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インタビュー 参議院議員、前神奈川県知事 松沢成文氏に聞く

憲法を改正しない限り対等な独立国の力持てず

 7月10日の参議院選挙は、自公が健闘し焦点となる憲法改正で、おおさか維新の会や日本のこころなどを含めた改憲勢力が、国会発議の要件となる3分の2を確保した。自民党以外の第3極こそ、憲法改正をリードすべきだと説く神奈川出身の松沢成文参議院議員に、どういった憲法改正が問われているのか、また持論の改革者としての二宮尊徳論を聞いた。


――今の日本政治を見て、内政・外交の両面で、それぞれ抱える一番の問題は何だとお考えですか?

 共通項として憲法の問題がある。日本の戦後はGHQの改革からスタートした。改革を正当化するには、戦前を全て否定しないといけなかった。だが戦前、戦中にもいいものがあった。

 それが「戦前の日本は最悪の時代で、軍部が台頭して民衆は苦しんだ。米国に負け米国は民主改革をやってくれ、すばらしい憲法を作ってくれた。憲法に沿うのが絶対だ」というのが左翼の人だ。

 日本の歴史の各ステージでは、いろんなものを作り上げてきた。それが一回の敗戦で、歴史を全否定するというのはあり得ない。日本の太古から続いているものは絶対守るべきだ。一つは天皇制。欧州の王朝とは全く違う。万世一系というのは世界でも希少価値だ。

 天皇は実質的な政権に手を染めず、政治の実権はある時は貴族、ある時は武士たちがもち、国家統合の権威として君臨する。この役割分担を守って、政治権力から距離を置き、国家統合の権威として、その知恵を満たしてきたのは日本民族だ。これは絶対守っていかなきゃ。

――憲法の改正はどこから着手する必要があると思われますか?

 改正点は100カ所位あると考えている。平和主義やその精神、人権の尊重や3権分立は守りつつも、時代にあった憲法を作るべきだ。安全保障だって、今は自衛力を担保できていないから日米同盟が必要になる。

 日米同盟は賛成だが、トランプなどが不平等だという。アメリカは日本が攻められたら守る。アメリカが攻められたら日本は守らない。ならやめてしまえという気持ちは分かる。

 独立国家として自衛権があるのは当たり前だ。だから軍を置く。だが軍が暴走しないようにシビリアンコントロールの下に、文民統制すると明確に憲法に書くべきだ。

 中国がこれを批判することはできない。中国だって憲法にそう書いているのだから。

 政治には国民に真正面から訴えられるかが問われている。憲法問題は差し障りがあるから逃げておこうというのが今の自公だ。根性がありそうで無い。憲法を改正しない限り、対等な独立国の力を持てない。

――トランプ発言はアメリカの本音の一部と言えるかも知れません。内政の部分ではいかがでしょうか?

 内政面でも憲法は穴だらけ。地方分権の本旨に則りとあるが、地方分権の本旨とは何か憲法に書かれていない。

 私学助成も公にふさわしくない機関には、やってはいけないと書いてある。だが私学振興協会を介して助成金を交付している。言い訳を作って憲法の解釈をしている。そういうところを直すべきだ。

 それをしないから、憲法解釈がいくつもできて、部外者がみたら理解できない。これこそ立憲主義の危機だ。憲法と現実が離れすぎ、法律家が勝手に解釈していいのかとなる。

 日本政治の最大課題は、憲法をしっかり議論する政治の勇気があるかどうかだ。安保法制をやるとシールズや左派が毎日のように国会でデモをした。憲法改正というだけで右翼と言われて、みな逃げる。安倍さんも参院選では経済を強調するが、国家の基本となる憲法を政治家が語らないのはおかしい。これが一番の問題だ。

 僕は自民党以外に第3極で憲法改正を目指す政党が出てきたらいいと思っている。自民党と第3極が組む格好で、国会の3分の2をクリアして憲法改正案を出せばいい。

 ただ、自民党は既得権益にまみれている。僕が自民党と違うのは、国民の利益を中心軸に据えて、必要であれば徹底した改革をやる。自民党が暴走しそうになった時は、第2極と組んで既得権益をぶっ壊すような改革をできる第3極ができれば、政治にもっと弾みがつく。今のように第2極だけだと不幸だ。

