米国新労働事情「ゴースト」現象 連絡なし突然「退職」社会風潮に
デートの後に、相手と全く連絡がとれなくなることを米国では「ゴースティングされる」という。
さらに最近、突然、職場に来なくなる人が「ゴースト」と呼ばれるようにもなっている。
多くは若者だが、突然、出勤してこなくなり、メールしても返信はなく、電話にも出ないといった連絡がつかないまま、プツリと消息を絶つというケースが目立つという。
日本語だとドタキャンを意味する「ブッチする」というところかもしれない。
これが一部の企業の問題ではなく、社会現象ともいわれるような状況がある。昨年、米連邦準備制度理事会(FRB)の報告書に「ゴースト」という言葉が初めて登場した。
いろんな企業への聞き取りをまとめた現場感覚のリポートだが、雇用情勢が逼迫していて、多くの会社が人を採用するのに苦労している。そうした中、いくつかの企業からは「ゴーストに遭遇した」というリポートが目立ったのだ。
これは若者特有の気まぐれということはあるかもしれないが、最近は景気がいいため、辞めても次の職場は簡単に見つかることが大きい。次の職探しに困らない状況の中、辞めるのに上司ともめたり、面倒なさまざまな手続きに煩わされたくないのは誰しもが思うところかもしれない。
とりわけ、ネット通販の倉庫だとか量販店の仕事など、労働のきつさの割にはやりがいや充実度に欠ける業務で多いとされる。
ここでは、人があまり大事にされない労働の質がありがちだが、それゆえに何の連絡もなく辞めていく「ゴースト」が目立つとされる。
最近の米国の雇用統計によると失業率は3・9%、これは日本の2・2%に比べると確かに高いものの、少し前までは3・7%と1969年以来、50年ぶりの低い水準だった。
また、時給の平均は前年比で3・2%上昇、これは3カ月連続で3%を上回る堅調な伸びとなっている。
つまり賃金は確実に上昇し、労働市場は売り手市場となっていて、特にレストランなどの外食産業だとか、衣料品店や量販店など、小売現場では人手不足が顕著となっている。
ラスベガガスやロスなどでは、多くの店の玄関に「ただいま、職員募集中」との看板を目にするようになっているし、就職説明会も頻繁に開催されてもいる。
中小企業経営者を対象に、労働者が長く働けるようなコンサルティングセミナーが開催されたり、企業への忠誠心を高めるために表彰したり、いろんな一工夫を紹介するセミナーも頻繁に開かれるようになっている。
景気がよくてジョブホッパーには好環境の昨今、この「ゴースト」現象はしばらくやみそうにない。
なお、米国では、若者の引退も増えている。こうした運動を「ファイアー」運動と呼ばれている。
「ファイアー」とは「ファイナンシャル・インディペンデント」を縮めたものだが、直訳すると「経済的に自立して、早く引退しよう」というものだ。
トランプ大統領お得意の「ファイアー」(首だ!辞めてしまえ)の意味ではない。
会社を早く辞めて、あとは貯めた貯金の運用で暮らすとか、好きな趣味の世界で暮らしていこうとかとった人生に踏み出そうとするものだ.
わが国では年初、スーパーなどの小売りで正月休みをとるところが目立った。安倍首相が旗を振る「働き方改革」の影響だが、米国の「働き方改革」は上からではなく、庶民レベルの下からじわりと変わってきている。