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インタビュー

国民民主党代表
玉木雄一郎氏に聞く

家計第一の経済政策に改革中道で閉塞感打破

 一昨年秋の衆院選では、自民党一強を突き崩そうと、急きょ希望の党が旗揚げされたが、逆に野党勢力の分裂を招き自民党大勝を後押しする結果となった。選挙目当ての離合集散に有権者は飽き飽きしている。信頼を取り戻すには、何をめざす政党なのか政策をはっきり明示していく必要がある。今年最大の政局の軸となる夏の参議院選を控え、立憲民主党に次ぐ野党第2党の国民民主党代表の玉木雄一郎氏に、その政策を聞いた。 
(聞き手=松田学・本誌論説委員長)

──国民民主党とはどんな由来の政党なのか。手続き上は民進党が党名変更する形で結党されたが、希望の党から分派してできた政党という位置づけなのか。国民からみると旧民主党が国民民主党と立憲民主党に分裂したようにみえるが、立憲民主党がリベラル革新だとすれば、国民民主党はどちらかといえば保守に近いということで分かれているという理解で良いのか。

 元々は民主党、民進党であって、希望の党に移ったのも、小選挙区制度だから与党と野党で一対一にしようということで、当時の民進党の機関決定で移った。党の数を減らすために、最小限の調整をした上で政党を1つにしようということでやった。ただ、志は変わっていないが、結果が出なかったという意味では、失敗だったと評価せざるを得ない。
 最大の失敗は、党の数を減らそうと思ってやったのに、立憲民主党ができて、総選挙後は野党分断でのスタートになったことだ。分かれてしまった以上、我々の立ち位置をはっきりさせ、昨年5月に改革中道政党と綱領で書いた。ただ、足して2で割るようなことではなくて、内外変化の時代だから改革指向でいこうということだ。
 民主党政権時代や下野後の反省として、改革精神を失ったことがある。いまや野党のほうが守旧派になってしまい、改革精神があるのは、安倍自民党だけだと思われている。だから自民党は支持されている。
 この前の大阪維新のクロス選挙もそうだったが、有権者の間には現状に対して何らかの閉塞感がある。人口が減っていく。中国が台頭する。このままで日本は大丈夫なのかと、国民はみんな思っている。現状を変えようとする努力や意気込みに対する国民の期待は大きい。
 変化を拒む「守旧派」ではダメだ。国民民主党は「改革中道」の道を行く。

──改革中道というのは、旧民主党を引き継ぐものではないということなのか。

 国民民主党は現実路線を追求している。特に外交・安全保障やエネルギー政策では、現実路線でいく。
 ただ、これだけ世界中で格差が広がっているので、国内政策ではある種のリベラル政策、大きな政府を目指す。自己責任だけでは、貧困の連鎖が起こってきているので、結果として社会全体に悪影響を及ぼす。分厚い中間層の復活が必要だ。

──かつて、政権をとる前の民主党の岡田代表が「冷戦終了後は政治の対立軸がなくなった、民主党の政策は自民党とあまり違わないかもしれないが、同じ政策でもクリーンな政党が担うという点が大きな違いだ」と、私が参加していたある言論機関で述べ、聴衆から失望を買っていたことがある。国民民主党として、今夏の国政選挙を控え、自民党とも、例えば立憲民主党や共産党といった政党とも、ここが違うということを明確にアピールしなければならないのではないか。どこが本質的な違いなのか。

 立憲民主党や共産党と違うのは、あくまで現実的ということだ。かつての社会党が言っていた非武装中立では国は守れない。中国の台頭や米国が自由貿易から抜けて行こうとする中で、どういう世界秩序を日本は作っていこうとするのか、かなり現実的にならないといけない。

──国民民主党の綱領には「自由」「共生」「未来への責任」を基本理念とし、「生活者」「納税者」「消費者」「働く者」の立場に立つとしている。自民党との本質的な立場の違いは何なのか。

 自民党と違うのは、多様性とか包摂とかリベラルな感覚だろう。
 自由というのはある種のリベラルで、何ものにも拘束されてはならない。最も自由を奪うのは貧困だ。特に若い時代の貧困というのは、人生で一番自由を奪う。その意味で、自由をしっかり担保する。
 共生というのは、あえて今風に言えばシェアリングだ。お金もシェアリングの1つの対象だ。富がひと所に固まってしまうと、社会的効用が落ちるし、中間層を厚くしていった方が消費も伸びて、生産者側からしてもプラスとなる。共生というのは、社会的共生だけでなくて時間的共生も含む。
 「今だけ金だけ自分だけ」ではなく、「未来との共生」や「過去との共生」も含め、過去、今、未来という時間的共生が大事だと思う。

──その点をもう少し、具体的に言うと?

