日本人の自尊心取り戻す 日本の政治に新たな軸を
参政党両院議員総会長
松田学氏に聞く
7月の参院選で大飛躍を遂げた参政党。イメージカラーは橙色で、日本の歴史や伝統を「代々」受け継ぐという意味を込める。参政党が目指すのは、党員が日本の歴史や国際情勢などについて真実を学び、政策提案をすることを通じた国民の政治参加の実現だ。インタビューした参政党両院議員総会長兼参議院会長の松田学参議院議員は「どれだけ立派な正論を言っても国民の意識が変わらないと、日本を守る政治は作れず、国民が広く政治に参加しないと、自主憲法も創れない」と国民の参加型政治を目指す理由を簡潔に述べた。
(聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員)
──今回の参院選で台風の目になったのは参政党でした。選挙戦を戦って、その間にうなぎ上りの支持率の高まりは実感できましたか。また、人々の支持を伸ばした要因は何だったとお考えでしょうか。
参政党はSNSで伸びた政党だと言われてきた。確かに、3年前の参議院選の時はそうだったかもしれないが、他方で、参政党は多くの国民の参加を通じて党員が急速に増え、いまや全国の衆院小選挙区289区のすべてに支部を設立するところまで党組織が拡大した。ネットだけでなく、全国の党員たちの日ごろの地道な活動をベースとした草の根のパワーが参政党を押し上げる基礎的な要因となった。
ただ国会議員が5人以上いない政党だと地上波テレビに出られないというルールがあるようで、これがネックとなって、せっかくのこの画期的な国民運動の広がりについても、参政党の存在についても、ご存知ない有権者が圧倒的多数という状態が続いた。マスメディアはいったい何をやっているのかと思ったものだ。
今回は参院選の直前に、現職の参議院議員だった梅村みずほ氏が移ってくれて参政党の議員が5人になった。それで神谷代表が何度もテレビに出るようになった。多くがネットを見ない高齢者層に訴求するにはテレビの力は大きい。参政党がテレビに出るようになって、なかなか良いことを言ってるじゃないか、こういう政党もあるんだという認識が広がったことが、今回の参院選では大きかったと思う。
その後、街頭でも、チラシを配ると参政党と聞くだけでわざわざ引き返して取りにくる方も出てくるなど、かつては「何? その政党」と素通りされていた風景がガラリと変わった。テレビ報道が政治を決めている現状を改めて痛感した。
もちろん、知名度だけでなく、参政党の主張の中身が重要だ。我々は元々、減税とか国民の負担を下げると言い続けてきたが、もう一つ「日本人ファースト」、これが日本の国民の多くに響き、支持率を上げる要因となった。
──参政党躍進の背景について教育学者の藤岡信勝氏は「各候補者が共有する歴史観があった」と指摘されています。このぶれない歴史観があったからこそ演説に「真実性と深さ」を加味することができたとの見解でしたが、先生のお考えをお聞かせください。
選挙のたびに多くの政党が、減税とか給付金とか、票目当てのサービス合戦の様相を呈するのが通例だが、国民の多くはすでにそれを見透かしている。
その中で参政党候補者たちは演説で、「日本は素晴らしい国なんだ」「もう一回、日本人であるという原点に返ろう」ということを口々に言ってきた。
歴史観についていえば、戦後、自虐史観というか、日本は戦犯国家で悪いことをした国なんだということが、GHQによる洗脳から始まって、日本国民は教育の場でも教えられてきた。ジャーナリズムの報道もそうだから、多くの人が、本当の日本の近現代史を知らないままになっている。
海外に行っても、日本人の多くが自分の国のことを誇りをもって語れない。自国のことを建国の由来から始まって誇りをもって語るのが国際社会では当たり前だが、こと日本人だけは日本のことをあまりに知らない。外国でそんな体験をしている人が非常に多い。
