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今月の永田町

厚労省の「隠ぺい」工作疑惑
異例の予算案の閣議決定やり直し

厚生労働省による毎月勤労統計の不適切調査が昨年末に発覚し、来年度予算案の作成に影響が出たとして政府は閣議決定をやり直し予算案を修正する異例の事態となった。それだけではない。真相究明のために厚労省が設置した特別監察委員会に同省の身内がいたとして野党側が「身内調査だ」と猛反発。新たなメンバーで再調査をすることになった。さらに、統計不正問題は今回の厚労省不正を機に他省でも次々と疑惑が表面化してきており、大半は法違反が濃厚だ。このため政府は、国会開幕冒頭から受け身の対応を迫られている。

政権揺るがし波乱予想も

 厚生労働省が行ってきた毎月の勤労統計とは、国勢統計や国民経済計算と並び、56の基幹統計の一つに位置付けられる重要なもの。民間などの賃金、労働時間、雇用状況の変化などを把握し、調査結果が、政府の「月例経済報告」での景気判断や、地方自治体の政策立案、国民所得の算定、雇用保険や労災保険の給付額の改定などに利用される。その統計に不正があり野党側は「アベノミクス偽装だ」などと批判しているのである。
 この統計は、従業員500人以上の事業所については全てが調査対象となっている。ところが、「全数調査にしなくても精度が確保できる」とした作業要領が2003年には作成され、実際に都内の事業所は約3分の1に絞り込んだ調査が行われていたのである。
 一体、誰が何の目的で作業要領を作成したのか。また、その記述が04年になって削除されたのは何故か。ここに第一の「隠ぺい」疑惑が存在する。さらに、16年になると、厚労省が総務省に提出した厚労相名の申請書類に500人以上の事業所は「全数調査」を継続すると記載された。そして、翌17年、厚労省が本来の手法に近づけようとデータ補正に必要な準備を開始し、18年1月分調査から実際に補正を行った。
 「これは問題の所在を明確に認識した省内幹部の指示で行ったもの。複数の幹部クラスが関わった組織的隠ぺい工作と言われても反論できまい」と与党幹部は語る。
 だが、問題は国民にも直接及ぶ。これらの不正統計に基づいて算定される失業手当や育児休業給付、労災保険などで給付が過少だったことが明らかになったのである。その数は延べ約2015万人にも上る。しかも、対象者が延べ約1942万人に上る雇用保険では1000万人以上の住所が分からず、受給者に追加給付の通知を郵送できない、というのである。
 政府はこれに対処するためにも、雇用保険などの給付が本来よりも少なかった延べ2015万人・30万事業所に、総額564億円を追加給付し、2019年度予算案の一般会計を昨年12月の決定時よりも6・5億円増額し、101兆4571億円にするという閣議決定をやり直したのである。だが、これは異例中の異例のことだ。
 厚労省の不手際はさらに深刻さを増す。厚労省は事実解明のための有識者による特別監察委員会を設置したとし、調査報告書を22日に公表した。その結果、厚労事務次官と審議官を訓告、担当部署の責任者を務めた幹部ら20人を減給などの処分とし、根本匠厚労相も大臣就任時から1月までの給与4カ月分と賞与1回分全額を自主返納することになった。  しかし、その報告書は一部に統計法違反に当たる不正な手法のあったことは認めながらも「隠ぺいしようとする意図までは認められず」とした点が疑惑を生んだ。24日に行われた衆参両院厚労委員会の閉会中審査で、一部の調査対象者への聞き取りを厚労省職員同士が行い、監察委の報告書の原案も同省の事務方が作成したことが判明したのだ。「どうも素早い調査だと思った。1週間で隠ぺいがなかったと結論付けられるのは不思議だと感じた」といった批判が野党側から噴出した。
 例えば、立憲民主党会派の大串博志衆院議員は「第三者の土台が壊れている。虚偽報告書だ」とし、報告書の撤回を求めた。同党の石橋通宏参院議員は「こういうのをお手盛りという。厚労省の内部調査だ」と批判した。
 こうしたことから、厚労省は再調査を余儀なくされたのである。さらに、自民党平河クラブにおける二階俊博幹事長への記者質問に象徴されるように、厚労省の分割論が再浮上してきた。自民党の小泉進次郎衆院議員(厚労部会長)も「解体的出直しという気持ちを持たなければならない。分割がいいのか、複数大臣制がいいのか。このままでいいとは誰も思っていない」と述べている。この問題を野党も追及する見通しだ。
 さらに野党側を勢い付かせる新たな材料が出てきた。総務省が24日、厚労省の不正統計問題を受け56基幹統計を点検した結果、勤労統計を含む22統計で延べ31件の不適切な処理が判明したと発表したのがその新材料だ。
 それによると、総務省が3、財務省1、文部科学省2、厚労省4、農林水産省2、経済産業省3、国土交通省7がそれに該当していた。国土交通省の大手50社を対象とする建設工事統計では、企業が誤って2ケタ多く報告した数値をそのまま掲載するなどしていた。各所管大臣は口をそろえて反省の弁を述べるが、霞が関全体の調査不信に発展しているのだ。
 これを受けて、攻め手を欠いていた野党は攻勢を強めている。立憲民主党の枝野幸男代表は不適切な復元処理を始めた昨年1月に厚労相だった自民党の加藤勝信総務会長の国会招致を求めている。加藤氏と言えば安倍首相の懐刀だ。国民民主党の玉木雄一郎代表は「根本匠厚労相の責任が厳しく問われる。隠ぺいの意図があったとすれば、辞任に値する」と語っている。
 安倍首相は「皇位継承を迎えるにふさわしい国会にしたい」と語り、与野党対決型の国会を避けたい意向を示したが、その思惑通りにいくことは困難な情勢だ。

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