トップページ >

巨象2頭が戦えば草むらは荒れる
米中覇権争い、日本の行くべき道

 米中が激しい貿易戦争を展開している。
 その激しさの根源は、貿易問題を超えて世界の覇権をどちらが握るのかというものでもある。
 中国が米産物を購入し、米国の貿易赤字削減で一定の進展が見られても、それで終わらないのが今回の軋轢だ。
 閣僚級協議など、両者の争いの小休止の演出はあるだろう。しかし、ハイテク技術やサイバー攻撃といった問題は、中国の経済のみならず安全保障、覇権争いとも絡むだけに簡単には収まらない。識者によると20年戦争、30年戦争との予測もある。
 米中グレートゲームは、民主主義と共産主義の争いとは違う。政治的イデオロギーは前面に出ていない。トランプ大統領にしても民主主義の拡大を言っているわけでもない。あくまで自国第一主義という利害に基づいたパワーゲームだ。
 米国からすると、中国が不公正な形で米に挑戦を挑み、米は世界経済において不利益を被っている、との考えだ。
 米は中国を自由経済の中に入れ、世界貿易機構(WTO)加盟する際にも、後押しをした経緯がある。だが、中国はWTO加盟国の経済的メリットを十分に吸い取りながら、その義務を果たすことには熱心ではなかった。さらに、中国が経済的発展しても、社会の自由度は全く高まっていない。それどころか、新彊ウイグル自治区やチベットに見られるように、宗教の弾圧や監視カメラや顔認証システムといったハイテク技術を駆使した監視社会といった警察国家を現出させている。
 しかも最近では、国際秩序に反することも平然とやる。
 一方の米国が理想的社会構築に成功しているかというと、道徳心が後退した格差社会の実態など、こちらも疑問符がつく。
 グローバル経済の問題は、成功者が非常な富を得て、国内格差が拡大してしまうことだ。是正する場合、民主主義はいろんな意見を聞き届けないといけないシステム的制約がある。利害調整が必要で、時間がかかり、対応が遅れてしまいがちだ。
 2016年の米大統領予備選で、民主社会主義を掲げるバーニー・サンダース氏が躍進、急進的革新勢力が台頭したのは、こうした社会的背景があったからだ。
 その点、政府の力が強大な共産主義は、国民の意思のとりまとめというより、トップダウンで意思決定できる利点がある。
 民主主義が倫理的に優れているとは片付けられない問題が、そこには潜んでいる。
 共産主義というのは、ある時代には訴求力をもった。ただ歴史的には、一党独裁に走りやすく、言論や結社・宗教の自由がなく、抑圧がつきまとう強権的政治というのが認められる。とりわけ軍事力を背景にした強権を持つことから、汚職や政治腐敗は深刻だ。その点、民主国家、自由経済のほうが国家全体の富を蓄積でき、優れている。
 なお、国の力は、3点に集約できる。強大な軍事力と経済力、さらに国際秩序というルールを作り出す力だ。覇権国家が世界に認められるには、とりわけ最期の国際ルールを作り出す能力と識見が問われてくる。
 米国が世界から敬意をもって見られていたのは、自分が一旦決めたルールには忠実に守り続けた紳士だったからだ。
 その米国はトランプ大統領になって、環太平洋経済連携(TPP)協定やパリ協定から離脱し、国際ルールからの撤退を始める。
 その間隙を縫うように中国は、台頭していく。しかし、その中国にしても一帯一路構想など、「債務の罠」を使った港湾取得などダークな側面が露呈している。
 こうした狭間でわが国がとるべき道は、まずは安全保障の担保となる。その意味では日米同盟を堅固なものにすることが第一義となる。
 さらに、中国には知的財産権侵害問題とか安保の面で、いうべきことはいわないといけない。
 また、米国はかつての自由世界の盟主時代とは違って、自国第一主義的傾向を強めており、そうならないように働きかけが必要、巧みな外交手腕が問われる。
 巨象同士が戦えば草むらは荒れる。わが国は、荒れた草むらになってはいけない。

この記事のトップへ戻る