 ただ憲法改正は逐次改正しかできない。要するに、丸ごとフルモデルチェンジというのができない。憲法改正案は複数目はいいけど、一つずつ提案しなさいとなっている。

 逐次改正だから、どっかから手をつけるしかない。一番改正が必要なのは、安全保障と危機管理だ。世界の憲法で、安全保障と危機管理が書かれていない憲法は日本だけだ。

 平和主義者はいいが、国家には大地震もくるし、安全保障上の危機を迎えることもある。その場合、為政者が超法規的手段をとるのが一番怖い。テロや災害、戦争が起きても、憲法の枠組みを守れるような危機管理条項がないと、大変なことになりかねない。ドイツだって作っている。

 GHQがいれば危機管理は任せるとし、そうした条項が入らなかった。9条も安全保障の条項ではない。米軍がいるのだから、中国や当時のソ連は攻めて来ることはなく、戦争は書かなくていい。日本はひどい戦争をしたのだから、戦争はやめますという文章を入れるように、と言われ入れた。

 それを今の人たちは、すばらしい憲法でノーベル平和賞ものだという人がいる。

 要するに自衛権を認めて自衛隊を置き、防衛は自分達がやっていく。暴走しないように自衛隊はシビリアンコントロールで縛る。これは当たり前の話で、右翼でも何でもない。この2つはまっ先にやりたい。

――今の政界ではもの足らず、第3極の樹立を目指しているのですね。それで今は無所属を選ばれているのですか?

 国政では元々第3極指向で、左右にぶれずまん中で現実的な政策を訴え、みんなの党で立候補して参議院議員になった。ところがリーダーの内紛に明け暮れた。最初は渡辺さんと江田さん、それから江田さんと浅尾さんが大喧嘩。それで解散になった。

 自民党に行くでなし、民主党の中から第3極を作り直せないか。昨年も仲間を集めて5人でもいいからと思ったが、小さな党で離合集散しながらやることに疲れた人たちが多かった。それで空中分解し、右系の人は自民党、左系の人は民進党に行った。

 しかし自分はその道を選ばない。日本には今、自民党でも民進党でもないというところがないから、選挙を棄権する人が多い。自民でも民進でもない新しい政党を作りたいと無所属を選択した。

 僕は右でも左でもないが憲法改正論者だ。日本がもっと発展できるよう常に憲法をチェックするのは国会議員として当たり前だ。国会議員でないと憲法改正の発議ができない。現実路線で3極で新しい政策を打ち出したい。

 私は保守的な意味では自民党に近いが、自民は長い政権のどまん中におり利権構造を作っていて、構造改革ができない。小泉さんが郵政民営化をやると言ったら皆反対だった。

 私は今、タバコの利権構造を壊そうと思っている。財務省がタバコ行政を支配しているのはおかしい。JTは完全民営化して、厚生労働省の下にスタンダードなタバコ行政をやらないとだめだと言っても、財務省出身議員だとかタバコ族議員が阻止する。

 タバコ農家や都内だったらタバコ小売商、何が何でも自分達の利益を守ろうという守旧派の壁が存在する。脱利権という意味で新しい政党が必要となるゆえんだ。

――民進党にも労組のしがらみがあって、真の改革ができないということですか?

 民進党は党内をまとめられない。まず労組の人たちは憲法改正に絶対反対だ。岡田さんだってそうだ。僕は9条を変えないとどうにもならないと思う。だが集団的自衛権の前でまだ合憲だの違憲だのとやっている。段々と旧社会党に近くなっている。

 国家がある以上、自衛権が存在するのは当たり前だ。民進党は、こうした問題を改革できない。その意味でも、新しい政党が日本には必要だ。

――松沢議員は知事、衆議院議員、参議院議員を経験され、それぞれの役割は何だとお考えでしょうか?

