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今月の永田町

参院選 自民が2合区導入了承

来夏は「10増10減」で決戦

 安倍晋三首相にとって来年夏の参院選は、悲願の憲法改正へ大きな一歩を踏み出せるか否かがかかる重要な国政選挙だ。その参院選挙区の「一票の格差」を是正するため2013年から参院では議論を積み重ねてきたが、唯一抜本的な改革案を出せなかった自民党がとうとう7月9日に「2合区(4選挙区を2選挙区に統合)」導入を柱とする「10増10減」の改革案を正式に決めた。すでに提示されていた維新などの野党4党案に自民党が乗った形だ。これに対して、民主党は「10合区(20選挙区の統合)」の公明党案を丸呑みし両党で国会に法案を提出する見通しである。次期参院選に適用するには7月25日までに選挙制度改革案を含む公職選挙法改正案を成立させなければならないが、参院で最大多数の自民党と野党4党で過半数となるため成立は確実だ。その結果、来年夏は「10増10減」での決戦となる見通しだ。


 2013年の参院選について、一票の最大格差が4・77倍だったことから最高裁は「違憲状態」とした。これを受けて与野党は実務者による参院選挙制度協議会で議論をスタートさせたがまとまらず、昨年12月に協議を打ち切った。各派代表の話し合いでも決着できず、5月には議論を止めた。とりわけ自民党の意見集約は困難を極めた。

 自民党では14年4月に、参院選挙制度協議会の脇雅史座長(自民党参院幹事長)が22選挙区を統合する抜本的な「合区案」提示した。ところが、反対論が噴出し、溝手顕正参院議員会長が脇参院幹事長を更迭し後任に伊達忠一氏を就任させるという異常事態に至ったほどだ。その後、①6増6減②2県合区③6増6減と合区―の3案が提示されたが、まとまることはなかった。

 今年の5月になって有力視されたのが、「6増6減案」だ。長野、宮城、新潟の改選数を2減し、兵庫、北海道、東京を各2増する内容である。だが、これでは4・31倍の格差が残る。民主党の郡司彰参院議員会長は「不誠実だ。与党の責任を果たしていない」と批判すれば、公明党の山口那津男代表も「恥ずかしい」と厳しいトーンだった。

 転機となったのが、新党改革の荒井広幸代表が自民党に「6増6減案」をベースとしながら2合区を含む「10増10減案」を持ちかけたことだ。同案は維新、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の野党4党がまとめたもので、安倍首相も6月17日の党首討論で「傾聴に値する」と評価していた。

 もし「7月25日」までに参院としての意思を示せず、現状のまま来年の参院選に突入した場合、最高裁から「違憲状態」よりも厳しい「違憲」の判断が出る可能性は極めて大きい。それほどギリギリの状態にまで追い込まれ、それを回避するための自民党内調整が図られてきたわけだ。特に、安倍首相のてこ入れは大きかったとみられる。

 「7月2日の午後6時半から永田町のザ・キャピトルホテル東急のレストラン『ORIGAMI』で、自民党の谷垣禎一幹事長、茂木敏充選対委員長、菅義偉官房長官が会食したが、首相は国会便覧を片手に参院の情勢分析を進めた模様だ。おそらくどの程度の合区案なら呑めるのかの話し合いをしていたに違いない」(自民党幹部)というのだ。この日、公明党と民主党が隣接する20選挙区を10に合区する案で合意し、公職選挙法改正案を共同提出することで合意したことに首相のあせりもあったろう。

 合意した両党案は、合区の対象として、「秋田・山形」「富山・岐阜」「石川・福井」「山梨・長野」「奈良・和歌山」「鳥取・島根」「徳島・高知」「香川・愛媛」「佐賀・長崎」「大分・宮崎」を挙げ、定数を2減らす対象区を6つとしている。その一方で、合区で減少する定数は、北海道、埼玉、東京、愛知、兵庫、福岡の6選挙区に振り分けて総定数は維持するというものだ。それを実施すると、1月1日現在の住民基本台帳人口に基づく最大格差は1・945倍へと縮小される。

 民主党はそれまで「11合区案」を掲げてきたのだが、参院の議席数ではるかに下回る公明党の案を丸呑みした。その背景には、「歩み寄ることで自民、公明に溝を深める狙いがある」(政界関係者)のは明らかだ。

 一方、自民党は9日に国会内で参議院総会を開催し、溝手参院議員会長が野党4党案の受け入れ方針を説明。最終的に溝手会長に対応を一任することになった。その結果、自民党が以前から提示していた「6増6減」に、「鳥取・島根」と「徳島・高知」の2合区を組み合わせ、合区で減った定数4を愛知、福岡に2ずつ振り分け、全体で「10増10減」とすることになった。

 改正法案の行方は、最大多数の自民党の出方で決まる。自民党の114議席と野党4党の議席を加えれば過半数となるので、参院では可決される。衆院でも自民党が単独で過半数を占めているため、事実上、決着したことになる。「ただ、自民党が参院選で協調するはずの公明党と分断された形で選挙に突入することは避けたいだろう。公明党としても成立確実という結果の見えている自民党側の法案にあえて反対はしないのではないか」(自民党幹部)との見方もある。

 ただ決着したと言っても自民党内の火種は残っている。総会では「了承」の声が上がる一方で「反対」の声も出た。採決では党議拘束を外せといった主張も複数の閣僚らから出ている。脇前参院幹事長は会派を離脱する方向だ。自民党執行部としては今後、選挙区に出られなくなる現職の若手議員たちを比例代表の「重点候補」にするなどの処遇を考えなくてはならない。

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