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松田学の国力倍増論

第16回 「九」の年に問われる日本の覚悟

 西暦二〇一九年、10年区切りで考えれば21世紀は2ステップ目を終えつつあり、日本では今年、平成時代が終わる。前世紀末の90年代からこの30年、世界はグローバリズムの世紀であり、日本はバブル崩壊後の失われた何十年の中で新秩序を模索する時代だった。

「九」の年は時代を画する年

 筆者は昨年のちょうど今頃、二〇一八年、「八」の年は、前年の「七」の年の出来事を契機に起こった現象が、その後、継続的に広がり始める年になるということを発信していた。過去を10年ごとに振り返ると、二〇〇八年は前年〇七年からのサブプライム危機がリーマン・ショックにつながった年。その後の長きにわたり世界経済は停滞が続くことになった。一九九八年は、前年九七年11月の大手金融機関の破綻を契機に、日本の本格デフレが始まった年だった。一九八八年は、前年八七年10月のブラックマンデーを経て、多くの日本人がバブルの好景気を実感し始めた年となった。
 まさに昨年は、これからの大きな潮流が始まる年という意味では、そのような「八」の年の予測どおりになったことを思わせる年だった。国際社会では、前年〇七年に先鋭化した北朝鮮問題に関して、南北会談やトランプ・金正恩の米朝首脳会談が朝鮮半島の今後の秩序形成を胎動させたかにみえる。〇七年に誕生したトランプ大統領の一国主義が保護主義の形で世界を揺るがし始め、米中貿易戦争、ペンス副大統領演説、そして情報技術覇権をめぐる「米中冷戦」時代へのシフトが始まったのも昨年だった。日本国内では、外国人受入れへの転換やグローバリズム終焉の象徴とも言われるゴーン氏の逮捕など、いずれも、従来の秩序が大きく変動する予兆を感じさせる出来事が次々と起こった年となった。
 では、今年「九」の年はどんな年になるのか。過去を振り返ってみると、一九八九年はベルリンの壁の崩壊、マルタ会談での米ソ首脳による冷戦終結宣言、日本では平成時代の始まりと消費税導入の年だった。その後、30年を経て、冷戦体制終結で本格化したグローバリゼーションには転機が訪れ、再び、今度は米中間の冷戦体制に入りつつあり、日本では平成時代が終了し、消費税率も10%に到達して一つの節目を迎える。一九八九年は、その後の30年の時代が始まった年だったといえよう。一九九九年は欧州ではユーロの導入、日本では省庁再編が国会で決まった年であり、二〇〇九年は米国ではオバマ大統領の誕生、日本では民主党への政権交代の年だった。その後、これらは大きく時代を動かしたが、いずれも、前年までの潮流が形として具体化し、時代を画する出来事が起こる年だった。

新たな国際秩序への動きと 日本の立ち位置

 だとすれば、今年二〇一九年は、前年一八年に広がり始めた内外の潮流が明確化する年だと考え、私たちがこれに本格的に向き合い、具体的な行動へと歩み出すことを迫られる年だと捉えるべきであろう。基本は、世界で強まる反グローバリズムへの動きや、「海洋国家」(日米英+インド太平洋)対「大陸国家」(中露+仏独)、あるいは、「アングロサクソンファイブ+日仏独」対「中露」対「GAFAなどのプラットフォーマー」とも言われる対抗軸の形成に対して、日本がどのような立ち位置を採るのかにある。
 その中で一ついえるのは、米国が一国主義なのであれば、日本は日米同盟を基軸としつつも、安全保障でも経済戦略でも米国へのおんぶに抱っこから少しでも脱皮する必要があるということだろう。折しも昨年末には日本主導による米国抜きTPPイレブンが発効に至った。今年2月には日・EUのEPA(経済連携協定)も発効し、本年内に中国やインドを含むRCEP(東アジア地域包括的経済連携)も妥結に至れば、日本が世界の自由貿易経済圏の「扇の要」となる形で米国保護主義に対する包囲網が形成される。
 他方で、中国が主導する異質の秩序構築への牽制としては、日米欧の結束により知的財産やデジタルエコノミーなどの分野でも自由な秩序づくりの推進に注力する。こうした外交面の複雑な連立方程式を前に日本に問われるのは、世界の秩序形成に日本としていかなる主体的意思を示し、国際社会でのポジションを獲得していくかである。
 今年は早速、韓国の問題が露呈したが、朝鮮半島の問題のポイントは、その地域を背後で動かす中国やロシアだとされる。米朝会談で金正恩の手玉に取られているかに見えるトランプ大統領も、このところ対中国圧力外交に重点を移しているのは、このことが背景にあるとされる。いま米国は中国を経済的に締め上げて徹底的に弱らせようとしている。
 そもそも、現在の米国は日本人の想像以上に超大国からの衰退が著しいようだ。オバマ民主党政権の時代に中国に対する軍事的優位も失ったとされる。トランプが「一国主義」を唱えるのは、米国がまずは自国の体制の立て直しを迫られているからであり、保護主義も米中関係リセット宣言も、情報技術を盗みダンピングで大量輸出をして米国の富と雇用を奪う中国の不公正を抑止しないと、自由貿易も成り立たないからだという見方もある。
 ただ、米中冷戦といっても、両大国間に経済関係がなかった米ソ冷戦時代とは状況は大きく異なる。中国も含めて世界中が相互依存関係を深めてしまった現在、世界のブロック化につながる反グローバリズムという規範的価値は、事実として進んでいるグローバリゼーションとの間に大きな齟齬をもたらす。これが早速、一昨年までは長期上昇局面とも言われた世界経済に不透明感をもたらし、株価も下落。リーマン以降、世界的に未曽有な規模に膨張したマネーが何らかのきっかけで急激に収縮するリスクが高まっている。

リアリズムに立った新しい国づくりを

 ここで問われてくるのはトランプ氏の大統領としての見識であろう。現在、ホワイトハウスの意思決定から外されている国務省に代わって、国際協調でトランプを支えているのが安倍総理だと言われる。皮肉にも、それは日本に前代未聞の外交力を持たせることになったが、世界秩序の転換点にあって日本に問われているのは、国際政治の現実を冷静に見抜く眼と、リアリズムに基づいて自らの国益を追求することへの覚悟であろう。
 かつては石油や金融だった世界の戦略分野は、いまや情報へとシフトしている。今後の国際秩序を決めるのはデータ覇権。米中やGAFAがこの分野を主導する中で日本はどうするのかがポイントとなる。そこで大事なのは、インターネット革命の次なる革命として世界的に進行していく「ブロックチェーン革命」にどう向き合うかだろう。実は、日本には自国の国柄を映じた独自の情報技術活用の道がある。例えば、「課題先進国」としてブロックチェーンの社会実装で先手を打ち、新たな社会モデルで世界の範となる「自立」と「合意」と「和」の仕組みを創出する国になることが十分に考えられる。
 国内では元号も変わる本年は、安倍総理が掲げてきた「新しい国づくり」の中身がいよいよ問われる年になる。10月の消費税率引上げで社会保障の不毛な財源論争に早々にケリをつけ、激動する国際情勢を見据えた戦略的資源配分へと経済財政運営の局面転換を実現する。そして、ネクストジャパンに向けた次なる重大な国家選択へと日本の政治を前に進める。わが日本が、そうした内実ある具体的行動に出る年になることを祈るものである。 

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