 今までのリベラルが弱かったところは、死者に対する敬意がないことだ。過去をどう評価するかというと、やはり国のために戦った多くの人たちがいて、歴史の連続性の中で今をとらえることが大事だ。
 他方で、今の人たちが未来を食い尽くさない、将来に対して責任を持つ姿勢が肝要になる。これが「未来との共生」につながっていく。
 日本は、今も昔も資源がない国だ。人への投資でしか、この国は残っていけない。幸か不幸か、ナレッジソサイエティー(知識社会)になっているので、人という最大の財産を膨らませることによって、国力や国際競争力が強化される。
 それは別に若い人だけではなくて、経済協力開発機構(OECD)が提唱するリカレント教育(生涯教育)のように、人生100年時代を迎えようとする現在、50歳などで一回、人生を区切って、再教育とか能力開発を可能にするような社会づくりを含めて、未来に投資していく。

──ここで個別の政策論に入りたいが、まず憲法改正問題。党の基本政策に盛り込まれた「時代の変化に対応した未来志向の憲法」とは具体的に何を意味しているのか。

 私は憲法について積極的に議論していこうという立場だ。今、やろうとしているのは憲法改正の前段階として国民投票法の改正だ。
 国民投票におけるテレビCM規制も必要となる。お金を持っている人ほどテレビCMをバンバン打てるというのでは、国民が間違った影響を受けかねない。公職選挙法でも、刷れるポスターやチラシの数を同じにしているように、テレビCMについても公平性を担保するための規制が必要だ。
 一番重要なのは、第8章の地方自治の本旨だ。国と地方の関係は、どうしても東京中心になり、地方がどんどん廃れていく傾向にあり、国の権限を明確に地方に委譲することで、自ら決定する能力を持つ必要がある。

──基本政策には「地域主権改革」という言葉がある。主権は国ではなく地方ということなのか。

 国から権限を分けてもらうという意味での地方分権ではなく、地方主権を、憲法で明確にしていく。主権を国と地方で分担する形になる。

──基本政策には「わが国が自衛権を行使できる限界を曖昧にしたまま、憲法9条に自衛隊を明記することは認めない」とあるが、9条についてはどうするつもりか。例えば、交戦権の否認など国家の基本に関わる問題は放置するのか。

 安倍総理が言っているような自衛隊という組織を憲法に規定するというのでは意味がない。大事なのは、安保法制による解釈改憲で曖昧になっている自衛権の範囲を憲法で明確にすることだ。
 実は、これまで本質的議論を避けてきたことに問題がある。他国から攻められた時は武力行使をすると、みんなが思っているが、実力組織である自衛隊や自衛権の在り方として、一体、どこまでできるのかという議論は一回もやっていない。例えば、南西諸島周辺で日本に影響が及びそうな事態において、武力行使はどうなのか、そこまではよかったとしても、地球の裏側まで行って、武力攻撃がないような事態に対しても武力行使をするのかという点が曖昧なままだ。
 安全保障の議論の本質というのは、一体、どのような状況になった時に戦争をするのかという覚悟を、国民全体で共有するプロセスだ。
 平和主義と教科書で習ったから平和主義だというのでは、それこそ平和ボケと言われても仕方がない。2015年の安保法制の時、護憲派が反省しないといけないと思ったのは、憲法は一字一句変えるなと主張してきたことによって、無限の解釈改憲を許してしまったことだ。もし、憲法上、自衛隊がここまでできて、これはできないというのが憲法に明瞭に書いてあれば、解釈の余地はなかった。
 私は無制限の自衛権は認めるべきではなく、他国の領土領空領海では武力行使をすべきではないとの考えだが、どういった範囲なら国民として納得できるのか、きちんと憲法議論を通じてやるべきだ。

──次に経済だが、民進党代表だった前原誠司さんに本誌でインタビューした時に「経済成長を目的にして、人は歯車になっているのが自民党。我々は人々の生活の安心とか不安解消、やりがいというものを提唱する中で、結果として経済成長を実現する。民進党は人を大切にする党だ」と述べたが、基本は同じか。 

