施政方針演説全文
1月18日
菅義偉首相
一. 新型コロナウィルス対策
(国民の命と健康を守り抜く)
国民の命と健康を守り抜く。まずは「安心」を取り戻すため、世界で猛威をふるい、我が国でも深刻な状況にある新型コロナウィルス感染症を一日も早く収束させます。
目の前の患者を何とか救うため、力を尽くす医療従事者の皆様、感染拡大の防止に奔走する保健所の皆様、細心の注意を払い高齢者と向き合う介護関係者の皆様。全ての関係者の方々に、厚く、御礼を申し上げます。
また、国民の皆様には、生活や仕事に御負担、御苦労をおかけする中で、多大な御協力をいただきました。しかし今回、再び制約のある生活をお願いせざるを得ず、大変申し訳なく思います。
今一度、国民の皆様の御協力をいただきながら、私自身もこの闘いの最前線に立ち、都道府県知事はじめ自治体関係者とも連携しながら、難局を乗り越えていく決意です。
今回、緊急事態宣言を発出しました。これまで一年近くの闘いの経験に基づき、効果的な対象に徹底的な対策を行っております。
私自身、連日、状況を聞き、専門家とも議論を重ねておりますが、東京都で六割を占める感染経路不明の多くが、飲食と見られています。
特に、三十代以下の若者の感染者が増えています。多くの方は無症状や軽症ですが、若者の外出や飲食により、知らず知らずのうちに感染を広げている現実があります。
飲食での感染を抑え込むことが極めて重要であり、飲食店について、協力金を百八十万円まで引き上げ、二十時までの営業時間の短縮を徹底します。
それ以外にも、テレワークの七割実施、不要不急の外出・移動の自粛、特に、二十時以降の不要不急の外出自粛、さらに、イベントの人数制限をあわせて実施します。
こうした対策により、感染を抑え込み、減少傾向に転じさせます。専門家が緊急事態宣言のレベルとする、いわゆる「ステージⅣ」を早急に脱却いたします。
さらに、新型インフルエンザ特別措置法を改正し、罰則や支援に関して規定し、飲食店の時間短縮の実効性を高めます。議論を急ぎ、早期に国会に提出いたします。
その上で、感染対策の決め手となるワクチンについては、安全性・有効性の審査を行った上で、自治体と連携して万全な接種体制を確保し、できる限り、二月下旬までには接種を開始できるよう準備いたします。私も、率先して接種します。
大事なのは、必要な方に必要な医療をしっかりと提供していくことです。あらゆる方策を尽くし、医療体制の確保を強力に進めていきます。
先月には、新型コロナ対応を行っている医療機関に派遣される医師や看護師への支援額を倍増いたしました。新たに新型コロナ患者用の病床を確保するため、一床当たり最大で一千九百五十万円を助成します。年明け以降、東京都では、千を超える病床の確保について、最終的な調整を行っています。現場の負担となっている清掃業務などの委託経費を支援いたします。保健所の負担を減らすため、応援派遣を一千二百名から三千名に増員します。
知事の要請があれば、自衛隊の医療チームなどをいつでも投入できるように、万全の体制を整えています。
(暮らしと雇用を守る)
何としても事業を継続していただき、暮らしと雇用を守っていく。それが、政治の責務です。
所得が低いひとり親世帯に追加で五万円、更に二人目以降の子どもについて、三万円ずつの支給を、昨年中に行いました。手元資金にお困りの方々への緊急小口資金は、昨年以来、五千億円が利用されており、返済を免除する特例も、三月末まで延長いたします。
雇用調整助成金について、これまで対象とされていなかったパートや非常勤の方々に、日額一万五千円を支給する特例を来月末まで延長します。緊急事態宣言に伴い、大企業にも特例を拡大します。
官民の金融機関による、無利子・無担保融資に十分な資金を用意し、さらに、四千万円の限度額を六千万円に引き上げ、手続も簡素化いたします。返済にお困りの方には、公庫などが更に一定期間の返済猶予を行うなど、柔軟に対応し、民間金融機関に対しても同様の対応を要請いたします。
前年と比べ、自殺者が五か月連続で増加し、とりわけ女性が顕著な傾向にある事態を重く受け止め、SNSを通じた相談窓口などにより、不安に寄り添う体制を強化します。
過去最多となった児童虐待について、児童相談所の児童福祉司を五千名体制に強化し、学校、警察、弁護士と連携して、早期発見につなげます。
困窮する学生の修学を支援し、新卒扱いの柔軟化を要請します。就職氷河期世代の就職も引き続きサポートしてまいります。
二. 東日本大震災からの復興、災害対策
(東日本大震災からの復興)