 改革の志をもちいろいろなポジションを経験したが、それぞれ役割が違う。

 首長は直接選挙でダイレクトに選ばれ、会社の社長のような立場だ。全ての権限が一人に集中し、総理とも違う。国の行政権は総理ではなく内閣にある。だから閣議で決定しない限り、総理であっても動けない。閣議で反対する大臣がいたら、大臣を罷免して新大臣の了承を取り付けなければできない。

 その点、知事は人事権を一手に握り、予算編成権も政策を推進するのも、許認可権もすべて握る。会社でマネジメントを一手に引き受ける社長だ。県知事にはマネジメントの面白さがある。トップとして自分が考えている政策を実行できるのだから。

 一方、議員は多数集まって、一つの議事を通して、そこで初めて効力を発揮する。議決を通すには、多数派工作が必須となる。だから議員の政治活動の第一は政局となる。どれだけの人とコミュニケーションを作って、酒を飲み、あいつと話せば口説けるとか、どろどろした人間関係を作り上げながら多数派工作を仕掛けていく。

 政局が好きな人は議員のほうが面白い。でもマネジメントが好きな人は、首長の方が断然面白い。私は欲張りだから、両方とも面白いところをやってきた。

 参議院議員もいつまでも無所属だとだめだ。政権を樹立し、大臣にならないと自分の政策を実行できない。国会議員にはいろんな役割があるが、野党議員は政府に文句を言うのが仕事で、自分の思う政策を実現できるという結果を出せない。

 国会議員になった以上、与党を目指さないといけない。今は無所属だが、新党を作るか、政権党について政策を実現する。そこまでやらないといけない。

――二宮尊徳の研究に熱心で、最近3冊目の著書を出版されました。尊徳をこれほどまでに掘り下げるのはなぜでしょうか?

 政治家の立場からも、尊徳は見事な改革を成し遂げ尊敬される人物だ。二宮金次郎像が小学校や中学校にあって、勤勉少年というイメージがある。家庭環境に恵まれず一生懸命働いて、親に孝行して地域社会に尽くして、立派な勤勉少年だった。

 ただ尊徳は少年時代で終わったわけではなく、青年時代も壮年時代も老年時代も、全国を回って新しい時代の改革に尽くしている。それも封建時代にありながら、極めて民主主義的に説得して改革を成功させている。

 報徳仕法というが、これは江戸時代の古い徳目としておくにはあまりにもったいない。現在を生きるわれわれにも、行政や政治の上でも大いに参考になるし、日本人に伝えていくべき文化遺産と思っている。

 本にしたのは、学者が書くのと違って、政治家は実務家だから、実務者として尊徳がすごいということを書けるから。神奈川県の知事になったので、神奈川出身の尊徳を研究して伝えたいとも思った。

――報徳仕法とは「徳をもって徳に応える」というものですね?

 尊徳の報徳仕法は、人間にも草木にも全てものによさがある。それを徳と呼ぶ。人間が持つ美徳だけではない。全てのいいところを引き出して、世の中を運営すれば、世の中はきっと生産は増えていくし明るい社会になる。

 究極の思想としては、私たちは善か悪か、自民か民進か、など何でも敵対関係の二元論に持ち込みがちだが、二極対立に持ち込んではだめだ。他人にもいいところはあり、自分にも自分さえ分からない欠点がある。それを直し、相手のいいところを引き出し、融合させていけば相乗効果が出ていい方にいくはずだ。これは一円融合の哲学でもある。

 尊徳は天道人道論で、天の道、人の作為の道、これを対立ではなくバランスよく融合させることを説いている。経済にしても、参加するプレーヤーに道徳心、倫理観がないと、暴走して経済は破滅に向かう。

 でも、人間は道徳だけではご飯が食べられない。生産活動や経済活動を大いに奨励しながら、それに参加する人々に道徳や倫理をしっかり持たせ、道徳を融合させれば、新しい民主的な世界が生まれてくる。儒教の影響はあるが、実践主義で自らが実践して、そこに正義があると実証した上で思想を構築しているので、説得力がある。そういうものを自分も学べたので、伝えなければいけないと思って本を書いた。

――尊徳は村の発展を考え、現在の協同組合とか信用組合などにつながる形を編み出したと言われています。

 これも知らない人が多い。尊徳は農村で生産量を増やすのに、お金が必要だった。しかし、それを殿様からの恵みとして補助金をくれといったら、依存心は無くならない。今年より来年と、依存心だけが強くなる。補助金頼みであくせく働く必要もない。そうではなく、いかに農民や農村を自立させるかだ。

