編集後記
▽…知人の髪は、肩の下まで垂れるほど長い。それも会うたびに段々、長くなっている。初老の男性だから、少々、異様だ。
不思議に思って尋ねてみた。すると、「ヘアードネイションをしたい」のだという。髪を寄付し小児がんや脱毛症の子どもたちに医療用カツラをプレゼントするボランティアがあるそうだ。カツラにする髪は32㌢ないと駄目なのだという。そのために人から異様と思われようと気にせず、黙々と伸ばし続けているところがいい。
白血症で入院した友人を見舞った時にも、同じような経験をしたことがある。彼の親友も見舞いに来ていたのだが、髪を切り落として坊主になっていた。抗がん剤で頭髪が抜け落ちた友人に心から寄り添い、励まそうとしていたのだ。
髪を伸ばすにせよ、カットするにせよ、闘病中の友人を励ましたり見ず知らずの人のためにそうしている姿こそ、どんなヘアースタイルよりも格好いいと思う。(I)
▽…田舎暮らしを始めて4年が経過した。里山には豊かな自然がある。今夏には蛍を見た。裏庭の竹林で鼓動のように明かりを灯しては消しつつ、奥の草むらに紛れ込んだ。故郷の広島では少年時代の夏休み、縁側から群舞する蛍を見ていたものだが、最近は皆目見かけることはなかっただけに実に新鮮な驚きがあった。
近くの店の女将さんに「今年、蛍は見ましたか?」と聞くと、「嫁が一度も見たことがないというので、夕方、見に行こうと散歩に出かけた時、駅そばの闇で一緒に発見し手を取り合って喜んだ」とのことだった。
一度、絶滅した蛍が突然、現われることはない。誰かきれいになった川に蛍の幼虫を放流しているに違いない。
秋にはカワセミを見た。家の前を流れる川に胸をつけるようにして飛んでいた。結構なスピードでトマホークのような低空飛行だ。トンビが空高く舞い上がり、上空からの鳥の目で獲物を見つけるのとは対照的に川面のすぐ上から獲物を狙う。川にはハヤが群れて泳いでおり、突然方向を変える時は銀鱗が太陽の光を反射して剣舞のようでもある。
森の宝石箱と呼ばれるカワセミは、空色の頭部を持ち色合いもなかなかのものだ。蛍は東京の富士見ヶ丘でも幼虫の放流が行われて見ることができるが、さすがにカワセミは無理だろう。(T)

新政界往来