三月十一日で、あの東日本大震災から十年となります。改めて、犠牲となられた多くの方々の御冥福をお祈りし、被災された全ての方々に、心からお見舞い申し上げます。
心のケアなどのきめ細やかな取組を継続するとともに、原発事故で大きな被害を受けた福島においては、「創造的復興の中核拠点」となる国際教育研究拠点を設立します。原災地域十二市町村に魅力ある働く場をつくり、移住の推進を支援します。
福島の本格的な復興・再生、そして東北復興の総仕上げに、全力を尽くしてまいります。
(災害対策・国土強靱化)
震災の経験も教訓とし、さらに、ここ数年の相次ぐ水害やこの冬の大雪、災害の激甚化の中で、災害発生時には、万全な対応を速やかに行います。防災・減災、国土強靱化についてもしっかりと進めます。五年集中で、事業規模十五兆円を目途に対策を実施します。
大雨予測の精緻化、遊水地や貯留施設の整備、ダムの事前放流、土地利用の見直しなど、ハードとソフトの対策により住民の命を守ります。
(暮らしの安全・安心)
暮らしの安全・安心を確保します。ストーカー規制法を改正し、違反行為をGPSによる位置情報の取得にも広げます。銃刀法を改正し、クロスボウの所持を禁止し、許可制とします。
ネット通販トラブルの増加を踏まえ、デジタルプラットフォーム企業に対し、違法商品、危険商品の出品停止を求めます。SNSの誹謗中傷について、発信者情報の開示命令などの裁判手続を整備し、被害者の迅速な救済につなげます。
三. 我が国の長年の課題に答えを
国民の皆さんの「希望」を実現したい。そうした思いで、我が国の長年の課題に答えを出してまいります。
バブル崩壊後、我が国が抱える問題について、長年にわたって、次のように言われ続けてきました。「日本企業のダイナミズムが失われた」、「デジタル化の流れに乗り遅れ、新たな成長の原動力となる産業が見当たらない」。
アベノミクスの「三本の矢」により、日本経済はバブル期以来の好調を取り戻しました。しかしながら、ポストコロナの時代においても、我が国経済が再び成長し、世界をリードしていくためには、多くの壁が立ちはだかっています。行政の縦割り、既得権益、そして悪しき前例主義を打ち破り、未来を切り拓いていく。困難な課題にも答えを出していくのが、私の内閣です。
地方で、家族を育み、老いても安心して暮らせるよう、地方の方々の所得を引き上げる施策を追求してまいります。そうした動きを国全体の活性化につなげ、我が国が持続的に発展していくため、成長志向の政策運営を続けます。
高齢者をはじめ、誰もが安心できる社会保障制度をつくり、未来を担う子どもたちや若者のための政策を進めます。
まずは、次の成長の原動力をつくり出します。それが、「グリーン」と「デジタル」です。
(グリーン社会の実現)
二〇五〇年カーボンニュートラルを宣言しました。もはや環境対策は経済の制約ではなく、社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるものです。まずは、政府が環境投資で大胆な一歩を踏み出します。
過去に例のない二兆円の基金を創設し、過去最高水準の最大十%の税額控除を行います。次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなど、野心的イノベーションに挑戦する企業を、腰を据えて支援することで、最先端技術の開発・実用化を加速させます。
水素や、洋上風力など再生可能エネルギーを思い切って拡充し、送電線を増強します。デジタル技術によりダムの発電を効率的に行います。安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立します。二〇三五年までに、新車販売で電動車一〇〇%を実現いたします。
成長につながるカーボンプライシングにも取り組んでまいります。先行的な脱炭素地域を創出するなど、脱炭素に向けたあらゆる主体の取組の裾野を広げていきます。CO2吸収サイクルの早い森づくりを進めます。
世界的な流れを力に、民間企業に眠る二百四十兆円の現預金、更には三千兆円とも言われる海外の環境投資を呼び込みます。そのための金融市場の枠組みもつくります。グリーン成長戦略を実現することで、二〇五〇年には年額百九十兆円の経済効果と大きな雇用創出が見込まれます。
世界に先駆けて、脱炭素社会を実現してまいります。
(デジタル改革)
この秋、デジタル庁が始動します。