 そこで尊徳は相互扶助の金融制度を考えた。一人ひとり会員になり、昔でいう講、基金を集める。困っている人には貸しましょう。その代わり返済計画を作りましょう。そして新たに投資する。将来につながるものには貸していく。一番難しかったのは利子だった。取るか取らないか。本当に困った人には、無利子ということもあった。ただ担保は無く、その人がもっている徳目、仁義礼智信の五常の儒教徳目を持っている人に金を貸しましょうとなった。それがない人には貸せません、という五常講貸金というのを作った。これが日本の農村から生まれた相互扶助制度の走りだった。

 今でいう信用金庫や信用組合であり、消費者生活組合だ。それを農村運営全体に活かす形で運用した。尊徳は江戸時代の封建社会だった1820年から40年にかけ、先進的なビジネスモデルを既に作り上げていたのだ。

 ドイツで初めて農業組合ができたのは1860年代だった。イギリスでロッチデール先駆者協同組合ができたのも1850年位だった。

 世界の協同組合組織が初めてできる20年、30年前に江戸時代に相互扶助の金融システムのビジネスモデルを作り上げて成功していた。

 これだけでも、二宮尊徳というのはすごい人間だった。尊徳は江戸時代の古い徳目を唱えていたのではなく、極めて合理的に計算して改革を成功させることを考えていたのだ。

 尊徳は、数学にも強い超合理主義者だった。さらに技術者であって、合理的な改革者でもあった。当時は洋算がなく和算ですからね。そこに尊徳のすごさがある。

 封建時代、労働は苦役だった。殿様が年貢を取り立てるので、働かなきゃ生きていけない。だから働いて生かしてもらうしかなかった。

 尊徳はそんな楽しくない苦役ではなく、もっと前向きに働くことを考えた。働けば働くほど自分も成長し、新しい知恵も生まれる。生産性も上がり、新しい価値を生み出せる。働くという概念をネガティブなものから、ポジティブなものに180度転換した。これが尊徳がいう勤労だ。

 勤労の他に報徳思想の要となるのは至誠、分度、推譲がある。報徳思想の徳目を守っていれば、世の中は成長していく。真心をもって実践する至誠というのは、合理的に生産的に働いていきましょうとなる。

 分度というのは自分の立場で、消費額を決めておきましょう。

 結局、真心こめて一生懸命働くと、分度よりも絶対に余剰を産む。その余剰を将来のために投資する。自分たちの家族のため、社会のために使う。利他精神で譲っていけば、必ず世の中はいい方向に回っていく。戦争になるのは、この逆をやっているからだ。限られたパイの奪い合いをやる。

――報徳思想は現在、世界からも注目されブラジルや中国でも勉強する人が増えていますね。

 経済的に苦しい状態にある中国も、様々な問題をこれで解決できるかもしれないと一生懸命、勉強している。今年8月4、5日、明治大学で僕が基調講演するが、参加する学者は中国人が多い。中国人とすれば、その元祖は孔子だけれどと言うと嬉しく思う。中国の病理を正すのに、報徳思想は十分使える。

 何で日本人はもっと尊徳を勉強しないのかと残念だ。世界には評価されているが、日本人は忘れてしまっているというのが現実だ。そう思って『教養として知っておきたい二宮尊徳』(PHP新書)を書いた。

――著名な日本人の経営者で、尊徳を慕う人は多いと聞いています。

 日本には近代資本主義経済を列強に負けず牽引した様々な実業家が出た。本にも書いたが、渋沢栄一や富士銀行、安田銀行を作った安田善一郎、台湾製糖を作った砂糖王・鈴木藤三郎、あるいは真珠の御木本幸吉とか、豊田佐吉、さらに土光敏夫や稲嶺和夫、僕も随分とこうした人たちの著書を集めたが、全員、尊徳の大信奉者だ。

 彼らは報徳を学んで実践し、実業家として成功している。彼らは富を築くが、みんな社会に還元してもいる。

 報徳全集、尊徳の関係資料が、どうにかしないと後世に伝わらないということで、鈴木藤三郎が報徳全集を余生をかけてまとめ、図書館もできている。御木本幸吉なんか、尊徳の生家を買い取って、尊徳記念館を造った。

 自分が成功したのは尊徳のお陰で、尊徳の教えが将来に続くようにと、松下幸之助がPHP研究所を作ったり、政経塾を作った。

――国会議員の中にも尊徳を学んでいる人達がいますね?