 基本的には同じ考えだ。
 近年、モノづくり日本に対抗する国が新興国でいっぱい出てきた。そこで競争力で勝つために、付加価値を高めるというより、人件費をカットすることで生産性を高めるという道に日本は入ってしまった。その結果、平成の30年間を振り返ってみると、先進国で唯一、日本だけが賃金水準が下がっている国になってしまい、豊かになっていない。賃金水準によって年金水準が決まるので、みんな将来に不安がある。それで、国内総生産(GDP)の6割を占める消費も伸びないという悪循環に陥っている。
 マクロの資金循環を見ると分かるが、通常、企業セクターというのは資金不足セクターだ。だから、家計から金融機関を通じて企業セクターに貸し付ける。しかし、現状では企業には潤沢な資金がある。アベノミクスとは要するに金融緩和だが、企業セクターが超過貯蓄の状態で金利をいくら下げても、貸出は伸びない。要は、金融政策が極めて効きにくい状態にある。一方で、資金が一番不足しているのが政府セクターだ。本来、資金不足で資金の借り手であるはずの企業セクターが今は大黒字になっていて、もともとの超過貯蓄セクターである家計が弱っている。
 企業業績もよく、戦後最長の好景気が続くとされるが、労働分配率が下がってきている。実際、平成の30年で、共働きが増えたにも関わらず、家計の所得の中央値は120万円以上落ちている。だからこそ、家計第一の経済政策に転換すべきと主張している。
 法人税率も国際競争力を考えると下げないといけないのだが、無理に下げすぎているのではないか。米国が最初に下げたが、米国はもともと40%と高かった。日本で法人税を下げて、何が起きたかというと、内部留保が高まって、それが死蔵されている状態だ。
 企業が稼いだお金をどう使っているかというと、まずは自社株買いだ。株価は上がるから株主は喜ぶし、配当もどんどん増やしているから既存株主はハッピーだ。しかし、今や株主の多くは外国人だし、しかも、上場企業の4割の筆頭株主は日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。法人税減税で潤沢になった企業の金は、外国と政府に還流されて戻り、労働者への分配は下がる一方だ。さらに企業にはたくさん資金があるから、融資も必要ない。
 日本はお金が動かない社会になってしまった。だから一律の法人税減税をやめ、その代わり労働者への分配を平均より高めた企業にだけ減税をする「労働分配促進減税」をすべきだ。中小企業や零細企業の方が労働分配率は高いので、自然と中小企業支援にもなる。
 消費税は上げるべきではない。まず家計を温めることが必要な時に、明らかに消費税はマイナスだ。消費税の増税を社会保障の安定財源としてやるのだったら賛成だが、今回は軽減税率というものが入ってしまう。低所得者対策とは名ばかりで、所得の高い人の方が有利だ。だから、軽減税率を伴う消費増税には反対だ。とにかく、ややこしいし、恣意性が働くし、利権の温床にもなる。宅配の新聞が8%で、駅で買ったら10%というのは意味が分からない。

──財政の話だが、「チルドレンファースト」を掲げて「すべての就学前保育・教育を無償化」、「子ども手当をすべての子どもに給付」、「小中学校の学校給食費無償化」などとしているが、財源はどうするのか。消費増税をして増税分の使途拡大で賄うのでなければ難しいのではないか。それとも、別途の財源措置を講じるのか。

 未来への投資の財源ということで、「こども国債」が考えられる。それは将来の納税者を作ることにもなる。道路や橋などのインフラだけでなく、将来世代という人財インフラに投資する努力が必要だ。昭和30年代には、建設国債が唯一、認められた赤字国債だった。当時は経済成長に最も寄与し、将来に残る資産はインフラだからということで、建設国債発行が認められた。
 今は時代が違うと思う。未来に残さないといけないのは、人財だからだ。その人を養うには、借金をすればいい。

──それは「4条公債」(財政法第4条で公債の発行は公共事業費、出資金及び貸付金の財源に限るとしている建設国債の原則)の範囲を見直すということなのか。

 そのとおりで、4条公債の対象の見直しをする。私は成長の3分野では、国債を発行しろと言っている。成長の3分野とは、人的資本形成と社会資本形成(キャピタル)と科学技術の振興(イノベーション)だから、人への投資は借金でもいい。長い目でみれば返ってくるものだからだ。30年たてば、今、生まれた子どもは立派な納税者になる。だから30年国債などで、社会をぐるぐる回すことが肝要だ。

