松田学の国力倍増論(22)

松田政策研究所代表 元衆議院議員 参政党共同代表

戦後の対日洗脳脱し正しい歴史認識を

このところ、国防に対する関心が国民の間で高まっているが、国の守りとは何も軍事に限られない。現在における「侵略」
とは、経済や技術、社会や世論、サイバーや
国民の心理など、広範な領域に及ぶSilent
Invasion(静かなる侵略)がその主流となっており、その中にあって、国の守りの根幹をなすのは何よりも国民の決意である。この点で戦後の日本は異常な国だ。かつて日本異質論が喧伝されたが、他国と比べて圧倒的に異質なのは、国民の国家意識が極めて薄いこと。これを欠いた国民は欧米では「人格破産者」とされる。

日本は独立心も国家意識も欠いた異質な国
まず、日本は独立国としての条件を満たしていない。独立国家の「三種の神器」は、①自前の憲法、②国防軍、③統合された国家情報機関と防諜法だが、日本はこれらのいずれも持っていない。日本は経済力、技術力、国民の知力といった独立国として必要な基本的条件はほぼすべて備えている。明治期の日本は、これらを身に着け、立派な独立国となった。現在の日本にないのは、国民がその気になっていないということである。まさに、福沢諭吉の「一身独立して一国独立する」(学問のすゝめ)を欠く国。日本が独立国でないのは、国民の独立心と決意が足りないという点に尽きる。
その淵源は、多くの国民がGHQの洗脳による自虐史観から未だに脱していないことに行き着く。戦後、GHQが日本列
島に仕掛けたのは「巨大な洗脳の檻」(W
GIP、War Guilt Information Program)であり、世界史でもまれにみる徹底した言論統制だった。その後、77年間、日本人は繰り返し、プロパガンダで洗脳を上書きされてきた。その根底には、歴史上、これもまれなる米国側の戦争犯罪を覆い隠す意図があった。とにかく日本は悪いことをした国である、から始まって、政府は常に悪いことを企む存在である、平和安全法制で戦争をする国になる、マイナンバーで国民を監視しようとしている…日本が強くなろうとするたびに、こんなプロパガンダが日本の足を引っ張ってきた。日本国民の間に、それを信じやすい土壌が77年にわたり形成されてきた。
かつて大戦という「熱戦」の終了後、次は心理戦だとばかりに日本に乗り込んできたのが占領軍だった。焼け野原の中で茫然自失の日本人は、これに完全にやられた。熱戦は90%の敗北、心理戦は120%の敗北だった。戦時中は日本の都市への実弾絨毯爆撃がなされたが、熱戦終了後は日本人一人ひとりの頭の中に入り込んだ思想の絨毯爆撃が展開された。
占領政策の目的は日本を二度と米国に歯向かうことのない国にすることだったが、もう一つ、戦時中の米国による戦争犯罪を糊塗することがあった。都市への無差別爆撃や原爆投下は、軍隊による民間への攻撃であり、明らかなハーグ陸戦条約違反だった。さらに、もう一つの目的は、日本人の国家意識を喪失させること。これは日本国民全体を「人格破産者」にするものだった。その手段としてGHQはまず、日本のメディアはGHQの命令には完全に従えという指令を出した。

