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パキスタン、ポリオとの戦い 陰謀論など溝埋める作業必要

 わが国で小児麻痺といわれていたポリオ──日本でこそ昔に根絶された経緯があるものの、アジアではまだ根絶できていない国がある。
 WHO(世界保健機関)は、まだ収束せず根絶できずにいるのは、パキスタンや隣国のアフガニスタン、それにアフリカのナイジェリアの3カ国だとしている。
 ポリオは感染力が強く、この3カ国で根絶できなければグローバル時代の現在、人の移動などによって世界に広がる懸念があると警告している。
 パキスタンでなぜ、根絶できないのか。
 ポリオは口から入ったウイルスによって感染する病気だ。排泄物などを介して、感染が広がる。ただ、確実な治療法がないため、ワクチンを複数回摂取し、予防することが重要となるが、パキスタンでは特有の事情が大きな壁として立ちはだかっている。 
 その壁とは主に2つある。1つはワクチンに対する住民の不信感だ。1月には全国一斉のワクチン接種キャンペーンがあった。
 キャンペーンは、全国の5歳以下の子供400万人に経口ワクチンを投与するもので、ポリオワーカーと呼ばれる専門の担当者が、一軒一軒、各家庭を回ってワクチンを投与する。
 このポリオワーカーは主に女性が担当する。イスラム教の影響などから、よそ者に対する警戒心が強く、女性の方が子供に接触しやすいからだ。
 しかし、ワクチン投与が順調に進むわけではない。地元ではワクチン接種で、男の子は性的不能になり、女の子は不妊症になりやすいといったうわさが、一部で根強く信じられているため、ワクチン投与を拒否する家庭が後をたたないからだ。
 パキスタン政府は、こうしたうわさに対して根拠がないと否定するものの、人の口には戸は立てられないのが実情だ。
 さらにもう1つの問題は2011年5月に、オサマビンラディンが潜伏先のパキスタンで、米軍の部隊の襲撃を受け殺害されたが、この作戦で米軍はパキスタンのポリオワーカーに扮した協力者をビンラディン容疑者の潜伏先に接近させ、本人特定の手がかりを得たとされることだ。
 こうした背景から、ポリオワクチンのキャンペーンは、外国のスパイ活動の一環だという陰謀論が根強い。
 この影響から、イスラムの女性達が、ポリオワーカーたちをスパイだとして、襲撃する事件も後を絶たず、2012年からこれまでに48人も殺害されている。
 ワクチン接種キャンペンは、文字通り、命がけの戦いだ。
 不正確な情報と不信感との狭間に挟まれての戦いには、とてつもない忍耐と啓蒙活動が必要となる。
 その長い戦いの終りはまだ見えていない。

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