早苗さん、女の時代だ
妥協せず徹底的にやれ
元金融・郵政改革担当大臣
亀井静香氏に聞く
永田町は石破茂前首相の辞任劇に始まり、自民党総裁選、首班指名を制した高市早苗新政権の発足と大きな変動期を迎えた。多党時代を迎え、「これから10年続く“令和の応仁の乱”だ」との持論を持つ元金融・郵政改革担当大臣の亀井静香氏に「我が国に織田信長がでるのかどうか」聞いた。 (聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員)
──石破氏の退任劇から、永田町は大きく変わりました。
石破前首相はやめる前、私の所に来た。その石破氏には、「やめるな」と言った。
総理というのは一旦、その椅子に座ったらそう簡単にやめるものじゃない。
彼は大した業績はないけれども、今の政界を見て大したものはいない。
──時代が変わって、先生のお眼鏡にかなう者が少なくなった。
俺は政治家の中身を知っているから、かなうわけがない。
大昔なら田中角栄とか結構な人物がいた。それが今では誰もいなくなったというのが、現実じゃないか。
──高市新政権が発足しました。
高市氏には「今は女の時代だから、妥協しないで徹底的にやれ」と言った。
きょろきょろ周囲をみたり、うろうろしたりするだけの政治家というのはむなしいだけだ。
──これから永田町は多党時代を迎えます。
政党を作るのは自由だからな。だが作るのはいいけれど、国民生活をどうすればいいのか、日本をどうするのか、責任もって考えぬかない政党は、いずれ雲散霧消する。ましてや習近平やトランプに飲み込まれるようなことがあってはいけない。政治家というのは通過儀礼としての選挙を切り抜けるのに大変な労力が必要だが、なった後にどんな政治をしていいのか分からなくなりがちだ。それじゃだめだな。
──外交面では、サービス精神が過度になっているとの見方もありますが、毅然として対等に他国と渡り合える国であってほしい。今回の高市首相とトランプ大統領との交流は、個人として気持ちが通じ合うベースはできたのかなと思えましたが。
一度ぐらいでは、そう簡単にはいかない。
米に対しては、日米地位協定の改定が大事なテーマとなる。
日本人はいつの間にか、アメリカのポチであることが当たり前だと思ってしまっている。そうした犬根性からの脱却が必要だ。そのためには、まず日米地位協定をちゃんと改定すべきだ。ドイツやイタリアだってちゃんとやっている。
米軍基地内とはいえ裁判権を持たないようじゃ独立国家とはいえず、どうしようもない。
5年も首相の地位にあった中曽根康弘にしても8年近く政権を維持した安倍晋三にしても日米地位協定には手を付けなかったが、残念なことだ。
石破も首相になるまでは日米地位協定改定を語っていたし、俺にもそう言っていた。ところがなった途端にぐにゃとなってしまった。
──持論として一度掲げた政策でも、総理になると変わる。政治的しがらみがあって、そうなるのでしょうか。
それはあくまで本人の問題だ。
素朴な愛国心というか素直に国民を幸せにしようとの思いが足りないのだ。やはり我欲だ。人間の性かもしれない。
彼女だけはそうなってほしくない。
──高市首相に期待します。
彼女とラジオ番組で対談をしたこともあるけど、しっかりしている。しかし、今でこそもてはやされているけど、それでいい気になってはダメだ。
──1月のインタビューで今の永田町は10年続く「応仁の乱」再来だと指摘され、信長が出るかどうかだとおっしゃっていましたが、高市首相は信長になりうるでしょうか。
彼女にはその素質がある。
あまり機嫌取りはしないことだ。右顧左眄する必要もない。わが道をゆく気概で頑張って欲しい。
最近の政治家はきょろきょろしすぎる。
──今回、自民党につくかつかないかのドタバタ劇がありました。各党、毅然として一本筋が通っていて、多少の政策の違いはあっても方向性が同じなら、協調すれば良いのではと単純に思います。
だからね。大連立をやればよかったんだ。どうしたら国民を幸せにできるかとの視点から、共通点をつなげていけばいいんだ。ちっちゃいことはどうでもいい。
──トランプ大統領をどう評価されますか。
トランプはモンロー主義だから、自分の国さえよければいいと思っている。
これに対抗するには日本も関税かける。それをやれるかどうかだ。
関税カードなど切ってくるトランプには当然対抗措置を取るべきだ。日本も関税をかければいい。あちらがやるならこちらもやればいい。
米国の生産力は落ちている。関税措置は米国にとって得策ではなく、自分自身にはね返ってくる。それでは高額な輸入商品を購入しなくてはならない米国民が許さない。損をするのはアメリカだ。相対的に言えば、日本はアメリカから欲しいものはない。日本がなければアメリカは成り立たない。実態はそうだ。
それを政治でごり押しされるのはダメだ。それを毅然とやることだ。日本が蹴飛ばせば、日本に頭を下げざるを得なくなる。何の遠慮も要らない。まとまってトランプに対抗しないと駄目だ。
トランプは2016年の最初の大統領選挙の時、まさか自分が大統領になるとは思っていなかった。
その折、訪米したことがある。俺は妙に勘が働く。当時、トランプが大統領になると思ったから、成田から飛んで行った。
アポをとった午後7時、出向いたトランプタワーは空っぽだった。大統領選挙でいけそうだとなったから、日本から来た政治家などと会う暇がなくなったのだ。
俺は政治家だからその事情がよく分かるから、きびすを返し日本に帰ってきた。
すると安倍晋三から電話があった。なんでトランプが大統領になると思ったのかというんだ。