 議員連盟みたいなものがある。尊徳の勉強会みたいなもので、尊徳ゆかりの地の代議士が多い。メンバーは30人位、来るのは10人位だ。栃木の日光から出ている福田前知事もその一人だ。日光は尊徳が亡くなったところだから、尊徳博物館とか神社もある。私の場合は神奈川だが、尊徳の生家がある。

 尊徳は日本中に改革の軌跡を残してきた。第2の尊徳の人生は静岡の遠州だった。また福島の相馬藩とか、栃木、茨木の農村改革でも恵みを受けている。尊徳の孫の尊信は、最後、北海道に渡って開拓に携わった。十勝農協というのはまさしく、報徳精神でできたものだ。札幌を開発した大友も碁盤の目状の札幌の街を、報徳精神で作った。こうした尊徳の弟子たちが、全国で活躍した。

――政治にも徳が必要だと?

 政界で一番足りないものだ。舛添さんも、もう少し尊徳を勉強していればよかったね。

――2020年に東京オリンピックを控え、松沢議員は受動喫煙防止に積極的に取り込んでいます。

 僕が議員連盟を作った。オリンピックはスポーツの祭典で、健康的な都市環境で行う必要がある。国際オリンピック委員会(IОC)と世界保健機構(WHО)がスモークフリー環境を目指そうと協定を結んでいる。

 オリンピック会場では禁煙は当たり前、その都市に行って夕飯を食べたり、観光客も来たり、都市全体をスモークフリーの環境にして下さい、というのが大きな協定の目標だ。

 他人のたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」に対する規制強化は、世界的な潮流だ。受動喫煙との関連が指摘される疾患には、肺がんや心筋梗塞、脳卒中などが挙げられる。WHO報告によると、世界で毎年60万人が受動喫煙により死亡している。だから過去のオリンピック開催都市は、受動喫煙防止法とかタバコ規制法とかの条例ができている。

――被害者は多く深刻で、日本でオリンピックを契機にそうした被害を防止できたらいいですね。

 そうです。北京オリンピックでも、男性の喫煙率が50%を超えている世界一のタバコ大国中国で、北京市の受動喫煙防止条例ができた。今でもその条例は厳しく、屋内では全くタバコを吸えない。

 韓国ではピョンチャン五輪がある。ロシアもタバコ大国だがソチオリンピックの時に、プーチンはスポーツマンだから、ソチだけじゃだめ全国でやろうということで、タバコ規制法を作って今、ホテルでもレストランでも公共施設など、不特定多数が集まる室内空間は禁煙となっている。

 日本は先進国でゴミも少なく清潔な社会を作っているのに、タバコになるとダラカンだ。

 いわゆるタバコ利権が絡んでいる。財務省がその温床だ。普通、保健省とか公衆衛生省とか、医療をやる役所がタバコの行政管轄を担当する。

 タバコはし好品だが健康に害を与える商品だから、他国では厚労省とか保健省がタバコ行政を管轄しているのに、日本だけは明治時代の大蔵省の専売局時代からそのままだ。

――松沢議員はタバコ利権の実態に切り込む著書「JT、財務省、タバコ利権」を出版されています。

 日本が近代国家になる時、大蔵省はこれからお金が必要で、日清日ロ戦争でも戦費調達しないといけない。一番、金を速攻でとれるのは酒とタバコと考えた。生活必需品だから税率が上がっても、明日からやめようとはならない。特に酒とタバコは、アルコール中毒やニコチン中毒もあって、税率を上げても消費はそれほど落ちない。

 戦費調達にために一番金を集めやすい税目だった。これを今でも大蔵省は絶対手放さない。大蔵省専売局は戦後、あれだけの改革があっても専売公社となって生き残った。大蔵省管轄の公社だ。だから、常に公社のトップは大蔵省の天下りしている。