もちろん、戦争は良くないことだ。しかし、では、なぜ大東亜戦争は起きたのか。我々の先人は何を目指して戦ったのか、世界から植民地をなくそう、アジアの植民地を解放しよう、人種差別のない世界を創ろう、そうした大義で戦い、それが戦後、植民地なき世界秩序が達成されるうえでの大きな貢献につながることにもなった。そういう歴史を日本が創ってきた面があるのも事実だ。
日本は世界で最も長い歴史を営む国でもある。結党した時から党員のみなさんは、いろんな有識者を呼んで徹底的に勉強してきた。そして、戦後作られた歴史観とは違う本当の日本の歴史を学び、日本の国柄を大事にしよう、日本という国を軸にした政治を創ろうという共通認識のもとに政治活動をぶれずに行ってきたのが参政党である。
──一方的に政策を訴えるのではなく、一緒に国を良くして行こう、政治に関心を持とうと、熱く国民の心に訴えたことが評価されました。今回の参院選で期日前投票は過去最高となるなど、多くの人々が政治に関心を持つようになりました。参政党の功績は大きかったのではないでしょうか。
我々は、どの政党に投票するかは別として、とにかく「投票に行きましょう」と呼びかけた。政治は他人事ではなく自分事なんだ。特に若い人にとって一番大きな影響があるのが政治なんだ、とあちこちで言い続けた。
今の若い方々の生活苦や実感を語り、日本国内であまりに急激に外国勢が拡大することへの多くの国民の不安にも応えつつ、問題の根源には国民よりもグローバルな利権のほうを向いている政治があるのではないか、これを正すためにはまずは日本人のほうを向いた政治に転換しなければならないのではないかと、ごく当たり前のことを訴えたことが、保守層だけでなく、無党派層からの支持にもつながったと思う。
多くの有権者から共感を得られた根底には、誰もが抱く愛国心というものがあると思う。それは一人一人の自尊心につながるものであり、人間が生きていくうえでの基盤になるものだ。我々は戦後、日本の国についての自尊心を失っていた。これをもう一回、取り戻そうというのは多くの人の心に響いたと思う。
──海外旅行に行く時、多くの人は訪問国の観光地や歴史等を下調べして出掛けます。ところが訪問先で、日本の国はどんな国? 歴史は? などと尋ねられた時に明確に答えられる人は少ないように思います。海外の方がむしろ日本の文化や歴史にも造詣が深いことが多々あります。私共も日本人としての確固たるアイデンティティーを持つべきですね。
日本だけ偉いとかということでは全くなく、それぞれの国に自国のアイデンティティーというものがある。自らのアイデンティティーがしっかりしている人たちだからこそ信頼できる。自分のことや自分の国も語れない人というのは、逆に根なし草のようなもので、信頼されない。
どんなにフランスが好きでもフランス人にはなれない。日本人は一生涯、日本人だ。まずは日本人であるということが、世界との信頼関係を作っていく原点であるはずだ。
──参政党のスローガンである「日本人ファースト」、国民が皆、日本人としての誇りを持って、他国の人々と親しくなる。そのようなスタンスを日本の教育の中に取り組む事が望まれますね。
それは大切なことでしょう。
それと参政党が支持を伸ばした要因の1つに、急激に外国人が日本で増えている、増え方が尋常じゃないという気持ちを多くの国民が抱いているということがある。私は全国比例だったので全国あちこちに行ったが、どの地域の有権者も、ちょっと増えすぎじゃないかという不安感は共通だった。
いつの間にか土地があちこちで買収されたり、日本が日本でなくなっている地域が全国各地で広がっている。そういう状況に対して政治は、まず日本人に目を向けるべきだということを確認しようと言ってきた。
──日本国内に移民の方達が集団で住んでいる地区が増えて来ています。日本との交流がなくても生活できる環境下にあり、移民の方と近隣の日本の方達との相互理解の機会が少ない状況を危惧します。これら移民政策について、先生のご意見をお聞かせ下さい。
