本主義の方に金が行ってしまうのは自然な流れだ。

――新産業を興すにはイノベイションが必要となる。確かにイノベイションそのものの限界があるかもしれないが、米国がIT社会を到来させたように、新産業を興して新しい時代の扉を開いていこうといった、そうしたマインドの方も大きいのでは?

 そこだけれど、若い人の中には人を殺すのがヘッチャラでやれるようになっている人が出てきている。

 IT社会が伸びていくと、現実と虚構の世界が判別できない人が出てくるようになった。どうしてもそういう弊害が避けて通れなくなる。

 戦争も面白いという話だ。渋沢さんの時代に戻るにはなかなか難しい。

――一強多弱時代にあって民主党再生のシナリオは?

 なぜ民主党政権は3年3ヶ月でだめになったのか。それは簡単だ。1つは頭がいい議員が多いから、議論ばかりする。

 しかし、与党というのは決めることが仕事だ。議論するだけでは駄目なんだ。

 結局、民主党から40人ぐらい出て行ってしまったが、自民党というのは派閥と金で片付けた経緯がある。派閥の親分が君、そんなことを言うのなら、派閥から出て行けという。あんまりうるさい者には、少し金を持っていけと宥めた。

 一方、民主党というと派閥も金もない。すると議論になる。

 だが、それでは物が決まらない。だから民主党は、議論ばかりして決められない政党になった。

 さらに役人は敵じゃない。野党の時はそれで良かった。しかし、与党の時は、役人は仲間だ。私は「チーム藤井」というのを作って、必ず事務次官や担当局長を横において「君たち、しゃべらなくていいから聞いててくれ、決めるのは俺たちだ。しかし、決めるだけでは何もならないのだから、後は君らで頼むぞ」としばしば言ったものだ。

 もともと先輩だから、言いやすかったことは事実だ。

 結局、この2つが問題だ。この2つは、相当の議員は分かってきている。

 次はどういうことをやるかスローガンだが、一部から反対があるが、奇をてらうことを言うなといつも口癖のように釘を刺している。どういうことかというと、「熱狂崩壊」のそれだ。尊敬している先輩だが、角さんも「熱狂崩壊」だった。だって地方をよくすると言って、結局、地価を上げただけで終わった。

 結局、そうなるんだから、あんまり出来もしないことを言うな。できることだけだと夢がないかもしれない。けれども難しいけど、最後は崩壊となる。だから奇をてらうなだ。

 参議院じゃないけど、参議院を潰せと言う議員がいる。第二院はなし、一院制でいいというのだ。

 その意見には賛成だけど、やろうにもできない政治情勢がある。まず共産党と社民党は反対だ。自民党も反対だ。それで民主党が天下をいただいても、できることはない。

 言いにくいけど、安倍政権は必ず堕落すると見ている。

 なぜかというと、マスコミの対する姿勢がひどくてなっちゃいない。吉田さんは立派な人だったが昭和27年、マスコミの嫌いな奴にコップの水をぶっ掛けた。28年には、野党議員に「馬鹿やろう」と言って「馬鹿やろう解散」となった。

 これが末期だ。安倍さんは末期になった。隆々としているうちは、おおらかなんだ。

――趣味は?

 酒。これまで酒ばかり飲んできた。

 現実政治の根本は人間関係だ。どれだけ言葉で理屈と議論を尽くしても、人は動かない。特に心は動かない。それが生身の人間だ。酒はそうした心の溝を埋める液体でもある。

 政治とは利害や感情がぶつかる権力闘争であり、落とし所を探る調整作業だ。そして政治を仕切る力は、人間の魅力であり胆力でもある。

――洋酒党、日本酒?