デジタル庁の創設は、改革の象徴であり、組織の縦割りを排し、強力な権能と初年度は三千億円の予算を持った司令塔として、国全体のデジタル化を主導します。一兆円規模の緊急対策として改革に着手し、全国規模のクラウド移行に向け、今後五年間で自治体のシステムも統一、標準化を進め、業務の効率化と住民サービスの向上を徹底してまいります。
マイナンバーカードの普及のため、マイナポイントの期限も半年間延長します。この三月には健康保険証との一体化をスタートし、四年後には運転免許証との一体化を開始します。
行政機関が保有する法人などの登録データをシステム上の、いわゆるベースレジストリとして整備し、デジタル社会の形成に不可欠なデータ利活用を進めてまいります。
組織の要は人です。公務員の採用枠にデジタル職の創設を検討し、高度なスキルを持つ民間人材を迎え、自治体、民間とも行き来させ、官民のデジタル化をダイナミックに進めます。
教育のデジタル化も一挙に進めます。小中学生に一人一台のIT端末を揃え、九千人のデジタル専門家がサポートします。子どもたちの希望や発達段階に応じたオンライン教育を、早期に実行してまいります。
あらゆる手続が役所に行かなくてもオンラインでできる、引っ越した場合の住所変更がワンストップでできる、そうした仕組みをつくります。
高齢者や障害者、デジタルツールに不慣れな方々もしっかりサポートし、誰もが、デジタル化の恩恵を最大限に享受できる社会をつくり上げてまいります。
民間企業においても、社内ソフトウェアから生産、流通、販売に至るまで、企業全体で取り組むデジタル投資を、税制によって支援します。
ポスト5G、6Gを巡る国際競争が過熱化する中、官民を挙げて研究開発を進め、通信規格の国際ルールづくりを主導し、フロントランナーを目指します。
さらに、身近な情報通信の利用環境を、国民目線に立って変えていきます。
携帯電話料金については、大手が相次いで、従来の半額以下となる大容量プランを発表し、本格的な競争に向けて、大きな節目を迎えました。
放送番組と同じ内容をインターネットでも同時に視聴できるよう、著作権法を改正します。
NHKについては、業務の抜本的効率化を進め、国民負担の軽減に向け放送法の改正をします。これにより、事業規模の一割に当たる七百億円を充て、月額で一割を超える思い切った受信料の引下げにつなげます。
(イノベーション)
はやぶさ2のカプセルの帰還に、世界が湧き立ちました。高い技術力により世界初の偉業の数々を成し遂げた、歴史的成果です。子どもから大人まで夢や希望を与えてくれた、津田先生をはじめJAXAの皆さんに、心からの敬意を表します。
科学技術立国・日本にとって、二十年近くも続く研究力の低迷は、国の将来を左右する深刻な事態です。博士課程学生の支援を拡大し、未来を担う若手研究者を育成します。
十兆円規模の大学ファンドにより、若手研究人材育成などの基盤整備を行い、世界トップレベルの成果を上げる自律した大学経営を促します。
こうした取組により、今後五年間の目標として、政府の研究開発予算を三十兆円、官民の研究開発費の総額を百二十兆円とし、積極的にイノベーションを促してまいります。
二〇二五年大阪・関西万博では、我が国が誇る先端技術の粋を集め、いのち輝く未来社会のデザインを世界に示し、日本が大きな飛躍を遂げるきっかけといたします。
(我が国企業の成長)
我が国企業が、過去の成功体験にとらわれず、未開拓の分野に進出し、次の成長の担い手として中小企業、ベンチャー企業が育っていく。こうした環境をつくり出すことも、長年の課題でした。
雇用の七割を支える中小企業を取り巻く状況は非常に厳しく、資金繰り支援を続けます。持続化補助金や手形払いの慣行の見直しを通じて、生産性の底上げを図り、賃金の上昇へとつなげます。さらに、中堅企業への成長、海外市場への挑戦を後押ししてまいります。
最低賃金は、雇用にも配慮しながら継続的な引上げを図り、経済の好循環につなげてまいります。
業種を超えた再就職や在籍型出向を支援し、デジタル教育訓練を強化し、新しい分野への移動を促します。
コーポレートガバナンス改革を進め、我が国企業の価値を高めてまいります。我が国を代表する企業の役員の三分の一以上を独立社外取締役とし、女性、外国人、中途採用者の管理職への登用について目標の公表を求めることとします。
(国際金融拠点)
国際金融センターをつくることも、長い間言われてきたことです。日本には、良好な治安と生活環境、一千九百兆円の個人金融資産といった大きな潜在性があり、金融を突破口としてビジネスを行う場としても魅力的な国を目指します。
税制について、外国人の国外財産を相続税の対象外とし、運用成果に応じた収入にかかる所得税は、主要先進国と比べて遜色ない水準である二十%の税率を一律に適用します。海外の人材がビジネスを容易に開始できるよう、在留資格の特例も設けます。