日本はWTO(世界貿易機関)の内外無差別原則を杓子定規に守っていて、外国人による土地購入に対してもほぼ野放図に許している状態だ。しかし、米国などもそうだが、安全保障上の規制はしっかりやっている国は多い。最近では日本でも重要土地に対するモニタリングは行われるようになったが、規制の実効性には疑問が持たれている。
日本の大切な農地や水源地などがいつの間にか外国人の手に渡っている。いずれ中国の属領になってしまうのではないかと、多くの国民が不安を抱いている。
国内で急激に増える外国人については、我々は、外国人を入れることに反対ということではない。そこはきちんとしたルールと仕組みをつくるべきだと訴えてきた。
アメリカやドイツでは不法移民を含めた大量の移民難民で、社会が壊れようとしている。日本人だけでなく外国人にとっても住みやすい国を作らなければ、なし崩し的に入れるだけでは失われるものが余りに大きい。
ドイツでは、このままではドイツのアイデンティティーが失われてしまう、ドイツという国は消滅してしまうという多くの国民の不安に応えつつ、「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持を急速に広げているが、日本はそうした国に比べると、まだ外国人の比率は小さい。そうなる前に今のうちにルールを作っておこうというのが我々の主張だ。そうしないと、いずれ取り返しがつかないところに行ってしまうと訴えてきた。
──今回の参院選は、物価高騰や深刻化する少子高齢化、安全保障政策など、日本が直面する喫緊の課題に対し、国民がどう判断を下すか問われましたが、争点として明確になった気はしません。改めて参政党のこれらの問題に関する基本スタンスを教えてください。
物価高騰に関しては、参政党だけでなく多くの政党が言っていたように、消費税の減税やガソリン暫定税率の廃止があるが、再エネ賦課金も廃止すべきだと訴えた。これは海外の資本を儲けさせて日本の環境を壊しているようなもので、大型の太陽光とか風力発電とかについて、我々は電力料金の中で相当な負担を強いられている。そもそも行き過ぎた脱炭素、再エネ促進が世界的なインフレの原因の一つだろう。
少子化対策については我々はユニークな主張をしている。
なぜ出生数が減るのかというと、結局のところ、経済的な要因が結構大きい。これまで、女性活躍といって、外で活躍する女性を応援するのは政府も力を入れてきたが、家の中で子供を育てることに関しては、あまり目が向けられてこなかった。子供にとって母親と一緒にいる時間が長いのは、情操教育上も非常にいい。女性の選択として家庭で子供を育てるというのは立派な選択だし、将来世代を育てるということ自体が大きな社会的貢献でもある。
そういう方々にもちゃんと支援しようということで、子ども一人当たり毎月10万円を給付することを打ち出した。これは外に出て働くなと言っているわけでは全くなく、子育てに専念する母親にもしっかり目を向けようということだ。
人口が減少局面からすぐに反転するわけではないにしても、そうした思い切った施策で少子化が反転する展望をもてるようにしていきたい。
安全保障については、現在の世界情勢を見れば、理想を掲げるだけでなく、リアリズムに立つ必要性を痛感する。日本はウクライナ戦争でロシアを敵に回したので、中国、北朝鮮、ロシアという「核保有三兄弟」に周囲を囲まれることになった。先進国の中では最も危ない状態に置かれていると言えなくもない。
日米同盟はもちろん大事だが、安全保障問題は短期と中長期に分けて考えるべきだ。日本は現時点では、自分の国を自分で守れない状態であり、日米同盟を緊密化させていかねばならないのは言うまでもない。しかし、トランプ政権には自分の国は自分で守れという基本的な哲学があり、欧州にも自主防衛を迫っている。防衛支出はGDP比5%だと言っている中にあって、日本も自主防衛力を高めなければならなくなろう。
