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今月の永田町

新段階の日米同盟、首相主導へ

 平成27年度予算を成立させた通常国会は、5月の大型連休明けから最大の焦点である集団的自衛権の限定容認を含めた安全保障関連法制整備のための本格審議に入る。安倍晋三首相が4月28日のオバマ米大統領との日米首脳会談で、関連法案を「夏までに成立させる」と公約したのに対し、野党側は「米国との合意の前に国会での説明責任を果たすべきでないか」などと批判している。6月24日までの今国会の会期の延長は確実であり、安保関連法案をめぐって与野党の激突が予想される。


 予算が成立するまでの前半国会での野党の戦術は、閣僚らによる不透明な「政治とカネ」の問題に集中していた。それ以外のテーマであるアベノミクスや安全保障に関する質疑では全く追及できず、参院外交防衛委理事懇談会(3月30日)に「2分遅刻した。これで2回目だ」と片山さつき同委委員長(自民)を泣かせて喜ぶ程度のレベルの低さだった。

 その一方で、自民、公明両党は昨年7月1日の閣議決定の方向に沿って与党協議会を開催。3月20日に「安全保障法制整備の具体的な方向性について」と題する文書を取りまとめ、4月21日にはさらに細部で大筋合意。自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」(恒久法)での国会関与の在り方について「事前承認に例外を設けない」ことなどを決め、両党間の見解の相違を埋めてきた。

 4月27日の日米両国の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)および翌28日の日米首脳会談は、この両党合意を踏まえてのもの。そこで日米双方が確認した新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)では、日米同盟の抑止力と対処力が一層強化され、日本周辺に限定されていた日米協力が地球規模に拡大することが記され画期的なものとなったのである。

 ところが、「野党側は国内論議よりも米国との合意を優先させたことを問題視している。夏までに安全保障法制を整備すると明言したことも怒っている。安倍さんが強引な国会運営をする兆候ととらえていて、相当な反発が予想される」(自民党幹部)というのだ。

 確かに、民主党が早速、反発し、岡田克也代表名で長文のコメントを4月30日付で発表した。岡田代表は安倍首相の米議会演説について「いくつもの問題、疑問がある」とした上で「特に、安倍総理は安全保障法制について、『戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます』と明言した。しかし、国会審議はおろか、法案提出すらなされていない段階で、これほどの重要法案の成立時期を外国、それも議会で約束するなど前代未聞、国民無視・国会無視ここに極まれり、である」と批判。

 さらに「安倍総理は、『新しい日本を見てください』と訴えた。しかし、安倍政権が目指す『新しい日本』とは、国会での議論も国民の理解もないまま、閣議決定で憲法解釈を変更し、集団的自衛権を前提に、自衛隊が地球の裏側まで行って武力行使や米軍の後方支援ができる国である。武力行使や自衛隊の海外活動について厳しく制限してきた戦後70年の我が国の歩みを、議論もなく変更しようとする安倍総理に強い懸念を持つ国民は多い。民主党は、強い危機感と怒りをもって、国会で徹底論戦を挑む。安倍総理には責任ある説明を求めたい」とし、徹底抗戦する構えだ。

 民主党の長妻昭代表代行も米議会での首相発言について、「特別委員会設置も、国会の会期延長も決まっておらず越権行為だ。国会審議が形骸化する」と岡田代表に同調。維新の党の松野頼久幹事長は、日米同盟の強化が確認されたことを評価しつつも、日米ガイドラインについて「国会で説明する前に訪米して発表するのは国会を軽視している」と批判的だ。

 これに対して、自民党の高村正彦副総裁は、安倍首相が安保関連の法整備を「夏までに実現する」と発言したことを野党が批判している点について「首相が強い決意を示したもので、何の問題もない」と反論。その上で「あまり横暴なことをしたら選挙に負ける」と述べ、丁寧な国会審議を心がける考えを示した。公明党の北側一雄副代表も、集団的自衛権の限定行使を認める憲法解釈見直しに関して「従来の政府見解の根幹の部分はきちんと維持している」と指摘し、内容面でも問題はないとの見方を示した。

 政府としては今後、5月15日をめどに安保法制関連法案を国会に提出し、会期を8月まで延長した上で、6月下旬の安保法制の衆院通過を目指し、8月中には同法制を成立させたいシナリオを描いている。

 これを阻止するため野党は理論戦を準備。民主党は4月28日、「新たな安全保障法制に関する党見解」を正式に決定し、「専守防衛に徹する観点から、安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない」との考えで集団的自衛権の是非論戦について臨むことを明らかにした。

 「ただ、この見解は集団的自衛権を容認する右派と反対する左派の両派の主張の折衷案であって言葉の遊びの域を出ない。このため、政府側から不十分な点を突かれ攻勢に出られかねない」(政界関係者)ことから、法案の中身を切るというより、米政府優先の法整備の在り方批判に重きを置く戦術を取る可能性が出てきている。

 これに対し、アジア回帰の米リバランス(再均衡)政策を「徹頭徹尾支持する」と表明した安倍首相としては、中国の台頭を東アジアの最大の懸念ととらえ、イラク、アフガン戦争で疲弊した米国の全面支援を背景に安保法制論議を主導していく考えであり、政府・与党と野党との対立は深化するものとみられる。

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