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今月の永田町

サミット色に彩られる日本

経済、安保で問われる指導力

 5月は外交日程が目白押しだ。安倍晋三首相の欧州歴訪に始まり、日本各地での主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に関係する閣僚会合が積み上げられて、26、27日のサミットに臨むことが主な流れである。国会での与野党対決の法案審議がないことから、政治力を分散されない安倍首相が議長国のリーダーとしてどう指導力を発揮して外交成果を得られるのか、に政財官各界関係者らの関心が集まっている。


 頂点となる伊勢志摩サミットを前にして、国内はサミット色に彩られる。教育大臣会合が岡山県倉敷市で14、15日に開催、続いて、富山県富山市で環境大臣会合(15、16日)、茨城県つくば市で科学技術大臣会合(15から17日)、宮城県仙台市で財務大臣・中央銀行総裁会議(20、21日)といった関係閣僚会合が相次いで開かれるからだ。海外の指導者層やマスコミ関係者らが日本に押し寄せてくることになる。

 それを前にして安倍首相は5月1日から7日まで、欧州を歴訪した。5日の内外記者会見ではサミットに対して「世界が直面する様々な課題に、力を合わせて立ち向かう。その大きな一歩を踏み出す場にしたい。自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的な価値を共有し、世界の平和と繁栄を牽引してきたG7には、その大きな責任がある」と表明。そのうえで翌日の6日には、ロシアのソチでプーチン大統領と3時間以上にわたって会談した。

 今回の歴訪について情報関係者は「世界経済を下支えする財政出動について最も反対とされるメルケル首相からサミットの場で柔軟な姿勢をとる可能性を引き出した」との成果を指摘。それと同時に、プーチン大統領との間で北方領土返還のための首相による「新アプローチ」が話し合われ、この日露接近により中国とロシアを分断する首相の極東戦略が現時点では奏功していることを強調した。

 安倍首相が首脳会議で議長国としてまとめるべき課題は、大きくわけてこの「経済」と「安全保障」の問題だ。

 「経済」では、世界経済を再活性化させるために構造改革の推進とともに機動的な財政出動が必要との見解で日米が一致。英仏も理解を示している。

 他方、「安倍首相らしさ」が出たのは、「安全保障」の面だ。クリミア併合で爆発的な国内支持を獲得しながら、石油価格の暴落とクリミア併合に伴う欧米日の経済制裁で杖をつきながら生き延びている状況のロシアのプーチン大統領が、G7による経済制裁を逸脱しない範囲で首相が提示した8項目の経済協力に食いついてきたからだ。その引き換えに、北方領土問題解決に向けての「新アプローチ」を首相が提示したというのだ。その中身は分かってはいない。

 これまで常に、領土返還をエサにただただ経済協力をさせられてきた日本だけに、警戒を解くことはできないのは当然だ。軽はずみにロシアに向き合えば必ず痛い思いをさせられるからだ。ただ菅義偉官房長官が「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本側の基本的立場に変わりはない」というヒントをどう解釈すべきなのか、だ。

 そこから推測すると、①歯舞・色丹の2島先行返還のみ②歯舞・色丹プラスα(択捉か国後)③国家安全保障局長の谷内正太郎氏が主張したことのある北方4島の面積等分論――の3つではないとみられる。ロシア側も、平和条約締結後に歯舞・色丹両島を引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言を軸に交渉に臨んでいるとすると、かつて元駐日大使だったアレクサンドル・パノフ氏が提案したことのある、平和条約締結直後の歯舞・色丹返還と残りの2島の時間差返還の可能性が浮上してくる。30年から50年の間、ロシアの施政権を担保した後の2島返還である。

 いずれにせよ、安倍政権がプーチン大統領の訪日を絡ませながら北方領土返還に向けて動き出し、ロシア側もそのそぶりをしていることだけは確かだ。この伊勢志摩サミットで、かつてのヒューストン、ロンドン、ミュンヘンでのサミットに盛り込ませた「北方領土問題の早期解決」以上の具体的な文言で声明を出せるかどうかが注目される。

 もう一つは、中国の「力による現状変更」批判を宣言文にどう盛り込めるかだ。南シナ海の埋め立てと軍事基地化は続き「脅威」を拡大させている。首相は欧州歴訪で熱心に説明し、各国の首脳も「対岸の火事ではない」(メルケル首相)などと同じ立場を表明した。単なる海洋進出ではなく、不当な侵出であることを中国側に突き付けて国際社会が結束して対応するよう方針を明確化することだ。東シナ海で尖閣諸島を脅かす中国の覇権行動に対しても、批判を盛り込むよう尽力すべきである。

 首相がロシアのプーチン大統領とのパイプを生かすことで、北方の脅威に自衛力をそれほど割かれないことの意味は小さくない。昨年9月3日に北京で開催された抗日戦争勝利70周年記念式典では、軍事パレードにプーチン大統領が参加して習近平国家主席との蜜月関係を誇示した。

 だが、ロシア内では中国の極東における軍事力増強に警戒感が高まっており、ソチ会談で首相が中露戦略的パートナーシップにくさびを打ち込んだ。中露関係を分断し、中国問題に国際的連携で対処しつつ、同時にロシアとの領土問題の解決に向けて4島返還の基本路線を崩さず、欧米の理解を求めつつ慎重に進めることは、当面、国益にかなう外交ベクトルだと言えよう。

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