主要項目全文

菅義偉首相 所信表明演説

2020年 10月26日 16時47分

 菅義偉首相は10月26日召集された第203臨時国会で初めてとなる所信表明演説を行った。菅首相の所信表明演説主要項目の全文は以下のとおり。

【新型コロナウイルス対策と経済の両立】

 このたび、第99代内閣総理大臣に就任いたしました。

 新型コロナウイルスの感染拡大と戦後最大の経済の落ち込みという、国難のにあって、国のかじ取りという、大変重い責任を担うこととなりました。

 まず改めて、今回の感染症でお亡くなりになられたすべての皆様に、心からの哀悼の誠をささげます。

 そして、ウイルスとの闘いの最前線に立ち続ける医療現場、保健所の皆さん、介護現場の皆さんをはじめ多くの方々の献身的な御努力のおかげで、今の私たちの暮らしがあります。

 深い敬意とともに、心からの感謝の意を表します。

 6月下旬以降の全国的な感染拡大は減少に転じたものの、足元で新規陽性者数の減少は鈍化し、状況は予断を許しません。

 爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜きます。

 そのうえで、社会経済活動を再開して、経済を回復してまいります。

 今後、冬の季節性インフルエンザ流行期に備え、地域の医療機関で1日平均20万件の検査能力を確保します。

 重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行うとともに、医療資源を重症者に重点化します。

 ワクチンについては、安全性、有効性の確認を最優先に、来年前半までにすべての国民に提供できる数量を確保し、高齢者、基礎疾患のある方々、医療従事者を優先して、無料で接種できるようにします。

 私たちが8年前の政権交代以来、一貫して取り組んできたのが、経済の再生です。

 今後もアベノミクスを継承し、更なる改革を進めてまいります。

 政権発足前は極端な円高・株安に悩まされましたが、現在は、この新型コロナウイルスの中にあってもマーケットは安定した動きを見せております。

 人口が減る中で、新たに働く人を400万人増やすことができました。

 下落し続けていた地方の公示地価は昨年、27年ぶりに上昇に転じました。

 バブル崩壊後、最高の経済状態を実現したところで、新型コロナウイルスが発生しました。

 依然厳しい経済状況の中で、まずは、雇用を守り、事業が継続できるように、最大で200万円の持続化給付金や4000万円の無利子・無担保融資などの対策を続けてまいります。

 さらに、Go Toキャンペーンにより、旅行、飲食、演劇やコンサート、商店街でのイベントを応援します。

 これまで、延べ2500万人以上の方々が宿泊し、感染が判明したのは数十名です。

 事業者が感染対策をしっかり講じたうえで、利用者の方々にはいわゆる「3密」などに注意していただき、適切に運用してまいります。

 今後とも、新型コロナウイルスが経済に与える影響をはじめ、内外の経済動向を注視しながら、なく、必要な対策を講じていく考えです。

【デジタル社会の実現サプライチェーン】

 今回の感染症では、行政サービスや民間におけるデジタル化の遅れ、サプライチェーンの偏りなど、さまざまな課題が浮き彫りになりました。

 デジタル化をはじめ大胆な規制改革を実現し、ウィズコロナ、ポストコロナの新しい社会をつくります。

 役所に行かずともあらゆる手続ができる。

 地方に暮らしていてもテレワークで都会と同じ仕事ができる。

 都会と同様の医療や教育が受けられる。

 こうした社会を実現します。

 そのため、各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進めます。

 今後5年で自治体のシステムの統一・標準化を行い、どの自治体にお住まいでも、行政サービスをいち早くお届けします。

 マイナンバーカードについては、今後2年半のうちにほぼ全国民に行き渡ることを目指し、来年3月から保険証とマイナンバーカードの一体化を始め、運転免許証のデジタル化も進めます。

 こうした改革を強力に実行していく司令塔となるデジタル庁を設立します。

 来年の始動に向け、省益を排し、民間の力を大いに取り入れながら、早急に準備を進めます。

 教育は国の礎です。

 すべての小中学生に対して、1人1台のIT端末の導入を進め、あらゆる子どもたちに、オンライン教育を拡大し、デジタル社会にふさわしい新しい学びを実現します。

 さらに、テレワークやワーケーションなど新しい働き方も後押ししてまいります。

 行政への申請などにおける押印は、テレワークの妨げともなることから、原則すべて廃止します。

 マスクや防護ガウンの生産地の偏りなど、サプライチェーンの脆弱性が指摘されました。

 生産拠点の国内立地や国際的な多元化を図るとともに、デジタル化やロボット技術による自動化、無人化を進め、国内に医療・保健分野や先端産業の生産体制を整備してまいります。