自主防衛となると、ものすごい国民負担が必要になるが、現状では防衛費のGDP比2%への引上げだけでも防衛増税ということになっている。しかし、国を守るというのは国を未来に存続させるための投資なのだから、投資の財源として考えると国債が妥当だ。
世界的にもドイツが憲法を改正してまで財政規律の制約を外して国防支出やインフラ投資を増やそうとしている。ただ、国債発行にはマーケットの制約がある。これを突破するために後述する「松田プラン」が不可欠になろう。
核問題に関しては、一部に誤解もあるようだが、参政党は党として核武装を掲げているわけではない。核兵器なき世界は理想ではあるが、核弾道ミサイルが世界的に増えている現実のもとで、日本が広島、長崎のような悲惨な事態に二度と見舞われないためには、核に対する抑止をどう組み立てていくかをリアリズムに立って議論しなければならないのは冷徹な事実だ。そこには色々なオプションがあろう。
やはり国民が国を守るという決意を持つのが国防の基本だ。
国防というのは軍事だけではなく、先ほど言った土地・企業の買収や日本の情報が盗まれるなど、サイレントインベージョン(静かなる侵略)といったことが身近なところでどんどん起こっている。この点は、国民一人ひとりが日本を守るという意識があるかどうかで変わってくる。
そもそも戦争はなぜ起こるのかという点も含めて、国まもりに向けた国民意識の醸成の必要性をずっと訴え続けてきたのが参政党だ。
──参政党はこれから次のステージに移るわけですが、政界再編をリードする可能性は?
自民党の総裁がどうなるのか、近く解散総選挙という事態になるのか、現時点では未知数であり、その中で参政党の立ち位置はこうだと断言することはできない。ただ、日本の政治は、戦後の55年体制が崩れるぐらいの歴史的な変化に向かっているのではないか。
参政党は、これまでの既成政党が拾うことができないできた新たな民意に応える形で躍進した面があると思う。多くの日本人が心の中に思っていても言ってくれる人がいなかったのが、例えばポリコレの問題だ。これは他の国もそうだが、急増する移民について問題提起すると「排外主義者だ」とか「民族差別だ」とか、ドイツでは「ネオナチ」だとも言われる。メディアもタブー視してきた。これは移民問題だけではない。
世界各国の国民に気付きが広がっているのがグローバリズムの弊害だ。長年にわたり、各国の独自性を否定して国境のない世界に向けてグローバルな勢力が自分たちの利権を拡大してきた。そこには、ネオコンと呼ばれる戦争利権もあれば、製薬利権、再エネ利権、IT利権、金融利権など様々なグローバル利権が存在し、各国で格差を拡大させ、中間層を没落させてきた。
グローバリズムの動きが顕著になったのは冷戦体制崩壊後からだろう。当時のアメリカ一極構造のもとで、アメリカという国家を使って利益を上げることで世界に様々な弊害をもたらしてきた。そうした行動様式、考え方については「新植民地主義」という言葉もあり、日本がその格好の餌食となってきたことが90年代以降の日本に「失われた30年」をもたらしたという見方もできる。
これに対し、近年の欧米では、グローバリズムに対抗する政治の軸として、自分たちの国家の独自性を大切にしようという反グローバリズム勢力の台頭が顕著だ。アメリカではトランプ大統領が再選されたし、欧州でも極右と呼ばれている政党が急浮上しているが、極右でもなんでもなく、私は「愛国国民主義」と表現するほうが良いと思う。
参政党は反グローバリズムの立場をとる、日本の国政政党の中でも唯一と言っていい政党だ。これまで政治の対立軸は保守か革新か、右か左かだったが、自民党はもはや保守層にとって期待できる党でなくなってきている。岩盤保守層が随分、参政党に移ってきたと言われている。立憲民主党と自民党の間にあまり違いがなくなってしまったとも指摘されている。既成の大政党の中で保守が崩れてしまった。かたや左はどうかというと、共産党も社民党もふるわなくなっている。
