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外交攻勢に出る安倍首相 G20成功へ地ならし欧米歴訪 菅官房長官も異例の訪米

 安倍晋三首相が外交攻勢に出ている。4月22日から29日までフランス、イタリア、米国、カナダなど欧米6カ国を訪問し、6月下旬のG20(金融世界経済に関する首脳会合)大阪サミット成功に向けた地ならしを行った。その間、トランプ大統領との日米首脳会談では、対北朝鮮政策での強い連携を確認。続いて5月9日からは、菅義偉官房長官が訪米した。危機管理を担う官房長官が外国を訪問するのは極めて異例で、拉致問題解決を含む日朝首脳会談の実現へ本気で取り組む姿勢を示したものだ。北方領土問題の解決に行き詰っている首相が、日朝交渉で新たな進展をさせ、夏の参院選に弾みを付ける切り札にしたい思惑もみて取れる。

「日朝」進展を参院選切り札に

 「参院選を前にした安倍外交のキモは、G20の成功と日朝首脳会談実現に向けたトランプ大統領との連携強化だ」と自民党幹部は強調した。
 G20は6月の28、29の両日に、日本が議長国となり、G7を含むメンバー国や招待国の首脳、国際機関など、37の国や機関が参加し、経済分野を主要議題として大阪で開催されるが、日本がこれまで経験したことのない大規模な国際会議となる。
 その成功のため安倍首相は、欧米を訪問し、①G20首脳会議の主要議題について各国から支持を取り付け②北朝鮮問題で各国と緊密な連携を確認③トランプ大統領が拉致問題の解決に全面協力すると明言──などの成果を挙げた。トランプ氏の「米国第一主義」に対する欧州の多国間主義といった対立点を調整する課題が残っているが、可能な範囲で無難な地ならしをしたと言えよう。
 米国との関係強化も注目点だった。首相は4月26日に、ワシントンのホワイトハウスでトランプ大統領と会談。宇宙やサイバー空間など新たな防衛領域での連携強化を盛り込んだ外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の協議結果を歓迎するとともに、軍事拡張を続ける中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を行っていくことで合意した。
 また、北朝鮮問題については、朝鮮半島の非核化に向け引き続き日米、日米韓で緊密に連携していくことで一致し、経済制裁を維持することを確認した。さらに、首相が拉致問題を念頭に入れながら「次は私自身が金正恩朝鮮労働党委員長と向き合い、解決する」と述べ、日朝首脳会談実現へ米国の協力を求めたのに対し、トランプ氏は「全面的に協力する」と表明した。これも評価できる成果だと言える。
 2月にベトナムで行われた2回目の米朝首脳会談で、トランプ氏は安倍首相の意を汲んで北朝鮮の金委員長に拉致問題を2回提起した。だが、その後、何ら進展がない。この拉致問題の解決にメドが立たないと日朝首脳会談にはこぎつけられない。
 これをどうクリアするのか。このため、菅官房長官が5月9日から12日の日程で米国を訪問し、ペンス副大統領と会談して戦略を練ることになったのだ。菅長官の海外出張は、4年前の平成27年10月に在沖米海兵隊の移転先の米領グアムを訪問して以来。拉致問題担当相でもある菅長官はペンス氏のほか、シャナハン国防長官代行らとも会談した。10日には、ニューヨークの国連本部で、拉致問題に関するシンポジウムに拉致被害者家族会らと出席し、拉致問題の解決に向け協力を訴える。
 「2回目の米朝会談が行われて以来、官邸は首相が金委員長に直接会って、拉致問題の解決を図ることに傾注しているようだ。そのための日米の緊密な連携確認を行っている」と自民党中堅幹部は指摘する。トランプ大統領とホワイトハウスでの会談を行った安倍首相も、5月下旬に同大統領を国賓として日本に迎え、G20での大阪会合でも会談を重ねる。3カ月の間に3回ものトップ会談が行われるわけで、拉致問題解決に向けた日米の強い絆を示す好機になる。
 それと同時に、政府は北朝鮮に対して最大限の配慮をし、軟化姿勢を見せてシグナルを送っている。外務省は4月23日に、2019年版の外交青書を公表したが、北朝鮮に関する記述で、18年版にあった「あらゆる手段を通じて圧力を最大限まで高めていく」との文言を削除した。また、政府は、北朝鮮が完全な非核化を実現するまで国連安全保障理事会の制裁を維持する方針だが、その一方で3月に国連人権理事会に11年続けて提出した北朝鮮の人権侵害を非難する決議案の提出を見送ったのである。首相は「無条件でもいいから金委員長に会いたい」とさえ語っている。
 だが「現状は、厳しい」との見方が専門家の間では多数だ。北朝鮮がトランプ大統領への非難を避ける一方で、日本に対しては「安倍一味が朝鮮敵視の妄動で得たのは、国際政治舞台での孤立という結果しかない」(朝鮮中央通信)などといった批判を繰り返しているからだ。
 その金委員長は4月に、米朝交渉の期限を「年末まで」と一方的に通告してきた。来年、大統領選が控えるトランプ大統領をせかし対米交渉の主導権を握ろうとしているのは明らかだ。首相は「国際社会との連携と同時に、わが国が主体的に取り組むことが何よりも重要である。日朝の相互不信の殻を打ち破るためには私が金氏と直接向き合う以外ない」と強調する。だが、当面はトランプ大統領との連携を強めていくことが最良策だろう。参院選などを意識して拙速に独自行動に出ることは避けなければならない。

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