トップページ >

今月の永田町

総裁任期、3期9年に延長

動き出すポスト安倍候補

 自民党は10月下旬、総裁任期を「連続3期9年」に延長することに決めた。延長論が出てわずか3カ月。政治制度改革実行本部での議論に反対論が出ずスピード決着となった。これにより、安倍晋三首相(党総裁)の3選が可能になる環境が整った。ただ、安倍首相からの禅譲を期待していた岸田文雄外相や、総裁任期の切れる再来年(2018年)9月の決戦に照準を当てていた石破茂前地方創生担当相は「5年後までは待てない」と地方票固めに動き出している。


 自民党が総裁任期を2期6年から3期9年に延長したことで、安倍首相が再来年9月の総裁選に出馬することが可能となった。それだけでなく、勝利すればさらに3年後の2021年9月まで総理・総裁となる道が開けたのである。延長に反対論はほとんど出ず、国政選挙4連勝と選挙に強い首相「1強」による党運営に400人を超える自民党国会議員がOKしたことになる。

 「安倍さんが残りの任期2年に加えて、3選しこれから5年務めるとなると、戦前最長の桂太郎、戦後最長の佐藤栄作を超えて歴代最長となる」と指摘するのは自民党中堅だ。しかし、アベノミクスの今後の展開、PKO駆け付け警護付与による人的被害の発生、不透明な北方領土返還の行方など不安材料も多く、「決して安倍首相の3期9年が決まったわけではない」と同氏は慎重な発言をする。

 加えてポスト安倍と目される岸田外相が、再来年の総裁選に安倍首相が出馬する可能性が出てきたのであれば、いつまでも禅譲を期待して「待ちでいるわけにはいかない」(岸田派幹部)のは当然だ。

 岸田氏は再来年の総裁選を視野に入れて11月から地方行脚を開始した。地方の票固めが必要と判断したからだ。宏池会研修会初日の11月5日、沖縄の平和記念公園を訪れ国立沖縄戦没者墓苑で献花した。ハト派路線をアピールする狙いがあったという。23日には東日本大震災で被災した宮城県のカキ養殖業者を支援する催しに参加する。外交日程をこなしながら月に1回程度地方巡りをする計画だ。

 岸田派としては、4年間外務大臣として首相を支え、さらにあと2年弱仕えて禅譲されるとの戦略だったが、「さらに3年間もご奉公するなんてとても待てない」との声が派内に充満してきた。しかも、首相による稲田朋美防衛相ら若手指導者養成の力の入れ具合を見ていると、本当に禅譲されるか定かでない。首相が支持率アップの切り札と考えている日露関係は、側近の世耕弘成・ロシア経済分野協力担当相に任され、領土交渉を担当してきた外務省は事実上、蚊帳の外だ。「これからは存在感をアピールして戦い取らねばならない」との主戦論が同派の主流になったのである。

 これは、ライバルの石破氏も同様だ。前回12年の総裁選で石破氏は、地方票165、国会議員票34で一位となった。安倍氏は地方票87、国会議員票54で2位だった。二人とも過半数に達しなかったため、国会議員による決選投票で安倍氏108、石破氏89で安倍氏が辛勝した。

 「このとき、石破さんが悟ったのは、政調会長をクビになり地方を懸命に回ったことで集めた地方票の威力だ」と語る自民党幹部は「石破さんが幹事長時代に、総裁公選規定を自分に有利に変えたことで自信がついている」と指摘する。次回の総裁選から決選投票の際には、国会議員票だけでなく、国会議員票と同数にそろえた地方票も加算するという仕組みにしたのだ。これを前回の総裁選に適用すると俄然、石破氏が有利になる。

 石破氏は今夏の内閣改造で農水相での入閣要請を断り、反主流の立場を鮮明にして次期総裁選出馬への覚悟を示した。その上で地方での講演を精力的にこなし、メディアへも積極的に登場している。党内では総務の立場で、最終決定事項に注文を付けたりして存在感をアピールしている。「意見を言わなくなったら誰が国民の意見を反映するのか」。これが石破氏の持論で、総裁任期延長論が出始めたころは「政権は長くあると劣化する」とか「最優先課題ではない。なぜ今、議論する必要があるのか」と述べて反対姿勢を示していたのである。

 これに対して安倍首相は、二階俊博幹事長とともに地方の若手の議員に「日頃から、しっかり選挙活動をやるように」との檄を飛ばしている。「解散・総選挙が近い」と二階幹事長が繰り返し危機感を煽ったのも、当選1、2回の若手議員らが「のんびりしている」(事情通)からだ。

 確かに安倍首相の人気で当選してきた議員は数多い。その安倍チルドレンたちに活を入れることで、安倍氏の地方固めが進むという算段なのだ。実際に選挙があれば最高指揮官となる現職の首相は、総裁選にこれまでも強かった。過去、現職が敗北したのは、福田赳夫が大平正芳に負けた1回ぐらいだろう。1978年の総裁選は角福怨念戦争とも言われ、田中角栄が福田憎しと、大平を全面的に応援。総裁予備選の段階で福田をねじ伏せた。あとはみな現職が勝利している。

 それに「安倍首相の後は安倍首相」と言って憚らない二階幹事長が党内ににらみを利かしている。二階氏は77歳と高齢で今さら総理ポストを狙うはずはない。首相にとっては最も信頼できる側近なのである。その二階氏が選挙になると公認決定権を持ち資金面でも力を発揮する。支持率の高い安倍首相と最も有力な幹事長が手をつなげば、強力なことこの上ない。これを打破するのは岸田、石破両氏にとって至難の業に違いない。当面は、コツコツと地方行脚を続けて支持拡大を図ることになろう。

この記事のトップへ戻る