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今月の永田町

安倍首相が自民党総裁再選 長期政権も視野に

 自民党総裁選が9月8日に告示され、安倍晋三首相(総裁)が無投票で再選された。これで2018年9月までの任期が与えられ長期政権も視野に入ることになった。10月上旬には内閣改造・党役員人事を行い、新たなスタートを切る。自民党は全7派閥が安倍氏再選を支持し対抗馬を出さなかったことで一致結束した姿勢を見せた。だが、総裁再選決定直後の9日、石破茂地方創生担当相が「ポスト安倍」を狙い18年の総裁選出馬に早くも名乗りを上げ、「石破派」を結成することになった。安倍首相はこれまで、谷垣禎一幹事長と岸田文雄外相を後継候補として競わせて力を相殺させていればよかったが、石破氏を再び閣内に封じ込めることができるのか。それとも安倍路線と一線を画して閣外に去り政権の結束力が削がれるのか。首相の人事の力量が問われるところだ。


 自民党の現職総裁の無投票再選が決まったのは、01年8月の小泉純一郎首相以来14年ぶりだ。1年ごとに首相が代わり国内外から不安定な日本の政治に対する不満がしばしば指摘されてきたが、安倍首相はさらに3年、計6年という長期政権を築く可能性が出てきた。在職日数で見ると、すでに祖父の岸信介を抜き戦後第6位であるが、すべて務め上げると中曽根康弘氏の1806日、小泉氏の1980日を抜いて佐藤栄作、吉田茂に続き第3位の長期となる。

 安倍首相は再選確定を受け「アベノミクスは道半ばだ。全国津々浦々に景気回復の好循環を届けたい」と述べ、安保関連法案を成立させた勢いで新たな人事を行い、経済再生を柱とした政権運営に取り組む方針を明確にした。また、「9カ月前の総選挙の結果を受けて今まさに、その公約を進めている最中だ。一致結束していこうという多くの議員の考え方の中での結果ではないか」とも語った。つまり、首相としては国政選挙を3連勝して政策に対する国民の支持は受けているので、経済再生、財政再建、教育などの諸改革を迷わず進めていく姿勢を鮮明にしたのだ。

 そこで新人事では、低下が懸念される内閣支持率を再浮上させるために、これまで政権を支えてきた菅義偉官房長官、谷垣幹事長、岸田外相、麻生太郎副総理兼財務相といった主要閣僚は留任させる意向だ。特に、総裁ポストを経験しながら幹事長に就任し〝静かに〟「首相後継」を期す谷垣氏には首相の政権基盤を揺るがす気配はない。岸田氏も同様だ。

 野田聖子元総務会長が今回の総裁選に出馬するため、岸田派名誉会長で反安倍の古賀誠元幹事長が推薦人集めに動いた。同派若手を切り崩すのが主な狙いだった。そのため、岸田氏は告示日前、何度も所属議員を集めて名誉会長の呼び掛けに応じないよう引き締めを図った。これも首相への〝忠誠〟を示し「次」を狙っているからだ。

 安倍首相としては、この二人の有力候補を競わせて手綱を握り馬車を進めていく手法をとって来ている。また、再登場を狙う総理経験者の麻生氏に対しても、常に「下から目線」で配慮して接し同氏との緊密な距離感を保っている。唯一、安倍後継の最有力候補と言われながら音無しの構えを貫いてきたのが石破氏だ。先の総裁選で地方票では安倍氏を上回り、決選投票の国会議員票で惜しくも敗れるなど接戦を展開した石破氏の動きを安倍首相は閣内に取り込むことで封じてきた。

 その石破氏が首相再選直後の9日、突如として次期総裁選に出馬するため「石破派」を結成することを表明したのだ。自らが幹事長当時に結成し8日に解散したグループ「無派閥連絡会」のメンバーが核となる。山本有二・元金融相、鴨下一郎・元環境相、田村憲久・前厚生労働相、平将明内閣府副大臣ら約20人が参加し、事務総長には古川禎久衆院財務金融委員長が就く見通しだ。

 石破氏は「わが党の政策をさらに発展、進化させることが国家、国民に対する責任だ。志がある有能な方々と行動を共にし、一緒に考えることに大きな意義を見い出している」と語るとともに「いつならちょうどいいというのはない。政権構想を練るのに時間や労力はいくらかけても足りない」とし、決意の固さをうかがわせた。

 「幹事長当時、『脱派閥』を唱えてきたのでいまこのタイミングで派閥結成と言っても整合性に欠けるとの指摘はある。しかし、野田氏の推薦人切り崩しを目の当たりにし、自前で推薦人を確保しなければならない必要性を実感したからだ」と自民党中堅は指摘する。一方で、「安倍氏が来年の参院選を衆参ダブルで戦って大勝すれば、かつて中曽根首相のときに任期の延長があったように、3選できない党則に例外を設け20年まで任期を延ばして東京オリンピックの開会式宣言をすることができる」(全国紙デスク)との見方もある。東京五輪花道論だ。そうなれば、佐藤栄作を抜いて戦後最長の政権にもなる。「石破氏としてはそこまで待てないので、早くも動き出した」(同)というわけだ。

 安倍首相は、石破氏の希望に耳をよく傾け、地方創生担当相あるいは別の重要ポストを与えても閣内に取り込み続けたい考えだ。しかし、石破氏が閣外に出て、安倍路線とは一線を画する政策提言を行い国会内外で求心力を高める動きに出るのか。そこが今後の焦点となろう。

 また、今回、全7派閥が一致して安倍再選を支持した背景には、内閣改造・党役員人事で〝入閣待機組〟への処遇を期待したことがある。交代の可能性があるのは、法務(上川陽子)、防衛(中谷元)、復興(竹下亘)、文科(下村博文)、環境(望月義夫)の各省大臣だろう。27日に国会会期末を迎え、下旬のニューヨークでの国連総会から帰ってから首相の人事構想は本格化することになる。

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