では、新しい政治の軸は何かといえば、日本でもグローバリズムにどう向き合うかで対立軸が形成されていくのは、近年の世界の潮流からみて必然的な流れではないか。そういった新しい対立軸に伴う政界再編が起こるとすれば、参政党はその中で大きな役割を果たすことになるかもしれない。
もちろん、積極財政か財政緊縮路線かなど、ほかにも様々なテーマでの政界再編が考えられるだろう。参政党はいずれの流れにも日本国民ファーストで臨んでいく。
──参議院議員も単独で法案を提出できる数を確保されました。最優先される法案は何になるのでしょうか。
日本の国を守り、国民の生活を向上させる法案に取り組みたい。
「日本人ファースト」というのは、日本人を豊かにする、日本人を守り抜く、日本人を育むという3本が柱になっている。優先すべき緊急課題には、法案という形でいうと、すでに各国に存在するスパイ防止法、これぐらいは作らなければ、日本が信頼される国になりえない。
日本の機微技術がどんどん中国に流れてしまっている。米国との同盟関係を深化させるためにもスパイ防止法は必須条件ではないか。
もう一つ、新型コロナの時にいろんな措置がとられたが、これについても、その有効性や妥当性、予算の使い方などの検証が必要だ。他国ではしっかりとした検証がなされている事例がある。次のパンデミックがいつ起こるか分からないので、それに備えるためにも必要なことだ。
外国人の土地取得についても、何らかの法規制の強化を検討すべきだろう。いずれにしても、どんな法案を秋の臨時国会に出すかなど、党内で検討されていくことになる。
それから法案になるかどうか別だが、参政党は消費税の段階的廃止と積極財政を訴えてきた。5年間ぐらいを緊急対策期間と位置付けて、大幅な減税や積極財政を展開することで国民所得を引き上げ、国民負担を軽減し、国民負担率を大幅に引き下げる政策を提案している。そうなると、その5年間は、それに見合うだけの国債増発が必要になる。
しかし、金融マーケットの現状をみると、かつてのように国債を無限に発行できる環境ではなくなっている。その中で早速、今回の参議院選で積極財政を訴える党の票が伸びたというので、マーケットでは金利が上がる動きがあった。しかし、今回の参議院選では、その点に関する論戦はなかった。
そもそも国債は金利のついた金融商品であり、金融マーケットでの需給関係の中で発行されている。国債を増発しても日本銀行がアベノミクスや新型コロナ対策の時のように大量に購入すればいいのだが、もはや国債発行残高の半分以上を保有する日銀は最近、これ以上、保有国債を増やし続けたくないということで国債購入を減らし始めている。
その中で国債増発となると金利が上がったり、日本売りを誘発して円安に動いて物価が上がったりするなど、色々な副作用が懸念される。そこで国債増発を安全にできる仕組みを考えないと、積極財政も大幅減税もできなくなってしまいかねない。
そこで私は「松田プラン」を唱えてきた。今、世界各国では中央銀行がデジタル通貨を発行する流れになっているが、これを中央銀行ではなく、政府が自らの通貨発行権を活用して発行することができれば、日銀が保有する国債の残高を減らすことができる。
日銀保有の国債が満期になる時、その返済を今までのように国債を発行して返済するのではなく、政府が発行したデジタル通貨で返済していく。すると国債残高が段々、減っていく。そして減った分だけ、このデジタル通貨を銀行を通じて、民間がスマホで使えるデジタル円として流通させていく。こうして国債残高が個人や企業が使えるデジタル通貨へと変換されるという出口ができることで、国債増発のうえでのネックが大きく解消されることになる。
大型減税や積極財政への意思決定が民主主義によっていくらなされたとしても、現在の仕組みのもとでは、金融マーケットが納得する範囲でしかそれは実現できない。国民だけなくマーケットも納得できる仕組みをどう創るか。そこにこそ大事な論点があり、参政党における私の役割になっている。