 それで中曽根行革の時に、ようやくJTとなった。だが株式を公開しただけで、株式の半分は大蔵大臣が持っている。だから政府の子会社でそれが続いている。

 タバコ農家も作ったタバコの葉は、JTが全量買い上げだ。こんな楽な商売はない。野菜でも米でも市場で競争する。タバコだけは葉は全部買い上げだ。国内での葉タバコの生産ではJTが独占している。ポリシュもブリティッシュタバコも、生産してはいけない社会主義体制だ。タバコの小売店は、全部財務省の許可が必要だ。

 だからコンビニでタバコを置きたいといっても、300メートル規制があり置けない。距離規制までやって、みんながつぶれないような仕組みを作った。タバコの葉は全量買い上げ、販売許可も財務省が出す。この利権を守りたいから、タバコ規制が強まると、タバコ消費が落ち利権が壊される。

 そのため日本でタバコ規制は遅れてしまった。私はこれに気づいたので、神奈川県知事の時、国がやらないのなら地方からやろうと、財務省と喧嘩しながら、県で受動喫煙防止条例をつくった。特にパチンコ屋さんとか旅館業界、飲食店業界からの反発は強かった。神奈川県のパチンコ屋でタバコが吸えないとなると、隣の大田区ではタバコが吸えるからと客は流れていく。湯河原でタバコ規制をやると、隣は熱海があるからそちらの方に客は流れていく。それで大反対運動が起きた。

 しかし、僕は旅館の女将さん達にも言ったけど、喫煙者はいやだろうが、空気がきれいな旅館ができるということは、逆に集客力につながる。喫煙者は全体の2割に過ぎない。8割は、熱海の旅館でタバコのにおいが全くしないメリットを享受したい。だったら湯河原に行こうと、逆に客が増えるケースもあり得ると。

――環境問題はぜひ、力を入れて頂きたいです。私達のエコリサイクル推進機構では、リユースやリサイクルで環境保護を図りながら、不用品の分別などで障がい者の雇用も創出しています。県知事の時、クールルネッサンス宣言も出されました。

 クールルネッサンスは県知事だった時、中田横浜市長とクールビズを仕掛けようとやった。日本で一番早く手をつけたのは横浜市と神奈川県だ。小池さんより早く、言い始めたのは僕らだった。

 日本ほど夏、蒸し暑い地域はない。ネクタイは苦しいだろう。ネクタイをはずし、失礼でないところでは上着も取っていい。冷房の温度を2?3度下げることもでき省エネになる。

 一番力を入れていたのは、神奈川の空気を全国で一番きれいにすることだ。受動喫煙防止条例で、タバコの煙を公の室内空間から排除した。勿論自宅とか、自分のオフィスなど他人に迷惑をかけないプライベート空間では個人の判断だ。民間の施設、レストランやカラオケボックスなど、他人が入って受動喫煙のリスクがある所を禁煙にした。

 一方、問題は屋外。それで電気自動車の普及に努めた。神奈川県は一番、電気自動車が多い自治体だ。東京より多い。

 神奈川に本社のある日産は、環境対応車戦略でトヨタやホンダに後れをとっていた。このままではジリ貧で、水をあけられると迷っていた。私はゴーン社長に「日産の将来を考えると、環境対応車でなければ自動車会社は市場から淘汰される。トヨタ、ホンダの先の技術で勝負しないといけませんよ」と話した。

 ハイブリッドというのは、電気で動くモーターとガソリンで動くエンジンを掛け合わせたものだ。低速では電気で走って、中高速ではガソリンで走り、燃費はガソリン車よりいい。だが高速道路で走ると排ガスは出る。

 その先の技術が電気で動く車だ。エンジンは使わない。これを量産化し普及できれば、自動車社会の革命が起きる。「日産はそれをやらなきゃ駄目です」と言って何度も口説いた。

 ゴーン社長の決断は早かった。半年経つと、日産は電気自動車で勝負したいとリーフを出した。リーフは、神奈川で製造するということで、産業支援の仕組みを作り、研究開発の施設準備に1?2割の補助金を出した。

 リーフはメイドインジャパンではなく、メイドイン神奈川だ。神奈川の厚木の森の里の研究開発施設で研究開発し、リチウムイオン電池はNECと日産の合弁会社エネジーオートサプライ(相模原)で作った。電極会社はNECトーキング、モーターは日産の横浜工場で作った。モーターと電極と電池を集めて、アッセンブリーラインを日産の横浜工場で行った。今では世界中で作っているが、初めは全て神奈川の日産の事業所で作った。