 もちろん、焼酎だ。なぜ焼酎かというと二階堂進さんと関係がある。

 私は二階堂さんの秘書官だった。二階堂さんは田中内閣で官房長官になられて、佐藤内閣から移る時、普通は、そこで変わるはずだが、二階堂さんが誰か一人残せとなった。竹下さんがあいつはどうかと言ったのが僕だった。

 私は二階堂さんを知りもしなかったが、偉いと思ったのは二階堂さんは、昭和17年の翼賛選挙の時、非翼賛だった議員だったことだ。つまり反東条だった。

 二階堂さんは、この時のことを、しばしば口にした。

 「おれはアメリカに10年いた。あんな国と戦争をやるバカはいない」  それを選挙で言っている。結局、暴力制裁を受け、殴られる。それでも二階堂さんは言を曲げることはなかった。それで骨のある二階堂さんが好きになった。

 河野一郎もそうだ。尾崎行雄とか斎藤隆夫というのは当然、そうだった。大野伴睦とか鳩山一郎。非推薦で活躍した。だから戦後、活躍できたんだろうね。

 それで二階堂さんが好きになったのだが「おまえね、東京で焼酎の『薩摩白波』をはやらせてくれ」と言ってきた。それしかなかった。いまだったら高い「森伊蔵」とか一杯ある。

 それで大蔵省の主計局の幹部にだーと配った。そしたら「俺、目がつぶれるかと思ったが、これうまいな」という人もいた。

――メチルアルコールのまがい物に見えた?

 一人だけ「悪いけど、こんな臭いの飲めない」と言ってのけたのがいた。

 僕とすれば二階堂さんが好き。それで焼酎が好き。

――それ以来、ずっと。

 そうなんだ。

――「薩摩白波」一筋?

 そんなことはない。今は黒霧島とか薩摩焼酎もいろいろいいのがある。

 でも飲むたびに思い出すのは、二階堂さんというのは偉い人だということだ。田中時代には金、金といわれていたが、本当に根っからの平和主義者だった。

――今まで2度ほど辞めると言って、政治家に再起している。3度目の不倒翁はあるのか?

 ない。

――健康秘訣法は。

 酒と歩くこと。

――今の最大の政治課題は何か?

 今の安倍政治は、安全保障政策と言っているが、実は国のあり方を変えることを言っている。安倍さんは戦後レジュウムの脱却と言っている。そもそも戦後体制を作ってきたのは自由民主党だった。

 これまで自民党は金には汚かったけど、平和には潔癖だった。それを今、脱却するというわけだから怖いと思っている。

 岸信介首相の時、僕は官邸にいた。

 その岸首相が最後に言ってたことは、日米安保は集団的自衛権と言うけれど、そんなものじゃない。今の日本国憲法で海外派兵はしてはいけない。これを明確に国会で語った。今の安倍さんは憲法解釈でもって、海外派兵が出来ることにした。国のあり方とすれば最大の問題だと思う。

――そうした政治姿勢の根っこにあるものは何か?

 私の役人、政治家としての人生の根幹は戦争にある。

 1944年7月にサイパン島の日本軍が全滅し、敗戦が濃厚となった直後の8月から次の年の3月まで東京の小平市に学童疎開していた。

 ある日、疎開場所の近くにあった軍需工場を空爆するために、アメリカ軍のB29が飛来した。すると同じ空に一つの黒点が見えた。迎撃に来た日本の戦闘機だった。激しい撃ち合いが始まって、直後にその戦闘機がB29に体当たりし、双方、火を噴き、ばらばらになって墜落した。

 下で見ていた我々子供たちは、墜落した方向に走った。疎開当時は、とにかく食べるものが少なくて、腹が空いて仕方がなかった。子供ながらにアメリカ軍は食料をたくさん持っていると聞いていたので、何か食べ物は落ちていないかと、期待半分で墜落機を探しに行った。

 墜落現場には機体が散乱していた。そしてまず目に飛び込んできたものは食べ物ではなく、ちぎれて原型をとどめない兵士たちの遺体だった。飛び散った断片の中に、女性兵のものだろう赤いマニキュアをした手があった。

 今でも目に焼きついているその光景は、日本人でもアメリカ人でも、戦いで死んでいくことの悲惨さを物語っていた。それは決して美しいものではない。残酷な現実だった。

 それと政治テーマとすれば、地方の活性化も歴史的な課題だ。

 田中角栄が総理になり「新潟はあぜ道まで舗装された」と評判だった。ところが、整備された交通網を使って、人々は東京に流れた。東京での買い物、東京での進学、東京での就職と、若者を中心に東京へと流れていった。

 ヒト・モノ・カネの流れを地方へと向けて成功したものは、筑波学園都市くらいであろうか。田中政権から40年以上が過ぎた。東京への一極集中の解消は、今も政治の大きなテーマだ。

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