歴史上まれにみる徹底した対日洗脳政策
大阪市立大学名誉教授の山下英次氏によると、GHQによる洗脳政策は次の6つの柱から成る。①現行憲法の押し付け。特に前文と交戦権を全面否認する第9条2項②20万人以上に及ぶ公職追放。選挙で勝利した鳩山一郎氏の首相就任も直前に阻止③日本の伝統的な歴史・道徳教育の全面禁止④ WGIP、⑤厳格な言論統制⑥東京裁判。
うち③については、教職追放令で12万人以上の教員が交代させられ、教員は皆、左翼になり、古事記や日本書紀がタブー視され、修身、歴史、地理教育が全面的に禁止され、教育勅語が排除された。④については、「日本人再教育プラン」で、日本国民に、日本軍の犯した残虐な行為や指導者の戦争責任を熟知せしめた。WGIPのバイブル「太平洋戦争史」は歴史書に似せた米側のプロパガンダ本であり、10日間にわたって全文を東京の5大紙に掲載させ、文部省に買わせて学校教科書とした。こうして、新聞、ラジオ、学校教育を通じて、物心のついた日本人はすべて洗脳されることになった。
なかでも⑤については、徹底的な検閲がなされた。東京の5大紙への完全事前検閲を始め、新聞、雑誌、電信電話、書籍(含む自費出版)、政治家の演説、映画、演劇、詩歌、歌舞伎、文楽、神楽、童謡、流行歌、落語、旅行用携帯文書、子供が書いた学級新聞、封書…など、ありとあらゆる言論空間を厳しく統制され、約七千冊が発禁本となった。
そして、GHQは言論統制の事実を全て秘匿した。それは、ポツダム宣言や合衆国憲法や現行日本国憲法などに定める言論、出版、集会などの自由に反するからだった。こうして米国は、日本人のみならず、米国人や世界の人々をも欺いた。内外の情報を遮断し、日本列島全体を「洗脳の檻」(山下氏)にすべく、外国人の日本への渡航は原則禁止、日本に滞在する外国人の本国への手紙も検閲、終戦時に海外にいた日本人は帰国させられた。

正しい歴史認識の共有こそが「戦後レジームからの脱却」
その後もGHQの右旋回を無視して、敗戦利得者がGHQの初期の左翼的な政策を拡大再生産してきたことが、今日まで洗脳が続いてきた原因である。「戦後民主主義の進歩的文化人」たちが学問や論壇の主流を占め、終戦時に40歳代の国民が大正デモクラシーの洗礼を受けた世代であり、終戦時に30歳代の国民が昭和初期の共産主義思想の洗礼を受けた人々であったことが、ロシアやドイツのような敗戦革命の考え方を受け容れやすくした。
加えて、今日の反日団体の多くがGHQが作ったものであることも無視できない。日教組は歪曲された日本の教育を進め、日本学術会議は日本の科学者に軍事研究をさせないために作られたものだった。日弁連は国連人権理事会などで活発な反日活動を行い、東京地検特捜部にも米国の意向を斟酌したかのような判断が見受けられなくもない。
日本で普通に学校教育を受け、家で新聞やテレビを見ているだけでは、「GHQ洗脳」からの脱却は困難であろう。学校教育もメディアも自虐史観に陥ったままである。日本のメディアは、戦後、GHQの洗脳に加担させられたことを反省せずに、あたかも自分たちの元々の考えであるかのように振る舞ってきた。そもそも、戦後において、戦前戦中にも増して厳しい言論統制が日本でなされたことすら知らない指導者がほとんどである。
ドイツの場合、戦前のメディアの存続は一切認められなかった。日本の場合は戦後も存続が認められたが、その代わり、GHQ洗脳プロパガンダに加担させられたといえる。日本のメディアは、その事実を告白・懺悔すべきではないか。メデ
ィアが「公器」とされる存在であるなら、それは国民全体に対する義務であろう。メディアの不作為は、国民に対する負債の積み上げである。「報道しない自由」に甘んじていることは決して許されない。
ただ、戦後77年も経た今日、かつて日本人を洗脳した米国という国家は、私たちが非難すべき対象ではない。むしろ、同じ価値観を共有する同盟国同士として全体主義に対峙するための結束を確固たるものとすべく、この際、正しい歴史認識の共有に向けた共同作業に努めるべき局面なのではないか。それが今後の世界の安全保障の強固な礎となるはずだ。今般のウクライナ戦争も、戦後の「国連戦勝国秩序」がもはや時代遅れであることを明確に示している。その上で何よりも大事なのは、私たち日本人自身が自国の歴史を正しく知り、健全な国家意識を取り戻すことであろう。

松田 学
1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、2012年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。その後、未来社会プロデューサーを名乗り、言論、発信活動を展開。2020年に参政党を結党。