時間稼ぎし続投貫く首相
非主流が「石破降ろし」
激化する自民党内政局
7月の参院選敗北により、衆参両院で少数与党に転落した自民党。その責任をとって石破茂首相(総裁)は辞任すべきとの声が自民党内で強まっている。一方、石破首相は責任を認めながらも続投を表明。両院議員懇談会や総会を開催するなどして不満のガス抜きをしつつ、外交日程を組むなどの時間稼ぎをしながら連立の枠を拡大するための多数派工作を水面下で展開している。秋の臨時国会を前に、首相の進退を巡る自民党内の政局は激化している。
「大変厳しい結果となり、多くの同志が議席を失った。深く心からお詫び申し上げる」。石破首相は7月28日に開催された両院議員懇談会の冒頭、陳謝。その上で、「党としていかにあるべきか徹底的な議論をしたい。国家国民に対し、決して政治空白を生むことのないよう責任を果たしていきたい」と語り、続投の意思を表明した。
これに非主流の旧茂木派、旧安倍派の議員らは憤り、早期退陣論や総裁選の前倒し論を主張。早期退陣論を説く多くの大手マスコミの援護を受けながら、〝同志〟を増やしている。懇談会に参加した自民党幹部によると、「会合は4時間半に及び、特に30人ほどが激しく首相の責任を追及し総裁選前倒しによる新総裁選びを訴えていた」という。
8月8日の両院議員総会でも総裁選前倒しの主張が相次ぎ、結論として、総裁選を実施するか否かは、総裁選挙管理委員会が党所属衆参両院議員(295人)と47都道府県連代表(47人)の計342人に意思確認をし、過半数(172人)の賛同があれば実施されることになった。自民党則「6条4項」によるもので、逆に、半数に至らなければ石破総裁の続投を容認したことにもなる。
そのため、実施実現に向けて非主流の議員らは「石破さんでは選挙に勝てない。総裁選で世論の注目を自民党に引き寄せ、新しい総裁の下で次の衆院選挙に臨み、過半数を回復して安定した政治を取り戻すべきでないか」などと説得作業を精力的に行い、総裁選前倒しの賛成票の積み上げを図っている。
一方、続投を貫く石破首相も、ただ陳謝と続投表明を繰り返しているだけではない。総裁選前倒しをやるかやらないか、まだ決まっていない。検討するとしただけ。その確認のための手続きをするのが、8月末に出される参院選総括の後だ。「首相にとって、まずは、そこまで時間稼ぎができた」と指摘する政界関係者は、「辞めろと激しく言っているのはマスコミと一部の国会議員だ。世論調査による国民の声には別の声がある。そのことに首相は意を強くしているようだ」と語る。
NHKが8月9日から3日間行った世論調査によると、石破内閣を「支持する」と答えた人は、7月の調査より7ポイント上がって38%。「支持しない」と答えた人は、8ポイント下がって45%だった。また、石破首相が「政治空白をつくってはならない」として続投の意向を示していることについて、その賛否を尋ねたところ、「賛成」が49%、「反対」が40%と続投賛成の声が多かった。しかも、自民党の支持層では「賛成」が69%に上り、「反対」の23%を上回った。
時事通信が8日から11日に実施した8月の世論調査結果でも同様の傾向だった。石破内閣の支持率が27・3%で、前月比6・5ポイント上昇。不支持率は同5・4ポイント減の49・6%。石破首相は辞任すべきかについては、「思わない」が「思う」をやや上回っている。「首相には、自分一人に選挙の責任を負わせるのはおかしい、陳謝を続けながらも政権への意欲を訴えていけば、世間の理解はさらに深まっていくのではないか、との強い思いがあるに違いない」と先の自民党幹部は語る。
支持率アップと自民党内の反対を鎮める決め手として首相が重視している戦略は2つある。1つは、主要な外交スケジュールを埋めて、手柄にしていくこと。23日から24日にかけて、韓国の李在明大統領が来日。「実用外交」を掲げる李大統領と経済問題や安全保障上の関係維持で合意する。29日から31日の日程で来日する予定なのはインドのモディ首相。2008年に策定した「安全保障協力に関する共同宣言」を17年ぶりに改定し、自衛隊とインド軍との共同訓練拡充などの具体策を盛り込む方針だ。
最も期待しているのがトランプ米大統領との再会談。日米関税交渉はヤマ場を越えたが、自動車の自動車・同部品など対日関税率を引き下げる米国の大統領令がいつ出るのかなど、詰めの作業が続いている。米側の意向として、日米関税合意後に広がっていた混乱を解消するため、日米両国による共同声明を発表することも伝えられている。石破首相とすれば、米ホワイトハウスでトランプ大統領と発表する姿をテレビを通じて国民に見せられれば「国益のために戦い抜いた総理」として高得点を稼げると計算しているに違いない。
もう1つの戦略は、「日本維新の会を連立の枠に取り込むことだ」と自民党幹部は指摘する。「維新とは政策面で似ているだけでなく、選挙区調整が他党に比べやりやすいからだ。防災拠点は確実に必要。一丁目一番地の大阪副都心構想を認めてあげ、関西での議席を自民と公明に少しづつ分けてもらえればそれで済む」という。その上で、「辞任をほのめかす森山裕幹事長の後釜に、吉村洋文、藤田文武共同代表の二人と近い関係にある小泉進次郎氏を据えれば、わが党は選挙を戦えるようになる」と強調する。
続投堅持の石破総理が粘り勝ちするのか、総裁選前倒しを実現して新たな総裁を選出する道に進むのか、政界の前途は霧で覆われている。