 これを神奈川で普及させようと、EVイニシアティブかながわを立ち上げた。神奈川県でEV車を購入すると、最大200万円までの補助をつけるというものだ。同等の能力の車でガソリン車が300万円位だとEV車は600万円位。この差があると誰も買わない。量産しないと自動車の価格は下げられない。

 開発から製造、製造から普及への道のりの中で、開発から製造の間には「死の谷」がある。さらに製造から普及には市場という大海原で自然淘汰される「ダーウインの海」があって、ここまで上っていくのが難しい。

 それを県がお手伝いし、リーフの購入者には200万円まで補助を出し、自動車取得税を電気自動車だけ無料にし、走っている時も、高速自動車料金を電気自動車は半額にした。県営の自動車駐車料金も半額にした。全て5年間を期限とした。

 すると、EV車にして本当によかったな。それじゃ友達にも勧めようか、と普及した。

 急速充電器は1 0 0 カ所。普通の100ボルト、200ボルトの充電施設は1000カ所以上となった。スーパーやコンビニにも電池を置いていった。

 になった。車を製造するだけではなく、普及させて空気をきれいにする。県知事としてリーフを応援するのが目的ではなくて、神奈川県の空気をきれいにすることが眼目だった。こうした環境政策はかなりやった。

――産業の育成と環境保護を同時に実現され、県民も喜び、理想的な展開です。他にも力を入れた政策はありましたか?

 森林環境税を導入した。丹沢の山が荒れ、みな森林の世話をしない。木材の輸入自由化で外材の方が全然安く、国産の木材は蚊帳の外に置かれた。それで日本の森林は荒れた。

 人工林を植林し育てて切って、切ったものを燃料とか建築資材に使う。これが林業だから、山を放って緑が多けりゃいいだろう、とはいかない。緑が多ければ多いほど山は荒れる。がけ崩れが多くなったり、下草が生えないままだ。それを切り出して、外材に対抗して売れるようにしようということで、山をサポートするために森林環境保全税というのを作った。

 森林環境保全税は森林がある高知県とか北海道でも導入している。だがこれらの県は一部の大きな企業を狙い撃ちした課税だ。これだとなぜ企業だけ課税するんだと企業は怒る。

 森林再生には、全ての県民が自分たちの水がめである水源を確保する意思を持つ必要がある。でも、今の県の財政では整備するまでの金がない。じゃあ、自分たちが少しずつでいいから負担しようと、所得の少ない人で年額600円程、多い人で1500円程とした。全国初めての大衆課税で、増税だから3年かかった。15年計画だから間もなく終わるが、これでどれだけ神奈川の森林が再生されるかだ。

――新しく増税を取り入れるのは中々難しく、よく県民に納得してもらえましたね。

 実は花粉症の人は、杉の花粉が原因だから、自然災害だと思っているが、完全に人災だ。そして行政の失敗だ。

 杉が増え過ぎている。木材の輸入自由化で外材ばかリ入り、国産材を切らなくなった。すると杉林がやせ細った幽霊林になって、生き延びるために余計に花粉を発生させる。それで花粉が異常に発生するということになった。これは森林整備をやってこなかった行政の失敗のつけだ。

 森林環境税もいいが、枝打ちし間伐して、どんどん下におろし、それを燃料や材料に使い、経済を回して金を生み出していく。その金を山の植林にも回していく。そうした循環を作らないといけない。

 神奈川県では花粉症対策も随分手掛け、少花粉杉、無花粉杉の開発も全国に先駆けてやった。

 2、3月になると鼻がグジュグジュする人はたくさんいるでしょう。その被害を半分以下にできる。花粉症で医療費として6000億円以上の金が使われている。半減させれば医療費を3000億円にできる。医療費削減のためにも、こうした政策をやらないといけない。

