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年内の「無条件」平和条約締結

安倍首相にプーチン大統領の突発提案
4島返還の道筋は暗中模索

安倍首相は9月10日、訪問先のロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と2時間35分会談した。両首脳は、わが国固有の領土である北方4島での共同経済活動の実現に向けた「ロードマップ(行程表)」を取りまとめ新たな一歩を踏み出した。だが、12日にはプーチン大統領は年末までに「無条件」で日露平和条約を締結するよう首相に突然呼び掛けた。4島返還の道筋は全く見えないままの発車となった。

 両首脳が一致したのは、温室野菜栽培や観光、風力発電など5項目の実施に向けた作業の進め方だ。現地調査団を10月初めに派遣することも確認した。この構想は、2016年12月にプーチン大統領が来日した際、安倍首相と「北方4島で日露が共同経済活動をするための『特別な制度』について交渉を開始することで合意した」ことを具体化したもの。
 会談後の記者発表で首相は、「双方の法的立場を害さず、できることから実現する。こうした変化を積み重ねた先に目指す平和条約がある」と述べたが、これは従来の「4島返還後の平和条約締結」という政府方針を転換したものだ。プーチン大統領も「短期間で解決できると考えるのは稚拙だが、双方が受け入れ可能な解決策を模索する用意がある」と安倍発言をフォローし、柔軟な姿勢を示した。
 だが、この両首脳の〝歩み寄り〟が北方領土問題の解決につながるかは疑わしい。「2人の首脳会談は22回目。腹の内が分かって話を詰めている。軍政と民政を分けて統治された沖縄方式が念頭にあるのではないか」と指摘する政界関係者もいる。
 しかし、沖縄のケースは、日本人が返還運動を盛り上げたが、北方4島の住民はロシア人で、日本人は訪問することすら自由にできない。それどころか、4島の軍事拠点化が加速しているのだ。
 その一例として、時事通信がサハリン州のメディア「サハリン・インフォ」(8月3日付)を引用した情報によると、4島の一つの択捉島にロシア空軍のスホイ35S戦闘機が試験配備された。択捉には旧ソ連時代はミグ戦闘機が常駐していたが、ソ連崩壊後に撤収された。スホイ機が本格配備されればそれ以来の常駐となる可能性があるという。同島ではまた、最新鋭の地対艦ミサイル「バスチョン」が実戦配備され、国後島にもこのほど、新型の地対艦ミサイル「バール」が移送された。国後島への対艦ミサイル配備は初という。
 ロシアのウシャコフ大統領補佐官は会談に先立つ5日、平和条約締結交渉について「クリル諸島(千島列島と北方領土のロシア側呼称)は第2次世界大戦の結果、ソ連、そしてロシアに合法的に編入された。この立場で日本と協議する」と語り、領土返還交渉で譲らない姿勢を強調。共同経済活動も「ロシアの法律に反しない場合のみ可能」(モルグロフ外務次官)との厳しい立場を主張していた。またロシア側の学者は、「最近のラブロフ外相らの発言を聞くと領土問題が前進する気配はない」(クジミンコフ・ロシア科学アカデミー極東研究所上級研究員)と分析しているのだ。
 それでも、三井物産、三菱商事、丸紅など大手の日本の商社は日露関係の軟化を好機とばかりに、大型の事業計画に参画しようと競い出している。ロシア側はさらに大きな事業計画に参入するよう誘導している。12日にはプーチン大統領が年末までに「無条件」で日露平和条約を締結するよう突然、呼び掛けた。菅官房長官は「北方4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する基本方針の下、引き続き粘り強く交渉する」と語りながらも、「大統領の発言は承知しているが、意図についてコメントすることは控えたい」と述べるにとどめた。果たして「その先に平和条約がある」という首相の描くシナリオに誤りはないのか。
 外交交渉でやり直しのきかないことを首相は肝に銘じなければならない。

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