これからブロックチェーンが社会の基盤になってくる。次の社会の基盤を作り、その基盤とつなげながら政府発行のデジタル通貨の検討を始めないと、財政がいつまでたっても経済のネックになってしまう状態が続くことになる。
──円安とインバウンドの増加に伴い、国内のホテル代や食事代が高騰しています。観光地にお住まいの方の話ですが、大荷物で占領されるバスの混雑や物価高に毎日悩まされていると。迎える側の日本の方達も、経済的な生活の安定が保障され、精神的にも余裕を持って笑顔で海外のお客様を迎えることができたら嬉しいですね。
諸外国を見ても中間層の没落が顕著だ。自分たちが苦しい中で外国人が入って来ると、逆に外国人差別が起こってしまって排外主義にもなりかねない。まずは外国人を迎え入れられるだけのゆとりが経済面でも精神面でもあるという国を作らないといけない。
昨年の衆院選の時に、国民民主党が手取りを増やすというスローガンを掲げ、多くの政党が減税政党になった経緯がある。我々もそっちの方でやっていたが、今回の参議院選挙期間中、途中から論点が外国人問題に変わってきて、選挙の中心テーマがそちらに移っていった。
一人ひとりの懐を豊かにすることと、外国人問題はつながるテーマだ。だから我々はまず、日本人の懐を豊かにすることを掲げ、その中に外国人問題も位置付けている。
これまで政府は、まず国民から税金や社会保険料を取り、それを分配する方式を営んできた。赤字国債は法律で原則として禁止されているので、税収が増えると赤字国債を減らすことを優先して予算が組まれてしまう。
そうではなくて、税収が増えている大きな要因はインフレなのだから、インフレで増えた税収はインフレで苦しんでいる国民にまずはお返しする。国民を豊かにすることによって外国人問題にも向き合えるようにするし、経済の良循環を引き起こすことで社会保障の財源も確保されるようにしていく。
与党は財源論がないのは無責任と言うが、現状を放置しておくと、国自体が衰退し、肝心の財源も出てこなくなる。参政党は、まずは国民を豊かにすることで財源を確保していくことが基本だと考えている。
──選挙期間中、参政党の支持率向上を見て、かなりの反発がありましたが、マスコミの報道姿勢に関してはどうお考えでしょうか?
我々の演説が切り取られ、排外主義者、差別主義者であるかのような批判がなされた。これは諸外国でも似たようなことが起きてきたことで、例えば「ドイツのための選択肢」が言っていることは、よく見ると必ずしも極端なことを言ってるわけではなくても、ネオナチとのレッテルを貼られ、公共放送からは全く無視されてきた。
どの国の主要メディアも愛国国民主義に対して〝極右〟とレッテル貼りすることで、一種の印象操作を行ってきた。それこそグローバリズムであり、だからグローバリズムへの対抗勢力を弾圧することになるのだろう。
ただ、そうした心無き批判に対して我々の真意を一つひとつ指摘していくと、これがまた多くの人々の関心を呼ぶことになった。叩かれれば叩かれるほど、参政党は注目を浴びた面がある。参政党が言っていることはその通りじゃないか、と思っている方々も増えていった。
やはり有権者の意識が変わってきているのだと思う。昔の言葉で言えば「保守化」しているという表現になるが、日本の国を壊していく動きに対し、多くの国民が警戒心を強めているのは事実だと思う。
日本が右の方にドンドンいっているとか、軍国主義になろうとしているというのは全くの誤解で、「国の守り」も、戦争をしないようにするにはどうしたらいいかということを軸に考えているのであって、軍国主義とは逆のことを言っている。
軍国主義は全体主義だが、参政党は全体主義に反対する政党だ。参政党はかねてから、グローバリズム全体主義に対抗して自由社会を守る国民国家を掲げてきた政党である。右翼とか全体主義とは真逆の立場だといえる。
──神谷代表との出会いは。
私が90年代に大蔵省の現場で感じたのは、このままでは日本が経済的な植民地になっていくとの危機感だった。日本の自立を主張する石原慎太郎氏の呼びかけで2010年に、たちあがれ日本という政党が結党された時、私は日本を守らないといけないという思いで財務省を飛び出し、政治の世界に飛び込んだ。そして同党が日本維新の会と合流して私も衆議院議員になった。
