今月の永田町

通常国会スタート コロナで与野党論戦激化へ

「対中」が政権の試金石

第208回通常国会が1月17日、開幕した。岸田文雄首相は感染が急拡大する新型コロナウイルス対策を「最優先課題」に取り組み、参院選を前に政権の実績を重ねたい意向だ。しかし、そのコロナ対策や対中国、北朝鮮問題など外交・安全保障案件が目白押しで、看板の「新しい資本主義」の中身も十分に明らかになっていない。会期末の6月15日までの150日間、与野党の攻防が激化しそうだ。

岸田首相は就任後初の施政方針演説で、「新型コロナに打ち克つことに全身全霊で取り組む」覚悟を示すとともに「コロナ後の新しい日本を創り上げるための挑戦をしよう」と呼び掛けた。また、幕末に西郷隆盛と対面し江戸城無血開城を決断して庶民を救った幕臣・勝海舟の言葉を引用して「行蔵は我に存す」と述べ、責任はすべて自らが負う決意を強調した。
これに対し、野党側は、新型コロナの感染拡大の防止策や生活困窮者への支援策など、政府の対策には不十分な点が見られるとして追及する方針だ。立憲民主党の泉健太代表は、「肝心なところに具体策がない」と指摘。新型コロナの変異株「オミクロン株」については「『想定以上』と言うが、最悪を想定するのではなかったか」とし、政府の水際対策や感染症法改正案の今国会提出見送りなどについて追及していく構えだ。
中国に対する姿勢についても不鮮明さが際立った。岸田首相は「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていく」と語る一方で、「同時に、諸懸案も含めて、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力し、本年が日中国交正常化50周年であることも念頭に、建設的かつ安定的な関係の構築を目指す」と語った。
この発言について、自民党幹部は「どうも腰の引けた言い回しだ。2月4日から20日まで開催される北京冬季オリンピックに、閣僚や政府高官ら政府関係者を派遣しない方針を正式に表明したものの、中国の人権侵害行為を非難する対中非難決議案の中身は全くの骨抜きになってしまった」と指摘する。また全国紙政治部記者は「首相は演説で『新時代リアリズム外交を展開していく。日本外交のしたたかさが試される1年だ』と語ったが、いよいよ親中派の林芳正外相の出番だ、というのでは困る」と語った。
昨年の新政権発足にあたり、二階俊博幹事長の後任に、外相を務めていた茂木敏充氏を起用し、外相には林氏を就任させた。林氏は日中友好議員連盟の会長を2017年から務めてきたが、「無用の誤解を招く」との理由で辞任した。だが、この組織は中国共産党政権とべったりな関係にあり、米国防総省などから対日工作機関として警戒されている。父親の義郎氏(元蔵相)も同会長や日中友好会館会長を務めるなど親子そろっての親中派だ。幹事長となった茂木氏も、1972年に日中国交正常化を果たした田中角栄元首相系列の会長である。「二階氏ほどではないが中国に傾斜しやすい人物だ。議員になる前にマッキンゼーに勤めていたことからも外交哲学を持っているというより経営コンサルタントの発想で事を運ぶ危険性がある」と自民党中堅幹部は語った。
岸田首相自身は安倍政権下で外相を長らく務めたため、安倍氏が主導し米国はじめ国際社会から評価された対中包囲網形成外交を基本に据えている。「自由で開かれたインド太平洋」の推進やTTP(環太平洋経済連携協定)の着実な実施などの方針は受け継いでいる。ただ、林、茂木ラインが力を増してくると、TTPへの中国加盟や「一帯一路」支持などの「対中妥協外交」へと傾斜していく可能性を否定できない。そうなると、安倍氏を始めとした党内の保守系議員から政権へ強い圧力が加わることになろう。中国にどう臨むかが岸田外交の試金石となるのは間違いない。
北朝鮮からは1月17日現在、今年に入り4回目となる弾道ミサイルが日本海に向けて発射されている。岸田首相は「断じて許されない。ミサイル技術の著しい向上を見過ごせない」と繰り返す。しかし、それだけでは国民に危機感は伝わってこない。それに対処するため、「敵基地攻撃能力を含めあらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」とか「防衛力を抜本的に強化する」とし、「おおむね1年をかけて、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を策定する」と語る。しかし、沖縄県石垣市の尖閣諸島問題や台湾有事なども含め、時間をかけて議論をしている余裕はあるのか。国民には「眼前にある危機」と映っており、この緊急事態に対処できるよう準備を加速させなければ、国民の生命と財産を守ることなどできまい。
首相の看板政策であり経済再生の切り札の「新しい資本主義」についても上滑りと言わざるを得ない。首相は演説の多くの時間を割いて「さまざまな弊害を是正する仕組みを『成長戦略』と『分配戦略』の両面から資本主義の中に埋め込む」と力説。「成長と分配の好循環による『新しい資本主義』によって、この世界の動きを主導していく。官と民が全体像を共有し、協働することで、国民一人一人が豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていく。共に、この『経済社会変革』に挑戦していこう」と訴えた。しかし、その全体像と実行計画は今春に取りまとめるという。これでは理念先行で訴えに力が足りない。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相の演説について「大きな方向性で反対するところはないが、その先の具体像が見えない」とし、「今国会の一番の争点は賃上げで、給料が上がる具体策を提案していく」と語った。日本維新の会の藤田文武幹事長は、国会議員に文書通信交通滞在費として月額100万円が支給される問題について追及していく考えを明らかにしている。国会論戦で優位に立ち、その勢いを参院選に持ち込みたい野党とすれば、攻め手は多く、与野党の攻防は参院選を念頭に置きながら激しさを増す見通しだ。