【グリーン社会の実現】

 菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。

 わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。

 もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。

 積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。

 鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。

 実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。

 規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。

 環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。

 世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環を作り出してまいります。

 省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。

 長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。

【活力ある地方を創る】

 私は、雪深い秋田の農家に生まれ、地縁、血縁のない横浜で、まさにゼロからのスタートで、政治の世界に飛び込みました。

 その中で「活力ある地方を創る」という一貫した思いで、総務大臣になってつくった「ふるさと納税」は、今では年間約5000億円も利用されています。

 いわゆる東京圏、1都3県の消費額は全国の3割にすぎません。

 観光や農業改革などにより、地方への人の流れをつくり、地方の所得を増やし、地方を活性化し、それによって日本経済を浮上させる。

 インバウンドは政権交代時の約4倍の年間3200万人に、農産品の輸出額は政権交代時から倍増して年間9000億円となりました。

 日本の農産品はアジアをはじめ海外で根強い人気があり、輸出額はまだまだ伸ばすことができます。

 年初以来、新型コロナウイルスの影響が出る中でも、直近は前年から11パーセントの増加となり、回復の動きが出ています。

 4月に農林水産省に発足した輸出本部の下で、関係省庁が一体となって相手国との交渉を行い、輸出用の加工施設の認定も急速に進みました。

 2025年に2兆円、2030年に5兆円の目標に向けて、当面の戦略を年末までに策定し、早急に実行に移してまいります。

 これまでの農林水産業改革についても確実に進め、地方の成長につなげてまいります。

 新しい日常においても旅は皆さんの日常の一部です。

 日本に眠る価値を再発見し、観光地の受入れ環境整備を一挙に進め、当面の観光需要を回復していくための政策プランを、年内に策定してまいります。

 地方の所得を増やし、消費を活性化するため、最低賃金の全国的な引き上げに取り組みます。

【外交・安全保障】

 総理就任後、G7、中国、ロシアなどとの電話会談を重ねてきました。

 米国をはじめ各国との信頼、協力関係をさらに発展させ、積極外交を展開していく決意です。

 拉致問題は、引き続き、政権の最重要課題です。

 すべての拉致被害者の1日も早い帰国実現に向け、全力を尽くします。

 私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。

 日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交正常化を目指します。

 厳しい安全保障環境の中、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことは政府の最も重大な責務です。

 イージス・アショアの代替策、抑止力の強化については、先月公表の談話を踏まえて議論を進め、あるべき方策を取りまとめていく考えです。

 わが国外交・安全保障の基軸である日米同盟は、インド太平洋地域と国際社会の平和、繁栄、自由の基盤となるものです。

 その抑止力を維持しつつ、沖縄の基地負担軽減に取り組みます。

 普天間飛行場の危険性を1日も早く除去するため、辺野古移設の工事を着実に進めてまいります。

 これまでにも、沖縄の本土復帰後最大の返還となった北部訓練場の過半の返還など、着実に前に進めてきました。

 引き続き、沖縄の皆さんの心に寄り添いながら、取り組みを進めてまいります。

 先日はベトナムとインドネシアを訪問しました。

 ASEAN、豪州、インド、欧州など、基本的価値を共有する国々とも連携し、法の支配に基づいた、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指します。

 中国との安定した関係は、両国のみならず、地域および国際社会のために極めて重要です。

 ハイレベルの機会を活用し、主張すべき点はしっかり主張しながら、共通の諸課題について連携してまいります。

 北方領土問題を次の世代に先送りせず、終止符を打たねばなりません。

 ロシアとは、首脳間の率直な意見交換も通じ、平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指します。

 韓国は、極めて重要な隣国です。

 健全な日韓関係に戻すべく、わが国の一貫した立場に基づいて、適切な対応を強く求めていきます。

 新型コロナウイルスにより人間の安全保障が脅かされており、国際連携の強化が必要です。

 保健分野など途上国を支援するとともに、多国間主義を推進していきます。

 安保理改革を含む国連改革や、WHO、WTO改革などに積極的に取り組みます。

 世界経済が低迷し、内向き志向も見られる中、率先して自由で公正な経済圏を広げ、多角的自由貿易体制を維持し、強化していきます。

 日英の経済連携協定を締結し、日系企業のビジネスの継続性を確保します。

 また、経済安全保障の観点から、政府一体となって適切に対応していきます。

 来年の夏、人類がウイルスに打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する決意です。

 安全・安心な大会を実現するために、今後も全力で取り組みます。

 2025年大阪・関西万博についても、新型コロナウイルス感染症を乗り越え、日本の魅力を世界に発信してまいります。

【改革実行内閣】

 国の礎である憲法について、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です。

 憲法審査会において、各政党がそれぞれの考え方を示したうえで、与野党の枠を超えて建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待いたします。

 政権交代以降、経済を再生させ、外交・安全保障を再構築するために、日々の課題に取り組んでまいりました。

 今後も、これまでの各分野の改革は継承し、その中で、新たな成長に向かって全力を尽くします。

 携帯電話料金の引下げなど、これまでにお約束した改革については、できるものからすぐに着手し、結果を出して、成果を実感いただきたいと思います。

 私が目指す社会像は、「自助・共助・公助」そして「絆」です。

 自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。そのうえで、政府がセーフティネットでお守りする。

 そうした国民から信頼される政府を目指します。

 そのため、行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進めます。

 「国民のために働く内閣」として改革を実現し、新しい時代をつくり上げてまいります。