しかし、維新の会と石原氏のグループとの間で国家観の違いが明らかになり、分党となって石原氏のグループは次世代の党を作った。石原氏も日本の自主憲法を唱えていたが、結党3カ月ぐらいで急な衆議院解散となり、石原氏も私も次世代の党の衆議院議員はほぼ全員、落選した。
あの時の経験は、どれだけ立派な正論を言っても国民の意識が変わらないと、日本を守る政治は作れないということだった。国民が広く政治に参加しないと、自主憲法もできない。
その後、同じような思いを持っていた神谷氏との出会いがあり、蕎麦屋で話し合って新しい政党を一緒に作ろうという話になった。
だから、参政党がここまで急激に党勢が拡大したのは、何か巨大なバックや資金源があるのではないかと想像されがちだが、全くそういうことはなく、草の根の思いだけでできた政党だ。
我々が目指したのは党員が主役の近代型政党だ。国会議員が中心で党員が従うというのではなく、党員が主体的に議論し、国会議員や地方議員を選び、その人たちの選挙活動を党員が担っていく。選ばれた人たちは次の選挙を考えずに、国政や地方の政治に専念するというものだ。
──国会に復帰されました。長かった11年でしたがこの間、得難い体験もたくさんお有りだったのではと拝察致します。振り返っていかがでしたか?
私は財務省を飛び出した時から、日本が真に自立し、日本の国柄を守る政治を創っていかなければならないという思いで一貫している。次世代の党結党の時もそうだったが、選挙での通りやすさよりも、自分の信念を貫くことを優先し、石原慎太郎氏や平沼赳夫氏らと活動を共にする道を選んだ。その結果としての落選だったが、自らの信念がブレるようでは、政治家をやっている意味がない。
あたかも選挙に当選することが仕事であるかのような国会議員も多いが、それは政治家ではなく、サラリーマンでしかない。
そういった意味で、国会を離れたこの11年間、一貫して政治家としてあり続けてきた自負がある。いろんな活動もしてきた。サイバーセキュリティーやデジタル通貨、ブロックチェーン革命の啓発活動など、情報技術の面でも次の日本を作る準備に微力を注いできた。
松田政策研究所ユーチューブチャンネルで政策発信活動を始めて7年ぐらい経つが、いまや登録者数29万人超の政治チャンネルとして広く親しまれている。そして、参政党の結党にも携わり、同党を舞台に政治活動を積み重ねてきた。新型コロナ対策でも発信を続けてきた。
つまり、国会に席がないだけで、国会議員ではなくても国政に対する発言を続け、政治家としての活動をとぎれることなく続けてきたと考えている。
──環境問題ですが、今、阿蘇山や北海道の釧路湿原を始めとする多くの日本の美しい自然がメガソーラー設置で破壊されています。森林伐採による洪水や土砂崩れの危険が高まり、また生態系にも大きな影響を与えるこの設置について、国としての規制はどうなっているのでしょうか。鎧で覆われているような不気味な山々の姿は見るに堪えません。
エネルギー政策で大事なのは、中長期の理想と現時点における現実の課題をどうするかを、ちゃんと分けて考えなければならないということだ。それぞれの時点におけるエネルギー源の構成比率の最適解は技術的に決まってくるものであり、価値観や思想ではない。
いわば安全性、安定性、経済性、環境負荷の4つぐらいの連立方程式のようなもので、その方程式の形はその時の技術によって決まっている。その中で最適解というのが出てくる。何かに偏りすぎると必ずどこかでほころびが出てくる。
今の技術水準では、原発がどのくらい、化石燃料がどのくらい、再エネがどのくらいが最適かというのが決まるわけであり、それと乖離すると必ず大きな弊害が出てくる。理想とするエネルギー体系の構築は中長期的に技術革新によって実現するものだ。
