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「幸せの国」ブータン留学生の日本における不幸せな就労事情

 海外から技術、知識の習得を名目に技能研修生を日本に受け入れ、現実には単純労働に従事させるというケースが多発したことがある。
 研修生に支払われるのは「研修手当」であって「賃金」ではないため、3Kの現場でケガなどをした場合、労災の適用を受けることが容易ではない。
 これと構造は似ているものの、もっと悪質なブータン留学生を食い物にした詐欺まがいが横行している。
 ブータンは昨年から国策として、日本への留学生送り出しを推進している。
 昨年春以来、735人のブータン人留学生が来日、日本語学校に入学した。南アジアに位置し人口80万人の小国ブータンからすると、700人以上の留学生を送り出すことは大変なことだ。
 国民の97%が「私は幸福」と答えるとされる「幸せの国」ブータンから、国の期待を担い留学生として送り出されたブータンの若者が直面している日本での現実は、バラ色のジャパンドリームからはほど遠い、重荷を背負って呻吟せざるをえないものだった。
 ブータン留学生の多くは、留学費用のために国から借りた200万円ほどの金を返すため、複数のアルバイトをかけもちしながら働いている。本来なら授業料を稼ぐため、授業のない時間を見計らってアルバイトに精を出すのが通常だが、ブータン留学生の場合は本末転倒で、本来の目的の勉強ができなくなるほどの就労状況だというのだ。中には留学生のアルバイトとして認められる「週28時間以内」という法廷上限を、オーバーして働いている人もいる。
 そうせざるをえない理由は、ブータンの留学生斡旋ブローカーの暗躍にある。
 留学ビザの取得には、アルバイトなしで留学生活を送れる経費支払い能力が求められる。
 しかし、留学希望者の家族の多くは、そんな経済力はない。そこでブータンの留学斡旋ブローカーが、預金残高や収入をでっち上げた書類を準備。さらに「留学費用の借金だって、高い賃金の日本で働けば短期間で返済できる」といったブローカーの甘い言葉に騙されて日本へ留学するケースが目立つ。
 しかも、留学斡旋ブローカーは日本人であり、ブータン労働人材省から免許を得ている。契約書にも、「ブータン労働人材省が、渡航前の語学研修費用は負担する」という同省のお墨付きを証明する言葉さえある。
 同省が昨年から始めた日本留学制度「The Learn and Earn Program」(学び・稼ぐプログラム)は、ツェリン・トブゲイ首相率いる国民民主党が掲げた公約の1つ「若者の失業対策」の延長線として始まった。ブータン全体の失業率は3%程度だが、15〜24歳の若年層に限っては10%以上とされ、とりわけ若者が求めるホワイトカラーの仕事が不足している。
 ブータンでは大卒でも求職は困難を極め、職を求め海外へ渡るケースが目立つ。
 主な渡航先は中東諸国やオーストラリアで、モールなどの店頭で働くケースも少なくない。せっかく大学を出ているのに、その能力が活かせないのだ。
 そうした事情下で留学斡旋ブローカーは、日本に留学して日本語学校を修了すれば、大学院に進学したり、専門の仕事に就けるとも誘った。
 しかも、日本語学校で日本語を勉強しながら、大金が稼げるという。これで多くの低所得者層の家庭から留学希望者が同プログラムに殺到することになった。
 だが、このプログラムには甘い疑似餌で、人を釣りあげる仕掛けがあった。
 労働人材省と連携した留学斡旋ブローカーが当初示す契約書には、日本での収入や就職を保証する好条件があった。そして契約締結後、渡航直前になって内容の異なる契約書を持ち出し、留学希望者に再びサインさせているため、留学斡旋ブローカーの法的責任は逃れることができ、しかも、自らは濡れ手に粟の金を手にしているのだ。
 なお、日本のブータン名誉領事館にはブータン側から何一つ連絡がなかった。通常、これほどのブータン人が日本に入国するなら、大使館業務を代替している名誉領事館にも通達があるのが普通だろう。日ごろ、各名誉領事館は日本在住のブータン人の安全と健康のためにも務めている。
 今回の件を、緊急手術を要するブータン留学生の相談を受け、初めて知った徳田ひとみ名誉総領事は、「本国の一連の姿勢に違和感を覚えた」と言う。

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