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松田学の国力倍増論

令和新時代の新しい国づくり

 令和元年、日本はちょうど時代が大きく転換する時期に、新時代を迎えることになった。

世界の3大潮流の大転換

 1989年のマルタ会談で米ソ冷戦体制が終結した年から平成時代は始まった。その後、世界は、①これによって本格化するグローバリゼーション、②インターネット革命、③金融主導経済という3つの大潮流が支配する30年となった。これらは資本主義経済に新たな成長領域をもたらすイノベーションであったが、多くの先進国で、格差の拡大、難民の増大、中間層の没落をもたらし、健全な民主主義をも危機に直面させた。
 これからの令和時代に予想されるのは、これら3つの大潮流の大変化であろう。まず、①のグローバリゼーションは、米中冷戦構造への移行による世界の分断、米中ブロック化へと逆転し、今後、世界各国は、米国と中国のいずれを選ぶのか、踏み絵を踏まされていく。これはトランプ政権後も継続する米国の長期的な方針だと考えたほうがよい。
 しかし、西側とほとんど経済関係のなかったソ連が相手の米ソ冷戦時代とは異なり、巨大なマーケットとサプライチェーンによって、中国との間で緊密な相互依存関係に組み込まれている現在の世界経済にとって、分断はそれ自体が不安定性と不確実性を高める要因になる。
 次に、②のインターネット革命は、今後、これも何十年かをかけて進むであろう「ブロックチェーン革命」へと新局面に移行していく。これまで人類社会を発展させたのは、銀行や国家が象徴するような中央管理者への信用で成り立つ中央集権的なシステムだった。21世紀は、ブロックチェーン技術が可能にするP2Pの分散型社会システムへとパラダイムシフトが起こる。
 日本の生き残りの道は、各種社会的課題解決への適用で、未だ未成熟なこの技術にイノベーションを起こし、各分野で世界標準をとっていくことだだろう。
 そして、③の金融主導経済は、電子データを最大の付加価値の源泉とする経済へと転換しつつある。国際政治や経済を決める戦略分野は、かつての一次産品(食料、金、石油など)から、冷戦体制崩壊後は世界各国の貯蓄をマネージすることに戦略の重点を置くようになった米国の主導により、金融に転換していた。日本の大蔵省解体などのレジームチェンジも、この流れの中で進んだ。それがいまや、情報技術を巡る米中覇権争いの時代に転じた。個人データを国家主導で扱える中国のレジーム自体が、プライバシーと自由市場経済を旨とする米欧日陣営にとっては、経済と安全保障の両面で耐え難い脅威となっている。

平成から令和へ
 〜日本の3つの転換〜

 かたや、平成時代の日本は、(ⅰ)ストーリーの喪失、(ⅱ)人口構成の高齢化、(ⅲ)「改革」の模索の30年だったといえよう。かつての高度成長の「右肩上がり」の物語、「バブル」の物語を経て、バブル崩壊を境に迎えた平成時代の日本は、「構造改革」という、日本人が心からは納得できない建前とコンプライアンスの時代に入り、官民ともに委縮し、チャレンジとリスクテイクが停滞した。
 令和時代は、「課題先進国」日本が各種の社会的な課題解決を通じて日本ならではのモデルを構築し、「世界のソリューションセンター」となることを日本の新たなストーリーとする時代になるはずだ。ブロックチェーン革命を先導することは、その上でも大きな力になる。ちなみに筆者は、こうして形成される「日本新秩序」として「不老長寿の国」(健康)、「豊芦原瑞穂の国」(食、生活の質)、「日出国」(環境と独立自尊の新エネルギー体系)の3つを日本が先導する21世紀型価値の「三種の神器」として提案してきた。
 平成元年が消費税導入の年だったことが象徴するように、平成時代は日本が人口減少、超高齢社会へと移行した時代でもあった。政治の大テーマも消費税率引上げだった。
 令和時代の日本に問われるのは、社会保障の財源問題の解決や少子化対策だけではない。超高齢化に加えてAI(人工知能)革命で深刻化していくのは、人々が従来の産業社会(カイシャ人間)の外側で、各々の生き甲斐を追求できる社会の仕組みをどう構築するかという問題だ。これも日本ならではの答を出していくべき分野であり、個人と国家の間に介在する共同体をどう構築していくのかが、政治が選択肢を示すべき重要テーマとなろう。
 その答えが、これから進むAI化で拡大する格差のもとで資本主義経済から溢れ出ていく社会層や、リタイア後に長い人生が残された多数の人々の生き甲斐を、暗号通貨を始めとする情報技術が支えていく「協働型コモンズ」である。これは筆者が近著「いま知っておきたい『みらいのお金』の話」(アスコム)でも提起した、資本主義を超える新たな社会の姿である。令和時代は、競争から協働へと軸が移る時代となる必然性がある。
 ただ、どんな未来社会にも必要条件となるのは、生命や財産の安全である。その上で、国家が重要な存在になるだろう。特に日本の場合、昭和時代の戦争がトラウマとなって、「戦後レジーム」のもと、国民が国家機能の強化に強いアレルギー反応を示してきた。しかし、平成時代の日本は、多発化する激甚自然災害や、グローバル化、サイバー空間がもたらすリスクや脅威の高まりを経験し、危機管理が重要なテーマになった。
 令和時代は、日本人がトラウマから卒業し、これに正面から向き合う時代になる。国家には民間には担えない機能があるから、国家が存在する意味がある。危機管理はその柱だ。国民の安全安心のため、他国に比して弱い日本の国家機能の再構築も大きな課題となろう。

令しく和す
 〜次なる飛躍と新たな物語の時代に〜

 さて、外交面をみれば、日本は、自国が国際社会の外交プラットフォームになる中で新時代を迎えることになった。欧米の政治は混乱し、ブレグジットで英国がダウン、元来は社会主義の国であるフランスはマクロン政権の改革路線で混乱、ドイツのメルケルは指導力が低下、そして、米国は世界秩序の運営者から一国主義へと後退している。
 いまや主要国の首脳の中でトランプとまともに話ができるのは安倍総理のみだとも言われる。その日本の外交力が発揮される場が、令和時代入りの直後から目白押しになる。天皇陛下の御即位に伴い、世界から元首や首脳が来日、4月に続き、5月、6月と安倍-トランプ会談が開かれ、しかも今年は、日本がG20の議長国、それは日本が世界のルール形成を主導する場になるものだ。欧州首脳とトランプとの間の分断、日米欧と中国・ロシアとの間の分断、それら分断を超えた中継点として日本が機能できる場が、日本に設けられる。秋にはラグビーワールドカップ、そして来年は東京五輪が続く。
 平成時代はその名のとおり、日本が戦争を経験しなかった平和な時代だったと総括されているが、「令和」には、「令しく和す」、つまり、受け身の平和ではなく、うるわしい平和を築くという能動的な意味があるとも言われる。まさに、うるわしく和する世界へと、日本が持ち前の課題解決力をもって貢献する国になることを期待したい。
 停滞したとされる平成時代も、考えようによっては、次なる飛躍を前にした逡巡と、新たな物語に向けた準備の時代だったのかもしれない。令和時代を迎え、前時代についてそんな総括ができるような新時代を日本が築くことができることを祈るものである。

 西暦二〇一九年、10年区切りで考えれば21世紀は2ステップ目を終えつつあり、日本では今年、平成時代が終わる。前世紀末の90年代からこの30年、世界はグローバリズムの世紀であり、日本はバブル崩壊後の失われた何十年の中で新秩序を模索する時代だった。

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