──おカネは積んであっても、回らなければ意味がない。私も将来の資本形成に資する支出の財源であれば「投資国債」を出せと言っている。日本は対外純資産残高が世界ダントツ一位をずっと継続している国だ。そのような国債なら国債発行を増やすことができる状態にある。

 もちろん、税以外、全部国債でやったらいいということになってはいけないので、将来の成長につながる分野のみで国債を発行し、未来を担保する。さらに浮いた財源で、社会保障経費などを手当てし、それでも足らない部分を増税で賄っていく。

──財政運営の仕組みそのものを、少し変えていく必要がある。

 ワイズ・スペンディング、「賢い支出」とともに、ワイズ・ボロウイング、「賢い借金」で考えていくべきだ。何を財源にして何に使うかということを明確にする財政政策が肝要だ。

──財政改革の考え方には大賛成だ。私が国会議員だったときに所属していた政党ではバランスシートに基づく財政運営を主張していたが、例えば資産評価を高度化し、負債の側で資産とつじつまの合う国債発行を弾力的に行えるようにすることが考えられる。

 例えば、道路の上空使用権を売り出すというのもいい。太陽光パネルを設置して、売電で稼ぐ権利を売るというものだ。あんなに道路があるのに、上空使用権を市場に出さない手はない。

──最後に、政治路線についてうかがいたい。参院選に向けた野党協力が進められていると思うが、さらにその先の政界再編が大事だ。自民党に対する対抗軸をどうつくっていくのか。

 政界再編はすべきだ。やはり、緊張感のある2大政党制が良い。権力というのは、長く続けば腐敗して緩むものだ。切磋琢磨していく政治体制をどう作っていくのか、その道筋をつける必要がある。
 政治的な対立軸というのは色々あるが、1つは、正直な政府か、嘘をついて隠す政府か、だ。まずはそこできちんと分ける必要がある。それにはIT(情報技術)などを駆使しながら、徹底的に行政や税金の情報を透明化していくことだ。

──ブロックチェーンを入れてみてはどうか。

 私も改ざん不可能なブロックチェーン技術を行政文書の管理に入れろと言っている。行政サービスもスマホでできる時代だ。ごまかしのきかない、嘘をつかない、恣意性が発揮できないような仕組みにしていく。私が目指すのは大きい政府だが、安い政府であり効率的な政府だ。

──政界の一部には、自民党政権が中央集権だとすると、これからもう一つの対立軸として出てくるべきなのが、分散型社会だと言う議員がいる。

 そもそもブロックチェーンの技術が分散型技術だ。社会哲学として、全部、中央と同じようにしなさいというのはそもそも無理がある。だから、これからのキーワードは地域分散、地方分散だ。これを活性化していくためにテクノロジーを活用するのが大事だ。情報技術を徹底活用した社会を構築していくことを考えている。

──昔から大蔵省出身者は自民党と決まっていたが、財務省出身なのにあえて民主党から政界に入り、野党に身を置いたのは、どういう思いからなのか。

 やはり、世の中を変えたいという一心からだ。
 戦後、自民党は日本社会の礎を築いたとは思うが、限界もある。国際競争力も落ちて、世界で26~27番目になっている。何かブレークスルーしていかないと、次の子孫の世代の日本を作れないという思いだ。非連続的な改革を我々はやらないといけない。
 いまや政治の対立軸は右か左かではなく、現状維持か改革かになっている。とにかく改革の旗を取り戻さないとだめだ。
 明治150年を礼賛する人は多いが、インバウンドで外国人が来ているのは、その前の江戸時代や鎌倉などの日本文化を求めて来ている。150年というのは、西洋から真似した文化だから、西洋からすれば何の魅力もない。例えば、江戸時代の藩には、藩札という地域通貨があり、地方にも通貨発行権があった。

──日本には本来、分散型社会の歴史があった。

 だから、ブロックチェーン技術を使って、地域通貨を仮想通貨で出せばいい。  新しいテクノロジーが、これまでの中央集権型でやらざるを得なかった限界を超えるブレークスルーをもたらす可能性がある。それによって少子高齢化社会を乗り切るための社会作りを議論だけではなく、実際にやっていかないといけない。その結果、少子高齢化社会を乗り切ることができれば、それをビジネスモデル化して世界に売ることも可能になる。

──その点でも私は同じことを考えており、大変心強い。本日はありがとうございました。

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