トランプは今、世界を制覇しようとしている。習近平もそうだ。プーチンも同じだ。彼らが世界を鷲掴みしようとして、支配しようとしている。
そういう時に日本はどうするのか。アメリカとも仲良くすればいい。中東戦争なんかしてはいけない。だが、それとアメリカのポチになることとは別だ。無論、中国のポチになってもいけない。
独立の気概をもって、ことに当たる必要がある。
──米国でもニューヨークの新市長は、激しい論調で反トランプの姿勢を鮮明にしていますね。
アメリカというのは自由の国だから、それはいいことだ。
向こうがトランプなら、こちらは花札で勝負かける。
外交でもなんでも鮮明にやる。アメリカは手出しができない。そもそもアメリカにいいものがないというわけじゃないけど、日本はアメリカのものを買う必要はないのだから。
──今、世界の製造工場は中国になっていますが、品質では日本製には及びません。
いいものを作る、これが日本が生きる道だ。
──票田にならない大田区や燕市など多くの優れた技術を持つ中小企業は、残念ながらこれまでどんどん潰れていきました。
今の政府は、中小零細企業への税制優遇や補助金を思い切って出す必要がある。
日本の農家だって見捨てられている。農協が全部支配している。いわゆる農家というのは、安い手当で使われる農協という大商社の小作人の立場だ。こんな日本でいいのかね。
残念ながら、日本の地方は限界集落だらけ。村がなくなり部落や集落がなくなっている。
それで田舎から東京だけに人は集まっているわけではない。広島だとか仙台だとか、地方の中核都市に周りの農家が吸収されている。それだとふるさとがなくなる。
──高市首相がトランプ大統領と対峙していく上では、先生がおっしゃるように信念をもって相手に媚びることなく、争うことなく、仲の良い関係でも、あくまでも日本国としての尊厳を失わない姿勢、それが大切だという事ですね。
それとね。アメリカにないものが伝統文化だ。アメリカは歴史が浅いから、生活に深みがない。日本の伝統芸能がアメリカで披露される。そんな状況を作り出したほうがいい。
先だって京都に行った。日本人が隅に押しやられ、街を歩いているのは外国人観光客ばかりだ。
悪いとはいわないが日本人はもう少し、日本の原点を大事にしてほしい。
──自民党は結党70周年を11月に迎えました。自主憲法制定は結党の精神ですが、ロシアのウクライナ侵略戦争や中国の核戦力拡大、台湾への野心、暴発しかねない北朝鮮など国際情勢は憲法改正を求めているように思えます。憲法改正に関する先生のご意見をお聞かせてください。
憲法改正の論議があるが、肝心なことを忘れている。一番肝心なことは前文にある。天皇を国民が選んだみたいに書いてある。
憲法改正は、何も9条だけの問題じゃない。どこの国でも戦争しますと書いている憲法はない。何より自衛隊が違憲だなどと国民の誰も思っていないのだから、それを議論すること自体がナンセンスなんだ。それより前文を変えないといけない。
日本という国は、天皇の国だから。富士山が世界に2つとないのと同じように、天皇をいただく国というのは2つとない。ありがたいことなんだ。そのことを忘れてるんだな。悲しいね。
憲法前文で天皇陛下を大統領みたいに、国民の総意に基づきと書いてあるだろう。これがマッカーサー憲法の正体だ。
国民が先にいて後から天皇を作ったのではない、天照大神の時代から天皇と国民は同時に存在していた。それが日本の成り立ちだ。そういう国家の根本を根底から誤っている前文と1条を、これまで誰も変えようとしなかったんだよ。それを全部、変えてしまう。それこそが憲法改正だ。
──長年、政治家として生きて来られた中で、思い出に残るのは。
あえて言えば、2009年に制定されたモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)で、借りた金を返せるまでは返さなくていいという法律だ。これは猛烈な反対にあった。全国銀行協会(全銀協)の会長が押しかけてきて、「借りた金は返すのが当たり前でしょう」と息巻いたが、「貸した金が返してもらえなくなると、困るのはお前たちじゃないか。違うか?」と聞き返した。
すると全銀協会長は「返してもらえないと困ります」という。
それで「そうだろう。それなら貸した金が返ってくるようにするのが一番大事なことだろう。貸した金が返せなくなると、また貸してやらないと返せなくなる」と言うと、向こうは絶句したままだっ
た。
亀井静香(かめい・しずか)
1936年11月1日、広島県庄原市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、サラリーマンを経て警察庁に入庁。配属された警察庁警備局で極左事件に関する初代責任者となり、成田空港事件(東峰十字路事件)、あさま山荘事件、テルアビブ空港乱射事件などの陣頭指揮を執った警察庁長官官房調査官を最後に退官。退官時の階級は警視正。退官後、衆議院議員になり、長らく自由民主党に所属。運輸大臣、建設大臣、自由民主党政務調査会長を歴任。自民党離党後は国民新党代表、内閣府特命担当大臣(金融担当)などを歴任、中小企業金融円滑化法の成立に尽力した。8年前、「一緒にやっていく相棒がいない」として政界から引退した。著書に「死刑廃止論」「晋三よ!国滅ぼしたもうことなかれ」。
とくだ ひとみ
1970年3月、日本女子大学文学部社会福祉科卒業。77年4月、徳田塾主宰。2002年、経済団体日本経営者同友会代表理事に就任。06年、NPO国連友好協会代表理事に就任。18年、ASEAN協会代表理事就任。10年から19年まで在東京ブータン王国名誉総領事。



日本経営者同友会会長 下地常雄
新政界往来