四. 地方への人の流れをつくる
東京一極集中の是正、地方の活性化も長年叫ばれてきた課題です。
「東京圏」と言われる一都三県の消費額は全国の三割に過ぎません。残りの七割の消費は「地方」なのです。地方の所得を引き上げ、その消費を活性化しなければ、日本全体が元気になりません。
(農業を成長産業に)
我が国の農産品はアジアを中心に諸外国で大変人気があり、我が国の農業には大きな可能性があります。昨年の農産品の輸出額は、新型コロナの影響にも関わらず、過去最高となった二〇一九年に迫る水準となっています。
二〇二五年二兆円、二〇三〇年五兆円の目標を達成するため、世界に誇る牛肉やいちごをはじめ二十七の重点品目を選定し、国別に目標金額を定めて、産地を支援いたします。農業に対する資金供給の仕組みも変えていきます。
さらに、主食用米から高収益作物への転換、森林バンク、養殖の推進などにより、農林水産業を地域をリードする成長産業とすべく、改革を進めます。美しく豊かな農山漁村を守ります。
(観光立国)
我が国には内外の観光客を惹きつける「自然、気候、文化、食」が揃っており、新型コロナを克服した上で、世界の観光大国を再び目指します。
先を見据え、短期集中で、ホテル、旅館、街の再生を進めます。全国百程度の地域で、街中(まちなか)に残る廃屋を撤去し、魅力ある施設へとリニューアルします。
皇室ゆかりの三の丸尚蔵館は、我が国が誇るべき二千を超える国宝・重要文化財級の美術品を所蔵しています。それらを、地方に積極的に貸し出し、文化観光の核とします。国立公園などにおける自然の中での宿泊体験や、城や寺社、古民家での滞在など、地域に眠る観光資源を磨き上げ、滞在型観光やワーケーションを推進してまいります。
日本酒、焼酎などの文化資源について、ユネスコ無形文化遺産への登録を目指します。
ウポポイが昨年夏、開業しました。アイヌ文化の素晴らしさを体感できるよう、様々なイベントを充実させ、観光の起爆剤とします。
沖縄では、名護東道路がこの夏に全面開通し、美ら海水族館や世界遺産の今帰仁城跡へのアクセスが、大幅に改善されます。
(規制改革を通じた一極集中の是正)
新型コロナを機に、改めて地方への関心が高まっています。二十三年間、東京都へは人の転入が超過していましたが、昨年の夏以降は、五か月連続で流出が続いています。
そうした機会をとらえ、地方にいても都会と同じ仕事、同じ生活ができる環境をつくり、都会から地方への大きな人の流れを生み出してまいります。
来年度までに光ファイバーが離島を含めて整備され、全国的にテレワークの環境が整います。最大百万円の交付金、住宅購入には最大百万円分のポイント付与で、地方への移住を希望する方々を強力に後押しします。
行政が求める押印のほとんどをなくし、手続をオンライン化します。民間の手続の見直しも進めます。テレワークに必要となるルールも改定し、多くの企業に活用されるよう、働きかけてまいります。
オンライン診療・服薬指導について、初診の取扱いや対象疾患など、恒久化に向けて夏までに骨格を固め、実行に移してまいります。
大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて、地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介する取組が始まりました。まずは銀行からスタートし、今後三年で対象業種を広げて一万名規模に拡大します。
地域の経済の核となる地域金融機関の経営基盤を強化することとし、統合などの支援を日本銀行とも連携しつつ進めます。
ふるさと納税は、今では年間約五千億円となり、活力ある地域づくりに大いに役立っています。企業版ふるさと納税も控除額を九割まで引き上げており、多くの企業に活用いただき、地方の活性化につなげていきたいと思います。
五. 少子化対策と社会保障の将来
希望と活力に満ちた日本を未来につないでいくためには、世界に冠たる我が国の社会保障制度を次の世代にしっかり引き継いでいかねばなりません。これが我々の世代の責任です。
給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構造を見直し、未来を担う子どもからお年寄りまで全ての人が安心できる社会保障への改革を進めていきます。
(子育て支援)
長年にわたり、我が国の最大の課題と言われてきたのが「少子化」の問題です。