他方で、現時点での差し迫った課題は国民生活の安定であり、インフレの中で安定的な電力供給をいかに確保するかである。その点では日本も世界も、これまであまりに再エネにぶれ過ぎてきた。それが世界的なインフレの原因にもなってきた。ここはもう少し現実的になる必要がある。トランプ大統領も「掘って掘りまくれ」と現実主義に立脚した方向に舵を切っている。我々は、行き過ぎた再エネには反対だと言ってきた。それが今、世界の流れになっている。
本当は原発に依存する社会を作りたくはないが、今はエネルギーの安定的供給や価格の引下げのうえで、ある程度、原発を使わざるをえない。ただ、安全性の観点からは、これからはSMR(小型モジュール炉)など次世代原発だろう。
そして究極的には核融合がある。そうなれば事故が起こらないだけでなく、人類は事実上無限のエネルギーを手に入れることになる。
そこに向けてカギを握るのは人工知能(AI)だ。これから5~10年の間に、人工知能が人類社会に未曽有の非連続的変化をもたらすことになる。今後の国際秩序を創るのは超知能だとされる中で、米中のどちらが先にここに到達するかで熾烈な覇権競争が展開されている。核融合もその過程で実現すると言われている。
──最後に、経済に精通しておられる先生は、これからの日本の経済政策にとって何が重要か、お考えをお聞かせください。
いま申し上げた人工知能の重要性は、何もエネルギー分野に限られるものではない。これからの国際秩序に決定的な影響を与えるのが、いずれ誕生する超知能がいかなる思想で創られるかであるとされる。
私は、21世紀は、これまで「競争」を軸として発展してきた西洋を中心とする文明が、「和と調和、協働」といった日本が古来営んできた価値を軸とする文明へと転換する世紀だと考えている。日本の政治に求められているのは、そうした大局的な歴史観や世界観ではないか。
その意味で、これからの地球文明をリードする国となる日本が、日本型人工知能の開発普及でどこまで世界をリードしていけるのか、これは一つの大きな課題だと思う。
人口が減少していく日本が、できるだけ外国人に頼らずに経済社会を回していくためにも、人工知能やロボット、あるいはブロックチェーンなどの最新技術の装備を進めることで国民一人当たりの生産性を飛躍的に高めていくことが決定的に重要だ。これをサポートすることも政府による積極財政の重要な課題だと思う。
日本が三十年以上にわたり世界一の対外純資産残高の国であり続けてきた背景には、勤勉な国民が生み出した貯蓄や金融資産が国内にマネーとして十分に回らず、むしろ米国などに流れて海外を豊かにするほうに回ってきたという構図がある。これを転換し、国債増発による積極財政で国家として必要な様々な分野への国家投資を推し進め、おカネの流れを国内へと取り戻す。日本人のおカネは日本人のために…、私自身は日本人ファーストを、この意味も込めて主張してきたところだ。
「松田プラン」で国債発行の制約を取り除くことで日本の国民経済全体に潤沢な血液循環を興すことができれば、それが日本再興の基盤になることになる。これは私がいずれ国政復帰を果たした際に取り組もうとしてきたテーマでもある。
まつだ・まなぶ
1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官。12年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。2020年に参政党を結党し、22年7月~23年8月に同党代表を務めた。25年7月の参院選で当選、参議院懲罰委員長、参政党両院議員総会長、参議院会長。
【聞き手プロフィール】
とくだ ひとみ
1970年3月、日本女子大学文学部社会福祉科卒業。1977年4月、徳田塾主宰。2002年、経済団体日本経営者同友会代表理事に就任。2006年、NPO国連友好協会代表理事に就任。2018年、アセアン協会代表理事就任。2010年から2019年まで在東京ブータン王国名誉総領事。本誌論説委員。