 ところが、日本の山は地主が個人で持っている。相続で代替わりし分からない山もある。所有権者を探し出すのも大変だ。また地主は山で商売が成り立つと思っていないから、高く買う人に売ってしまう。外国人や中国人が水源地を買い漁っているのと同じだ。中国は水がないから日本の水源地を買い、日本の水で水商売ができる。安全保障の観点も全くないまま、売買が行われている。その規制を始めたのが北海道だ。

――二宮尊徳はお金を生み出すアイデアが豊富で、その知恵で人々を救いました。松沢議員の話を伺っていると、尊徳が議員の中に如実に生きているように感じます。

 知事は全てを勉強しないといけない。議員は得意分野だけでもいい。若さだけで当選できることもある。だが首長は福祉も教育も街づくりも、人事も、いろんなことを勉強してマネジメントをやらないといけない。

 そして教育が重要だと最後に申し上げたい。歴史教育がポイントとなる。日本人は歴史を勉強しなさ過ぎる。神奈川県知事の時、高校で日本史必須を取り入れたが大変だった。日教組が歴史教育復活なんて何事かとなった。

 驚くことにPTA会も反対に回った。なぜかと思ったら、娘、息子は受験でいい大学に入れたい。共通一次試験にしろ受験で大事なのは理数国だ。それ以外で受験勉強に費やす時間が奪われると困る、と。

 僕はびっくりしたが、そんな中でも歴史必須ができた。

 下村文科大臣に2年半、この歴史教育を言い続けた。大臣も重要性は認識していたが、現実には壁が立ちはだかっていた。しかしお辞めになる直前、中教審に高校日本史必須化と近現代史という新科目の設定を諮問した。今度の学習指導要領の改定では、高校教育で日本史や近現代史が復元する。

 先輩達がどういう思いでこの国を作ってきたかを知らないで、今を生きる私達が何をすべきかは考えられない。先輩達の努力により自分達が生かされている。この国にとって重要なことを将来世代に伝えていくべきで、往時に学び、現代を生き、未来に伝えていく縦軸指向の人間を作るには歴史が重要だ。

 今の若い人は横軸指向だ。前の世代と関係ない。子孫も関係ない。今が楽しければいい。これこそが国家の危機だ。高校では日本史は必須ではない。世界史か地理だ。中学の日本史にしても3学期、江戸時代あたりで終わる。縄文、弥生からスタートするからなかなか近現代史にいけない。

 今の若者は中学では近現代史までいけず、高校で日本史をとっていない。幕末から明治維新まで、何にも勉強しないで大人になっていく。「日本と中国、戦争したんですか」と真顔で聞いてくる子がいますから。

――日本がアメリカと戦争したことを知らない子ども達もいるほどで、大変心配です。

 そうだ。ところが、中国は近現代史を徹底して教えている。先祖はこれだけ領土を取られ、これだけいじめられた。南京ではこれだけ殺されたと、嘘の数字を子ども達に教えている。

 内政が悪化し内紛が起きては困るから、日本と言う「悪い国」を叩くことにより自分達を正当化する。あの「悪い国」を追い出して、中華人民共和国を作ったのが共産党だ。その共産党こそ尊敬すべきだと教えている。

 こうした近現代史を勉強した中韓の学生と、一回も勉強したことのない日本の学生が交流しても会話がそもそも成立しない。今はそういう危機が存在する。

 日本を立て直すには中長期的に、歴史教育をやり直す必要があると痛感している。

――骨太のお話し有難うございました。知事としての実務経験をお持ちで大きな強みだと思います。また政治家は憲法議論から逃げてはいけないし、若者への歴史教育も必要です。さらに利権構造を打ち破る勢力の出現を国民は待望しています。今後のご活躍を期待しています。


まつざわ  しげふみ

 1958年4月2日、神奈川県川崎市生まれ。慶應義塾大学法学部卒。松下政経塾第3期生。米国メリーランド州で、スティーブ・サックス州司法長官のスタッフ。神奈川県議会議員、衆議院議員、神奈川県知事を経て現在、無所属の参議院議員。文教科学委員会所属。明治大学兼任講師、一般社団法人首都圏政策研究所代表理事、一般社団法人スモークフリージャパン代表理事。著書に『教養として知っておきたい二宮尊徳』『JT、財務省、たばこ利権』『甦れ!江戸城天守閣』など多数。座右の銘は「破天荒力」。

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