今月の永田町

自公連立「枠」の拡大

憶測呼ぶ立、国、維の思惑

一寸先は闇の政界

 参院選で与党を半数割れに追い込み政権交代を訴えた野党は、石破政権を引きずり下ろす好機を迎えた。しかし、野党第一党の立憲民主党は「政策実現へ対決より解決のチャンス」(野田佳彦代表)などとして石破政権の継続を事実上、側面支援しており、それが自公との「大連立」実現への布石ではないかと見る向きもある。国民民主党や日本維新の会にも、連立参加へのそれぞれの思惑が見え隠れしており、さまざまな憶測を呼んでいる。

 

 自民党内では石破政権の早期退陣論が噴出しているが、野党第一党の立憲民主党も勝利というには程遠く執行部は参院選の総括を求められている。改選数の22をかろうじて維持できたものの、党勢を端的に示す比例代表の得票数では、自民、国民、参政に次ぐ4位に沈んだのである。

 政界関係者は「凋落したわけではないが、明らかに敗北だと党幹部は話している」とした上で、「内閣不信任案を突き付けて石破降ろしに動いても、衆院の解散を打たれたら立民自体大変なことになるとの危機意識が執行部内で共有されている」という。

 NHKが8月に行った政党支持率に関する世論調査でも、自民29・4%、国民民主党7・1%、立憲民主党6・9%と第3位に後退しただけでなく、4位の参政党(6・8%)とほとんど変わらない数字だった。

 そのため、野田佳彦代表は他の野党から内閣不信任案を出そうとの誘いがあっても、眉一つ動かさない。むしろ、8月4日の衆院予算委員会で石破首相に企業・団体献金に関する協議を呼び掛け、首相を援護するかのような姿勢を見せた。石破首相も「これに飛び付き」(先の政界関係者)、すぐに7800に及ぶ政党支部の調査に乗り出すよう指示している。給付付き税額控除についても自民と立民との間で話し合いが始まった。

 こうしたことから「以前にも浮上したことのある自公と立民との大連立があるのではないか」との観測が再び出てきた。それを補強するのが、小沢一郎氏が民主党代表時の2007年、福田康夫政権の時に持ち掛けた大連立構想だ。福田・小沢会談は実現し両者で連立の話はまとまったが、民主党内で猛反論が起き、幻に終わった。

 その小沢氏は今回の参院選を機に、党の参議院総合選挙対策本部長代行を辞任。執行部を批判し、内閣不信任案を出すべきと主張しているが、チャンスさえ来れば再びかつての夢を追い求めない保証はない。石破首相と小沢一郎氏は、田中角栄氏の薫陶を受けた旧田中派出身。自民党を割って新進党を結党した際にも行動を共にしている。その後、首相は自民党に戻り決別したが、進退窮まった際に、石破首相側が急接近することもあり得る。政界は一寸先が闇だ。

 「ただ、そうなると、自民内での石破首相の求心力は極めて弱く、自民自体が割れてしまうかもしれない」と自民党幹部は予想する。焦点は石破、野田ツートップの党首会談がいつになるかで、大連立構想の憶測はもうしばらく続きそうだ。

 参院選で17議席を獲得し、新勢力を22に伸ばした国民民主党も、連立参加自体を否定していない。玉木雄一郎代表は「石破政権は昨年12月に合意したはずの『年収103万円の壁』の引き上げを実行していない。約束を守れない政権とは一緒にやれない」といった主旨の発言をしているが、石破後の新政権との連立については触れていない。政策実現に重きを置く同党としては、実行可能な新首相なら協力できるという考えだ。与党側も政権運営が安定すれば有難い話で、自民党内には「玉木首相論」まで飛び出している。

 ただ、有力支援団体の連合は「連立参加はあり得ない」としている。「仮に与党に協力するとしても、政策ごとに連携する部分連合が最大限考えられる形だろう」と政界関係者は指摘するが、「次の衆院選で野党第一党に躍進し、そこで自公との連立を模索する可能性の方が大きいのではないか」とも語る。

 連立入りの可能性が最もあるとされているのが、日本維新の会だ。同党は8月12日、吉村洋文代表(大阪府知事)と新任の藤田文武共同代表、中司宏幹事長(衆院議員)の役員人事を発表。吉村代表は記者会見で「石破政権との連立は現時点で考えていない」と述べつつも、その後の政権との関係についてはよく見極めて判断する姿勢を示した。地方議員には連立入りを求める声が多い。「維新結党の原点は大阪副首都構想の実現だ。それを条件に連立入りするなら大義が立つ」との思いからだ。

 その背景には、全国政党へと脱皮するのに困難な実態がある。「目的を達成するために『全国政党に成長する』などと悠長に構えていられないという焦りが生じてきた」とマスコミ関係者は指摘する。確かに、参院選での獲得議席は7。前回の12から失速し、野党第3党に転落した。保守的な新興政党の勢いの陰に埋没するのではないか、との危機感がかつてなく強まっている。

 マスコミ関係者は「今回、国対委員長に遠藤敬衆院議員を再登板させた人事に注目したい」と言う。吉村代表は起用の理由について「他党とのさまざまなパイプを持っている」と語った程度だが、自民党幹部とも太いパイプがある。8月1日には、自民党の森山裕幹事長が遠藤氏を招いて都内で会食。両党の協力関係について話し合っている。こうしたことから、自公維政権への下準備に動き出したと読む向きもある。

 自民党内の混乱と相まって、野党各党がさまざまな思惑で動く状況はしばらく続きそうだ。