石破氏、会長辞任の「水月会」 日本のチャーチルになれるか
自民党の石破茂元幹事長が、自身が率いる派閥「水月会」会長を辞任した。安倍首相にも苦言を呈し続けてきた石破氏だが、これまでの非主流派色を薄め再起を図る構えだ。
「これまで総裁選挙に4回立候補し、直近の2回は石破派を中心に支援してくれる皆さんとともに戦ったが、期待に応えることができなかった。責任を取ることが私のとるべき道だと考えた」
石破氏は10月下旬、派閥会長を辞任する意向を表明したのち、こう述べた。
9月の自民党総裁選で石破氏が獲得した国会議員票26票、地方票42票の合計68票にとどまり、菅首相の377票、岸田文雄前政調会長の89票に及ばず最下位に沈んだ。
石破氏が肝を冷やしたのは、国会議員票が出馬に必要な20人の推薦人をわずかに上回る26票だったことだ。
今回獲得した国会議員票は、2年前の総裁選で獲得した73票から大きく後退した。
石破氏は過去数年、各種世論調査で常に「次の首相にふさわしい人」の上位に挙げられてきた。そうした世論の評価は高いのに、国会議員の支持で菅首相に大きく水をあけられ、ここは一旦、幕を自らおろし再起を図ろうとけじめをつけた方がいいとの判断に至った。
いたずらに自己主張のみにこだわる猪突猛進型は、永田町では生き残れない。党内野党とも陰口をたたかれてきた政権批判の口をつぐみ、冷や飯食いの冷遇の座を降りて派閥の力を蓄えることで未来を打開しようとの深慮遠謀だった。縮むことで伸びていく尺取り虫のサバイバル戦術でもある。
何より石破氏には、いずれ時代が要請する安全保障観がある。
北朝鮮の核脅威や武力増強を続ける中国など、東アジアの安全保障はこれからきなくさくなることが必至の情勢だ。
永田町の政治家も、これまでの調整型ではなく、しっかりした安全保障観をもっているリーダーであることが前提となってくる。
その意味では、いずれ時代が石破氏を呼び込むことだって想定される。
イギリスでは1940年、自国の防衛強化を怠り、ナチス・ドイツの脅威にさらしたとして、チェンバレン首相が辞任。その後任として白羽の矢が立ったのが、ナチスに立ち向かうことを主張し続けていたチャーチルだった。
国際情勢はそうした安全保障が危機にさらされるような時代を迎えようとしている中、石破氏が日本のチャーチルになれるかどうか正念場を迎えている。
要は「水も月も無心に映すように、無私、無欲の高い境地から務めていく」、「無心で時代の要請に応える」という想いを込めた「水月会」の名前の由来通り、東アジアの国際情勢を的確に映し出す明鏡止水状態になれるかどうかだ。