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沖縄債権回収機構の問題点
債務者保護法制化運動に期待

日本経営者同友会会長 下地常雄

 政府が沖縄振興特別措置法改正案を決定して五年が経過した。この改正案の柱は、沖縄県名護市の金融特区での税制優遇策拡充だった。沖縄振興策の一環として企業や人材を呼び込むのが狙いだ。
 これで名護市金融特区における法人税などの税制優遇対象を金融以外の事業者にも拡大できるようになった。また、沖縄県内の離島を結ぶ飛行機の燃料にかかる航空機燃料税の軽減措置を講じるなど細かなところにも目配りされていた。
 しかし、沖縄の金融特区本来の意義からすると物足りなさを感じるのは私だけではないだろう。二十一世紀の世界的なダイナミズムを牽引し始めているアジア、その全体を視野に収めた場合、香港やシンガポールなどの金融センターに伍していけるような沖縄であってこそ、時代の波頭に立てるであろう。

企業進出阻んでいる沖銀など地銀3行

 沖縄に進出したいと意欲を持っている本土の中小企業は少なからず存在する。だが、東京に本店を構える大手銀行が沖縄にはないために不便を強いられ、二の足を踏むことにもなっている。
 琉球銀行や沖縄銀行など沖縄の3銀行は、復帰特例措置法により、保護されている。具体的には本土の銀行が沖縄に営業拠点を構えることを禁止し、地場銀行を保護しているのだ。
 だが、現状は沖縄の地場銀行が保護政策の上に、安穏と胡坐をかいているだけで、沖縄の産業育成には役立っていないように思える。
 こうした悪弊を打破するためにも、沖縄の地場銀行保護政策を撤廃し、本土の銀行も自由に営業できるように風通しを良くしたらいい。

金融庁も関心

 中小企業金融円滑化法(モラトリアム)が6年前に期限を迎えた途端、沖縄では待ってましたとばかり、手のひらを返したように貸し剥がしが始まった。
 沖縄の金融業界では、サービサーを使った、とり立て回収も平気で行なうようになった状況が危惧されている。
 そもそもサービサーというのは、銀行の不良債権を処理するためのものだ。銀行とすれば一括して不良債権をサービサーにたくすことで、帳簿上、身軽になるメリットがある。
 だが、沖縄のサービサーはその債務者に対し、元金だけでなく何と金利に損金まで上乗せして回収を迫る。債務者が拒否すれば、直ちに競売にかけると脅してくる。これを知った金融庁は、そんなことはあってはならないと苦言を呈している。
 これではたちの悪いマチ金と何ら変わないではないか。
 競売とか差し押さえなどの業務は、銀行にとってはイメージが悪くなる仕事だ。それを避けるためにサービサーを立てて、やらせているのが実情だ。
 サービサーの取立て業務は、銀行の指示を受けて、さらにひどくなり、連帯保証人に対しても情け容赦ない過酷な取立てをするようになった。 
 本来、モラトリアムは、現況のままでは空洞化しかねない日本の製造業をジリ貧に追い込まないための国家戦略であって、決して赤字を垂れ流し続け市場社会から退場すべき企業の延命に手を貸す性格のものではない。中小企業は製造業復活の核心的担い手だ。トヨタやホンダ、日産などの大手自動車メーカーにとっても、一台につき2万点以上の自動車部品を作る中小の製造工場は、日本の自動車産業を支える縁の下の力持ちといった存在である。中小の企業なくしては、大企業そのものの存続も危ぶまれるだけでなく、日本経済にとっても取り返しのつかない大きな損失となる。
 「金は天下の回りもの」ではないが、金は回ってこそ意味がある。その広大な裾野を形成する活力と将来性のある中小企業体に資金を回すのも金融機関の基本的かつ重要な役割だ。

望まれる本物のバンカー

 その金融機関が近年、金を生み出すための装置としてのみ機能し始めている。儲けるなといっているわけではない。分を超えた大義なき利益至上主義は、資本主義社会のガンともなり得る。
 下町の町工場に象徴される日本の中小企業は一度、潰してしまえば、二度と復活の日を見ることはない。日本経済にとり大きな損失となるのだ。
 1985年のプラザ合意後、円高が進行したことで、わが国の製造業は海外に拠点を移す潮流が出来上がり、製造業の空洞化が進行してきた。現在、国内の製造業が極限状況に追い込まれ、瀬戸際に立つ中、彼らが生き残るための重要な役割を担うのが金融機関だ。
 現在の日本に必要な金融機関というのは、明治の復興を担った渋沢栄一氏の第一銀行や戦後の復興に大きく寄与した日本興業銀行のような銀行だろう。
 銀行の金庫が札束で埋まることに喜びを見い出すような近視眼的な本分を忘れた銀行屋でなく、国家そのものの富を増やしていくための産業を興し育成する本物のバンカーが存在する銀行こそが望まれる。
 こうした銀行に期待されるのは、ただ単に資金の手当てというだけでなく、様々な製造業や資源、人を結びつける役割もある。特に中高年の技術力と経験、全体を見渡す眼力の確かさといった成熟した人間力と若者の行動力を結びつける媒介者としての機能である。
 こういった視点から「中小企業など金融債務者保護推進議員連盟」(原口一博会長)が、銀行から資金を借りた債務者保護のための法律を作ろうとしている。この運動を大いに期待したい。
 同議員連盟は、①中小企業、個人の過剰債務の抜本的解消 ②東日本大震災被災者の二重ローンの解消 ③整理回収機構の解散 ④連帯保証人に対する取り立ての規制 ⑤金融紛争解決機構の創設 ⑥金融サービサー法の改正 ⑦民訴法228条4項(印鑑などによる文書成立真正の推定)の廃止―など7項目を掲げ金融債務者保護に取り組んでいる。
 同議員連盟顧問の亀井静香元衆議院議員は金融担当大臣に就任時、「金融債務者の視点に立った金融行政」へと金融庁の監督行政を劇的に転換させたことで名を馳せた。氏は現代の大塩平八郎と言えよう。亀井氏は現役を引退したとはいえ、永田町には大所高所から物申す氏のようなご意見番が必要だ。

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