結婚や出産、子育てを希望する方々の声に丁寧に耳を傾け、一つひとつの望みを実現していきます。
年間で五万七千人のお子さんが、不妊治療により生まれています。子どもが欲しいと願い治療を続ける皆さんに寄り添い、不妊治療の保険適用を、来年四月からスタートし、男性も対象にします。それまでの間は、現行の助成制度の所得制限を撤廃するとともに、二回目以降の助成額を倍にし、予算成立後、一月一日にさかのぼって実施します。
不妊治療と仕事の両立に、後ろめたい思いをさせてはなりません。不妊治療休暇を導入する中小企業を支援し、社会的機運を高めます。
不育症に悩む方には検査費用最大五万円の助成、若年者へのがん治療に伴う不妊への支援拡充など、きめ細やかに、対応してまいります。
長年の懸案である待機児童問題については、女性の就業率の上昇も見込んだ上で、四年かけて十四万人分の保育の受け皿を整備し、最終的な解消を図ってまいります。そのため、幼稚園やベビーシッターの活用など、地域の子育て資源をフル活用します。
出産・育児の負担がこれまで女性に偏ってきた中で、男性の育児参加という「当たり前」のことを実現していきます。
男性国家公務員には一か月以上の育休取得を求めています。全ての企業に対し、男性が育休取得しやすい職場環境を整備することを義務付けるとともに、希望に応じて一か月以上の休業を取得できるようにしていきます。
全国の小学校について、現在の四十人学級を四十年ぶりに人数を引き下げ、三十五人学級へと改めます。現場で子どもの状況を把握し、一人ひとりにきめ細かい教育を実現します。
女性の登用拡大や女性に対する暴力根絶など、基本計画で掲げられた目標の達成に向けて全力で取り組みます。女性と男性が互いに尊重し合い、全ての女性が輝く令和の社会をつくり上げてまいります。
(社会保障改革)
若者と高齢者で支え合い、若い世代の負担上昇を抑えることは、長年の課題であり、いよいよ待ったなしです。
七十五歳以上の高齢者のうち、単身者の場合、年収二百万円以上の方々の窓口負担割合を二割とし、急激な負担増とならないための経過措置を設けます。これにより、現役世代の保険料負担が七百二十億円減ることになりました。
薬価の改定を毎年行うことにより、医薬品の七割の品目を薬価引下げの対象とし、医療費で四千三百億円、国費で一千億円、国民が負担の軽減を実感できるようにしました。
四月から介護報酬、障害福祉サービスなどの報酬を引き上げるとともに、デジタル化や介護ロボットの導入を支援します。現場で働く皆さんの処遇改善や生産性向上を通じて、安全・安心のサービスを提供してまいります。
重度障害者の方々が企業や自宅で働く場合の介助支援が始まりました。市町村への更なる活用を促し、必要な方が利用できるようにします。民間企業にも、障害のある方々への合理的配慮を求めます。障害や難病のある方々が個性を存分に発揮し、活躍できる社会をつくり上げてまいります。
経済あっての財政との考え方の下、当面は感染症対策に全力を尽くし、経済再生に取り組むとともに、今後も改革を進めます。
六. 外交・安全保障
(多国間主義)
我が国は、多国間主義を重視し、国際社会が直面する課題に共に取り組む「団結した世界」の実現を目指します。ポストコロナの国際秩序づくりに指導力を発揮していく決意です。
COP26までに、意欲的な二〇三〇年目標を表明し、各国との連携を深めながら、世界の脱炭素化を前進させます。
デジタル時代の「信頼性のある自由なデータ流通」のためのルールづくりを加速化させるとともに、WTOの改革を推進します。
RCEPの進展や日英包括的経済連携協定の発効は、自由で公正な経済秩序の構築に貢献しました。TPPについても、本年の議長国として、その着実な実施と拡大に向けた議論を主導してまいります。
(日米同盟と「自由で開かれたインド太平洋」)
日米同盟は、我が国外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域、さらには国際社会の自由、平和、繁栄の基盤です。バイデン次期大統領と早い時期にお会いし、日米の結束を更に強固にします。そして、新型コロナ、気候変動などの共通課題で緊密に協力してまいります。
同時に、日米の抑止力を維持しつつ、沖縄の皆さんの心に寄り添い、基地負担軽減に引き続き取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古沖への移設工事を進めます。
世界の活力の中心であるインド太平洋地域では、法の支配に基づく自由で開かれた秩序の形成が極めて重要です。米国をはじめ、ASEAN、豪州、インド、欧州などとの協力を深化させつつ、より多くの国・地域と共に「自由で開かれたインド太平洋」の実現に取り組んでまいります。
(我が国防衛と経済安全保障)
厳しさを増す安全保障環境の中で、我が国の領土、領海、領空、そして国民の命と平和な暮らしを守り抜くことは、最も重い使命です。ミサイルの脅威に対応するため、イージス・システム搭載艦を整備するとともに、抑止力の強化について、引き続き、政府内で検討を行います。
経済安全保障の確保に、政府一丸となって取り組みます。安全保障上重要な防衛施設や国境離島を含め、国土の不適切な所有、利用を防ぐための新法を制定します。
(近隣外交)
政権の最重要課題である拉致問題については、私自らが先頭に立ち、米国を含む関係国と緊密に連携しつつ、全力を尽くします。金正恩委員長と条件を付けずに直接向き合う決意に変わりはなく、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指します。
安定した日中関係は、両国のみならず、地域、国際社会のためにも重要です。両国には様々な懸案が存在しますが、ハイレベルの機会も活用しつつ、主張すべきは主張し、具体的な行動を強く求めていきます。その上で、共通の諸課題の解決に向けて連携してまいります。
北方領土問題を次世代に先送りせず、終止符を打たねばなりません。二〇一八年のシンガポールでの首脳会談のやり取りは引き継いでおり、これまでの両国間の諸合意を踏まえて交渉を進めます。平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指してまいります。
ASEANは、戦略的パートナーであり、かけがえのない友人です。就任後の最初の訪問先をベトナムとインドネシアとしたのも、そうした考えからです。ASEANとの間で、今後とも、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を更に進めてまいります。
韓国は重要な隣国です。現在、両国の関係は非常に厳しい状況にあります。健全な関係に戻すためにも、我が国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていきます。
七. おわりに
憲法は、国の礎(いしずえ)であり、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です。国民から負託を受けた政治家がその責任に正面から向き合い、与野党の枠を超えて憲法審査会の場で議論を深め、国民的な議論につなげていくことを期待します。
安定的な皇位の継承などに関する課題については、衆参両院の委員会で可決された附帯決議の趣旨を尊重し、対応してまいります。
夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進めてまいります。
まずは、一日も早く感染を収束させ、皆さんが安心して暮らせる日常、そして、にぎわいのある街角を取り戻すため、全力を尽くします。
未来への希望を切り拓くため、長年の課題について、この四か月間で答えを出してきました。皆さんに我が国の将来の絵姿を具体的に示しながら、スピード感を持って実現してまいります。
一人ひとりが力を最大限発揮し、互いに支え、助け合える、「安心」と「希望」に満ちた社会を実現します。
こうした社会を実現するためには、国民の信託を受け、国政を預かる立場にある政治家にとって、何よりも国民の皆様の信頼が不可欠であります。先の国会における「桜を見る会」前夜の夕食会に関する私の答弁の中に、事実と異なるものがあったことについて、大変申し訳なく、改めてお詫び申し上げます。
私は、四十七歳で初めて衆議院議員に当選したとき、かねてより御指導いただいていた当時の梶山静六内閣官房長官から、二つのことを言われ、以来、それを私の信条としてきました。
一つは、今後は右肩上がりの高度経済成長時代と違って、少子高齢化と人口減少が進み、経済はデフレとなる。お前はそういう大変な時代に政治家になった。その中で国民に負担をお願いする政策も必要になる。その必要性を国民に説明し、理解してもらわなければならない。
もう一つは、日本は、戦後の荒廃から国民の努力と政策でここまで経済発展を遂げてきた。しかし、資源の乏しい日本にとって、これからがまさに正念場となる。国民の食い扶持をつくっていくのがお前の仕事だ。
これらの言葉を胸に、「国民のために働く内閣」として、全力を尽くしてまいります。
御清聴ありがとうございました。